サーシャ・ハイルーンの日常(異世界に転生したけどトラブル体質なので心配です)

小鳥遊 ソラ(著者名:小鳥遊渉)

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SS12今日のサーシャ10(ハイルーンのお店巡り)✔

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 魔法師学校の休みに合わせ、王都に到着したのは夕刻になる少し前だった。馬車での移動は大人でも疲れが出る。慣れていないサーシャは毎回のように馬車に酔い、ソフィアの癒しの魔法のお世話になっていた。

「サーシャ大丈夫? 王都に着いたわよ!」

 ソフィアの膝の上でうつらうつらしているサーシャに優しく声を掛けた。

「……やっと着いたの!」

 サーシャが眠そうな目でソフィアの顔を見上げた。

 隊列を組んだ馬車は街中をゆっくりと進み、ガルトレイク公爵の別邸に到着した。


「サーシャ、別邸に着いたぞ! どうする? すぐに食べに行くか?」

 ガルトレイク公爵はせっかちなのか、到着したばかりだというのに食べに行くつもりのようだ。

「あなた、何を言っているのですか! 明日ですよ魔法師学校がお休みなのは! アルフレッドに到着したと連絡して下さい!」

 ガルトレイク公爵夫人は呆れている。ガルトレイク公爵はすぐに執事を呼びつけると魔法師学校へ手紙を届けさせた。

 明日になれば大好きなアルフレッドに会えると聞かされたサーシャは、お得意の早寝をすることにした。馬車の移動の体調不良もあったため時間もかからずに眠りについた。もう特技と言ってもいいのではないだろうか。

 朝九時を回った頃にアルフレッドが別邸にやって来た。

「アルフレッド・ハイルーン、手紙を貰ったので伺いました!」

「アル早かったわね、よく来ましたね!」

 ソフィアが待ち構えていたのか誰よりも早くやって来るとアルフレッドを抱きしめた。

「お母様! お久しぶりです! 元気そうでなり寄りです!」

 アルフレッドは嬉しそうにそっと抱きしめてから離れた。

「アルお兄ちゃん! サーシャ会いたかったの!」

 サーシャが駆けてくるとアルフレッドの体に飛びついた。アルフレッドは慌ててサーシャを受け止めると頭を撫でてやる。

 騒がしくなったところへガルトレイク公爵と公爵夫人もやって来た。

「アルフレッド、息災で何よりだ!」「元気そうね! 会えて嬉しいわ!」

「お爺様、お婆様ご無沙汰しております! 僕も会えて嬉しいです! 急な呼び出しですがまた何かあったのですか?」

 アルフレッドは少し心配そうに言った。

「何も心配なことは起きておらんぞ! サーシャとふわふわパンケーキを食べる約束をしたら、店が王都にあると言われての!」

 公爵夫人が簡単に経緯を説明するとアルフレッドは納得した。

「ハイルーンのスイーツ店のふわふわパンケーキだけでいいですか? それともハイルーンのお店のハンバーグやステーキも食べますか?」

 ガルトレイク公爵と公爵夫人は顔を見合わせてから両方食べたいと即答した。

 オープン時間に少し早いが、店に予約を入れるためにアルフレッドは屋敷から出て行くと、三十分もせずに帰ってきた。

「今日、両方行くという事なので量は少なめで全て作ってもらうように、お願いしておきましたから楽しみにしてください!」

 ガルトレイク公爵も公爵夫人もアルフレッドの手際の良さに感心している。ソフィアとサーシャはふわふわパンケーキを食べる話をしており待ち切れないようだ。

 見かねたアルフレッドは少し早いが向かうことに決め、みんな馬車に乗り込んだ。先ずはハイルーンの店に向かう。馬車は十分もかからずに目的地に到着、アルフレッドを先頭にみんな降車した。

 営業時間前のハイルーンのお店に到着すると、従業員が左右に分かれて整列している。執事のような服装の店員がアルフレッドの前に歩み寄って来る。

「アルフレッド様、ようこそおいでくださいました!」

「営業前に無理言っちゃってごめんね!」

 アルフレッドがフレンドリーに言うと、執事のような服装の男は左右に整列した従業員たちの間を通りVIPルームへと案内した。

 ガルトレイク公爵と公爵夫人は、このような出迎えをされたことなどなく面食らっているようだ。

 オークステーキとオークハンバーグが一枚の皿に乗せられてみんなの前に提供された。テーブルには調味料セットが置かれており、お好みでかけて食べるようになっている。アルフレッドは慣れた手つきで中濃ソースやケチャップを混ぜ合わせてみんなのお皿にかけて回った。

 ガルトレイク公爵と夫人はナイフとフォークを手にすると、絶妙な焼き加減のオークステーキにナイフを入れた。ナイフの刃がスーと肉に潜り込み抵抗を感じないまま切り分けた。

「柔らかいな! こんなに柔らかいオークステーキは初めてだ!」

「そうですね、こんなの初めてです!」

 一切れをホークで刺すとソースに絡めて口に運んだ。ふたりとも驚いたような表情をしている。

「美味いな! こんなにジューシーなオークステーキは初めてだ!」「本当、美味しいですね!」

 ふたりとも満足そうな顔をしており、手は止まらない。量が少ないためかもう少し食べたかったというような名残惜しそうな顔をしている。直ぐにハンバーグに移る。ナイフを入れると中からジュワッと肉汁が溢れ出た。

 フォークで突き刺し口に運ぶとこれも柔らかくて美味しい。ふたりとも幸せな顔をして食べている。

 ソフィアはサーシャのためにオークステーキを切り分けて口に運んでやる。

「はいサーシャ、アーンして!」

 サーシャは大きな口を開けてパクリと食べ、モグモグしてから笑顔になった。

「やわらかくて美味しいの!」

「よかったわね、サーシャ!」

 ソフィアも自分の口に運ぶとにっこりと微笑んだ!

「幸せ!」

「アルフレッド! もう少しくれんか?」

「まだあるので、他が食べれなくなると困りますから別の日にしてください!」

 ガルトレイク公爵は残念そうにしていたが、オークカツやフライドポテトを出されるとすぐに笑みがこぼれ、口に運んでは公爵夫人と感想を言い合っていた。

 一通り食べると、一行はすぐ隣のスイーツ店に向かい、VIPルームに通された。

 まず出てきたのはふわふわパンケーキ、ナイフで押すとゆっくり元の形に戻ろうとする。ナイフに力を加え切り分けると口に運んだ。ふわふわだ。蜂蜜やシロップをかけて食べるのもいい。

 次に提供されたのはハニーカステラだった。こちらもふわふわで砂糖を振りかけて食べるのもいい。

「私はもう無理! 残念ですがもうお腹がいっぱいで食べれません!」

 公爵夫人が一番にギブアップした。ガルトレイク公爵はふわふわパンケーキを追加して食べている。よほど気にいったようだ。

 サーシャとソフィアはマイペースで食べ進めている。サーシャには蜂蜜はかけないようにアルフレッドから言われていた。

「ふわふわなの!」「よかったわね、サーシャ! 念願のふわふわパンケーキが食べれて!」

「サーシャ毎日食べたいの!」「それは無理そうよ! お爺ちゃんにお願いしてみる?」

 サーシャのほっぺがぷくりと膨れたが、それでも食べ続けている。どこに入るのかというくらいサーシャは食べていた。

 アルフレッドはみんなの美味しそうに食べる姿を満足そうに見ていたがポツリとつぶやく。

「絶対食べ過ぎだよ、お腹痛くならなければいいけど!」

 帰りも従業員が左右に並んで見送りする。店の外には既にオープンを待つ長い列ができていた。

 アルフレッドが店のオーナーであることを知ったガルトレイク公爵と公爵夫人は驚くと共に、店の対応に納得していた。
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