異世界に転生したけどトラブル体質なので心配です

小鳥遊 ソラ(著者名:小鳥遊渉)

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209.悪意のプレゼント(ベスの献身)✔ 2024.2.22修正 文字数 前3,650後4,060増410

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 サーシャとお母様の防具が完成した。色はパープルピンクだ。ピンクスライムポーションを塗るとパープルからパープルピンクに発色するんだ。強度的にも劣化しているようには見えないし、元が魔蟻クイーンだから普通の魔蟻よりも硬くて丈夫だからね。

 完全なピンクには出来なかったけど、サーシャもお母様も喜んでくれたよ。サーシャなんて家の中で着るほどのお気に入りだ。我ながらいい仕事をしたよ。

 ブルースライムポーションも塗って実験したけど、劣化が激しくて驚いた。同じスライムでもこんなに違いがあるんだな。

 サーシャは朝から防具を着けてくれと部屋にやって来た。コスプレ文化はないんだけど、兵士やマシューさんまで防具を着ているから真似をしたいんだろうね。

 ズレて落ちないようにしっかりと装着しておいた。ヘルメットまで被っている。邪魔だと思うんだけど、サーシャが気に入っているなら好きにさせよう。そのうち飽きて着なくなるだろうからね。

 今日は第一騎士団長に調査の状況を聞きにメダリオン城に行ってくるつもりでいるんだ。 情報漏洩が疑われているから会って話した方がいいからね。暗号を使ってやり取りすることを提案しようと思っているんだ。

 第一騎士団の建物に飛んで来たが訓練場の騎士の姿が見えない。普段なら剣の訓練や走り込みの姿が見れるんだけどな。ノンアポで訪問したのがよくなかった。第一騎士団は、騎士団長までも調査に出ているそうで、留守番の騎士が数人いるだけだった。予定通りならすぐには帰って来ないと言われたんだ。

 邪神教の拠点らしい場所を見つけ、出入りの者たちの動きを見張っているそうだ。人を代わりながら尾行を行うために騎士団員が出払っていると教えてもらった。

 調査の陣中見舞いではないが、オークの味噌汁を大量に作り、応対してくれた団員にみんなで食べてくださいと言っておいた。俺が作った自家製の味噌を使っているから、美味しいと言ってもらう自信があるんだ。残っていた騎士が匂いに待ち切れなくなったのか、早速食べて美味しいと喜んでくれたよ。

 ツキがないのだろう、国王陛下も会議中で二時間はかかると言われたんだ。キャスペル殿下は第一騎士団と一緒に調査に出ているし、王妃様とアルテミシア様は王都にある公爵の別邸で開かれるお茶会に出かけているそうだ。ノンアポだとこんなこともあるんだな。

 誰にも会わずに帰ることになるなんて流石に思っていなかったよ。そのまま、二階のテラスから飛び立った。

 屋敷に帰って二階のテラスに降りると、ウイングスーツから動きやすい服に着替え一階に向かう。

 階段を下り始めたところ、サーシャが両手で大事そうに綺麗な箱を持ち玄関から入って来た。まだ、防具を着たままだなんてよほど気に行ったんだな。

「サーシャ、何を持っているんだい?」

「お庭で知らないおじさんから、ママにプレゼントを渡してほしいってもらったの」

「お庭に知らないおじさんだって!? 許可なく入れないでしょ? 怪しいな、その箱を僕に渡して!」

《アルフレッド様! その箱から離れて‼》

 サーシャから箱を受け取ろうと手を伸ばしているところに、念話と共にベスがものすごいスピードで箱に体当たりした。

 箱はサーシャの手から離れて空中で『ドーン‼』と轟音をあげて爆発した。窓ガラスは割れ辺りには色々な物が舞い散り酷い有様だ。鼓膜がキーーーンと鳴っており軽いめまいもする。

 サーシャとベスはどうなった? 埃と煙のせいで姿が確認出来ない。

「サーシャ! ベス!」

《アルフレッド様! サーシャ様ハご無事です!》 

窓ハ格子ごと壊れており爆発の凄さを物語っていた。割れた窓から風が入り爆発で舞い上がっていた埃と煙が流され視界がハッキリとしてきた。

 ベスの横腹の辺りの白い毛が赤く血に染まっている。ベスはサーシャに被さるようにして爆発から守ってくれていた。直ぐにベスの体に異物が刺さっていないか確認した。いくつか破片を取り除くと癒しの魔法を行使して出血を止めた。流石は神獣だな、爆発の大きさにしては怪我が軽い。応急処置はこれでいい。

 サーシャは大丈夫だろうか? ベスが体で護ってくれたおかげで見たところ小さな傷以外には見えない。よく見ると防具に無数の傷がついていた。着ていて本当に助かったよ。もし、防具を着けていなければもっと怪我をしていてもおかしくなかった。ヘルメットのお陰で、頭も耳も守られていたみたいだな。脳震盪を起こしているようで意識がないが、呼吸はしているし、瞼もピクリと動いた。

 ベスの身体は毛もあるし神獣だからか丈夫に出来ているようだ。ベスが覆いかぶさってくれたおかげでサーシャに怪我はないようでホッとした。あらん限りの魔力を絞り出すように癒しの魔法を行使し続ける。

「サーシャ大丈夫?」

 呼びかけ続けているが反応がない。

「今の轟音はなんだ!」「キャー!」

 お父様とお母様が慌てて玄関にやって来た。部屋の惨状を見て悲痛な表情をしている。

 お母様が相かなりのショックを受けているようだ。お父様がふらついたお母様を抱き止めた。

「しっかりしろ、癒しの聖女とまで言われたお前がそんなことでどうする。早く、癒しの魔法を掛けてやれ!」

「ごめんなさい。すぐに癒しの魔法を行使します!」

 お父様の言葉で我に返られたみたいで、サーシャに癒しの魔法を発動させる。

「サーシャは知らないおじさんに箱を貰ったと言ってました。まだ、そんなに遠くには逃げていないでしょう。直ぐに追いかけてください!」

 俺は言いながらベスに癒しの魔法を掛け続ける。

「分かった。直ぐに手分けして追わせる!」

 お父様はそう言って慌てて出て行った。
 
 お母様の手から淡い光がサーシャに降り注ぎ、吸収されていく。

「お母様、交代で癒しの魔法をかけましょう。今度は僕がサーシャに癒しの魔法をかけます。お母様はベスに癒しの魔法をお願いします」

 お母様がベスに癒しの魔法を発動し、淡い光がベスの体に吸収されている。

 サーシャに癒しの魔法を掛け続けていると、サーシャの瞼がピクピクしてから目を開けた。

「ウワーーーン!」

 サーシャが泣き出した。どこか痛いかもしれない、爆発にも驚いただろう。

 サーシャに癒しの魔法を掛け続けていると、落ち着いたのかサーシャが泣き止んだ。泣きつかれたのかもしれないな。意識が戻ってよかった。

「お母様、サーシャとベスを替わって癒しの魔法をお願いします!」

「分かりました……」

 サーシャの意識が戻ってからもお母様の表情は暗いままだ。犯人を見つけ出してサーシャとベスの報仕返しをしてやりたい。

《ベス、どこか痛い?》

 ベスの横腹の辺りを触診する。

《アルフレッド様もう少し優しく触って貰えないですか? そこはものすごく痛いです》

 骨折か? 内臓をやられていないか心配だ。

《自分で骨が折れているか、内臓がやられたとか分かる? 特に痛いところはないか? 癒しの魔法を重点的にかけてやるぞ!》

《ありがとうございます。あちこち痛いですが私は大丈夫です。それよりも犯人を早く捕まえてください! また同じことをやられると次も守れるか自信がないです》

 ベスは辛そうにしながらも、自分より犯人を捕まえることを優先するように言ってきた。

《ベス、ありがとう。お前のおかげでサーシャやお母様が死なずに済んだ!》

 ベスは倒れたままで痛そうにしている。頭をやさしく撫でてやると、誇らしげに微笑んだように見えた。

 魔力切れになってもいいと思いながら、ありったけの魔力を癒しの魔法に込め、サーシャとベスに行使した。俺の両掌から今まで見たこともないほどの輝くような光が溢れ出すと、サーシャとベスに吸い込まれて行った。

 お母様は光を見て驚いていたが、魔力切れを起こしたのか
 お母様がその光を見て驚かれるも、俺と同じことを思われたようで癒しの魔法を行使され、そして倒れた。

 俺は慌ててお母様を抱き起こすが青白い顔になり調子が悪そうだ。この症状は魔力枯渇だろう。

「お母様、もういいです。お母様が死んでしまったらサーシャが悲しみます」 

「そ、そうですね。分かりました」

 お母様はそれでも癒しの魔法を行使しようとしていたが、強制的に止めさせた。お母様とサーシャをベッドに寝かせて、世話は侍女にお願いしておいた。

 ベスはよろつきながらも自力で、サーシャのベッドの下に移動し、寝転がると目を瞑った。

「少しそのまま動かないでくださいね。魔力ポーションを持ってきます」

「できるだけ早く帰って来て私一人では不安なので」

「任せてください。そんなに時間は取らせません」

 現在のお母様の魔力量は非常に危険な状態であると、魔力鑑定眼が教えてくれている。 お母様に魔力ポーションを無理やり飲ませた。魔力欠乏により体の自由が利かなくなっているため、されるがままな状態だ。

 だが、ヘロヘロな状態なのに最後までサーシャにポーションを使おうと抵抗されたんだ。母性本能恐るべし。

 なんと、お母様はサーシャに魔力ポーションを飲ませてようとされる。俺は慌てて取り上げ、無理やりお母様の口に流し入れる。

 一時間近く癒しの魔法をかけつづけていると、サーシャは体を起こせるようになった。ベスもふらつきが収まって来たみたいだな。

 お母様を魔力鑑定眼で見ると魔力が少しずつ増加していることが分かる。カイル兄さんにお母様とサーシャの状況を説明し、お母様の監視をお願いした。癒しの魔法を使わせないようにお願いするとかなり驚かれたが、一緒にいてもらえる事になった。他にお母様の事を任せられる適任者が思いつかなかったからだ。

 サーシャが爆発のショックで上手くしゃべれないみたいで、一時的な症状だろうとお母様が言われる。

 神聖教会に癒しの魔法をお願いすることをお母様に伝えたが、俺以上の癒しの魔法が使える者は今の神聖教会にはいないだろうと言われた。ガルトレイクお爺様が神聖教会について調査を行っていたのだと聞かされた。

 俺の家族に手を出したらどうなるか、邪神教にはおもいしらせてやらなければならない。ふつふつと怒りが沸き上がり、何かがプツリと音を立てて切れた気がした。
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