異世界に転生したけどトラブル体質なので心配です

小鳥遊 ソラ(著者名:小鳥遊渉)

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350. オーガ迷宮2(保護を求められる)✔

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「ほら、オークだぞ、味わってゆっくりと食べるんだぞ!」

「こいつの世話を任されたはいいが、オーガを狩るのも大変だな!」

「そうだな、数も減っているから探し出すのも一苦労になってきた!」

 武装した男たちが下品な笑い声をあげる。

「オーガを狩って与えればいいだけだぞ! そうすればたんまりと報酬は弾んでもらえるんだからな! 早く交替のやつらが来ねえかな!」

「来るわけねーだろ! まだ、一日しか経ってねーんだからよ!」

「ちげーねーや! 外に出て美味い酒と食い物、それに綺麗なねーちゃんを抱きてーな!」

「オーガ迷宮の中で何日も過ごすことになるなんてな!」

「強いパーティーがオーガを狩ったんだろう、でなきゃこんなにのんびりなんてできないからな!」 

 男たちは長弓や大剣に魔法の杖も所持しており、十人からなるベテランパーティーのようだ。

「受付のキャサリン嬢に頼まれたこの仕事だが、オーガを外に運ばなくていいが、数が減って来たから狩るのも難しくなってきたし、ここは臭くてたまんねーや! そろそろ金も溜まって来たし休まねーか?」

 三十歳半ばの男が顎髭を触りながら言うと、他の者も同意する者が出ている。

「そうだな。これが終われば休むか? だが、他のパーティーに仕事を取られるんじゃないか? こんなに割のいい仕事はなかなかないぞ!」

 受付のキャサリン嬢から爆風竜フラトゥスの世話を頼まれただって? 邪神教の信者だったのか? ……だからギルド長に報告が上がっていないんだな。受付を受理しようとしなかったのは迷宮に入れさせないようにするためだったのかもしれない。それか爆風竜フラトゥスの世話を依頼しようとした可能性もあるな。

 迷宮に潜るパーティーが減ったと言っていたが、依頼を受理していなかったからかもしれない、入り口の職員もグルの可能性もあるのか? 

 懐剣を見せたのは失敗だった、見張っていれば情報を得られたはずなのに。ここから出たら見張った方がいいが、気づかれた後では警戒していそうだ。

 ギルド長に報告を……いやギルド長も仲間の可能性もあるな。ここの軍にも邪神教の人間が入り込んでいる可能性もある。全部怪しく思えてきたぞ。

 王都から見張りを派遣してもらう方がいいだろうな。思わぬところで手掛かりを得たかもしれない。今更だが懐剣を見せたことが悔やまれる。もっと慎重に行動しないと相手は元勇者だからこちらの手の内も知っていてもおかしくないからな。

 冷静になって考えてみたが、爆風竜フラトゥスがいる迷宮に王族が入ったのを知っていて生かして返すだろうか? 俺が邪神教なら絶対に始末にかかるだろうな。このパーティーは邪神教ではないようだけどできれば知られずに外に出たい。次のオーガを狩りに行く時がチャンスになるだろう。

 早く行ってくれないかな、このままではサーシャの帰りに間に合わなくなる! 

「グルルルル」

 爆風竜フラトゥスがオーガを食べ終わった、もっと催促しているように見える。

「もう食べちまったのかよ。よく食べるよな、お前ら機嫌が悪くなる前に次を狩りに行くぞ!」

「よく食うよな! やれやれ!」

 男たちはぶつぶつ言いながら迷宮の通路のひとつに入って行った。これでやっと戻れる 

 出口に向かおうとしたら人が入って来る気配がした。鍾乳石の割れ目に体を入れてやり過ごすことにしる。

 俺のすぐ先をキャサリン嬢が通過する。なんで迷宮に入って来たんだ? 気になる、離れて後をつける。

 爆風竜フラトゥスがいる場所に向かっているようだ。やっぱり邪神教の信者かなにかだろう。

「グルルルルガルルルル!」

 爆風竜フラトゥスの機嫌が悪いようだ。

「誰もいない、ちゃんと世話してないじゃない! どこに行ったのよ!」

 キャサリン嬢の機嫌も悪い、イライラしている。

「ほら、力入れて引けよ!」「せーのっ!」

 男たちがオーガを引いて帰って来た。

「おや、キャサリン嬢がいるぞ! 差し入れか!」

 男たちが嬉しそうにしている。差し入れを持っているようには見えない。

「ちゃんと仕事しているわね、ところで男の子を見なかった?」

「男の子だって! 迷宮で迷子かよ! そいつは大変だ! 捜索なら別料金だぜ!」

 男たちは驚いているようだが、どこか楽しそうにしている。金になると思っているのだろう。

「入ったのは確認したんだけど出会っていないのね? どこをほっつき歩いているのかしら!」

「いくら出すんだ! キャサリン嬢の頼みでも只では探さないぜ!」

 ニヤニヤしながら髭面の男が言う。

「そうね探し出して捕まえてくれればもっと出してあげるわ!」

 キャサリン嬢は妖艶な笑みを浮かべている。

「捕まえるだって!? 犯罪者なのか?」

「ええそうよ! 王家を騙る悪いやつなの! 王家だと言うかもしれないけど嘘つきだから遠慮しないで捕まえて! 抵抗するならやってもいいから!」

「やるって、子供一人に物騒なことを言うなんて、あんたおかしいんじゃないか!」

 男たちが顔を見合わせると警戒している。

「失礼なことを言わないでくれる! ホント使えないわね!」

 キャサリン嬢は手に何かを握っている。男は目で合図をするとゆっくりとキャサリン嬢に歩み寄る。

「ちっ!」

 キャサリン嬢が小さな舌打ちをした。それが合図だったとでもいうように男たちが一斉にキャサリン嬢に向かって走り出した。

「フラトゥスやっちゃいな!」

 キャサリン嬢は叫ぶように言うと鍾乳石の陰に走り込んだ。男たちがもう少しという距離にまで近づいていたが、その体は風の刃に切り裂かれる。一瞬の出来事だった。

 迷宮の中を荒れ狂うようにいくつもの風の刃が通り過ぎて行った。持っているのは魔道具のようだ。あれでフラトゥスを操っているんだな。

ここからではキャサリン嬢まで距離があり過ぎる、隠れる場所が無ければ防げそうにない。

「フラトゥス、食べちゃいな!」

 フラトゥスはのそりと移動したが繋がれているためそれ以上動くことができない。

「ちっ! 血が付くのは嫌、待っていなさい外してあげる!」

 キャサリン嬢は舌打ちが癖なのかもしれないな。フラトゥスの繋がれた鎖を外そうとしている。外させるわけにはいかない、鎖を外す作業しているキャサリン嬢を拘束するため後ろから近付いた。

 しまった。小石を蹴り小さな音を立ててしまった。キャサリン嬢が振り向き気づかれた。また舌打ちしたな。

「フラトゥスやっちゃいな!」

「グルアーーー!」

 爆風竜フラトゥスが吠えると風の刃が飛んで来る。ウインドスラッシュを発動させ相殺を試みる。風の刃の威力は弱まったが前に進めないほどの強風が吹きつける。

 いくつもの風の刃が飛んで来る。なんとか鍾乳石の後ろに逃げ込み難を逃れた。だが、鍾乳石がバラバラと風の刃で削られている。名前の通りとんでもない威力の風が吹き続けている。魔力鑑定眼で確認したところ、爆風竜フラトゥスには三つの魔石もしくは宝玉がある。キャサリン嬢もひとつ持っているので、ここに四つもの魔力の塊が見えている。

 隷属の魔道具の魔石とコントローラーの魔石をどうにかしたい。このまま鍾乳石を削られれば怪我では済まないだろう。

 上手に発動できればほぼ相殺はできるが近づけそうにはない。どうすればいいか?

 風の刃を発動しっぱなしにはできないようで、時々風が止まる。間隔を測りながら少しずつ近づこうと試みるも、鍾乳石が削られてこれ以上先に隠れる場所がない。

 次が勝負だ。まだ鎖は繋がれたままだ。キャサリン嬢を確保すれば風の刃は発動できないだろう。

 タイミングを見計らう。止まった、未だ。飛び出すと身体強化魔法に風でブーストすると一気に距離を詰める。

「キャサリン嬢、話を聞かせてもらおうか!」

 キャサリン嬢のすぐ後ろに到達した。この位置なら爆風竜フラトゥスは攻撃できないだろう、もし、風の刃を飛ばせばキャサリン嬢もただでは済まないはずだ。

 また舌打ちされた。 
 
「邪神様、力をお与えください! フラトゥスやっちゃいな!」
 
 至近距離で爆風竜フラトゥスは風の刃を発動させた。慌ててウインドスラッシュを発動させ相殺するが、強風に吹き飛ばされ壁や床に叩きつけらてしまった。体を確認する。腕が折れ切り傷を負っている。全身が痛い、自分の体の中に癒しの魔法を発動させると循環させる。数分もすると骨は繋がった。癒しの魔法の効果が高くなっているな。

 キャサリン嬢を見つけて問い詰めないと……既にこと切れていた。口を割るまいとしたのだろう。忘れていた。こいつら自爆や毒を飲むんだった。

 爆風竜フラトゥスの隷属の首輪は壊れていない。鎖も繋がれたままだ。このままだと餓死するだろう、こいつは操られているだけで悪くない。

 連れ出して元の住処に連れて行ってやれるといいが、通路が通れないほどの巨体なんだ。

 キャサリン嬢の亡骸を調べていると変身の魔道具が出てきた。そういう事か外したところ段々と姿が変わっていく。どうやら入れ替わられていたようだ。

 この変身の魔道具のベルトがやけに大きな部分がある。爆風竜フラトゥスの首に取り付けて小さくなるように変身させてみたが大きさに変わりはない。失敗?

 オーガの大きさは変わらなかったのを想い出した。太さや長さは変えれたな、チビを思い浮かべながら変身させてみる。

 おーーー、ちょっとデフォルメされた龍が目の前にいる。この細さなら外に連れて出れる。コントローラーの宝玉に念じて迷宮から連れ出す。

受付の兵士の姿が見えないな。キャサリン嬢が何かしたのだろう。

 住処だと聞いて山脈に連れて行くと首の魔道具と鎖を取り外し放してやった。

 爆風竜フラトゥスは離れようとしない。困るんだけどな。変身の魔道具を鼻先でツンツンとする。

 首に巻けという事のようだ。取り付けてやると姿が変わり始めた。デフォルメされた巨大なアルフレッド・ハイルーンがそこに出現した。

「助けてくれてありがとう。また捕まるのは嫌だから、一緒について行きたいの!」

 爆風竜フラトゥスの言っていることは正しい気がする。まさかこれを伝えるために変身するとはな。
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