【完結】触れたら最後

イツキカズラ

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51. 勝負

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 ベッドに寝転がってスマホをいじっていた久がちらりと視線をこちらに向けたのを感じた。

「ん?」
「…お前がちゅーさせてくれないの?って聞いてきたの、ダメって言ってたらどうしてたん?我慢できんの?」
「…久こそダメって言っておいて自分が我慢できなくなるんじゃないの?井口との話で一日ちょっとしなかった時に久が我慢できなくなってたの忘れた?」

 ニヤニヤとしていた顔がむっと真剣になる。

「お前こそな。その時は葉大の様子がおかしかったんだからほぼノーカンだろ」
「じゃあ今からどっちが先にしたくなるか試してみる?」
「受けて立つ」
「最後に一回だけさせて」

 その言葉に久がにやりと口角をあげる。

「そんなんで大丈夫か?またすぐしたくなるんじゃねーの」

 すぐにキスをねだるような行動をするのによく人のことを煽れるもんだ。

「…やめとく?」
「……冗談だって」

 楽しげに上がっていた口角が徐々に下がり、揺れていた瞳がまた俺を見つめる。
 顔を近づけて唇を重ねる。クッと服を引かれて舌を絡ませた。

「おやすみ」
「ん、おやすみ」

 目を瞑り、久のこれまでの行動を思い出す。
 意識的にしているのかすらわからない久の行動の数々を俺は耐えられるのだろうか。
 自信なんてない。



 朝。カーテンの隙間から差し込んだわずかな陽の光で目が覚めて、久の睡眠を妨げないように慎重に体を動かす。できるだけ冷たい空気が布団に侵入しないようにベッドから出て振り返ると、緩やかに笑みを浮かべている久の寝顔がこちらを向いていた。いい夢でも見ているんだろうか。朝から良いものを見た。

 ベッドの端に腰をかけ、見つめていると今度は少し険しい顔つきになった。かと思うとすぐに表情がゆるんでいつも通りの顔になる。今日の夢は変化が激しいらしい。
 そっと頬を撫でていた人差し指の背をするりと口元へ滑らせ、薄い唇をむにむにと動かしてみる。

 無防備なままの唇を見ていると、昨日の夜「先にキスしたくなるのはどっちか」なんて話をしたことを思い出す。
 正直、許されるならいつだって何度だってキスしていたいし、したくなった時点で負けというなら既に勝負はついている。だが、時間が経つごとにそわそわし始める久も、この勝負で負けを認める久も見たい。だからなんとか耐えなくてはならない。

 …………。
 ………。
 ……。

 そもそもキスというのは、久の反応だったり恋人だけに許される特権という要素だったりが重要なのであって、ただ触れればいいという話ではない。意識のない状態でそれをしたところでむしろ虚しくなるはず。いくら久がちょっとやそっとでは起きないとしても寝ていては無意味だ。

 頭の中でその言葉を繰り返し、念仏のように唱えた。



 ーーーー



 頬を撫でる温かい手、二度、三度と唇に触れる柔らかい感触に目が覚める。瞼を開くと目の前に葉大の顔があった。俺が起きたことに気づくとすっと顔が離れる。

「……おはよう、久」
「…はよ。いや、葉大。お前いまさ」
「え?」

 平然とした態度で表情を崩さずに言葉を遮られる。そんなことをしても俺はごまかされない。

「我慢できなかったんだ?勝負にもならなかったな」

 思わず口角があがる。まさかこんな早く勝負がつくとは、可愛いやつめ。

「いや…できてる。今のは久が寝てたからノーカン。寝てる相手とキスってなんか違うだろ。まさか起きると思わなかったし…それにあたってたのが俺の唇かわからなくない?」

 一瞬考えたような素振りをして、すぐにすらすらと独自の理論を展開する。寝てたらノーカンってなんだ。そんなのルールにだったら俺が不利に決まってる。

「意味不明なこと言うな。わかるに決まってんだろ」

 俺を見つめたまま口を結んでいた葉大が口を開いた。また変な屁理屈を並べてくるのかもしれない。何を言われても対応してやろうと姿勢を正す。

「俺の負けでいいよ、何日も久に我慢されたらたまんないし」

 予想外の言葉とぐっと距離を詰めてきた葉大に驚いて目を見開く。目を閉じる前に唇が触れて、至近距離で目が合って息を呑む。どうしたらいいかわからなくて視線を横へ流して、そっと閉じた。

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