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220.1白い帆船の人達1(約束の通り戻って来ました)✔
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五隻の白い帆船がポートの港に入港して来た。三隻目の中央の船は周りの船から守られているように見える。この三隻目に、人間の歳ならば十六歳くらいの女の子が乗船していた。キラキラとした眼差しで呟く。
「アルフレッド・ハイルーン様、お約束の通り戻って来ました! 早くお会いしたいです!」
見える範囲にアルフレッドの姿はない。その右には同じく十三歳くらいの男の子が並んで立っており、女の子に話しかける。
「え! 姉上、アルフレッド・ハイルーン様はどこに見えますか? 僕には見えないのですが!」
独り言だったのであろう、女の子の顔がほのかに色づいたように見えた。
「ミトの心の中には見えるのです。ミルトも早くお会いしたいでしょ?」
「そうですが……心の中ですか? まるで恋する乙女ですね! 姉上は何歳になられましたでしょうか?」
男の子が少しからかうように言った。
「ミルト! いくらあなたが弟とはいえ、女性に歳を聞くとはいい度胸をしていますね!」
「ごめんなさい。教えてくださらなくて結構です。僕が百十三歳になりましたから……」
男の子が両手で指折り数えるそぶりを始めた。その指を女の子が両手で掴む。
「止めて! 女の子から嫌われますよ! ミトなんてまだまだ子供ですから!」
「まあ、そうですね。エグザイルエルフの中では下から数えた方が早いですからね。長老様なんて自分の歳とか憶えているか怪しいですよ。歳はこの辺にしてアルフレッド様の情報収集に行きませんか?」
ミルトは船が接岸しきらないうちに港に飛び移る。当たり前のようにミトも後を追う。
「ミルトが歳の事を言い出したのでしょ!」
「ミルト様、ミト様! 待ってください! おい、お前達、行くぞ!」
大慌てで三人の男たちが帆船から飛び降り、ふたりの後を追う。
帆船と陸地の間は三メートル以上離れていたが、危なげなく着地していた。五人は何事もなかったように歩き出し、多くの人が出入りしている仕事斡旋所の中へと入って行く。
仕事斡旋所の中は人でごった返しており、忙しそうに見える。そんな中、カウンターの向こうでギルド長だけが暇そうにしている。ミルトはこれ幸いに駆け寄ると話しかけた。
「すみません。以前来た時、宿泊先の便宜を図ってもらったのですが覚えていますか? あの時はお世話になりました! 以前にも増して忙しそうですね」
「ん! ああ、久しぶりだな。近頃はこんな感じで忙しい。また、アスラダに買い付けに来て宿泊先の案内をしてほしいのか?」
「アスラダ国での買い付けは終えています。今回はアルフレッド様に温泉に招待されているのでやってきました。アルフレッド様に連絡を取っていただけないでしょうか?」
「連絡してやってもいいが、急ぎなら銀貨二枚の費用が発生するが構わないか? アルフレッドなら出かけていなければ直ぐに飛んできてくれるだろうと思うが、いつ連絡がつくか保証はできんぞ。それでも良ければ鳩便を出すことはできる!」
ギルド長が言い終わるや否や、ミルトは嬉しそうに懐から袋を取り出し、中から銀貨二枚を手渡した。
「お願いします!」
ギルド長は銀貨を受け取ると、ペンと十センチほどの紙を手渡した。
ミルトは、『アルフレッド・ハイルーン様。温泉に入りに来ました。ポートの港にて待っています。迎えに来てくださるとうれしいです。海賊から助けられた白い帆船の者』とだけ書くと、細長く折りたたみギルド長にペンと一緒に手渡した。
ギルド長は受け取ると職員を呼びつけ、折りたたまれた手紙を手渡す。職員はギルドのカウンターの裏に消えていった。
職員は五分もすると鳩を抱えて戻って来た。その場で鳩の足に取り付けられた筒に手紙を入れる。ギルドの外へ行こうとして立ち止まると、ミルト達についてくるように眼で合図した。ミルト達も後を追い外に出る。職員は手に抱えていた鳩を空へ放した。
足に筒を付けた鳩は、上空で数度円を描きハイルーン領のある方向に飛び去って行った。
ミルト達は鳩を見送るとギルド長に礼を言い帆船へと戻って来た。帆船から上陸したエグザイルエルフたちが、美味しそうな匂いに引き寄せられるように出店に向かうところだった。
山羊を串に刺して焼いた露店の行列が一番長くできており、ミルト達も並ぶことにした。
久しぶりの上陸で皆浮かれているように見える。五隻のコックと思われる男たちが日持ちのしそうな野菜や柑橘を仕入れている。
長期の航海になると体調を崩すものが出てくるのだ。今回は、間隔を開けずに再度の航海に出たためだろう、前回来た時よりも多くの者が体調を崩していた。
それでも、アルフレッドから譲り受けたピンクポーションのお陰で、飲ませるとかなり症状が改善するのだ。
しかし、根本的な原因をなんとかしない限り、また少しすると体調を崩してしまう。
長期の航海では新鮮な野菜が手に入らない。人参にじゃがいも、玉ねぎや柑橘も少し硬い物も購入するようにしている。熟した野菜や果物では日持ちしないからだ。比較的日持ちする野菜であったとしても、海の上は暖かく陸上以上に早く傷んでしまうのだ。
長期の航海では避けては通れない課題となっていた。それでもアルフレッドのポーションが手に入ってからの死者数は劇的に少なくなっている。
ポーションと乳液の製造方法を、なんとしても手に入れるようにと指示が出ている。通常ならばひとつの航海が終わると数か月は休みがあるのだが、賃金を増加するからと言われて、直ぐに送り出されたのだ。
乳液についても、アルフレッドから聞いていた通りの効果が直ぐに証明された。数が少ないため奪い合いになるほどの人気だ。
アスラダ国で購入した魔法のスクロールについても、以前と変わらない安定した人気商品となっていた。
今回、シルクスパイダーの布を大量に持参している。これはアスラダ国でも高い評価を得ており、外貨を得るために欠かせない優良な商品となっている。
この魔法のスクロールに加え、ポーションや乳液を安定して取り扱うことができるようになれば、大きな利益につながることは間違いなかった。
ミルトとミトは買い物を済ませると帆船に戻っている。ふたりは露店で購入したヤギの肉などをほおばっている。ミトが時折、何かを想うように鳩の飛んで行った空を見つめている。
「姉上、連絡が無事届き早くお会いできるといいですね!」
「そうですね。龍にも会いたいですね!」
アルフレッドから連絡が来ることを心待ちにするのであった。
「アルフレッド・ハイルーン様、お約束の通り戻って来ました! 早くお会いしたいです!」
見える範囲にアルフレッドの姿はない。その右には同じく十三歳くらいの男の子が並んで立っており、女の子に話しかける。
「え! 姉上、アルフレッド・ハイルーン様はどこに見えますか? 僕には見えないのですが!」
独り言だったのであろう、女の子の顔がほのかに色づいたように見えた。
「ミトの心の中には見えるのです。ミルトも早くお会いしたいでしょ?」
「そうですが……心の中ですか? まるで恋する乙女ですね! 姉上は何歳になられましたでしょうか?」
男の子が少しからかうように言った。
「ミルト! いくらあなたが弟とはいえ、女性に歳を聞くとはいい度胸をしていますね!」
「ごめんなさい。教えてくださらなくて結構です。僕が百十三歳になりましたから……」
男の子が両手で指折り数えるそぶりを始めた。その指を女の子が両手で掴む。
「止めて! 女の子から嫌われますよ! ミトなんてまだまだ子供ですから!」
「まあ、そうですね。エグザイルエルフの中では下から数えた方が早いですからね。長老様なんて自分の歳とか憶えているか怪しいですよ。歳はこの辺にしてアルフレッド様の情報収集に行きませんか?」
ミルトは船が接岸しきらないうちに港に飛び移る。当たり前のようにミトも後を追う。
「ミルトが歳の事を言い出したのでしょ!」
「ミルト様、ミト様! 待ってください! おい、お前達、行くぞ!」
大慌てで三人の男たちが帆船から飛び降り、ふたりの後を追う。
帆船と陸地の間は三メートル以上離れていたが、危なげなく着地していた。五人は何事もなかったように歩き出し、多くの人が出入りしている仕事斡旋所の中へと入って行く。
仕事斡旋所の中は人でごった返しており、忙しそうに見える。そんな中、カウンターの向こうでギルド長だけが暇そうにしている。ミルトはこれ幸いに駆け寄ると話しかけた。
「すみません。以前来た時、宿泊先の便宜を図ってもらったのですが覚えていますか? あの時はお世話になりました! 以前にも増して忙しそうですね」
「ん! ああ、久しぶりだな。近頃はこんな感じで忙しい。また、アスラダに買い付けに来て宿泊先の案内をしてほしいのか?」
「アスラダ国での買い付けは終えています。今回はアルフレッド様に温泉に招待されているのでやってきました。アルフレッド様に連絡を取っていただけないでしょうか?」
「連絡してやってもいいが、急ぎなら銀貨二枚の費用が発生するが構わないか? アルフレッドなら出かけていなければ直ぐに飛んできてくれるだろうと思うが、いつ連絡がつくか保証はできんぞ。それでも良ければ鳩便を出すことはできる!」
ギルド長が言い終わるや否や、ミルトは嬉しそうに懐から袋を取り出し、中から銀貨二枚を手渡した。
「お願いします!」
ギルド長は銀貨を受け取ると、ペンと十センチほどの紙を手渡した。
ミルトは、『アルフレッド・ハイルーン様。温泉に入りに来ました。ポートの港にて待っています。迎えに来てくださるとうれしいです。海賊から助けられた白い帆船の者』とだけ書くと、細長く折りたたみギルド長にペンと一緒に手渡した。
ギルド長は受け取ると職員を呼びつけ、折りたたまれた手紙を手渡す。職員はギルドのカウンターの裏に消えていった。
職員は五分もすると鳩を抱えて戻って来た。その場で鳩の足に取り付けられた筒に手紙を入れる。ギルドの外へ行こうとして立ち止まると、ミルト達についてくるように眼で合図した。ミルト達も後を追い外に出る。職員は手に抱えていた鳩を空へ放した。
足に筒を付けた鳩は、上空で数度円を描きハイルーン領のある方向に飛び去って行った。
ミルト達は鳩を見送るとギルド長に礼を言い帆船へと戻って来た。帆船から上陸したエグザイルエルフたちが、美味しそうな匂いに引き寄せられるように出店に向かうところだった。
山羊を串に刺して焼いた露店の行列が一番長くできており、ミルト達も並ぶことにした。
久しぶりの上陸で皆浮かれているように見える。五隻のコックと思われる男たちが日持ちのしそうな野菜や柑橘を仕入れている。
長期の航海になると体調を崩すものが出てくるのだ。今回は、間隔を開けずに再度の航海に出たためだろう、前回来た時よりも多くの者が体調を崩していた。
それでも、アルフレッドから譲り受けたピンクポーションのお陰で、飲ませるとかなり症状が改善するのだ。
しかし、根本的な原因をなんとかしない限り、また少しすると体調を崩してしまう。
長期の航海では新鮮な野菜が手に入らない。人参にじゃがいも、玉ねぎや柑橘も少し硬い物も購入するようにしている。熟した野菜や果物では日持ちしないからだ。比較的日持ちする野菜であったとしても、海の上は暖かく陸上以上に早く傷んでしまうのだ。
長期の航海では避けては通れない課題となっていた。それでもアルフレッドのポーションが手に入ってからの死者数は劇的に少なくなっている。
ポーションと乳液の製造方法を、なんとしても手に入れるようにと指示が出ている。通常ならばひとつの航海が終わると数か月は休みがあるのだが、賃金を増加するからと言われて、直ぐに送り出されたのだ。
乳液についても、アルフレッドから聞いていた通りの効果が直ぐに証明された。数が少ないため奪い合いになるほどの人気だ。
アスラダ国で購入した魔法のスクロールについても、以前と変わらない安定した人気商品となっていた。
今回、シルクスパイダーの布を大量に持参している。これはアスラダ国でも高い評価を得ており、外貨を得るために欠かせない優良な商品となっている。
この魔法のスクロールに加え、ポーションや乳液を安定して取り扱うことができるようになれば、大きな利益につながることは間違いなかった。
ミルトとミトは買い物を済ませると帆船に戻っている。ふたりは露店で購入したヤギの肉などをほおばっている。ミトが時折、何かを想うように鳩の飛んで行った空を見つめている。
「姉上、連絡が無事届き早くお会いできるといいですね!」
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アルフレッドから連絡が来ることを心待ちにするのであった。
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