異世界に転生したけどトラブル体質なので心配です

連載

270.邪神の使徒（強襲部隊長のひとりごと）✔

　エルフの次期王女と王子が少ない護衛を伴なって出立したと聞き、襲撃するために二週間も前から準備して待っている。計画に狂いが生じた大きな原因は、魔物が河に出たためだ。まあいい。

　あわよくば、襲撃せずとも魔物が代わりに始末してくれるかもしれない。そう考えていたが、そう簡単にはいかないようで、ドワーフが河にトンネルを作って渡れるようにしたそうだ。

　というのも、ここ何度かの襲撃の成果が思わしくない。以前であれば、毒矢で簡単に葬れていたのだが、エグザイルエルフが毒に効くポーションを手に入れ、エルフに提供したようだ。余計なことをしやがる。お陰で仕事が増えてしまった。

　今回はエルフを襲撃するために入念な準備を行っている。貴重な魔石爆弾や結界の魔道具まで準備した。絶対に失敗はできない。

　偵察に向かわせた者の話では、エルフ達にドワーフが加わったと聞いた。それに小さな龍の子供が一緒にいるらしい。イレギュラー要素が増えたため、今回の襲撃をどうするか、小隊長の三名と協議を行った。その結果、入念に準備しており、貴重な魔石爆弾や結界の魔道具まで与えられた。龍も小さな子供なら、魔石爆弾で仕留められるはずだ。今更止めるなんてできないという事になった。

　木を街道に倒し、森に隠れて待ち伏せしている。もう少しすれば、やって来るはずだ。エルフが相手であるため、近づけば精霊が知らせる可能性もある。そのため、矢の射程距離内に入り次第、ヤークに射かける計画だ。強力な毒なので何本か当てることができれば、まず助からないだろう。動けない状況にしてやれば、後は魔石爆弾で吹き飛ばして終わるだろう。

　気がつかれたか？　エルフがヤーク車のスピードを落としやがった。左右から後方に回り込みつつ、矢と魔石爆弾を投擲する。真ん中のヤーク車に次期女王と王子が乗っていると聞いている。真ん中と後ろのヤークを倒せば逃げられない。

　よし、まずは中央のヤークに矢が当たった。これで次期女王たちは逃げられないだろう。ある程度、予想はしていたが、ドワーフが邪魔だ。魔石爆弾でも倒すことができない。なんて頑丈なんだ。エルフだけなら簡単に終わっていたのに……。

　反対の森にいた同志からの矢と魔石爆弾の攻撃が止まってしまった。それに龍が後ろのヤークを護っていやがる。これだから、龍なんてイレギュラーな存在はいやなんだ。もう後には引けない。なんとしても亡き者にしたと報告できるようにしたい。

　なんと言う事だ。一緒にいた子供の龍が大きくなりやがった。仲間がどんどんと倒されていく。これでは話が違い過ぎる。強襲部隊長として、邪神の使徒にこの状況を報告する必要がある。でなければ、同じことを繰り返しても同志たちが倒れるだけになってしまう。

　一旦撤退しよう。あの火炎と風の刃は対策をしなければならん。なんとか、逃げおおせたが、あの人間が予想外に強かった。イレギュラーだらけで計画は大失敗だ。大きな損害を出したが、目的を達成できないなんて考えもしなかった。なんなんだあの人間は！

　人間といえば、前世で、地球という世界に転生しているであろう賢者を見つけだし、神に気づかれないように事故死させろと難度の高い使命を与えられた。両親は事故死させることに成功したが、やはり神に守られているのか、あいつと妹は生き残りやがった。

　なんとか、うちの会社に入社させて無理させ、過労死させてやったが、妹にはかなり嫌味を言われ、会社は潰れるし、最後は酷い目に遭ってしまった。もう少し向こうの生活を楽しみたかったのだが、お陰でこっちに戻って来るのがかなり早くなってしまった。あれ以上惨めな生活はプライドが許せなかった。まさかビルの上から飛ぶことになろうとは。

　あー嫌なことを思い出してしまった。急いで報告に向かわなければ！　まだ、エルフの森までチャンスはある。次こそは亡き者にして、エルフを恐怖に陥れなければ！　しかし、邪神の使徒はなんとブラックなんだろうか。嫌になるぜ！