異世界に転生したけどトラブル体質なので心配です

小鳥遊 ソラ(著者名:小鳥遊渉)

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370. 魔大陸からの移民団(精霊の話)✔

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 製塩所の荷馬車を魔狼たちに牽いてもらい、開拓村まで荷物をピストン搬送している。手配した街からの馬車は間に合っていないため、獣人達は歩いて開拓村に向かってもらう。

 帆船での長旅で疲れが出ているのか、以前会った時より歩みが遅い気がする。それでも魔大陸の森の中は歩きが基本なので誰も文句を言うような者はいないよ。

 そんな中でも子供の獣人の数名が元気に追いかけっこを始めた。帆船の上は危険なので動きが制限されていただろうから、久しぶりの陸にはしゃいでいるようだ。

 ミャーミャーと聞こえてきた、猫獣人のミューを想い出す……焼き肉屋の経営は順調だろうか? 兄弟姉妹でお母さんを助けて営業していたが、ワニを捕獲する際に誰も怪我をしていなければいいんだけど。

「アルフレッドにゃ! 会えてよかったにゃ!」

 ミャーミャー言いながら成人女性の猫獣人が走り寄って来た。俺を知っているようだが該当する猫獣人を思い出せない。ミューに似ているがお母さんではない、お姉さんだろうか?

 俺が曖昧な態度だからか、猫獣人の女性は悲し気な表情に変わってしまった。

 誰だっけな? 必死に名前を想い出そうとするがミュー以外は思い出せそうにない。

「ミューのお姉さん?」

 猫獣人の目がキラッと輝き、ニカッと満面の笑みに変わった。メチャクチャ嬉しそうにしている。

「ミューだにゃ!」

「えっ! 別れて一年しか経ってない……美人さんになったね!」

 ミューが言うには獣人の多くは凄い成長スピードで育つ、猫獣人の子供の期間は約一年だと聞いて驚いたよ。ところでお母さんに挨拶したいんだけど、どこにいるのかな?

「誰を捜しているにゃ!」

 ミューが少し不機嫌そうに言う。目の前に自分がいるのに他の誰かを捜しているのが気にくわないとでも言いたげだ。

「お母さんは一緒に来ていないの?」

「母ちゃんは父ちゃんの所に行ったにゃ! だから一緒には来れないにゃ!」

 病気や事故ではなく猫獣人の寿命だと、あっけらかんとしてミューが教えてくれた。猫獣人の寿命だが通常は二十年ほどで旅立ってしまうようだ。

 成長速度が早過ぎるのも考えものだな、老化するのもそれだけ早くなるみたいだからな。だが、猫獣人には当たり前のことなので悲しくないらしい。

 母親が旅立ったタイミングで移民の話を耳にし、猫獣人の行ったことのない大陸に渡ってみたいと思ったそうだ。

 当初はエグザイルエルフだけで移民する計画だったが、どんどんと獣人が増え、精霊までも移住したいと森のエルフを介して申し立てていた。そのためエグザイルエルフの所有する三分の二に当たる十隻もの帆船を投入することになったそうだ。

 精霊と森のエルフの要望となると受けざるを得なかったみたいだね。

 しかし、ミューはどうやって暮らすか計画は立てていたのだろうか? 川にワニは生息していないことを伝えると、「それは困ったにゃ!」と、頭を掻きながら真顔で悩んでいる。ワニ肉の焼肉屋か、なんてわかりやすいんだ。

 猫獣人は特に考えることが苦手な種族なのだとミルトが教えてくれた。

 邪神教に魔物にされていた獣人を救ったが、あの時の全員と再会した。俺に恩を返すために村を捨ててきたと言われると、受け入れることしかできなかったよ。

 無計画なのはミューだけではなさそうなので、獣人達に農業法人で働く気はあるか訊いたら、跳びあがって喜んでいる。「行けばなんとかなると俺が言った通りだろ」と聞こえたぞ、考えるのが苦手なのは猫獣人だけではなかった。

 精霊が弱っているため、神聖力を分け与えてやると少しずつ元気を取り戻してきた。意思疎通ができるまで回復するにはもう少し時間がかかりそうだ。

 こんなに弱るなんて、下級精霊ほどの力しか見えない。フラトゥスを撃退するために力を消耗したんだろう、もう少し航海が長引けば消滅していてもおかしくない。

 魔力の多い迷宮に案内した方が回復も早そうだ。ついでに火山の元拠点にドワーフを案内して移住検討もしてもらおう。

 一週間が経過し、ドワーフが火山の邪神教の元拠点に引っ越した。引っ越しは獣人達が手伝っていたな。鉄鉱石が採取できることが決め手になったようで、「純度の高い鉄を提供するから期待していろ!」とガンツさんが嬉しそうにしていた。

 迷宮に案内した精霊は意思疎通ができるまでに回復した。フラトゥスとの戦闘について教えてほしいとお願いしたんだけど、なぜか途中の島の話を始めたんだ。

 その島の精霊は地下に住み着いたやつらのせいで弱っていた。追い出すために協力してほしいとお願いされたが、長い航海で弱っており協力できなかったと悔しそうに言うんだ。

 地震で飲み水が海水になった島で精霊にお願いしたことがあったなと思い出していたら、まさにその島の話だから助けてやってほしいと言い出したんだよ。

 きっと邪神教の拠点の引っ越し先じゃないかな、聖剣エクスカリバーも手に入ったことだし行くしかないよね。レックスは飛べないから領地の警備を担当してもらい、ベスとチビ、ベビには一緒に行ってもらおう。ベルは子育てが忙しいからお留守番だね、サーシャやアルテミシア様と遊んでくれるようにお願いしておこう。
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