奴隷を買うために一億円貯めたいので、魔王討伐とかしてる暇ありません~チートって金稼ぎのためにあるもんでしょ?~

服田 晃和

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第1章 奴隷を買いたい男

第14話 一時退去

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 翌日の朝。俺は朝食を食べながら昨日あったことについて、ネムに話をしていた。

 昨晩俺が店に戻ろうとすると、数名のBランク冒険者に囲まれたこと。奴等は俺とネムが一緒に生活していることを知っており、ネムをこの家から追い出すように脅迫してきたこと。それを断ったら、今度は金を渡してきたこと。

 何が目的でこんなことをしたのかは知らないが、冒険者の中にはジードと呼ばれた男がいた。その名前を知っているか聞いてみたが、ネムは首を横に振るだけだった。

「──てな感じで、そいつらはネムをここから追い出して欲しいらしいぞ」
「ふーん……なんでだろう。ユウキがネムを独り占めしてるのが気に入らないのかな?」

 ネムが狙われていると話をしているのに、当の本人はその危険性を理解していないらしい。意味不明な理論を展開して、何故か俺が悪いという方向に持って行く。こんなアホ猫を狙うなんて、アイツらどうかしてるんじゃないかと疑ってしまうレベルのヤバい女だ。

「お前本当にすげぇな。どっからそんな自信出てくんだ?もしかして、猫人族ってみんなそんな感じなのか?」
「うーーん……わかんない」

 ネムはよく知らないと言った様子で首をかしげたあと、食べ終わった皿を流し台へと運んでいく。彼女もようやく『片付ける』コマンドを習得したのか、自分が使った食器は流しまで持って行くようになった。ただその後、洗うことまではしてくれない。

 ネムの成長に感動し、クスリと笑みをうかべる。だが直ぐに元の真面目な顔に戻り、深くため息を零した。今直面している問題をどう解決したらいいのか、中々いい案が思いつかないのだ。

「まぁとにかくだ。金を貰っちゃった以上、俺はネムを追い出さなきゃいけないわけなんだが……丁度いい機会だし出てってみるか?」
「やだ。ネムはあと半年、この生活を続ける」

 俺の提案を速攻で却下するネム。提案しておいてなんだが、ネムがそれを受け入れるはずが無い。家賃無しで飯がタダで食えるんだからな。俺だって相手が嫌な奴だったとしても、しがみ付くに決まっている。

「そうだよなぁー、出ていく気はないよなー。でも追い出さないと、俺あいつらに何されるか分かんないんだぜ?ネムもなんか良い案ないか考えてくれよ!」

 そう訴えると、ネムは指を口に当ててしばし考えを巡らせ始める。そして数秒後、明暗が思いついたと言わんばかりの顔で目を見開き、自慢気にその案を話し始めた。

「……ユウキが襲ってくる奴等ボコボコにすればいいと思う」
「いやいや!俺、ネムみたいにAランク冒険者じゃないからな!複数のBランク冒険者ボコボコに出来るだけの実力無いから!」

 俺の答えを聞いて、ネムは訳が分からないと言った様子で首をかしげてみせた。なぜか自分の実力ベースで考えてしまうネム。確かにAランク冒険者なら、格下のBランク冒険者に囲まれてもあの程度の連中であれば瞬殺できただろう。

 しかし俺は表向きは平凡なBランク冒険者。そんな実力を有している筈がないと皆が思っている。まぁ実際は本気を出せば、あんな奴等五秒で全員殺せるが、そうしたくない理由が山ほどあるのだ。

 何かほかに良い案は無いか。ネムを追い出すことなく、奴らにはネムを追い出したと思わせる方法。なにか、なにか──

「そうだ!金を渡すから、暫くのあいだ宿暮らしに戻るのはどうだ!?そうすりゃ一度は家を出たって事になるし、また戻ってきたとしても文句は言えないだろ!」

 この案であれば、誰も被害を受けることなく、元の状態へと戻すことが出来る。暫くすればまた情報を掴んだ連中が脅しに来るだろうが、その時はまた同じ手を取ればいい。半年の謹慎期間が明けるまでのあいだ、このイタチごっこを続ければ晴れてミッションクリアだ。

 完璧な案だというのに、ネムはどうにも浮かばない顔をしている。
 
「んー……」

 唸りながら目を瞑り、黙ってしまった。それから三十分以上、黙って一人で悩んでいたネムだったが、ようやく覚悟を決めたのか目を開いて話し始めた。

「わかった。二週間だけ宿に行っても良い。でもその後はまたここに戻ってくる。約束して」
「お、おお。約束だ」

 俺はネムから差し出された小指に自分の小指を絡め、約束の指切りを交わした。その後も俺の眼をジッと見つめてくるネム。自分が出ていった隙に、鍵を付け替えたりすると思ったのかもしれない。

「安心しろって!二週間経ったら迎えに行ってやるからさ!」
「……約束だから。荷物纏めてくる。あとでお金ちょうだい」

 ネムはそう言うと二階へ上って行ってしまった。部屋からガチャガチャと音が聞こえてくる。

 俺は何とか問題を解決できそうだと安堵の息を漏らした。これで全部上手くいく。この時の俺は本気でそう信じていた。
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