仕事帰り休みの日=もっと仲良くなる時間

泡田日

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荒戸井村問題

呼び出された駐車場で

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 今日もチラチラと富塚君に見られてはいたけれど、喋る機会がないまま、仕事から帰って来て、ご飯食べないでその『ディア』とかいうゲームをやろうとしていた。
 はあ……、もう六月も残り半分になるのに……来ないなんて……。
 もう終わりだ……。
 あきらめかけた心だったけど、一応、マナーモードではなくして『ヒマ』になってやろうとしたら、突然のスマホの電話の音。
 うそ! 来ちゃった! スタートラバイエって、困るわー!
 この状況で! 何て言えば良いのやら……。
 心、落ち着かせられないまま、私は電話に出る。
「はい、日下です……」
 ああ、電話が終わってしまった。そして、私は更新……してしまった……。
 新しい契約書、早急に送付するのでサインしてこちらに送り返して下さいって……。
 がっくりとなる。これは人に言えば、良かったじゃん! 的なことなんだろうけど、今の状況では……しんどいだけだ。他に良い仕事があったら辞めていた。もしくは本当に嫌なら辞めていた。どちらにしても富塚君の存在が大きいのは確かだ。彼が居なかったら頑張れない。
「ふつつかフラストレーションだーっ!」
 と自分の部屋で叫んでみたら、下の階に居たらしい母親にうるさい! 黙れ! と言われた。ひどい言葉……。
 そう富塚君はひどい言葉も言う……。あの荒戸さんに、私に聞かせてくれない声色で『だーめっ』って! ちょっと! 荒戸さんが憎い! 私にも言ってほしいとかそういうことでもなくて、ただ羨ましい……。そんな所に落ち着いて、私は報告する。
 更新しました……とだけメールで富塚君に送ってみた。けど、彼からは何も返事がなかった。当たり前のことだったのか、それともやっぱりあの荒戸さん相手に頑張っているから、お前の事なんて知るかよ! 的なやつで……と考えてみると悲しくなる。
 やり切れない、ああ、これが放っておかれるということで、自然消滅というものの原因になるやつか……と思っているとメールが来た。
 相楽さんから……、ガックリして内容を読むと明日の事で、井村君からの伝言です。自分、明日休みなんで頼んます! という情けないやつだった。いや、持って帰ってやれよ! 仕事!! 正社員なんだから出来るだろう! なんか怒りが湧いて来た。
 もう見ない! とスマホを放り投げることもできず、静かにベッドの上に置いて、私はお風呂に入ることにした。そんなお風呂から出ても富塚君は返事をくれなかった。
 こりゃ、本当に荒戸さん一筋になられたか……身を引く覚悟で明日の仕事の準備をして寝て起きて、会社に行ったら、朝礼直後、課長に呼び出され、派遣でもイベント参加して良いみたいだから、今度のイベント、日下さんも悪いけど参加して、休日出勤大丈夫でしょ? と言われ、ああ、これが更新した人の末路……と思いながら、当日の詳細をさらっと富塚君から聞く事になった。
 そうか……富塚君がこのイベントの責任者で井村君と梅沢さんも一緒なのか……底辺な私は何をすれば良いのか富塚君が普通にお仕事モードで厳しく教えてくれる。
 う、はい、分かりました……と言うのが限界で、本当に大丈夫かぁ? というような目で富塚君に見られ、お昼……富塚君に会社裏の近くにある閉店したまま放置されている酒屋の駐車場に呼び出された。
 誰も近寄らない所じゃん……、早く帰りたい……。
 あの奥に一人で居るの富塚君? こんな所じゃ誰にも見られない……はず……。
 そんな場所に歩いて行くと富塚君の方から話し掛けて来た。
「お昼は食べた?」
「食べました。あの、何でしょうか?」
 真面目に訊く。何か怖い……。
「いや、その、荒戸さんが隣に居たからああいう感じになっちゃったけど、本当大丈夫? 日下って、人とか苦手なタイプじゃん?」
 いや、こんな所でそんな心配? 人、来なさそうだからここにしたの?
「まあ、大丈夫です。アンケート用紙もらうだけの役目なんで」
 富塚君を見ることができない。
「それとね、日下、更新したんだね。スマホ、会社に忘れちゃって返事できなかったけど、良かったよ」
「どこが! どこが良かったんですかねぇ!?」
 何か絡んでしまった。何その態度、ムカつく!
「どうした? 日下、最近変」
「いや、変じゃないですから、普通ですから!」
「ああ、あれ? 月に一度の」
「終わってますから!! 今月のはもう終わってますから!!!」
「ふーん、そうなんだ……じゃあ、いっぱいできるね?」
「何がだよ!」
 と当たってやった。
「まあ、そんな怒んないでよ。何かあったの?」
「何さ! 富塚君、今、タバコ吸いたいなって思ったでしょ! 分かりますよ、分かります! 富塚君のこと、もう見てるの私だけだもんね!」
「は? 俺はいつだって日下を見てますけど? 井村、そこ代われ! って、毎回見る度に念じてますけど?」
「あら、ヤダ! キモイ!」
「何なの? さっきから……、俺が何かしたの?」
「したっ!!」
 う、アラサーともなって、年下の女の子に何をうだうだ言う風になってるんだ……。冷静になれ、冷静に……でも、怒りが!
「富塚君、荒戸さんに話す口調が、その……甘々過ぎて、引く」
「ハ? 何その、甘々って、彼女には課長が付いてるから、ああなるだけで別に可愛いから優しい口調になってるわけじゃなくて、大体、日下はそんな俺をどこで見たの?」
「先日の給湯室で。お昼休みに行ったら、電気点いてて、富塚君と荒戸さんがイチャイチャしてた……」
「ハ? 何をいちゃいちゃすんの? 彼女と。俺が……?」
「だって、ダメって言ってたもん! だーめっ! って、超甘々でしたよ? まるで子供に言うように!」
「ふん……、そうじゃない? 俺、荒戸さんには大人な対応できないもん。日下みたいに大人の対応したら、彼女逃げるでしょう。で、仕事辞めるとかってなりるでしょう? だからだよ、何か、たぶんその時、ここに会社に持って来るにはあり得ない物を持って来て、飲みたいだか、食べたいとかって言ってたから、それはダメって牽制けんせいしといたんだけど。良い感じに話してたのがいけなかったのか……」
 それ! それですよ!! 富塚さん!!! 私はその『良い感じに』やられてしまったんですよ!
「ああ、でも、彼女には効いてないよね……。最近、思ってるんだ、井村や日下みたいに厳しく出来たら、こんなにも疲れないって」
「疲れてるの? 富塚君」
「うん、疲れてるよ? 定時で帰れるのが奇跡のよう。四六時中、荒戸さん相手にデレデレ装って、仕事教えなきゃいけないんだよ? 疲れるよ、日下ならそんなデレデレも疲れないのにさ」
「え? デレデレって、どんな?」
「ん? こんな感じ?」
 うわ! 何コレ! デレじゃなくてハグじゃないですかぁ! それもこんな白昼堂々! 卑怯ですよ! 富塚さん!!
 ジタバタして逃げた。
「惜しいな、あともうちょっとだったのに」
「何が惜しいの! あともうちょっとって何?!」
「え、あともうちょっとで日下のお尻を触れる所だったなぁ……って」
「セクハラだぁ!」
「マジで思ってるんなら、警察に行こう」
「いや、行かなくて良いよ。別にそんなに気にしてない……というか、富塚君は高校の頃から変わってないね」
「何が?」
「だって、高校の頃も、彼女とどっかでやってたとかって、皆に言われてたよね? 一時期」
「何を思い出して、言ってんのか知らんけど、そういう俺が困るような事、言わないでくれる? 過去の事は消せないけど、今は違うでしょ? 今を見てほしいんだけど? さっきのはあれだ……日下が離れ過ぎてたから……」
「え?」
 何だって? と難聴系を装ってみる。
「日下と離れ過ぎてたから、触れ合いたくって」
「まあ!」
 ねえ……。私はそこそこ落ち着きを取り戻していた。あのような富塚君のずっと我慢してたんですけど……的な、何とも言えない怒ってもいない寂しがり屋さん的な表情をされたら、許してしまう……演技だったらあれだけど、そうじゃないと思ってしまった。
 だから、今日は金曜日なので、富塚君の家に久しぶりに行ってあげようか、何にも作らないけど。
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