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第7話 フィムの力
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それからフィムと僕は二人で森の中を歩いていた。中学生以来だろうか。久しぶりに出来た友人との会話に花を咲かせていた。
「ねぇ、フィム。この世界に来たときから気になってたんだけど、どうして人間は魔王を倒したいの?何か理由でもあるの?」
“知らないなぁ。そもそも、ずっと昔は人間達も魔族達と仲良く暮らしていたはずだよ。僕等精霊を見える存在も、その時は沢山居たんだってさ”
「そうだったのか。益々、どっちの領地に行けばいいのか分からなくなってきたな……」
フィムが話してくれた内容だと、どっちの種族に原因があるか分からない。昔は仲が良かったって言うなら、魔族の人達にも事情を話せば理解してもらえるだろうか。だけど、もし魔族側に原因があった場合、下手をしたら僕は殺されてしまうかもしれない。
「フィムはさ、どっちに行くべきだと思う?追い出された人間領に戻るか、魔族領に行って事情を話してみるか……」
“僕なら魔族領に行くかな。だってその方が面白そうだし”
「なんだよそれー!面白いかどうかで決めないでくれよー!」
フィムにちゃんと答えて欲しくてそう訴えかけるも、フィムは僕の周りをくるくる回って面白がるだけだ。まぁフィムが僕に力を貸してくれる理由が、面白そうだからってんだから仕方ないか。
「じゃあフィムの言う通り魔族領に行くことにするよ。その代わり、力を貸してくれよな!」
“勿論だよ。君に死なれたら面白くないからねー”
「フィム……せめてもう少し言葉を選んでくれてもいいじゃないか!」
“そんなに落ち込まないでよ、裕介。ほら見て、あそこの木の上に果実があるよ”
フィムはそう言うと、ふよふよと浮かび上がって果実の周りでくるくる回り始めた。その果実は見た目リンゴのような形で、色はオレンジ色という奇妙な果実だった。だが久しぶりにした食べ物に、一気に気分が上がる。
「ナイスだよ、フィム!これでようやくご飯にありつける!」
だけどかなり高い所にあるな。よじ登ろうにも、手がかかるところに枝が無いし。これじゃあ折角フィムが見つけてくれた果実を取ろうにも取れないぞ。
“裕介、何してるの?早くとりなよ”
「いや、取りたいんだけどさ。流石に高すぎて届かないよ。木を登ろうにも掴むところが無いし」
“どういうこと?木になんか登らなくても、僕が貸した力を使えばいいじゃないか”
「フィムの力を使うって、どういう風に?」
フィムに尋ねると、フィムは僕の身体を一回りした後、顔の前に止まってこう言った。
“まずはどっちの手でもいいから、手の平をあの果実に向けるんだ”
「手の平を?こ、こうでいい?」
“うん。そうしたら、『水球』って口にしてみて”
「それだけでいいの?……『水球』」
そう口にした瞬間、僕の右手から大きな水の球が放たれ、オレンジ色の果実に直撃した。水球は見事に枝ごと果実を巻き込んで、ばらばらにはじけ飛ばして四方に飛び散らせた。
「な、なんだこれ!!手から水が飛んでったぞ!!」
“これは、水魔法だよ。僕が力を貸してあげているから、本来水魔法が使えない裕介でも、水魔法を使えるんだ”
「凄いじゃないか、フィム!!これがあれば高い所の果実も取り放題だ!」
まさかこんな僕でも魔法が使えるなんて。『精霊魔術士』の力は精霊と会話できる程度だと思ってたんだけど、こんなことが出来るってことは、実はすごい職業なのかもしれない。
「もしかして、他の精霊さんとも契約すれば、色んな魔法を使えるようになるってこと?」
“そうだよー。でも他の精霊が力を貸してくれるかは分からないけどね”
「まぁそうだよな。でもフィムが力を貸してくれただけでも良かったよ!ありがとう!」
俺はフィムにお礼を言って、撃ち落とした果実を拾いに行く。だがどこを探してもオレンジ色の果実は見当たらない。
「あれー、どこに落ちたんだろ。全然見つからないぞ」
“裕介が落とした果実なら、色んな所に飛び散ってたよ”
「は!!そうだった……魔法を撃てたことで盛り上がっちゃってすっかり忘れてた!」
フィムに言われて、果実がどうなったのかを思い出した僕は、ガクリと膝をついて落胆する。折角食事にありつけたと思ったのに、また一から探さないといけないなんて。だが、クヨクヨしていても腹は減るばかりだ。
「よし……切り替えていこう!次見つけたら慎重に狙って撃つぞ!」
“頑張ってねぇー。僕も頑張って探してあげるからさ”
「頼んだよ、フィム!」
気を取り直して、僕とフィムは川を下り始めた。木の根元だけでは無く、上の方まで注意深く観察して、食料を探していく。ある程度歩いたところで、フィムが見つけたものと同じ果実を見つけた。
「よーし。今度は果実に当てないように、枝の部分を狙って……『水球』!」
右手から放たれた水の球は、見事に枝だけを吹き飛ばした。僕は落下してくる果実を両手で受とめると、急いでその果実を『鑑定』した。
「えっと……名前はオレリンゴ、食用は可能!!やった!ついに食べられる物が手に入ったぞ!」
ようやく手にした果実を、貪るように食べていく。リンゴの形をしたオレンジ色の果実の味は、普通のリンゴの味だった。ただ、触感はシャリシャリしておらず、どちらかと言えばオレンジに似ていた。
僕はそのオレリンゴを一気に食べ終えると、収納に入れていた水で喉を潤した。
「ぷはぁ!!あー生き返った!これで何とか生きていかれるよ!ありがとう、フィム!」
“よかったね、裕介”
「うん!あ、でも……食べるのに夢中で、フィムの分を残してなかった!ごめん!」
“僕のことは気にしないで良いよ。精霊は何も食べなくても生きていけるから”
「そうなのか?だったら良いんだけど……」
“大丈夫だよ。それじゃあ裕介のお腹も膨れた事だし、近くにある魔族の村に行こうか”
フィムはそう言って、下流の方へと再び移動を始めてしまった。魔族領に向かうと決めたものの、僕はまだ覚悟が出来ていなかった。このままフィムに着いていって本当に大丈夫なのか。その場から動くことが出来ず、フィムとの距離はドンドンと離れていく。
遠ざかるフィムに向かって、僕は絞り出すように声を出した。
「ちょ、ちょっと待ってくれないか。まだ少し、勇気が出ないんだ」
“そう?じゃあ裕介の気が済むまで、ここら辺をウロウロしてようか”
「フィム……ごめんよ」
“いいよー。その間、裕介がいた世界の事を聞かせてくれればいいから”
フィムの言葉を聞いて、やっと足が動かせるようになった。もう少し、勇気が持てるようになったら良いのにと思いつつも、そんな自分にはなれないと、どこかで否定している僕が居た。
「ねぇ、フィム。この世界に来たときから気になってたんだけど、どうして人間は魔王を倒したいの?何か理由でもあるの?」
“知らないなぁ。そもそも、ずっと昔は人間達も魔族達と仲良く暮らしていたはずだよ。僕等精霊を見える存在も、その時は沢山居たんだってさ”
「そうだったのか。益々、どっちの領地に行けばいいのか分からなくなってきたな……」
フィムが話してくれた内容だと、どっちの種族に原因があるか分からない。昔は仲が良かったって言うなら、魔族の人達にも事情を話せば理解してもらえるだろうか。だけど、もし魔族側に原因があった場合、下手をしたら僕は殺されてしまうかもしれない。
「フィムはさ、どっちに行くべきだと思う?追い出された人間領に戻るか、魔族領に行って事情を話してみるか……」
“僕なら魔族領に行くかな。だってその方が面白そうだし”
「なんだよそれー!面白いかどうかで決めないでくれよー!」
フィムにちゃんと答えて欲しくてそう訴えかけるも、フィムは僕の周りをくるくる回って面白がるだけだ。まぁフィムが僕に力を貸してくれる理由が、面白そうだからってんだから仕方ないか。
「じゃあフィムの言う通り魔族領に行くことにするよ。その代わり、力を貸してくれよな!」
“勿論だよ。君に死なれたら面白くないからねー”
「フィム……せめてもう少し言葉を選んでくれてもいいじゃないか!」
“そんなに落ち込まないでよ、裕介。ほら見て、あそこの木の上に果実があるよ”
フィムはそう言うと、ふよふよと浮かび上がって果実の周りでくるくる回り始めた。その果実は見た目リンゴのような形で、色はオレンジ色という奇妙な果実だった。だが久しぶりにした食べ物に、一気に気分が上がる。
「ナイスだよ、フィム!これでようやくご飯にありつける!」
だけどかなり高い所にあるな。よじ登ろうにも、手がかかるところに枝が無いし。これじゃあ折角フィムが見つけてくれた果実を取ろうにも取れないぞ。
“裕介、何してるの?早くとりなよ”
「いや、取りたいんだけどさ。流石に高すぎて届かないよ。木を登ろうにも掴むところが無いし」
“どういうこと?木になんか登らなくても、僕が貸した力を使えばいいじゃないか”
「フィムの力を使うって、どういう風に?」
フィムに尋ねると、フィムは僕の身体を一回りした後、顔の前に止まってこう言った。
“まずはどっちの手でもいいから、手の平をあの果実に向けるんだ”
「手の平を?こ、こうでいい?」
“うん。そうしたら、『水球』って口にしてみて”
「それだけでいいの?……『水球』」
そう口にした瞬間、僕の右手から大きな水の球が放たれ、オレンジ色の果実に直撃した。水球は見事に枝ごと果実を巻き込んで、ばらばらにはじけ飛ばして四方に飛び散らせた。
「な、なんだこれ!!手から水が飛んでったぞ!!」
“これは、水魔法だよ。僕が力を貸してあげているから、本来水魔法が使えない裕介でも、水魔法を使えるんだ”
「凄いじゃないか、フィム!!これがあれば高い所の果実も取り放題だ!」
まさかこんな僕でも魔法が使えるなんて。『精霊魔術士』の力は精霊と会話できる程度だと思ってたんだけど、こんなことが出来るってことは、実はすごい職業なのかもしれない。
「もしかして、他の精霊さんとも契約すれば、色んな魔法を使えるようになるってこと?」
“そうだよー。でも他の精霊が力を貸してくれるかは分からないけどね”
「まぁそうだよな。でもフィムが力を貸してくれただけでも良かったよ!ありがとう!」
俺はフィムにお礼を言って、撃ち落とした果実を拾いに行く。だがどこを探してもオレンジ色の果実は見当たらない。
「あれー、どこに落ちたんだろ。全然見つからないぞ」
“裕介が落とした果実なら、色んな所に飛び散ってたよ”
「は!!そうだった……魔法を撃てたことで盛り上がっちゃってすっかり忘れてた!」
フィムに言われて、果実がどうなったのかを思い出した僕は、ガクリと膝をついて落胆する。折角食事にありつけたと思ったのに、また一から探さないといけないなんて。だが、クヨクヨしていても腹は減るばかりだ。
「よし……切り替えていこう!次見つけたら慎重に狙って撃つぞ!」
“頑張ってねぇー。僕も頑張って探してあげるからさ”
「頼んだよ、フィム!」
気を取り直して、僕とフィムは川を下り始めた。木の根元だけでは無く、上の方まで注意深く観察して、食料を探していく。ある程度歩いたところで、フィムが見つけたものと同じ果実を見つけた。
「よーし。今度は果実に当てないように、枝の部分を狙って……『水球』!」
右手から放たれた水の球は、見事に枝だけを吹き飛ばした。僕は落下してくる果実を両手で受とめると、急いでその果実を『鑑定』した。
「えっと……名前はオレリンゴ、食用は可能!!やった!ついに食べられる物が手に入ったぞ!」
ようやく手にした果実を、貪るように食べていく。リンゴの形をしたオレンジ色の果実の味は、普通のリンゴの味だった。ただ、触感はシャリシャリしておらず、どちらかと言えばオレンジに似ていた。
僕はそのオレリンゴを一気に食べ終えると、収納に入れていた水で喉を潤した。
「ぷはぁ!!あー生き返った!これで何とか生きていかれるよ!ありがとう、フィム!」
“よかったね、裕介”
「うん!あ、でも……食べるのに夢中で、フィムの分を残してなかった!ごめん!」
“僕のことは気にしないで良いよ。精霊は何も食べなくても生きていけるから”
「そうなのか?だったら良いんだけど……」
“大丈夫だよ。それじゃあ裕介のお腹も膨れた事だし、近くにある魔族の村に行こうか”
フィムはそう言って、下流の方へと再び移動を始めてしまった。魔族領に向かうと決めたものの、僕はまだ覚悟が出来ていなかった。このままフィムに着いていって本当に大丈夫なのか。その場から動くことが出来ず、フィムとの距離はドンドンと離れていく。
遠ざかるフィムに向かって、僕は絞り出すように声を出した。
「ちょ、ちょっと待ってくれないか。まだ少し、勇気が出ないんだ」
“そう?じゃあ裕介の気が済むまで、ここら辺をウロウロしてようか”
「フィム……ごめんよ」
“いいよー。その間、裕介がいた世界の事を聞かせてくれればいいから”
フィムの言葉を聞いて、やっと足が動かせるようになった。もう少し、勇気が持てるようになったら良いのにと思いつつも、そんな自分にはなれないと、どこかで否定している僕が居た。
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