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第9話 クリスタルディアー

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 それからフィムは、『魔獣』を探し回る様に飛び始めた。僕は地面に落ちていた太めの木の棒を拾うと、剣のように携えて周囲を警戒しながら、フィムの後ろをついていく。それから何かを見つけたのか、フィムは僕の方に戻ってきた。

“あっちの方に『魔獣』の気配があったよ。多分だけど、『ホーンラビット』だと思う”
「ホーンラビット?じゃあ兎みたいな『魔獣』ってこと?」
“兎?よく分からないけど、頭に一本の角を生やした白い魔獣だよ。ピョンピョンと飛び回るから、魔法を当てる時はよく狙って撃ってね”
「なるほど、兎だな!よーし分かった!」

 相手が兎だと分かった僕は、気合を入れて歩き始める。

暫く進むと、まっすぐ進んでいたフィムが地面すれすれまで下りてきて、そのまま右の方へと移動を始めた。僕もその場で中腰になりそのまま後ろについていく。物音をたてぬよう静かにフィムが居る場所まで行くと、草に隠れている頭に1本の角が生えた白い兎を見つけた。

「あれがホーンラビットか!」
“そうだよ。じゃあ裕介、早速魔法で倒してみて”
「分かった。……『水球ウォーターボール』!」

 水球が右手から放たれ、ホーンラビットの身体に直撃した。オレリンゴの時のように、ホーンラビットの身体がはじけ飛ぶようなことは無かったものの、その体は地面に倒れたまま、動くことは無かった。

「これで良かったのか?一応倒せたみたいだけど……」
“どうだろう。ステータスを見てみたら?”

 フィムに促されるまま、ステータスオープンと口にし、自分のステータスを確認する。

----------------------------------------------------
名前:近藤裕介
性別:男
年齢:17歳
職業:精霊術士
Lv : 2
体力:2000/2000
魔力:1980/2000
攻撃力:200
防御力:200
敏捷力:200
知力:200
運:200

【魔法】
精霊魔法
会話
鑑定
収納
初級水魔法(フィム)
【呪い】
対人好感度補正(極大減少)(消去不可)
----------------------------------------------------

「おー!レベルが2に上がってる!それにステータスも軒並み上昇してるぞ!」
“良かったねぇ!その調子でどんどんいってみよう!”
「お、おう!でも、あくまでに慎重にな!」

 急にフィムの喋り方に抑揚がついたため驚いたが、あまり気にも留めず、次の得物を探すために歩き始めた。このままホーンラビットだけを狙っていけば、思っていたより早くレベルが上がるかもしれないな。

「そういえば、ステータスの魔法の欄に、『初級魔法(フィム)』て、増えてたんだけど、これはフィムが俺と契約してくれたから増えたんだよね?」
“そうなんじゃないかな?僕も細かい部分はよく分からないんだよ!何てったって、契約したのが初めてだからねぇ!”
「そうだったのか。ちなみに、初級水魔法は『水球』の他に何が使えるんだ?」
“『水球ウォーターボール』の他だと、『水刃ウォーターエッジ』と『水生成クリエイトウォーター』くらいかな!意外と使い勝手が良いと思うよ!”

 『水刃』と『水生成』か。名前からして、『水生成』は水を作り出す魔法みたいだな。『水刃』は『水球』みたいな攻撃魔法だと思うんだけど、試しに次の得物に使ってみるとするか。

 そんな話をしているうちに、フィムがまた地上すれすれに降りてきて、林の方へ移動を始めた。フィムの後ろに着いていくと、今度は鹿に似た動物が草を食べている。頭に生えた二本の角が、キラキラと光輝いていた。

 僕はフィムの後ろにしゃがみ込むと、鹿に聞こえないようにフィムに問いかける。

「ねぇフィム。あれはなんて魔獣なの?」
“あれは、『クリスタルディア―』だねぇ。強くはないけど、逃げ足が速い魔獣だよ!”
「へぇー。クリスタルディア-って言うのか。なんか格好いいな。ちょっと鑑定してみよっと」

 無防備な姿で草を貪り喰うクリスタルディア―に向けて、鑑定を発動させる。すると、目の前に現れた窓に驚愕のステータスが映し出された。

----------------------------------------------------
種族名:クリスタルディアー
Lv : 15
体力:500/500
魔力:400/400
攻撃力:280
防御力:300
敏捷力:4000
知力:400
運:200

【詳細】
奇麗な水源の近くに生息する魔獣。
争いを好まないため、戦闘力は低いが逃げ足がかなり速い。
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「レベル15に敏捷力4000!?桁が一つ違うぞ!」
“そんなに高いんじゃ、今の裕介じゃ倒そうにも魔法を当てる事すら出来なさそうだねぇ”
「そうだよなー。倒せれば良い経験値になると思ったんだけど……」

 逃げ足の速さに関係してると思われる敏捷力が4000もあるんじゃ、どうやっても僕の魔法は当たらないだろう。でも、レベルが二桁も違う魔獣を倒せれば、僕のレベルも一気に上がるはず。目の前に現れた経験値を逃がす手はない。

 僕はクリスタルディアーに気付かれないように静かに右手を挙げて、魔法を放つ準備をした。折角なら新しい魔法の試し撃ちをしてみるとするか。

「『水刃ウォーターエッジ』!」

 僕がそう口にして手の平に水の刃が形成され始めた瞬間だった。目の前に居たクリスタルディアーは、瞬きする間もなくその姿を消してしまった。その結果、僕の手から放たれた魔法は、無人の草むらを突き進み、木の枝を数本刈り取って消滅した。

「……なんだよ、今の!全く見えなかったぞ!」
“あれがクリスタルディアーの逃げ足だよ。この森で唯一、レッドベアーも捕食できない魔獣なんじゃないかな”
「だろうなぁー。あれだけ逃げ足が速いとなると、何か罠でも設置しないと捕まえられないだろう」
“それか、裕介が同じくらいの敏捷力を得るかだね!そうすれば、クリスタルディア-とかけっこ出来るかも知れないよ!?”
「しないわ!とりあえず、『水刃』がどんな魔法かも知れたし、次からはホーンラビットに絞ってレベル上げをしよう」

 僕の提案に、フィムは一言「わかった!」と返事をすると、直ぐに獲物を探し始めた。なんとなく、フィムとの距離が縮まったような気がする。久しぶりに普通の友達と接するように話すことが出来て、少し涙が出そうになった。

 その後、陽が落ちるまで狩りを続けた僕達は、見事レベルを2から6にまで上げることが出来た。ホーンラビットの死体も沢山手に入り、ようやく肉にありつけると思った矢先、肝心の火種が無いことに気付き、無情にもホーンラビットの肉は食べられなかった。

 そしてその日の夜──

「フィム!!絶対に寝ないでくれよ!お願いだからね!!」
“分かってるってー。全く、裕介は臆病なんだから”

 魔獣が居ないと思っていた昨日とは打って変わり、地べたに横になって寝ることは叶わず、気にしがみ付いたまま眠りにつくのだった。


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