異世界に転生したけどトラブル体質なので心配です

小鳥遊 ソラ(著者名:小鳥遊渉)

文字の大きさ
408 / 415
連載

386. 万年亀アンフィトリーテー(動く島?)✔

しおりを挟む
 ひと月ほどたったある日、突然、海に島が現れたと製塩所から緊急鳩便が届いた。

 急いで海岸に向かう……沖合数キロに幅五百メートル標高五十メートルほどの島が浮いていた。小さな島に見えるが万年亀のアンフィトリーテーだ。

 俺が近づくと今まで沈んでいた体がだんだんと海上に現れ、大きな波が陸地に向かって押し寄せる。俺は慌てて海の精霊にお願いすると波を打ち消してもらった。危ないところだった、危うく帆船と製塩所を失うことになるところだったよ。

 一キロ近くある甲羅が海上に姿を現した。これだけ頑丈な甲羅で覆われている万年亀なら、赤道付近に生息する巨大な魔物にもビクともしないんじゃないかな。

〈アンフィトリーテー! よく来てくれたね、お願いしたいことがあるんだ!〉

 甲羅の先の海面が盛り上がり、大きな頭が持ち上げられた。体の大きさに不釣り合いなつぶらな瞳で俺を見つめる。

〈いいわよ、アルフレッドは友達だし、どうせ私は暇だから、それでお願いってなーに? 難しいことはダメよ、考えるのは苦手だから〉

 ゆっくりとした口調の念話が頭の中に届いた。念話だが、精神攻撃されているのかと思えるほど頭の中に響いている。

〈南半球の人魚の生息海域に北半球の人魚を乗せて行ってくれない? お願いできる?〉

〈なーんだ、そんなことでいいの? いいわよ、どうせ暇だし寝ていれば着くから〉

 万年亀のアンフィトリーテーは俺のお願いに興味を失ったようで、持ち上げていた頭を海面に落した。するとサーフィンができそうな波がザバッと起こり、広がっていくと海岸にぶつかって消えた。

 停泊中の帆船が大きく揺れている。波けしブロックか防波堤を整備した方がいいな、気づかないときに万年亀が来たら大きな被害が出てしまいそうだ。すっかり波に意識を奪われていたな。

〈ありがとう、助かるよ! 危険な魔物が沢山生息しているらしいから、甲羅の上に檻や建物を土魔法で設置してもいい? 終わったらちゃんと撤去すると約束するからお願い!〉

 再び海上に頭を出すとのんびりとした動きで頷いた。海面に頭が触れただけで数メートルの波が陸地に押し寄せ、停泊中の帆船が大きく揺れる。

 スピードを上げて泳いだら巨大な津波が押し寄せて来るだろうな。そんな自覚はないんだろうけど、実は万年亀って危険な魔物なんじゃないか!

〈失礼なことを考えているわね! 私は魔物ではないわよ、神獣だもの!〉

〈えっ! 神獣なの?〉

 万年亀は相変わらずゆっくりとした念話を送ってくる。前鰭がゆっくりと海上に持ち上がり海面を叩いた。なんてゆっくりとした動作だろうか? これは抗議しているんだろうな、遅れて津波が押し寄せる。災害級の被害が出てもおかしくないぞ……海の精霊が津波を相殺してくれて事なきを得た。

 一夜で国を壊滅させる力を有しているんじゃないだろうか。対応を間違えると取り返しのつかないことになりそうだ。スーパー堤防とか造るべきだろうか? 

〈ごめんね、知らなかったんだ! うちにも神獣がいるし、女神様に仲良くしてもらっているんだよ〉

〈あら、女神様は言ってなかったんだ……それなら仕方ないわ!〉

 万年亀のアンフィトリーテーは時々休むように念話してきた。きっと考え事をしながら念話しているのだろう。

 俺が知らないだけで女神様の神獣は他にもいそうだよね。

〈泳ぎ難くなるのは嫌だけど、友達だから小さいのなら許してあげるわ! 必ず元に戻してくれるのよね?〉

 俺のお願いを考えてくれていたんだ。だから余計にゆっくりとしていたんだな。

〈ありがとう、あれから体の調子はどう?〉

〈治してもらったところはいいわよ……でも、後ろの鰭にまた何か絡まっているのよ、見てくれる?〉

 そう言いながらゆっくりと体を傾けて後ろの鰭を海面から覗かせた。またか、木片とロープが絡まっている。この絡まった残骸はきっと帆船のなれの果てだ。

 今更だが、大きくて狂暴な魔獣のお話だけど、万年亀がその正体なのではないだろうか。 

 頭の中でイメージを膨らませてみる。巨大な津波を巻き起こし帆船を沈める、若しくは急に現れた万年亀に回避できずに帆船が衝突する。島だと思い近づいて巻き込まれる。そして沈没した帆船のロープに万年亀の鰭が絡まる。今イメージしたようなことが、眠っている間に起こっているのではないだろうか? きっとそうだ。

 今回も人魚になれる魔道具を使用し、絡まったロープや木片を取り除いた。前回と同じように怪我した場所には癒しの魔法を行使する。

 傷の治りが格段に速くなっているな。癒しの魔法が息をするように発動できるようになっていた。

〈チビ、ベビ、今手伝える? 来れたら土を万年亀の背中に運んでほしいんだけど〉

〈待っていて直ぐに行くダォ!〉〈ベビも手伝えるノ!〉

 世界樹が順調に育ってからというもの、念話の到達距離と感度が上がっている。携帯の基地局のような役割を果たしてくれているのかもしれないな。

 便利になってきた、あとは女神様の冷凍冷蔵庫が手に入れば最高だよ!

 チビとベビに万年亀の甲羅の上に大量の土を運んでもらう。巨大なサメ除けの檻をイメージしながら土の精霊にお願いした。すると土がモコモコと蠢き、四角いプレハブ住宅へと形を変えた。さらにその周りに強固な柱が次々に出現している。

 土が足りないな、ベビとチビが何度も土を運んでくれる。働きに見合った報酬をあげないとね、やっぱりフライパンハンバーグとバケツプリンだよね。

 久しぶりにミーノータウルス迷宮に潜ってみるのもいいな。ミーノータウルス百パーセントのハンバーグとか作ってみるのもいいよね。もったいないかな? ミーノータウルスはステーキが一番美味しい食べ方だからな。考えただけで唾液が溢れ出してきた、報酬に関係なく絶対に行くぞ!

 人魚達のセーフハウスが完成した。なんか思っていた以上にかっこいいんだけど。檻が神殿の柱のようにも見えなくもない、移動する島の神殿……ラノベなんかによくあるアトランティス大陸とかの映画のセットのようだ。流石は精霊だな、いいセンスしている。

 土を運ぶのに時間がかかったが完成したぞ。終わって撤去するのが惜しくなってきたな。

 重量がありそうだけど、万年亀の負担にならないか心配になってきた。アンフィトリーテーだが作業中は熟睡しているようでピクリともしない。

 今のアンフィトリーテーはどこから見ても島にしか見えないな。ちょっと重たいのか海面から見える幅が三百メートルほどになっており、頭頂部の百メートルが人魚達のセーフハウスだ。

 万年亀がスピードを上げるととんでもない災害になることが判明した、巨大な津波を起こしてしまうんだ。だからいつもゆっくりと泳いでいたんだな。 

 サーフィンの波を人工的に起こす装置があるんだけど、もっと大規模な波を起こすと考えてもらえばイメージできるだろうか? どれくらいの高さの波になるのか興味はあるんだけど、遠く離れた陸地にまで被害が出そうなのでお願いしたりはしないよ。

 スピードを出すとあちこちに津波被害が出てしまうな。ゆっくり行って来ると一年くらいかかりそうだ。人魚なら万年亀が海に潜っても呼吸できるし、俺がいなくてもなんとかなるよね?

 本当は俺も一緒に行きたいんだけど、仕事が詰まっているから同行できないのが残念なんだよ。一年間も不在にできないからね、連絡できるように念話の魔道具を貸与しておくかな。

 そろそろ人魚達に連絡して迎えに行かなきゃね。

〈アンフィトリーテー、起きてよ! 人魚を乗せに行ってくれる?〉

 何度か呼びかけるとやっと、体が浮上を始めて頭がザバーッと海上に現れた。

〈あーよく寝た! ちょっと重たくなった? 私、何食べたんだっけ?〉

 アンフィトリーテーは寝ぼけているのか、食べたせいで重たくなったと勘違いしているみたいだ。

〈甲羅の上に人魚を乗せる箱を造ったからその重さだよ! 重たい?〉

〈うーん、私鈍感だからよくわからない〉

 アンフィトリーテーがゆっくりと進みだした。建造物が海上に出て泳ぐなら問題はないようだ。

〈別に困らないかも……えーとどこに行けばいいんだっけ?〉

 アンフィトリーテーののんびりとした念話が脳内に響く。

〈魔大陸に行く途中の人魚の島、そこで人魚を乗せたら南半球の人魚の生息する海だよ〉

〈うーん、覚えれるかなー、人魚ね、行って来るねー〉

 アンフィトリーテーは魔大陸の方へ向きを変えるとゆっくりと泳いで消えて行った。

 大丈夫かな? これは一年では無理かもしれないな。こまめに監視していないととんでもない場所を漂っていそうな気がしてきた。
しおりを挟む
感想 895

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。