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日常
婚約者からの贈り物②
雨が降っている。
ボチボチと、水溜まりを作りながら。
雨が降る中を楽しそうにピョンピョンと跳ねていく蛙を窓から眺めていると、後ろから妹がやってきた。
「今日は雨も降っているし、レイン様来ないんじゃないの?レイン様は第二王子とはいえ王子様なんだから、風邪を引く原因となる雨の日には多分来ないよ。だから………レイン様の代わりに、子豚さんの相手をしてみたらどう?私は優しいから、今日だけ譲ってあげるよ?レイン様が来たら、私がレイン様の相手をすればいいし……ね?」
こっちを見ながら、何処か上から目線で喋ってくるて言葉の内容の通り、私とあの豚を結びつけようと最近は特にしつこい。興味もないのに、あの豚の着ている服の特徴を言ってきたり、あの豚の得意な料理を言ってきたり……その癖、レインと私がデートする度に、レインがデートで何を食べたのか聞いてきたり、レインの好きな物について聞いてくる。
妹に何度も言っているが、私はレインをテスラーと結婚させるつもりはない。レインの隣は私だ。テスラーではない。それに、雨で今日はレインは来ないかもしれないが、レインと私は毎日のようにデートをしている。テスラーと私なら、絶対に私の方がレインと距離が近い……はず。確信は持てていない。いくら彼に抱き締められたとしても、今回の場合のように私と彼の婚約が親の勘違いで破棄されてしまったら、私と彼の繋がりはどうなるのだろうかと、いつも心配に思ってしまうのだ。いつも妹に邪魔されてきた私は、人をあまり信用することが出来ない。だから、雨であろうと彼に会えない日があると、心配で眠れなくなりそうになる。
彼が来ないかなと窓を覗きながら外の様子を見ていると、玄関のベルの音が鳴った。
「すみません。レインですが………レイナって居ますか…ね?」
悔しそうなテスラーを置いて玄関へ行くと、そこには雨に濡れて髪がおでこに付いているレインが。雨のせいかレインの服は濡れていて、レインの引き締まった筋肉が所々透けていて、何処か興ふ………イケない、イケない。風邪を引いてしまったら大変だ。まずは、その乾いた服を乾かそう。
私に気付いたのか、嬉しそうにこっちを見てくるレインに喜びを覚えながら近付くと、私は濡れて冷たくなった手を引っ張って、風呂場へと連れて行った。
■■■■■■■■■
「それじゃあ、これに着替えて。お父様のやつだから少し小さいかもしれないけど。」
「うん。ありがとう。それじゃあ、ちょっと着替えるね。」
「分かった。」
彼に服を渡して風呂場から退出すると、私は無事彼に贈り物が出来たことに胸を安心させる。
お父様のやつと言ったが、あれは嘘だ。
実は私が彼の為にこっそり買った………自分好みの衣装。
まだ裁縫道具は彼からプレゼントされていないが、元々持っていた裁縫道具で買ってきた衣装に、少し工夫をしてみた。服の隅っこにレインの名前を縫ってみたり、上からじゃないと分からないが、首の部分がハートになるようにしてみたり……
気付いてくれたら嬉しいが、別に気付かれなかったとしても、彼が使ってくれるだけで嬉しい。
彼に嘘なんかつかなければ、彼は優しいからそのまま使ってくれるはずだけど、彼に気を遣わせるのは嫌なのだ。レインは第二王子だから、王族としてパーティーや食事会に何度も参加することになるだろうけど、その度に私に気を遣ってそのまま着ていたら………嬉しいけど、彼を困らせてしまう。
そんな私は、レインに抱き締められた時を思い出しながら、レインが着替えるのを待つ。
すると少し経った後、私の衣装を着たレインが戸を開けて、私の前にやってきた。
「ありがとうレイナ。この服とっても着心地がいいよ。」
「お父様のやつだからね。当たり前だよ?」
「そうだね。……でも、この服気に入っちゃったから、返さなくてもいい? 凄く可愛いくてさ。」
「え? ……可愛い?」
レインの顔から視点を動かして、上からなぞるようにしてレインの服を見る。見てみても、レインの服は可愛いとは思えない。……というよりも、レインの服は逆にレインの凛々しい顔をより格好良く見せる、格好いい服だ。何処が可愛いのだろうか?
何処か嬉しそうにするレインに、私は首を傾げた。
「お父さんには、こんなにいい服を貰うんだから、何かお返しをしないとね。」
「え? お返し?しなくていいよ。」
「いやいや。しないといけないよ。絶対に。」
何処が強情なレインに、私は対抗する。
お父様の古着でもないのに、レインに古着のお礼としてお父様に贈り物を送られたら、私がその服をレインに渡したことがバレてしまう。
だから、強情なレインに私も強情になった対抗した。
「……お返し出来ないと、悲しいなぁ。」
「大丈夫だよ。お父様なんて気にしないから。服のことなんて。」
「それじゃあ、代わりにレイナが贈り物を渡しておいてくれない?実は、今渡せるんだ。」
「え?私が………それに今って?」
鞄の中から何かを探し出すレインに、私は疑問を浮かべる。
お父様の代わりに私が受け取って渡しておくのは分かったけど、今渡せる?何処か言葉の使い方がおかしいレインに、私の疑問は更に加速する。レインは、私がお父様の服を渡すことを予想していたの? いやいや。そんな訳がない。……どういうこと?
私は、鞄から何かを出そうとしているレインを、ただ見つめた。
「それじゃあ………この服のお礼として、この裁縫道具を受け取って下さい。」
「裁縫道具?」
「ん? 別に、この服がお父さんの古着じゃないのなら、別に他の人が受け取ってもいいんだよ?」
「え?」
まさか、気付いているのか?
私が作った服ということに。
レインが持っている裁縫道具に、私の胸はスピードを速める。
裁縫道具は、私が好きなものとして答えた物だ。……それに、さっきの可愛いという発言。…これは、私が縫ったレインの名前や、首のところをハートのマークにしたのがバレているのか?
レインの持っている、金色でいかにも高そうな裁縫道具に視点を合わせた。
「それじゃあ、この裁縫道具の中身を見てくれないかな?」
「え?中身?」
「うん。中身があるか、しっかりと見てほしいんだ。」
レインに渡された裁縫道具を開けて中身を見てみると、全て金色の中、一つだけ違う光り方をしている物があった。
これは……指輪?
私の目がおかしくなければ、裁縫道具の中に指輪が一つ入っていた。
「あれ? 指輪? こんなもの入れたつもりはなかったんだけどな。」
「え?」
「裁縫道具の中に指輪なんて必要ないし、代わりにレイナが受け取って貰えない?」
「わ、私が!?」
何処か意地悪そうに笑みを浮かべるレインに、私の顔が急に熱くなっていくのを感じる。意地悪そうに笑みを浮かべるレインも子供らしくて何処か可愛いが、私に指輪をくれるの?
私は、レインから渡された指輪を眺めるようにして、くるくると回転させる。
すると、指輪の宝石じゃない部分に、何か彫られている。
えーっと、何々………え!? 嘘!?
指輪の宝石じゃない部分には、私とレインの顔が彫られていた。
その下に、愛していますという言葉を添えて。
急に渡された指輪に困惑していると、レインは私に向けて手を差し伸べて、そっと膝をつく。その姿は、物語に出てくる王を守るような騎士で、とても格好良く凛々しい。すると、レインは一度呼吸を整えると、真剣な眼差しで私の瞳を見つめた。
「こんな僕で良ければ、僕と結婚をしてください。」
膝を付いているレインに、私はそっと抱き付いた。
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