【完結】触れたら最後

イツキカズラ

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32. 足りない

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 二週間後の金曜日。大学後、いつもと同じように葉大の家に行きソファでだらりと足を伸ばす。寄りかかっていた葉大が動いたせいでバランスが崩れてそのままソファーに倒れ込み、後ろ姿を見上げる。今日はなんだかぼんやりしていてなにかを考え込んでいるようだ。朝は普通だったのに。

「なぁに。なんか考え事か?」
「…井口だけに話してることなんかある?」

 これはまずい。思い当たることといえば例の俺彼会くらいだ。まさか井口のやつ、漏らしたんだろうか。いや、バレていたらこんな曖昧に聞いてこないはずだから、内容まではバレていない。まだ助かる。普段から素直になれないのに嬉々として惚気話なんかしてることが知られたら俺は恥ずかしさで死んでしまう。

「大したことじゃない」
「俺には言ってくんないの?」

 綺麗な目にコテン、と見つめられてたじろぐのが自分でもわかった。

「別に変な話じゃねぇし…お前だって俺に言わない話くらいのひとつやふたつあるだろ」
「久が知りたいなら全部言うよ」
「…俺は言わない。付き合ってるからってなんでもかんでも言わなきゃいけないわけじゃないだろ。ただお前向けの話じゃないだけ」
「わかった」

 思いのほかあっさり引いてくれて、ほっと胸をなでおろす。表情を見るにいつも通りだしこれ以上の追求はなさそうだ。どうにか難を逃れることができた。

「なぁ」
「んー?」

 翌日の昼下がり。昨日より元気があるのはいいが、平然とした顔で見られて悔しさとも悲しさとも言えない感情がこみあげてくる。ソファーの上、いつもこの距離でこんだけ目合っていたらちゅーのひとつでもふたつでもしてくるくせに。絶対に昨日の話が原因だ。昨日だってあれから何もしてこない。布団の中でやけにくっついてくるくせに速攻寝るから疲れているのかとも思ったが、これまでちゅーすらしてこないなんて一回もなかった。今朝は2回してきたけどお前はそんなもんじゃないだろうが。
 それ以外はいつも通りなだけに言いづらい。惚気話をしたいだけなのにどうしてこんなことになるのかと唇を噛む。

「お前…井口との話がそんなに気になんの?」
「えっ…態度に出してたつもりなかった。ごめん」
「いや、態度っつーか」

 全然触ってこないんだよお前!普段はしつこいレベルなのに急にこんなんなったらおかしいだろが

「…正直気になる、けど、無理に言わせたいわけじゃない」
「んな申しわけなさそうにすんな。…不安にさせたのは俺も悪かった」
「不安じゃないよ。俺だけが特別なのはわかってるし」
「あ、あぁ…」

 考え込むような顔と自信満々な言葉という謎の組み合わせに思わず淡白な返事が出てしまった。

「本当に言わなくていいよ。井口も口滑らしたって感じだったからちょっと気になってただけだし明日……明後日にはもう忘れてると思う、気にしないで」

 明後日まで忘れてないならちょっとじゃないだろう。もしかして忘れない限りこの感じなのか。「気にしないで」じゃない。俺が気になる。
柔らかい笑みを浮かべてふわりと耳がくすぐられる。そのまま顔が近づいて…なんてことはなく、立ち上がるような仕草に話を終わりそうなのがわかって思わず腕を掴む。このままでは平行線だ。

「…っ…別に井口だから言ったわけじゃなくて…むしろお前だからこそ言えないっつーか」 

 再びソファーに腰を下ろしてじっと次の言葉を待たれる間に心臓がバクバクしてじわりと目が熱くなる。
どうしてこんなことに、俺は…

「俺は惚気話がしたかっただけで、ただお前の話してて…や、お前とは言ってない、ただ相手がいてって話して、だから本当に変な秘密とかじゃなくって…」

 自分でも驚くほどの早口が出た。この際恥もクソもない。ガッと勢いのままに胸倉をつかんで顔を引き寄せる。

「これでもういいだろ⁉だからっ、ほら!…ンッ!」

 顎を少しあげると突然の展開であっけにとられていた顔がゆるゆると緩んでいくのがよく見える。俺の顔は発火でもしそうに熱い。ぎゅっと目を瞑る。

「やばい」

 軽く唇が触れる。口を少し開くと熱い舌が入り込んできて食べられるみたいなそれに頭がくらくらする。

「うっんっ………ふ…………はぁ…しつこい」 
「満足した?」
「まっ…んぞく…して、…なぃ」

 言い終わるのと同時にまた口をついばまれて恥も忍んでみるもんだなと思う。

「今日あんまりしてなかったもんな」
「あんまり?お前いつもちゅっちゅちゅっちゅしてくるくせにいい加減にし」
「煽り上手。風呂一緒にはいろっか」

 煽ってねーし、と言い返しそうになったが、自分の発言が暗にあんまりどころか全然足りていなかったと表現していたことに気づいて口をつぐんだ。
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