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第5話 出会い
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「ど、どこなんだここは」
部屋の中に居たはずが、今目の前にあるのは幾つもの木々。白い天井があったはずが、空にはキラキラと星が輝いていた。心臓がバクバクと鳴り響き、耳の奥にまで鼓動が伝わってくる。突如として、自分の身に降りかかった出来事に、僕は動揺を抑えることが出来ずにいた。
「お、落ち着け!お、お、お、落ち着くんだ!冷静になれ!」
動揺しながらも、何とか必死に頭を回転させて状況を整理しようとする。なんで僕がこんな目にとか、今はそんなことどうだっていい。ここは日本じゃないんだ。剣や魔法が存在し、魔族と呼ばれる人間を襲う存在が居る世界。
そんな世界で一人森の中、呑気にしている場合じゃない。
「多分僕はライデン達の手によってここに転移させられた……問題はここが何処なのかだ。近くに人間の集落とかあればいいんだけど」
でも人間が居たとして、どうやって説明したらいい?僕は異世界から呼ばれた勇者ですとでも言えば良いのか?でもそう説明しようにも、【呪い】が邪魔をしてきっと話すらしてくれないはずだ。
「最悪だ!まさかこんな【呪い】のせいで追い出されるなんて。あの国の奴らどうかしてる!何が災いをもたらすだよ!!僕は何も悪いことしてないじゃないか!!」
文句を言ったところで誰からも返事は返ってこない。代わりに遠くの方から狼の遠吠えのような声が聞こえてきた。
「まさかここは……魔族達の領地、なのか?」
ライデンの話していた内容を考えればその可能性がかなり高い。僕が死んだ事で魔族達に災いをもたらすとか何とか言っていた。それに、人間の領地内に転移させる必要性が無い。ということは、十中八九ここは魔族達の領地だ。
「や、やばいぞ。どうにかして人間の領地に戻らないと。魔族に遭遇でもしたら、こ、ころされちゃう!」
自分が置かれている状況を理解した僕は、一目散にその場から離れた。何処へ向かえば良いのか分からないが、とにかく移動して一刻も早くここを抜け出さないと。
「何か目印になるようなモノを見つけよう。それと水と食料も考えなくちゃ」
僕は周囲に気を配りながらも、どうやれば生き延びれるか必死に考えていた。
◇
それから数時間後。すっかり夜は明け、空にはギラギラと輝く太陽が昇っていた。視界は良好になったが、その反面魔族からも僕の姿を見つけやすいということになる。そのため、僕は林の中を物音を立てないようゆっくりと移動していた。
「はぁ、はぁ、はぁ……お腹が減った。喉も乾いたし、早く食べられそうなものを見つけないと」
森の中と言えばキノコや木の実。あとは果実なんかがあれば最高なんだが、今のところ食べられそうなモノを見つけられていない。一応『鑑定』魔法がある為、食べられるかどうかの判断は簡単に出来るから安心だ。
暫くそのまま歩いていると、木の根元に紫色のキノコが生えているのを見つけた。この森に来て何度も目にしている、食べられないキノコだが、僕はそのキノコを丁寧に採取すると、収納の中へとしまい込んだ。
「このキノコとか食べられれば良かったんだけどなぁ。ハイポーションの素材だか知らないけど、生で食べたら一週間腹痛に襲われるとか、流石に食べれないだろ」
なぜそんなモノを集めているのかというと、無事に人間の街へ到着出来た時、これを売ればお金になると思ったからだ。この世界で生きるためには、この世界の金が必要。その為に、価値のありそうなものは一通り採取している。
それから毒消しや造血剤の材料になりそうな葉っぱを手に入れたりしたが、結局食べ物は手に入らなかった。このままでは人気のある所に着くことすらできない。そんな考えが頭の片隅に浮かんだ時だった。
ドォォォォ──
その音を耳にした僕は、魔族に見つかることなど忘れて音がした方向へと急いで走り始めた。草木をかき分けたどり着いたその先には、大きな滝とその水が作り上げた川が流れている。
「水だ!!助かった!!これでとりあえず何とかなるぞ!」
僕は乾ききった喉を潤すために、口をそのまま川に付けようとする。あともう少しで唇が川に触れそうになったとき、頭の中に「水質」の文字が浮かび上がった。
待ち望んだ水場から、ゆっくりと顔を引きはがし、冷静に考える。
「……一応飲めるか『鑑定』しておこう」
僕が住んでいた地域では、とてもじゃないが川の水なんて飲めなかったことを思い出したのだ。田舎や水が奇麗な場所なら大丈夫だろうが、ここは異世界。何があるか分からない。
その後、鑑定の結果飲んでも大丈夫だということが分かり、僕は胃の中を水で埋め尽くす勢いで水を飲みこんでいった。
「ゴクッ、ゴクッ……ぷはぁ!!生き返ったぁ!ただの水がこれだけ美味いと感じたのはいつ振りだろう!」
たった一日水分を取らなかっただけで、死にそうになった。もう二度とこんな目にはあいたくない。収納に入れられるだけ、水を入れておこう。
そう思って収納を開いたのだが、際限なく入り続けてしまい、川が干上がってしまいそうになったため、確実に生きていける分だけにして残りは川に戻すことにした。
「よし、水500リットル手に入れたぞ!1日1リットル飲んでも、500日分ある!これなら当分は持つだろ!あとは食料を見つけられたらいいんだけど──」
何か食べる物は近くにないか探そうと顔をあげると、顔の前で小さな光の球体がフワフワと浮いていた。
「な、なんだこれ!!ま、魔族か!?」
見た事も無い物体に思わず後ずさりする。まさか【呪い】の事に感づいた魔族が、自分を殺しに来たのかと思ったが、光の球体はその場で浮いているだけで、こちらに危害を加えようとはしてこなかった。
それからずっと見続けていたら、なんとなく敵じゃないのかもしれないという気がしてきた。それどころか、心が安らいできた気さえする。
「これ、触っても良いのかな?」
返事なんてあるわけないはずなのだが、なぜだか“いいよ”と言われた気がした。僕はゆっくりとその球体に触れ、優しく触ってみる。
「なんか暖かいな……凄く安心する」
それから気が済むまで触った後、肝心な事を忘れていた僕は急いでその球体に向かって『鑑定』を発動させた。そして、物体の前に文字が書かれた窓が浮かび上がる。
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水の精霊(下級)
水を司る精霊。精霊と対話できる力を持った者の前にしか姿を見せない。認めた者には力を貸すが、その逆に嫌いな者には悪戯や悪さをする。
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なんとその光の球体は、水の精霊だったのである。
部屋の中に居たはずが、今目の前にあるのは幾つもの木々。白い天井があったはずが、空にはキラキラと星が輝いていた。心臓がバクバクと鳴り響き、耳の奥にまで鼓動が伝わってくる。突如として、自分の身に降りかかった出来事に、僕は動揺を抑えることが出来ずにいた。
「お、落ち着け!お、お、お、落ち着くんだ!冷静になれ!」
動揺しながらも、何とか必死に頭を回転させて状況を整理しようとする。なんで僕がこんな目にとか、今はそんなことどうだっていい。ここは日本じゃないんだ。剣や魔法が存在し、魔族と呼ばれる人間を襲う存在が居る世界。
そんな世界で一人森の中、呑気にしている場合じゃない。
「多分僕はライデン達の手によってここに転移させられた……問題はここが何処なのかだ。近くに人間の集落とかあればいいんだけど」
でも人間が居たとして、どうやって説明したらいい?僕は異世界から呼ばれた勇者ですとでも言えば良いのか?でもそう説明しようにも、【呪い】が邪魔をしてきっと話すらしてくれないはずだ。
「最悪だ!まさかこんな【呪い】のせいで追い出されるなんて。あの国の奴らどうかしてる!何が災いをもたらすだよ!!僕は何も悪いことしてないじゃないか!!」
文句を言ったところで誰からも返事は返ってこない。代わりに遠くの方から狼の遠吠えのような声が聞こえてきた。
「まさかここは……魔族達の領地、なのか?」
ライデンの話していた内容を考えればその可能性がかなり高い。僕が死んだ事で魔族達に災いをもたらすとか何とか言っていた。それに、人間の領地内に転移させる必要性が無い。ということは、十中八九ここは魔族達の領地だ。
「や、やばいぞ。どうにかして人間の領地に戻らないと。魔族に遭遇でもしたら、こ、ころされちゃう!」
自分が置かれている状況を理解した僕は、一目散にその場から離れた。何処へ向かえば良いのか分からないが、とにかく移動して一刻も早くここを抜け出さないと。
「何か目印になるようなモノを見つけよう。それと水と食料も考えなくちゃ」
僕は周囲に気を配りながらも、どうやれば生き延びれるか必死に考えていた。
◇
それから数時間後。すっかり夜は明け、空にはギラギラと輝く太陽が昇っていた。視界は良好になったが、その反面魔族からも僕の姿を見つけやすいということになる。そのため、僕は林の中を物音を立てないようゆっくりと移動していた。
「はぁ、はぁ、はぁ……お腹が減った。喉も乾いたし、早く食べられそうなものを見つけないと」
森の中と言えばキノコや木の実。あとは果実なんかがあれば最高なんだが、今のところ食べられそうなモノを見つけられていない。一応『鑑定』魔法がある為、食べられるかどうかの判断は簡単に出来るから安心だ。
暫くそのまま歩いていると、木の根元に紫色のキノコが生えているのを見つけた。この森に来て何度も目にしている、食べられないキノコだが、僕はそのキノコを丁寧に採取すると、収納の中へとしまい込んだ。
「このキノコとか食べられれば良かったんだけどなぁ。ハイポーションの素材だか知らないけど、生で食べたら一週間腹痛に襲われるとか、流石に食べれないだろ」
なぜそんなモノを集めているのかというと、無事に人間の街へ到着出来た時、これを売ればお金になると思ったからだ。この世界で生きるためには、この世界の金が必要。その為に、価値のありそうなものは一通り採取している。
それから毒消しや造血剤の材料になりそうな葉っぱを手に入れたりしたが、結局食べ物は手に入らなかった。このままでは人気のある所に着くことすらできない。そんな考えが頭の片隅に浮かんだ時だった。
ドォォォォ──
その音を耳にした僕は、魔族に見つかることなど忘れて音がした方向へと急いで走り始めた。草木をかき分けたどり着いたその先には、大きな滝とその水が作り上げた川が流れている。
「水だ!!助かった!!これでとりあえず何とかなるぞ!」
僕は乾ききった喉を潤すために、口をそのまま川に付けようとする。あともう少しで唇が川に触れそうになったとき、頭の中に「水質」の文字が浮かび上がった。
待ち望んだ水場から、ゆっくりと顔を引きはがし、冷静に考える。
「……一応飲めるか『鑑定』しておこう」
僕が住んでいた地域では、とてもじゃないが川の水なんて飲めなかったことを思い出したのだ。田舎や水が奇麗な場所なら大丈夫だろうが、ここは異世界。何があるか分からない。
その後、鑑定の結果飲んでも大丈夫だということが分かり、僕は胃の中を水で埋め尽くす勢いで水を飲みこんでいった。
「ゴクッ、ゴクッ……ぷはぁ!!生き返ったぁ!ただの水がこれだけ美味いと感じたのはいつ振りだろう!」
たった一日水分を取らなかっただけで、死にそうになった。もう二度とこんな目にはあいたくない。収納に入れられるだけ、水を入れておこう。
そう思って収納を開いたのだが、際限なく入り続けてしまい、川が干上がってしまいそうになったため、確実に生きていける分だけにして残りは川に戻すことにした。
「よし、水500リットル手に入れたぞ!1日1リットル飲んでも、500日分ある!これなら当分は持つだろ!あとは食料を見つけられたらいいんだけど──」
何か食べる物は近くにないか探そうと顔をあげると、顔の前で小さな光の球体がフワフワと浮いていた。
「な、なんだこれ!!ま、魔族か!?」
見た事も無い物体に思わず後ずさりする。まさか【呪い】の事に感づいた魔族が、自分を殺しに来たのかと思ったが、光の球体はその場で浮いているだけで、こちらに危害を加えようとはしてこなかった。
それからずっと見続けていたら、なんとなく敵じゃないのかもしれないという気がしてきた。それどころか、心が安らいできた気さえする。
「これ、触っても良いのかな?」
返事なんてあるわけないはずなのだが、なぜだか“いいよ”と言われた気がした。僕はゆっくりとその球体に触れ、優しく触ってみる。
「なんか暖かいな……凄く安心する」
それから気が済むまで触った後、肝心な事を忘れていた僕は急いでその球体に向かって『鑑定』を発動させた。そして、物体の前に文字が書かれた窓が浮かび上がる。
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水の精霊(下級)
水を司る精霊。精霊と対話できる力を持った者の前にしか姿を見せない。認めた者には力を貸すが、その逆に嫌いな者には悪戯や悪さをする。
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なんとその光の球体は、水の精霊だったのである。
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