コミュ症の精霊魔術士〜『呪い』持ちのせいで追放されましたが、精霊には超絶愛されてるので問題ありません〜

服田 晃和

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第6話 水の精霊

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「水の精霊って……ああそうか!そう言えば僕は精霊術士だったっけ!【呪い】のせいですっかり忘れてた!」

 目の前に浮かぶ球体が水の精霊だと分かり、同時に自分の職業も思い出した。

「僕が精霊術士で、精霊と会話する力があるから目の前に現れたってことなのかな?だとしたら、さっきの感覚も勘違いじゃなかったのかもしれない!」

 球体に触れていいかを独り言のように呟いた時、何かに“いいよ”と言われた気がしていた。それが勘違いじゃないのなら、僕は水の精霊と意思疎通を図ることが出来るのかもしれない。

「あ、あの。君は水の精霊さんで良いのかな?」
“そうだよ。君はだぁれ?”

 やっぱり、僕の勘違いじゃなかった。聞こえてはいないけど、確かに感じる物がある。この世界に来てようやく会話が出来たことで、少し気分が明るくなった気がした。

「僕?僕は裕介って言うんだ。君の名前は?」
“僕に名前なんてないよ。そんなことより、裕介はどうしてここにいるの?”
「……実は僕、別の世界からこの世界に呼ばれてきたんだよ。魔王を倒すために協力して欲しいって。だけどその人達に追い出されちゃったんだ」
“なるほどねぇ。どうして裕介は追い出されちゃったの?悪いことでもしたの?”

 水の精霊の問いかけに、一瞬言葉を詰まらせる。本当のことを言ってもよいのか。もし【呪い】の事を告げて、ライデンと同じような扱いを水の精霊にされたら?嘘をついた方が良いんじゃないか?

 悩んだ結果、僕は真実を打ち明けることにした。この子なら真実を伝えても大丈夫な気がすると、心のどこかで感じていたのかもしれない。

「僕が【呪い】持ちだからだよ。災いをもたらすとかどうとかで、ここの近くに転移させられたんだ」

 水の精霊にそう告げた後、僕は静かに目を閉じた。ライデンと同じ対応を取られることを覚悟するために。どうせ何か言われるなら、暖かった温もりだけでも覚えていたかったから。だが僕の予想とは裏腹に、水の精霊の返答は実に素っ気ないモノだった。

“へぇー。それで裕介はこれからどうするの?”
「え!?僕は【呪い】持ちなんだよ!?他に何か言う事ないのか!?」
“別に呪い持ちなんて、この世界じゃ珍しくもないよ。人間にはあまりいないかもしれないけどね”

そうだったのか。魔族には【呪い】持ちが居るんだな。ライデンにされた仕打ちも相まってか、なんだか魔族の方が親近感もてるぞ。でも魔族は人間を襲うんだよな。どっちの領地に向かうべきなんだろう。

僕が頭を抱えて悩んでいると、水の精霊が僕の周りをくるくると回り始めた。

“それで、裕介はこれからどうするの?”
「そうだなぁ。人間と魔族、どっちの領地に行くか悩んでるんだけど……とりあえずまずは食料を確保したいかな!一日何にも食べてないから、腹が減って仕方がないんだ!」

 水源を見つけられたから、後は川の流れに沿って下って行けば、きっと食料を見つけられるはずだ。水の精霊と別れるのは悲しいけど、迷惑をかけるわけにはいかないからね。

 そんな僕の考えを余所に、水の精霊はとんでもないことを言い出した。

“そっかー。じゃあ僕も一緒に行ってあげるよ”
「い、いいの!?」
“うん。だって別の世界からやってきた、人間なんて、そう会えるものじゃないしね。一緒にいたら、おもしろそうだからさ”

 水の精霊がそう言うと、僕の目の前に窓が出現した。その窓には『水の精霊(下級)が契約を承認致しました』と書かれている。これは、水の精霊が僕に力を貸してくれるって言う事なのかな?

「ね、ねぇ。今僕の前に『水の精霊が契約を承認しました』って文字がでたんだけど……」
“そうだよぉ。僕の力を貸してあげるよ。裕介、なんだか弱そうだし”
「本当に!?ありがとう!助かるよ!」
“どういたしまして。それじゃあ食べ物を探しにいこうか”

 水の精霊はそう言うと下流に向かってふよふよと移動を始めた。僕も彼の隣を同じ速度で歩いていく。なんだか久しぶりに誰かと一緒に行動している気がする。彼が人間じゃなくて球体なこともあってか、普段よりスムーズに話すことが出来ていた。

「あのさ、これから君の事をなんて呼んだらいいかな?『水の精霊』さん、だなんて長すぎるだろ?」
“べつになんでもいいよ。僕は名前なんて気にしてないから。裕介の好きなように呼びなよ”
「そうか!じゃあ折角だから素敵な名前を考えることにするよ!」

 水の精霊は全く気にしていないようだったが、折角出来た友達を『水の精霊』さんだなんて他人行儀な名前で呼びたくない。彼に気に入って貰えるような名前を考えよう。

「うーん、『水の精霊』だからなぁ。ウンディーネ……ウォーター……うーん」
“なんでもいいから早く決めなよー”
「じゃあ、『フィム』なんてどうかな!?中々良い名前だと思うんだけど!」
“僕はそれでいいよー。よろしくね、裕介”

 折角素敵な名前にしたというのに、抑揚のない声で返事を返すフィム。これからだんだんと仲良くなれていけたら良いな。


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