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荒戸井村問題
怒りの加速
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六月から井村さんがやって来たけれど、本当、井村ぁー……という人だった。
残念系だ、この人。何でもポイポイと人に仕事を頼んで来る。こちらだって決まった仕事はちゃんとあるのだ。ちょっとくらい自分でやったらどうなのだ? と先日、給湯室で見てしまったものを思い出しては内心プンスカと怒ってはいた。
「これも頼んます」
「あ、はい……」
隣の席だからと今日も雑用を頼まれる。
課長はそんな私と井村さんの姿を見てニコニコしてるらしい。
最近、そんな雑用が増え過ぎて私の方が定時で帰ることがほとんどなくなってしまったから、富塚君と駅のホームで喋ることはなく、メールや電話だってしない。
だから、この話は相楽さんから聞いた話で、お昼休みも井村さんは自分の席に居ることが多く。
とうとう私は井村さんと二人きりの昼休みを過ごすことになってしまった。
「日下さんって何歳なんですか?」
突然、そんなことを言われ、ビビる!
「え……、に、二十九歳ですけど……」
「へー、オレ、二十四なんですよ」
「はぁ……」
会話終了。良かった……またスマホを見出す私に井村さんは言う。
「じゃあ、日下さんって富塚先輩と同い年なんですね」
「え、そう、みたいです……」
というか、高校三年間同じクラスでした。
「じゃあ、日下さん、オレのこと、相楽さんが呼ぶみたいに『井村君』にしてくれませんか?」
「えっ!?」
「何かオレ、年上女性から『さん』付けで呼ばれるの好きじゃなくて、だからお願いしますよ」
そんな、仕事を頼んで来るような軽い感じで言わないで!
良いタイミングで相楽さんが戻って来てくれた。
「何、話してんの? 二人で」
「呼び方の話です。ほら、ずっと日下さん、オレのこと『井村さん』って言って来るから」
「良いじゃない。それでも」
「いやぁ、オレとしては相楽さんが呼ぶみたいな感じの方がしっくり来るっていうか」
「へー、そうなの。それじゃ、日下さんもそう呼べば? あたしもね、ちょっと前からそう呼んでるの」
「須磨さんと課長と奈雲さんもそう呼んでくれてますよ!」
「そうそう! 年配の人しか呼んでないけどね」
と笑われましても……。私はそんな二人に挟まれ、言われるがまま『井村君』とこの日から呼ぶことになってしまった。
良い感じに『井村君』と呼ぶのに慣れた頃、富塚君がチラチラとこちらを見ているのに気付いてしまった。
何だろう、今日課長外出で居ないから代わりに見てるの? それとも私達がヘマしてないか心配してなのか……何か怖い。
「あ、井村君、そこは!」
「あ、すいません。シュレッダーしちゃってました。だから、これもう一回お願いできます?」
マジかよ……。課長が居ないとすぐこれだ。たくさんある資料の紙、一緒に確認してたら数枚なくて……ゴミにするの早すぎ……。
まあ、またそのファイル開いてパソコンから印刷するだけなんだけど……。
枚数多過ぎ、本当これ使うの?
昼休みになって、そんな井村君のドジをカバーする為、弁当を食べながらやっていると隣の井村君が今日は食堂で食べよーっと気軽に出て行き、梅沢さんと相楽さんもさらっと出て行き、須磨さんと奈雲さんと荒戸さんはそれよりも早く出て行った。
ということはたぶん、富塚君が残っているはずだけど、私は集中したいから富塚君の方を見ない。
弁当も食べ終わり、ふう……としながら印刷できたかな……と立ち上がろうとしたところ、富塚君がはいっと印刷した紙を持って来てくれた。
「ありがとう……」
何か久しぶり過ぎて上手く会話が続かないというか、富塚君の方を見れない……。あの事、もう訊いてしまおうか! そんなモヤモヤでいると富塚君が言った。
「最近、井村どう?」
「え? 井村君?」
「井村……クン?」
そこに驚きますか……と思いながらも私は言う。
「いや、井村君の方からそう呼んでくださいって言われて、それで」
「そう。で、どんな感じ?」
「うーん、最初に来た時よりまあ、良いか……っていう感じ……」
「やっぱ、日下の隣にしたくなかったな……」
「でも、富塚君良かったよね! 定時で最近帰れてるでしょ? 私、何か最近残業続き……」
「更新は?」
「あ、まだ」
そこで会話が終わってしまった。
だって、荒戸さんがドアを開け、入って来たからだ。
「あ! 居たぁーっ!」
まるで学生のようにはしゃいでしまっている。ここは学校じゃないんだぞ! なんて怒りもしない富塚君はびっくりしながらも荒戸さんの方を見る。
「タバコ行きましょ? 富塚さん!」
「あ、ああ……」
付き合いタバコ……良いですよ、行ってらっしゃい。私の方なんて一度も見ずに。
私は一人になってから妙にむしゃくしゃして来てしまった。
この富塚君からもらった紙、シュレッダーにかけたい……そんな欲望まで生まれてしまった。
私、もう……限界だ。
悲しさよりも怒りの方が強く、更新されていないことを良い事に別の派遣の仕事を探すべく、血眼になってスマホの画面を見出した。
残念系だ、この人。何でもポイポイと人に仕事を頼んで来る。こちらだって決まった仕事はちゃんとあるのだ。ちょっとくらい自分でやったらどうなのだ? と先日、給湯室で見てしまったものを思い出しては内心プンスカと怒ってはいた。
「これも頼んます」
「あ、はい……」
隣の席だからと今日も雑用を頼まれる。
課長はそんな私と井村さんの姿を見てニコニコしてるらしい。
最近、そんな雑用が増え過ぎて私の方が定時で帰ることがほとんどなくなってしまったから、富塚君と駅のホームで喋ることはなく、メールや電話だってしない。
だから、この話は相楽さんから聞いた話で、お昼休みも井村さんは自分の席に居ることが多く。
とうとう私は井村さんと二人きりの昼休みを過ごすことになってしまった。
「日下さんって何歳なんですか?」
突然、そんなことを言われ、ビビる!
「え……、に、二十九歳ですけど……」
「へー、オレ、二十四なんですよ」
「はぁ……」
会話終了。良かった……またスマホを見出す私に井村さんは言う。
「じゃあ、日下さんって富塚先輩と同い年なんですね」
「え、そう、みたいです……」
というか、高校三年間同じクラスでした。
「じゃあ、日下さん、オレのこと、相楽さんが呼ぶみたいに『井村君』にしてくれませんか?」
「えっ!?」
「何かオレ、年上女性から『さん』付けで呼ばれるの好きじゃなくて、だからお願いしますよ」
そんな、仕事を頼んで来るような軽い感じで言わないで!
良いタイミングで相楽さんが戻って来てくれた。
「何、話してんの? 二人で」
「呼び方の話です。ほら、ずっと日下さん、オレのこと『井村さん』って言って来るから」
「良いじゃない。それでも」
「いやぁ、オレとしては相楽さんが呼ぶみたいな感じの方がしっくり来るっていうか」
「へー、そうなの。それじゃ、日下さんもそう呼べば? あたしもね、ちょっと前からそう呼んでるの」
「須磨さんと課長と奈雲さんもそう呼んでくれてますよ!」
「そうそう! 年配の人しか呼んでないけどね」
と笑われましても……。私はそんな二人に挟まれ、言われるがまま『井村君』とこの日から呼ぶことになってしまった。
良い感じに『井村君』と呼ぶのに慣れた頃、富塚君がチラチラとこちらを見ているのに気付いてしまった。
何だろう、今日課長外出で居ないから代わりに見てるの? それとも私達がヘマしてないか心配してなのか……何か怖い。
「あ、井村君、そこは!」
「あ、すいません。シュレッダーしちゃってました。だから、これもう一回お願いできます?」
マジかよ……。課長が居ないとすぐこれだ。たくさんある資料の紙、一緒に確認してたら数枚なくて……ゴミにするの早すぎ……。
まあ、またそのファイル開いてパソコンから印刷するだけなんだけど……。
枚数多過ぎ、本当これ使うの?
昼休みになって、そんな井村君のドジをカバーする為、弁当を食べながらやっていると隣の井村君が今日は食堂で食べよーっと気軽に出て行き、梅沢さんと相楽さんもさらっと出て行き、須磨さんと奈雲さんと荒戸さんはそれよりも早く出て行った。
ということはたぶん、富塚君が残っているはずだけど、私は集中したいから富塚君の方を見ない。
弁当も食べ終わり、ふう……としながら印刷できたかな……と立ち上がろうとしたところ、富塚君がはいっと印刷した紙を持って来てくれた。
「ありがとう……」
何か久しぶり過ぎて上手く会話が続かないというか、富塚君の方を見れない……。あの事、もう訊いてしまおうか! そんなモヤモヤでいると富塚君が言った。
「最近、井村どう?」
「え? 井村君?」
「井村……クン?」
そこに驚きますか……と思いながらも私は言う。
「いや、井村君の方からそう呼んでくださいって言われて、それで」
「そう。で、どんな感じ?」
「うーん、最初に来た時よりまあ、良いか……っていう感じ……」
「やっぱ、日下の隣にしたくなかったな……」
「でも、富塚君良かったよね! 定時で最近帰れてるでしょ? 私、何か最近残業続き……」
「更新は?」
「あ、まだ」
そこで会話が終わってしまった。
だって、荒戸さんがドアを開け、入って来たからだ。
「あ! 居たぁーっ!」
まるで学生のようにはしゃいでしまっている。ここは学校じゃないんだぞ! なんて怒りもしない富塚君はびっくりしながらも荒戸さんの方を見る。
「タバコ行きましょ? 富塚さん!」
「あ、ああ……」
付き合いタバコ……良いですよ、行ってらっしゃい。私の方なんて一度も見ずに。
私は一人になってから妙にむしゃくしゃして来てしまった。
この富塚君からもらった紙、シュレッダーにかけたい……そんな欲望まで生まれてしまった。
私、もう……限界だ。
悲しさよりも怒りの方が強く、更新されていないことを良い事に別の派遣の仕事を探すべく、血眼になってスマホの画面を見出した。
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