異世界に転生したけどトラブル体質なので心配です

小鳥遊 ソラ(著者名:小鳥遊渉)

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373.理不尽な強さ(不利な消耗戦)✔

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 賢者の記憶というか人格が侵食しているように感じていたが、いつの間にかひとりの人格に融合されていたよ。融合されてみれば違和感は感じないかな、だけど、元のアルフレッドなのかと問われると、正直なところ俺にも判断ができない。だけど、口調はアルフレッドに戻ったからよかったよ、年寄のような口調だと違和感があったからね。

 勇者の弱弱しい意思を頼りに飛行を続ける。見えてきた、やはり魔大陸に向かう途中で補給に立ち寄った島だ、慎重に降下する。地面に脚が付くかつかないかで、断層を元に戻してくれた土の精霊が頭の中に話しかけてきた。あの時のお礼を言っておく。

 土の精霊は、この島の地下にある邪神教の施設を見せてくれるそうだ。俺達がここに来た理由も分かっているみたいだな。

 洞窟のような場所が頭の中に映し出される。結界に阻まれて中には入れないと説明してくれた。

 この結界が張られているせいで勇者から伝わる意思も弱弱しいのかもしれないな。

 以前の俺なら間違いなく大量の魔力を流し込んで、結界の魔道具を破壊していた。だが、魔力吸収により解除できるなら、魔力を消耗しないし、逆に増やすことができる。

 結界の魔道具を鹵獲できれば、欲しがる貴族は多いから売れば大金も得ることができて、一石三鳥になるんだ。

 今の俺に結界なんて全く意味をなさないだろうし、石の城壁だとしても精霊にお願いするだけで砂粒に戻せるんじゃないかな。でも、広範囲に発動させるのは止めておこう、島を移動させてもらった時には、女神様がくれた神聖力を使い切って酷い目に遭ったからね。

 地下への入り口に案内してもらう。これは分かり難い、島の崖になった場所に隠すようにあった。海からは突き出た岩礁で隠すようになっている。こんなに都合のいい配置なんてない、調べると岩礁は土魔法で造られていたよ。この規模になると土魔法のスクロールが使われているんじゃないかな。

 崖の上からの出入りはできないようだ、階段などは見当たらない。出入りは船を使っているのかな? チビとベビにお願いして背中に乗せてもらう。ふわりと浮き上がり崖に向かう。

〈久しぶりだな!〉と、海の精霊に話しかけられた。

 この穴だが海底にまで続いており、シーサーペントが出入りしているから気を付けるようにと教えてくれた。

 この様子だとまた井戸水に海水が入り込んでいるんじゃないかな、それにシーサーペントが船を襲っていそうだ。どっちも心配になってきたな。

 入り口に結界が張られている。ベビに横付けしてもらい、両手で結界に触れる。魔力を吸い出していく、俺の体の中に貯めることもできるが、持参した魔石に移動させて充填する。そのまま移動できればと、試してみたができなかったよ。

 魔力を吸い出していると結界が歪み出し、消し去ることができた。魔力の充填量にもよるだろうけど、少し時間がかかってしまったな。あとで結界の魔道具が回収できるといいんだけど、魔力が無いから鑑定眼で探しにくいんだよね。

 シーサーペントや帆船も通過するために、大きく縦に裂けるように造られていた。

 海中のシーサーペントに注意しながら先に進む。目の前に大きな門があり、硬く閉ざされているように見える。その上、二つ目の結界まで張ってあり、簡単に入らせはしないと強い意思を感じる。流石は拠点なだけあるな、と言っても、今の俺には全く意味をなさないんだけどね。

 結界に手を触れて魔力を吸い出すこと約十分、結界は消え去った。土の精霊に門の取り付けられた壁を砂にしてもらう。対価として先程吸収した魔力を提供する。サラサラと壁が流れ出し、門が重さに耐えきれなくなった。ドシンと音を立てて地面に落ち、ゆっくりとこちらに向かって倒れてくる。

 ドーンという音と共に地響きを上げて分厚い門が倒れた。すると爆発の魔道具が飛んで来るのが視界に入った。しかし、空中で速度を失うと、クルクルと回りながら押し返され、投擲したであろう信者の元に転がった。信者は大慌てで逃げようとしているが爆発に巻き込まれ、土埃と煙が舞い上がった。

 次々に投擲される爆発の魔道具だが、全て投擲した信者の元に送り返されて爆発した。〈素晴らしいコントロールですね〉と褒めたら、風の精霊が得意げにしているのが伝わってきた。

 すると、風の精霊に嫉妬でもしたのか、土の精霊が拗ねたようだ。土の精霊も素晴らしかったと褒めてやる。なんて嬉しそうなんだろうか、笑いそうになったがなんとか耐え抜いた。

 俺はまだ力をほとんど使っていないのだが、半神とはなんと理不尽な存在なのだろうか。上位精霊を思い通りに使役することができ、思っただけでこんなに強い、こんなのに勝てるわけないよ。そんな理不尽な強さの邪神と、人間である賢者や聖女は戦っただなんて尊敬する。良く心が折れなかったな。
 
 風の精霊が砂埃と煙を吹き飛ばしてくれた。爆発の魔道具も飛んで来ないし、気配もしていない、先に進もう。

 海中から突然シーサーペントが現れた。水弾を吐き出してきたが、チビが尻尾で叩き返すと、風の刃をいくつも飛ばした。チビが強くなっている。体も大きくなっているし、風の制御のレベルが段違いに上達している。シーサーペントはなすすべなく星になってしまったよ。龍が強いと言われるのもよく分かる、まるで大人と子供の喧嘩だったよ。シーサーペントなんて相手にならない。

〈チビ、強くなっているね! それに体も一回り大きくなったようだね〉

〈強くなっているダォ! レックスおじちゃんが魔石を食べさせてくれるし、ベビと訓練してるダォ!〉

〈ベビも強くなっているノ! 次はベビが倒すノ!〉

 ベビはチビと張り合っているようだ。ふたりで競い合うのが強くなる要因のひとつなのかもしれないな。

 シーサーペントが頭を海中から出した途端にベビが星にしてしまった。まるでもぐら叩きをするかのような早さだったな。

 ベビの風の刃がいくつも飛翔し、シーサーペントの首が輪切りになってしまった。

 これだけ強い仲間がいるんだから、簡単に終わらせれるかもしれないな。

 また結界かよ! 意味がないって言っているんだが、いったいいくつ結界を張れば気が済むんだよ。すぐに魔力を吸い取り解除した。

 すると背筋がゾワッとするような負のエネルギーを感じる。そういえば、勇者の意思を全く感じることができない。

 洞窟の奥から禍々しい何かが迫ってきている。この力の塊はきっと邪神だな。勇者の意思はどこかに眠ってしまったのだろうか? 封印が解かれたのだろう、間に合わなかったようだ。

 風の精霊とチビとベビが、タイミングを合わせながら風の刃を飛ばした。しかし、硬い壁のような邪神にぶつかり霧散する。邪神はやたらと硬いようだ。

 火ならダメージを与えられるだろうか? 火の精霊にタイミングを合わせて、チビとベビと共に火の弾を射出した。しかし、巨大な火の弾は打ち返されると目の前で大爆発した。

 辺りは灼熱に包まれ、息を吸い込めば肺が焼け爛れてしまうだろう。眼球が蒸発するんじゃないかと思ったが目を開けると視界が戻ってきた。もう少しで目玉焼きになるところだったよ。

 火に耐性のあるチビとベビの体が焼けており、酷い火傷を負っていた。二人が俺を庇ったために火傷を負ったみたいだ。だから目玉焼きにならずに済んだんだな。

 火の魔法は使ってはいけない、邪神の方が上手なようだ。チビとベビに下がるように念話して結界を張った。だが邪神の放った鋭利な風の刃で、結界はあっけなく破壊された。

 邪神の放った鋭利な風の刃が飛翔する、ウインドスラッシュで撃退しているが終わりが見えない。邪神となり意識を失っているようだが、一縷の望みをかけて話しかけてみる。だが、勇者の意思は失われてしまったのか反応がない。怒りに任せたような攻撃が降りそそぐ。

 俺が結界を張ると、邪神に破壊される。これをエンドレスのように繰り返している。どうやって邪神に近づいて聖剣エクスカリバーを突き立てろと言うんだよ。隠れる柱なども何もない。

 破壊されて次の結界を張る隙間に鋭利な風の刃が飛翔してくる。チビやベビ、それに俺の体にも切り傷が段々と増えていく、癒しの魔法を行使して治療するが、鼬ごっこのようになっており傷が増えている。

〈チビ、ベビ、これ以上護り切れない、洞窟の外に出て!〉

〈〈でも……〉〉

 チビとベビは何か言いかけたが、素直に撤退してくれた。ふたりを護りながら治療まで行うのは限界だったんだ。

 半神の攻撃とはここまで苛烈なんだな。聖人の力を授けられた理由がよく分かったよ。切り飛ばされそうになる俺の手足を治療して動くか確認する。

 精霊たちも動けないようで俺の後ろ辺りで固まっている。邪神の放つ風の刃だが、精霊にもダメージを与えているようだ。精霊力を削っているようだな。

 楽勝になるかと考えていたが甘かったよ。俺の持つ精霊力を込めたウインドスラッシュさえも空中で破壊され、バラバラになって消え去った。

 土の精霊が作る防御壁も、作った先から切り飛ばされる。どちらの力が先に尽きるかの我慢比べになってきた。だが、その間にも俺の体は切られており、癒しの魔法で自己治癒し続けているんだけどね。いくら癒しの魔法が使えても、切られる痛みをなかったことにはできない。

 血が出過ぎてしまったようでめまいが起きている。このまま意識を失いでもすれば、そこでジエンドだな。神聖力もかなり減ってきたぞ、準備してきた魔石や宝玉から神聖力や魔力を補給する。めまいが改善されてきた。血が出たのもあるが神聖力の枯渇だったのかもしれないな。

 邪神の風の刃が弱まっている。流石に力が枯渇してきたんじゃないかな。背負っていた聖剣エクスカリバーを下ろして構える。百メートル先に邪神の姿が見えており、見た目は皺だらけのお爺さんだが、着ているボロボロの服は賢者の記憶に残っていた勇者の服装と同じだった。
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