異世界に転生したけどトラブル体質なので心配です

小鳥遊 ソラ(著者名:小鳥遊渉)

文字の大きさ
393 / 415
連載

372. 女神様とふたりきり(半神)✔

しおりを挟む
 俺の目の前には精霊力で造られた結界が張られている。発動させたのはこの俺だ。

 試しに発動させてみたら精霊の結界が張れてしまったんだ。勿論、結界の魔道具は発動させていないよ。

 自分で言うのもおかしいが、人間を止めそうなんだが大丈夫だろうか? アルテミシア様に説明する俺の姿が想像できないんだ……人間を止めていないと思いたい。

 ベス達神獣の使う、風の刃も発動できるようになったんだが……俺って神獣になったんだろうか? 人間だから神人になるのか? 神人は変だな、癒しの魔法が使えるから聖人が正しいな。

 空を見上げるとルナとルーナのふたつの月が並んで見えた。重なる日だったっけな? 違う気もするが目の前にはふたつの月が間違いなく並んで見えている。

 自力で精霊結界が張れるなら、試しにルナに行ってみるか!

 以前ならベスの背中に乗せてもらう必要があったが、行き方は何度か経験したお陰で頭の中にある。何事も経験しておくと役に立つものだな。宇宙空間で結界が解除されると悲惨なことになるんだが、今のところ強度も酸素の量も問題なさそうだ。

 おっと、食材を持参していない、このまま行くと女神様が拗ねてしまいそうだな。一度帰って購入してから出直すか。

〈食材なら準備してありますからそのまま来てください!〉

 俺は念話したつもりはなかったんだが、女神様に考えが伝わったのだろう、念話が届いた。食材はどうやって準備したんだろうか?

〈ベスに人化してもらい、マシュー商会で購入し運んでもらいました〉

 まただ、相手は女神様だからな、隠し事はできそうにない、完全に考えが読まれている。
 
〈そうですね、アル様の考えていることは全部わかりますよ!〉 

 やっぱり!

〈女神様、俺の体なんですが大丈夫ですかね? 人間止めたりしませんよね?〉

〈……病気はしなくなるでしょうね〉

 一瞬間があったな。それに問の答えではないんだけどな。

〈早く来て美味しい料理を作って食べさせてください! 楽しみですね!〉

 話を逸らされた、答えてはくれない、神は嘘をつけないからか? もしかして、本当に人間止めそうなんだろうか。凄く不安なんだが大丈夫ですよね?

〈……プリンが食べたいなー〉

 なんて棒読みな念話だろう……女神様は演技でも嘘は言えないんですね。

〈……ハンバーグもいいなー〉

 下手過ぎてかわいそうになってきた。これ以上聞くのは止めた方がよさそうだな。

〈そうしてもらえると助かります! 遅れてしまいましたが、聖剣エクスカリバーを手に入れてよかったですね、安心しました!〉

 いつものかわいらしい女神様の念話に戻っている。俺の考えは筒抜けになっていたよ。
 
 月ルナに到着、結界に俺の張った精霊の結界が吸い込まれるようにして通過した。

 女神様が手を振りながら出迎えてくれる。見回しても周りには神獣すらいない、女神様だけのようだ。やっぱり女神様ってボッチなんですね。

〈グサ!〉

「女神様、今、グサって言いました!」  

「私の思考が漏れていましたか!?」

 やっぱり、グサって女神様の思考だったんだな。珍しく動揺している。不謹慎ではあるが動揺する女神様がかわいい、何だこの生き物は!

〈か、かわいい?〉

 女神様が動揺しており、頬がほんのり染まったように見えた。また女神様の思考が漏れてくる。いけない、俺の考えが伝わるんだった。

 食材の保管場所に案内してもらう。賢者の小屋の横に業務用の冷凍冷蔵庫のようなものが見える。女神様の本気度が伺えるな。女神様をチラ見しようとしたら、目を逸らされてしまった。

 冷蔵室には魚に肉に卵……野菜室や冷凍庫まである。女神様ってフルーツがお好きなんですね。どこから取り寄せたんだ? マシュー商会だけじゃないよね、この種類の多さは?

 また目を逸らされた。牛乳に砂糖に小麦粉にブランデーまであるじゃないか! あれ? このラベルってハイルーン印じゃないか! まだ世の中に販売されていないはずなんだかおかしいな?

 また目を逸らされた。出所はマシューさんしか考えられない。販売していないはずだからもしかしてお供え物……だとすればフルーツは各国にある神聖教会のお供え物だったりして、いくらなんでもそれはないか!

〈ギク!〉

「女神様、今、ギクって言いました!」

「えっ! また私の思考が漏れていましたか!?」〈気を引き締めなければ〉

 女神様ダダ洩れポンコツ過ぎです。

「このフルーツって……忽然とお供え物が消えたと各国の神聖教会で大騒ぎになっているんじゃないですかね……マシューさんもブランデーが消えて驚いていそうだな」

〈ギクギク!〉

 女神様が壊れたロボットのように俺の視線から逃れようと首を振る。 

「これ以上追及しませんよ!」

「た、助かります! どうしましょう……」

 女神様がしょんぼりとしてしまった。

 元気になってもらわなければ!

 いつものようにハンバーグとステーキを作り、調味料セットを渡した。あとはプリンとふわふわパンケーキが好きでしたよね。

 フルーツがいっぱいあるのでフルーツケーキも作ろう。フルーツのカットも考えただけでスライスされてしまった。俺、人間止めたかもしれない……

 冷蔵庫があるのでデザートを冷やすのも簡単だな。

「この冷凍冷蔵庫売ってもらえないですか?」

「ダメです!」

 即答されてしまった。保存されていた食材がやたらと鮮度がよかったんだよ。絶対に普通の冷凍冷蔵庫ではないはずだ。

 女神様にプリンとフルーツケーキ、ふわふわパンケーキをワンプレートにして、ジャムを添えて提供する。飲み物はリンゴやオレンジなどを絞ったミックスジュースにした。

「プリンやフルーツがこんなにいっぱい! なんて綺麗で美味しそうなのでしょうか!」

 女神様の目がキラキラしており両手を祈るように胸の前で合わせている。ナイフとフォークでカットしながら上品に口に運ぶ女神様。

「この香りやクリームの甘さも上品で美味しいです! ジュースもいい! なんて幸せなんでしょうか!」

「お気に召したようで作った甲斐がありました! ブランデーも入れてみたんですよ」

「まぁ! この香りはブランデーだったのですね!」

 女神様とデザートトークを続けることになり、本題に入るまでかなり時間がかかったが、まだ、なんとか人間に留まっているらしい。半神である邪神を倒すために俺を半神にしようとしており、体が爆発することはないので安心してほしいと言われた。

 ただ、ひとりの人間に賢者、勇者、聖人の力を授けるのは始めてなので、半神に至った後に、元の人間に戻れるかどうかは女神様にも分からないらしい。

 ここまで軽く千年以上の年月と莫大な労力が費やされており、邪神を倒せる最初で最後のチャンスとなるそうだ。

『人間を止めるなんて悩み』なんてちっぽけなことを言っているんだ! 半神どんとこいです!
 
 すると、俺の体に女神様の神々しい光が降り注ぎ吸収されていく。この光気持ちいいですね。

 あっ、訂正します、「グワーッ!」痛いです頭が割れそうですよ。

 賢者アールス・ハインドの記憶が一気に蘇って来た。そこに勇者と聖女の想いまで含まれているようだ。背負っていた聖剣エクスカリバーを手に取り振るってみる。まるで自分の手のように自由に扱えるではないか。

「ついに至りましたね! アールス・ハインド様!」

「女神ルーナ、計画は成功したようだ、千年以上も待たせてしまったね!」

〈早く……〉

 元勇者のかすかな意識を感じ取れる。直ぐに楽にしてやるからな、もう少しだけ待っていてくれ!

〈アルテミシアお姉ちゃん……アルお兄ちゃん帰って来ないね……〉

 あれ? 突然サーシャの意識を感じれるようになったのはどういうことだ!?

 女神様からサーシャが前世の妹であることを説明され、驚きを隠せないでいる。だが、辛すぎる記憶は知らない方がいいと言われ、俺にも何が起きたのかは教えてはくれなかった。知らない方が幸せなこともあるんだ。

 女神様の気遣いに感謝しかなかったよ。だって、女神様はひとりで抱え込んでくれているんだからね。

 失敗は許されない! 全力で行こう!

〈限界……〉

 今も勇者の弱弱しい意思が訴えかけてきている。
しおりを挟む
感想 895

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。