【完結】触れたら最後

イツキカズラ

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52. あけおめ

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 大晦日。あと数十分後には年が明ける。例年、年越しは家族と過ごしていたが、今年は「恋人と過ごす」と伝えて実家を空けてきた。

 家に来てからずっと葉大は俺にへばりついている。ソファに横並びで座っていたはずなのに、いつの間にか葉大のほうへと寄せられて今はうなじのあたりから呼吸音が聞こえる。

「嗅ぐなよ」
「吸ってるだけ」
「吸うな。初詣は?」
「…今日じゃなくてもいい。今は久とふたりがいい」
「ん」

 静かだ。形を確かめるように手が絡めとられているだけでこれといった会話もない。まぁ無言でいること自体は珍しくもないが何かしているわけでもなくここまで静かなのは妙だ。いつも久久うるさいのに。理由はよくわからない。俺の知らないところで何かあったのだろうか。

「葉。…葉大。なに、どうしたんだよ。なんか嫌なことでもあった?」
「逆。今年一年振り返ってて、久が俺のこと好きになってくれたのとか付き合えたのとか夢みたいだと思って全部幸せすぎて止まんなくなりそうだから黙ってた。今もこうやって久が家に来てくれて年末も年始も恋人として久のそばにいられるのめちゃくちゃ幸せ。来年の年末年始も再来年もずっといてほしい」

 予想外の穏やかな告白に自然と口角が上がってニヤける。俺のこと好きすぎるだろ。

「家族に恋人いるって言ってくれてたのも知らなかったし嬉しい。はー…久のにおいする」
「だからそれやめろっての。…家族に言ったって言っても相手が男だとかお前だとは言えてないし…」

 絡められていた手がきゅっと握られる。

「それでもじゅーぶん」

 穏やかで嬉しそうなその声音がじわりと胸を温める。いつか、そう遠くない日に葉大と付き合っていると家族に言える日が来る。そんな気がする。

「好きだよ。久」
「俺も、好き。…いつもお前にばっかさせてるからちゃんと伝わってないかもしれないけど、俺もちゃんと同じくらい葉のこと好きだから」

 繋いだ手に力が入ってしまった。顔が熱い、今、葉大が後ろにいてよかった。

「ほんと可愛いな。ちゃんと伝わってるよ」
「そ」

 俺のそっけない返事にもふっと笑う声が聞こえた。
 時計に視線をやると、いつの間にか今年が終わるまであと五分もなくなっていた。

「あと三分。今年終わるって早いな」
「本当に良いことありすぎて一瞬だった。こっち向いて久」
「なに?」

 葉大に預けていた体を起こし、振り返るとじっと熱っぽい目で見つめられる。

「今年最後のちゅーしよ」
「ぅん……っ、……ふっ」

 唇を合わせて舌を絡ませる。唇が離れて息を吸った次の瞬間スマホが鳴った。おそらく新年の挨拶の連絡だろう。

「…あけおめ」
「ん、あけおめ。今年もよろしく」
「ことよろ。多分阿川たちからの連絡だ」
「…スマホはいいから、今はこっち」

 スマホへと伸ばした手を掴まれて引き戻される。その目は俺しか見ていない。

「最初のちゅーは久がして」
「な…っんで」
「最後は俺がしたでしょ、だから今度は久からして」

 ………。
 
 無言の時間が流れる。

 ちゅーは好きだけど、されるほうがずっと好きだ。自分からするのはやっぱり恥ずかしい。

「…久?」

 拗ねるような、甘えるような声で名前を呼ばれて「あぁ、仕方ないな」なんてまた流されてしまう。

「目」

 その言葉だけですっと瞼が閉じられる。…だが、こうも待たれると余計にしにくい。あまり見たことのない表情に心臓の音が速まっていく。どう近づこうかと考えて、そろりと頬に両手を添えてみる。


 何秒たっただろうか。時間が過ぎるほど緊張が高まる。もう無理かもしれない。

「…まだ?」

 開かれた目がじっとりと俺を見つめる。心臓が痛いほどに速い。

「する、するから…」

 葉大の目が細められて頬に手が添えられる。近づく顔に期待が高まっていつものように目を瞑った。
フェイスラインに沿うように顎に二度、唇が落とされる。ただそれだけなのに肩が上下するほど呼吸が大きくなっているのが恥ずかしくてたまらない。

 どこに触れるでもなくそこにいる気配にそっと瞼をあける。今にも唇が触れそうな距離で目を閉じて俺が動くのを待っている。もう一度目を強く瞑って、唇を押し付ける。そして、すぐに離した。

 唇に柔らかな余韻が残る。いつもと同じなはずなのに何かが違う。
 ゆっくりと瞼を開くと、葉大が無言で口角を緩ませて俺を見ていた。

「上手」

 葉大の手が俺の耳をなぞる。押し付けただけなのに上手も何もあるか。まだ心臓がうるさい。俺は何も言えなくて、葉大もそれ以上何も言わない。どちらからともなく引き寄せられるようにまた唇が触れる。もう一度、もう一度と重ねるたびに肩の力が抜けるのが自分でもよくわかった。ふわふわとした幸福に包まれてずっとこの時間が続けばいいと願う。

 するりと服の中へ指が入り込んでくる。体をなぞる指の予感に期待が高まる。

「秘め始めしよ」
「ひめ…なに?」
「新年初えっち」

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