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115.1義弟(仮)がおかしいのだが1(失意の王太子)※書籍化未収録を加筆修正しております。✔
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ハイランド子爵の兵士による見回り中のことだった。馬上に倒れ込んだままの騎士を発見したのだ。その騎士はまだ若く、右足の膝の下あたりから先が欠損しており、軍馬は速度を落としながら走っていた。
見回りの兵士は馬に寄せて手綱を掴み並走する。ただ事でないことは一目でわかった。見回りを中断し急ぎ城へと戻る。
城に連れ帰り簡単な手当てを行うと、この町にある神聖教会から聖女が呼ばれ癒しの魔法を行使する。
弱弱しい光が騎士の傷に降り注ぐも意識は戻らない。目に見える程の劇的な改善はなく、二十分も続けると聖女は大きな息をし始め、顔色は真っ青になっている。今にも倒れそうなその姿に側仕えが慌てて体を支えた。
「私の癒しの魔法ではこれ以上のことはできません!」
そう言うと、聖女は逃げるように城を後にした。これは当然のことで、これ以上行使すれば魔力枯渇を起こし命の危険がある、回復するには数日は必要になるだろう。
発見された騎士だが、この国のキャスペル王太子だったのだ。そうでなければ、神聖教会に聖女の派遣を依頼など行われることはない。
「ここはどこだ!? 助かったのか?」
キャスペル王太子が意識を取り戻し傷む体を起こそうとする。体中に痛みがあり、中でも右脚からは言い表せないような酷い痛みがしている。
この痛み……生きてはいるようだ。
運良く馬上で気絶している所を見回り中の兵士に発見され、ハイランド子爵の屋敷に運び込まれたと説明を受けた。
丸一日、目を覚まさなかったようでかなり心配された。それにしても痛みが酷い。もう少し、目を覚まさずにいればと考えてしまうほどの激痛だ。
なんと、神聖教会に聖女の派遣を依頼してくれ、癒しの魔法も行使してくれたと言うではないか……少し期待して脚を持ち上げてみた。軽いな……足首や足の感覚がない、この痛みからして状況は芳しくないのだろう。
上半身を起こし、現実を見る。分かってはいたのだが右脚の膝から下が無かった。魔法剣士……片脚では満足に戦えることはできまい。
何を考えているのだ? それどころではない、盾になってくれた護衛騎士はどうなのだ!
「誰か! 伝えなければならないことがあるのだ!」
バタバタと大勢の人がやって来た。
「狂暴な岩風竜が二匹迫ってきている。早く対処しなければならない!」
絞り出すように伝えると、数名の男が慌てて部屋を出て行った。間に合ってくれればいいのだが……しかし、あれをどうにかできるものだろうか? あの状況でフラム・バニングスは生きているのだろうか?
ズキズキと痛む足が脳にまで影響を与える。体は熱を持ち思うように動かない。血を流し過ぎたかな……意識が……キャスペルは意識を手放した。
痛みに目が覚めた、失神していたのだろう。手当の最中のようだ、上半身をなんとか起こす。巻かれていた包帯が外されており、骨が突き出ていた。血を止めるために帆の魔法で焼いたため酷い有様だ。火で焼いたために癒しの魔法が効き辛いのだろう。
体液が流れ出ているため、体力も段々と弱っている。脚を失うと半数の者は死んでしまうのだ。
岩風竜の情報は伝える事が出来た。
目標は達成した……盾になってくれた護衛騎士に報告するのもそう遠くはなさそうだ。
肌の色が青白く、血を失い過ぎたことがわかる、大怪我をして血を流した者と同じ色をしている。
上半身を起こすのも辛い、目眩も酷く体が動かない。
聖女が癒しの魔法を掛けてくれたのだが、魔力が続かないように見える。肩で息をしており顔色も悪い、無理をして癒しの魔法を掛けてくれたのだろう。
もう少し元気になれば移動できるので癒しの魔法の使い手に見せて欲しいと言われた。他に見てもらえと遠回しに言っているのだろう、傷の改善が見えないからな。
上半身を起こすのもキツイ、馬車で移動など出来そうにはない。食事は摂れているのでなんとか命を繋ぎ留めてはいるが……自分の足で立つことの叶わない王太子など、何の役に立つのだ?
魔法がそれ程上手に使えない。だからこそ、魔法騎士に憧れ、強くなるためにと周りの反対を押し切って魔法大国アスラダに行ったというのにこのざまだ。
情けなくなってきた。……負の感情に押しつぶされそうだ。アルテミシアに王位継承権を譲るか!
そう言えば、父上からの手紙にアルテミシアの婚約者候補が出来たと書いてあったな。どんなやつだろうか? 名前は……アル……そう、アルフレッドだ。生きている間に見定めてやりたいが……叶わぬやもしれん。
ドアをノックしハイランド子爵が入って来た。
「キャスペル殿下、お加減はいかがでしょうか? 王都軍とガルトレイク公爵軍もこちらに向うと連絡がありました。我が軍の岩風竜の討伐準備も着々と進んでおりますので安心してご静養ください。キャスペル殿下が命がけで伝えてくださったので、早期に対策が出来て助かりました!」
ハイランド子爵が気を使ってくれているのが痛い程分かる。
「ああ、だいぶいい。色々と世話になるな、少し休ませて貰うとしよう」
目を瞑り寝たふりをすることにした。実は痛みでまともに眠ることなどできないでいる。
疲労も痛みも限界に近い、うつらうつら程度はできるが、激痛と鈍痛で深い眠りは得ることはできていないのだ。迎えが来るのも近いかもしれんな、無事に情報は伝えたと言えば、盾になってくれた護衛騎士は許してくれるだろうか?
見回りの兵士は馬に寄せて手綱を掴み並走する。ただ事でないことは一目でわかった。見回りを中断し急ぎ城へと戻る。
城に連れ帰り簡単な手当てを行うと、この町にある神聖教会から聖女が呼ばれ癒しの魔法を行使する。
弱弱しい光が騎士の傷に降り注ぐも意識は戻らない。目に見える程の劇的な改善はなく、二十分も続けると聖女は大きな息をし始め、顔色は真っ青になっている。今にも倒れそうなその姿に側仕えが慌てて体を支えた。
「私の癒しの魔法ではこれ以上のことはできません!」
そう言うと、聖女は逃げるように城を後にした。これは当然のことで、これ以上行使すれば魔力枯渇を起こし命の危険がある、回復するには数日は必要になるだろう。
発見された騎士だが、この国のキャスペル王太子だったのだ。そうでなければ、神聖教会に聖女の派遣を依頼など行われることはない。
「ここはどこだ!? 助かったのか?」
キャスペル王太子が意識を取り戻し傷む体を起こそうとする。体中に痛みがあり、中でも右脚からは言い表せないような酷い痛みがしている。
この痛み……生きてはいるようだ。
運良く馬上で気絶している所を見回り中の兵士に発見され、ハイランド子爵の屋敷に運び込まれたと説明を受けた。
丸一日、目を覚まさなかったようでかなり心配された。それにしても痛みが酷い。もう少し、目を覚まさずにいればと考えてしまうほどの激痛だ。
なんと、神聖教会に聖女の派遣を依頼してくれ、癒しの魔法も行使してくれたと言うではないか……少し期待して脚を持ち上げてみた。軽いな……足首や足の感覚がない、この痛みからして状況は芳しくないのだろう。
上半身を起こし、現実を見る。分かってはいたのだが右脚の膝から下が無かった。魔法剣士……片脚では満足に戦えることはできまい。
何を考えているのだ? それどころではない、盾になってくれた護衛騎士はどうなのだ!
「誰か! 伝えなければならないことがあるのだ!」
バタバタと大勢の人がやって来た。
「狂暴な岩風竜が二匹迫ってきている。早く対処しなければならない!」
絞り出すように伝えると、数名の男が慌てて部屋を出て行った。間に合ってくれればいいのだが……しかし、あれをどうにかできるものだろうか? あの状況でフラム・バニングスは生きているのだろうか?
ズキズキと痛む足が脳にまで影響を与える。体は熱を持ち思うように動かない。血を流し過ぎたかな……意識が……キャスペルは意識を手放した。
痛みに目が覚めた、失神していたのだろう。手当の最中のようだ、上半身をなんとか起こす。巻かれていた包帯が外されており、骨が突き出ていた。血を止めるために帆の魔法で焼いたため酷い有様だ。火で焼いたために癒しの魔法が効き辛いのだろう。
体液が流れ出ているため、体力も段々と弱っている。脚を失うと半数の者は死んでしまうのだ。
岩風竜の情報は伝える事が出来た。
目標は達成した……盾になってくれた護衛騎士に報告するのもそう遠くはなさそうだ。
肌の色が青白く、血を失い過ぎたことがわかる、大怪我をして血を流した者と同じ色をしている。
上半身を起こすのも辛い、目眩も酷く体が動かない。
聖女が癒しの魔法を掛けてくれたのだが、魔力が続かないように見える。肩で息をしており顔色も悪い、無理をして癒しの魔法を掛けてくれたのだろう。
もう少し元気になれば移動できるので癒しの魔法の使い手に見せて欲しいと言われた。他に見てもらえと遠回しに言っているのだろう、傷の改善が見えないからな。
上半身を起こすのもキツイ、馬車で移動など出来そうにはない。食事は摂れているのでなんとか命を繋ぎ留めてはいるが……自分の足で立つことの叶わない王太子など、何の役に立つのだ?
魔法がそれ程上手に使えない。だからこそ、魔法騎士に憧れ、強くなるためにと周りの反対を押し切って魔法大国アスラダに行ったというのにこのざまだ。
情けなくなってきた。……負の感情に押しつぶされそうだ。アルテミシアに王位継承権を譲るか!
そう言えば、父上からの手紙にアルテミシアの婚約者候補が出来たと書いてあったな。どんなやつだろうか? 名前は……アル……そう、アルフレッドだ。生きている間に見定めてやりたいが……叶わぬやもしれん。
ドアをノックしハイランド子爵が入って来た。
「キャスペル殿下、お加減はいかがでしょうか? 王都軍とガルトレイク公爵軍もこちらに向うと連絡がありました。我が軍の岩風竜の討伐準備も着々と進んでおりますので安心してご静養ください。キャスペル殿下が命がけで伝えてくださったので、早期に対策が出来て助かりました!」
ハイランド子爵が気を使ってくれているのが痛い程分かる。
「ああ、だいぶいい。色々と世話になるな、少し休ませて貰うとしよう」
目を瞑り寝たふりをすることにした。実は痛みでまともに眠ることなどできないでいる。
疲労も痛みも限界に近い、うつらうつら程度はできるが、激痛と鈍痛で深い眠りは得ることはできていないのだ。迎えが来るのも近いかもしれんな、無事に情報は伝えたと言えば、盾になってくれた護衛騎士は許してくれるだろうか?
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