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46. クリスマスイブ
しおりを挟むクリスマスイブの夜。カシャカシャと生クリームを混ぜるのに疲れてきた。もう腕を動かしたくない。生クリームが固まるまでといわれたが、作ったことがないため、どの程度かたくすればいいのかわからない。葉大がいるキッチンまで行くと、既に切られたフルーツがボウルに盛られ、サラダを作っていた。
「なぁ葉。こんなもん?」
「いい感じ。ケーキやって冷やしてる間に飯食おっか」
「おー」
サラダを完成させ、テーブルの上にケーキ用のスポンジや生クリーム、カットしたフルーツを並べる。俺がスポンジにクリームを塗る横でパシャパシャと鳴らしながらこちらにスマホを向ける葉大に視線を向ける。
「ストップ、撮りすぎ」
「家でケーキ作ってる久とか撮らなきゃ…。記録させて」
「保護者かよ」
「彼氏だよ」
すっと近づいてきた顔をじっと見つめる。
「…まだケーキやってんだけど」
「ちょっとだけ、だめ?」
むっと少しだけとんがった唇を目を瞑って受け入れる。ちょっとなんて言って何度も重なる唇を手で押さえた。
「…また後でな」
「ふぁい」
この調子ではもっとしたくなってしまう。それはまだ早い。
なんとか完成させたケーキを前に首をひねる。ほとんど初めて作ったにしては上出来だと思うが何かが物足りない。葉大は満足そうな笑みを浮かべているが、正直俺としては普通過ぎて面白みに欠ける。
「なぁ葉。もうちょっとさ…こう、個性出したくね?」
「個性…?クリーム塗ってフルーツのっけただけだもんな。なんか足す?買いにいくか、家にあるもんになるけど」
「俺にいい考えがある」
そう告げてとっておきのそれを葉大に見せる。葉大も好きなはずだし、ココアパウダーを使うケーキもあるのだから似たようなこれもまずいはずはない。
「コーヒーと一緒に食べる?」
「いや、かけんだよ」
一瞬まるく見開かれた目がゆるりと細められる。
「他にもいろいろ持ってくる?」
「いや、変に足すと変な味になるだろ。これだけにしよう」
「りょーかい」
結果から言うと、不味かった。インスタントコーヒーのなんとも言えない舌触りと濃い苦みがぶわりと口にひろがる。ケーキの甘味では中和できなかったということだ。向かいの席で顔を抑えて苦しそうに笑い声をあげる葉大を睨みつける。
「笑うな!不味そうとか思ったならその場で言えよ」
「や、インスタントコーヒーの粉ケーキにかけるとか聞いたことなかったけど、久が真剣な顔してたからつい、いっかなって」
口角をあげてうっすらと浮かんだ涙を拭う葉大に対して自分の口がきゅっと結ばれていくのが自分でもわかった。
「ごめんごめん、でも久が考えた新しいケーキと思えば割といける」
「やめとけ。コーヒーの粉回収して普通にコーヒーとして俺が飲む」
「来年は買う?」
「いや、リベンジだろ」
ケーキに乗せたコーヒーの粉で作ったコーヒーはいつも飲んでいるものよりずっと柔らかい色をしていて甘かった。ふと、自分がまだプレゼントを渡していないことに気が付いた。いつ渡すべきかと思案する。早いうちに渡さなければタイミングを失ってしまう気がして葉が冷蔵庫に向かった隙に手元に持ってくることにした。
「葉、これ」
すっと前に出した手から葉大が紙袋を受け取る。
「クリスマスプレゼント」
「ありがとう。開けていい?」
「ん。」
丁寧に開封し始めるその様子を息を呑んで見つめる。好みは大体わかっている。それに前に見ていたものだから間違いはないはずだ。葉大が毎年誕生日には何かしらプレゼントをくれるから俺も贈り返していたが、こんなに緊張するのは初めてだった。ブレスレットを見た葉大がぱっと表情を明るくする。弾んだ声に安堵する。
「これ俺が前見てたやつ⁉えっ!覚えてくれてたってこと?めちゃくちゃ嬉しい」
プレゼントを受け取って喜ぶ姿を見て「これを選んでよかった」とこんな風に嬉しいと思ったのも初めてだった。
「久もこれ受け取って」
何かを握った右手を左手で持たされる。既にもらっているのにまさか今日もあるとは思わなかったが、こいつならやりかねないとも思う。正直俺だけいくつも貰うのは気が引ける。
「え、俺もう貰ってんだけど…」
そう言ったが、いいからと促されて差し出された何かを受け取って手を広げると、それは鍵だった。
「…え」
「いつ渡そうかとずっと思ってて、久よくバ先まで来てくれるけどここんところ寒いし、家で暖かくして待っててよ。家帰ったら久いるとか最高だし…そうじゃなくても好きな時に来て」
「まじ?」
「まじ、毎日来てもいいよ」
「さんきゅ。や………毎日は来ないけど」
受け取った鍵をしっかりと握り、でわざとらしく口を尖らせた葉大の頬をもう片方の手でつまむ。
「時間が空いてたらな」
頬をつままれたまま抑えられないというようににやけた葉大の顔が少し笑えた。
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