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53. まさかの遭遇
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…寒い。覚醒しつつある意識の中、まず葉大がいないことに気づく。そういえば昨日バイトだとか言っていた気がする。人手が足りないとかで年始から駆り出されているらしい。
でかけるなら起こしてくれればいいのに。バイトが仕方ないのはわかるが、熱く求められた翌朝…もとい翌昼にひとりで目覚めるのは多少の寂しさがある。
だるい体を起こし、リビングへ向かう。腰が重い。テーブルの上にメモ書きを見つけて冷蔵庫からヨーグルトを取り出して食べる。食べ終えてからソファでまた横になる。多分もうそろそろ葉大は帰ってくるだろう。掃除機でもかけといてやるか。
掃除機をかけ終え、一息ついたところで玄関のほうからドタバタと激しい音がした。思ったより早いうえになんだか騒がしい。すぐに立ち上がり速足で玄関へと向かう。
「おかえり。葉、お前さ、でかけるなら声かけ……て…」
スーツケースに手をかけたまま停止した女性と目が合って俺の動きもピタリと止まる。海外で働いているはずの葉大の母親だ。ほんの一、二秒無言で見つめあった後、葉大の母さんが気の抜けたように息を吐く。
「なーんだ!びっくりしたぁ。久くんじゃない!久しぶりねー」
「お…、お久しぶりです」
とっさに口角をあげて答える。こうして顔を合わせるのは中学の時以来だ。まさかこんなふうに会うことになるなんて微塵も思わなかった。会うこと自体考えてもいなかった。自分の心臓の音が聞こえる。中学生の時以降会っていない息子の幼馴染が息子の不在時に家にいるなんてどう考えてもおかしい。なにを、なんて言われるだろうか。
平静を装って笑う。対照的ににこやかで自然な笑みを浮かべたまま葉大の母さんが首をかしげた。
「葉大は?どっか行ってるの?」
「バイト、行ってて…。すみません、その、年越ししてそのまま泊まっちゃってて…すみません。」
下手な嘘をついてはいけない。できるだけ平静を装う。
「あらそうだったの。どおりで連絡がつかないと思ったのよ~。あの子、友達置いて行っちゃうなんて、それじゃあ帰れないじゃないのね。ごめんなさい」
「や、俺が起きるの遅かったんで…すみません。」
友達という言葉に胸がざわざわする。合鍵があるから帰ろうと思えば帰れるが、そんなこと言えるわけがない。
うまいこと誤魔化せただろうか。いや、誤魔化してよかったんだろうか。謝罪の言葉がこぼれる。まさか息子が目の前の男と付き合っているなんて思わないだろう。
「いいの謝らないで!あ、そう。悪いんだけど、荷物入れるの手伝ってもらってもいいかしら」
「あ、もちろんです」
すぐにでも「お邪魔しました!」と飛び出したいのを堪え、荷物を家の中へ運びながら考える。どこまで知っているのかわからない、下手なことを言えば墓穴を掘るに違いない。パニックになった頭を必死で回す。
もし、ここに葉大がいるとしたら…。
葉大がいたら、俺が少し頷くだけで隠すことなんて何もないって顔して俺と付き合っているのだと親にも伝えるんだろう。そう思うと、少し呼吸が楽になった。
「あー!久くんがいて助かったわ~。重かったでしょ、運ばせてごめんね」
リビングに荷物を運び終えた葉大の母さんがぐっと伸びをする。俺とは対照的に伸びやかな声だ。
「全然大丈夫です」
「にしても久くんも成長したわねー。入学式の時の写真を葉大に見せてもらったから知ってはいたけど、実際に見るとやっぱりびっくりしちゃった」
道理ですぐに俺だとわかったのか。
血のつながりを感じさせる笑顔で言葉を続ける。
「仲良くしてくれてるみたいで嬉しいわ。よくでかけてるって話も聞くし、葉大もなんだか前より楽しそうな感じがするの。大学も充実してるみたい」
「はは…こちらこそ」
「そうそう、聞いたら彼女もできたみたいなの、でもあの子詳しく教えてくれないのよ。何か知ってる?そこだけすごくぼかされるの」
やっぱり恥ずかしいのかしら、なんて嬉しそうに語られる言葉に密かに体がこわばる。きっと試されてるわけじゃない。それはわかる。心臓がうるさい。もし今、俺が嘘をつけば本当のことをもっと言いづらくなるだろう。それはきっとダメだ。
葉大の顔を思い出す。葉大の声を思い出す。
葉大なら…
「…あの、…俺………が……」
でかけるなら起こしてくれればいいのに。バイトが仕方ないのはわかるが、熱く求められた翌朝…もとい翌昼にひとりで目覚めるのは多少の寂しさがある。
だるい体を起こし、リビングへ向かう。腰が重い。テーブルの上にメモ書きを見つけて冷蔵庫からヨーグルトを取り出して食べる。食べ終えてからソファでまた横になる。多分もうそろそろ葉大は帰ってくるだろう。掃除機でもかけといてやるか。
掃除機をかけ終え、一息ついたところで玄関のほうからドタバタと激しい音がした。思ったより早いうえになんだか騒がしい。すぐに立ち上がり速足で玄関へと向かう。
「おかえり。葉、お前さ、でかけるなら声かけ……て…」
スーツケースに手をかけたまま停止した女性と目が合って俺の動きもピタリと止まる。海外で働いているはずの葉大の母親だ。ほんの一、二秒無言で見つめあった後、葉大の母さんが気の抜けたように息を吐く。
「なーんだ!びっくりしたぁ。久くんじゃない!久しぶりねー」
「お…、お久しぶりです」
とっさに口角をあげて答える。こうして顔を合わせるのは中学の時以来だ。まさかこんなふうに会うことになるなんて微塵も思わなかった。会うこと自体考えてもいなかった。自分の心臓の音が聞こえる。中学生の時以降会っていない息子の幼馴染が息子の不在時に家にいるなんてどう考えてもおかしい。なにを、なんて言われるだろうか。
平静を装って笑う。対照的ににこやかで自然な笑みを浮かべたまま葉大の母さんが首をかしげた。
「葉大は?どっか行ってるの?」
「バイト、行ってて…。すみません、その、年越ししてそのまま泊まっちゃってて…すみません。」
下手な嘘をついてはいけない。できるだけ平静を装う。
「あらそうだったの。どおりで連絡がつかないと思ったのよ~。あの子、友達置いて行っちゃうなんて、それじゃあ帰れないじゃないのね。ごめんなさい」
「や、俺が起きるの遅かったんで…すみません。」
友達という言葉に胸がざわざわする。合鍵があるから帰ろうと思えば帰れるが、そんなこと言えるわけがない。
うまいこと誤魔化せただろうか。いや、誤魔化してよかったんだろうか。謝罪の言葉がこぼれる。まさか息子が目の前の男と付き合っているなんて思わないだろう。
「いいの謝らないで!あ、そう。悪いんだけど、荷物入れるの手伝ってもらってもいいかしら」
「あ、もちろんです」
すぐにでも「お邪魔しました!」と飛び出したいのを堪え、荷物を家の中へ運びながら考える。どこまで知っているのかわからない、下手なことを言えば墓穴を掘るに違いない。パニックになった頭を必死で回す。
もし、ここに葉大がいるとしたら…。
葉大がいたら、俺が少し頷くだけで隠すことなんて何もないって顔して俺と付き合っているのだと親にも伝えるんだろう。そう思うと、少し呼吸が楽になった。
「あー!久くんがいて助かったわ~。重かったでしょ、運ばせてごめんね」
リビングに荷物を運び終えた葉大の母さんがぐっと伸びをする。俺とは対照的に伸びやかな声だ。
「全然大丈夫です」
「にしても久くんも成長したわねー。入学式の時の写真を葉大に見せてもらったから知ってはいたけど、実際に見るとやっぱりびっくりしちゃった」
道理ですぐに俺だとわかったのか。
血のつながりを感じさせる笑顔で言葉を続ける。
「仲良くしてくれてるみたいで嬉しいわ。よくでかけてるって話も聞くし、葉大もなんだか前より楽しそうな感じがするの。大学も充実してるみたい」
「はは…こちらこそ」
「そうそう、聞いたら彼女もできたみたいなの、でもあの子詳しく教えてくれないのよ。何か知ってる?そこだけすごくぼかされるの」
やっぱり恥ずかしいのかしら、なんて嬉しそうに語られる言葉に密かに体がこわばる。きっと試されてるわけじゃない。それはわかる。心臓がうるさい。もし今、俺が嘘をつけば本当のことをもっと言いづらくなるだろう。それはきっとダメだ。
葉大の顔を思い出す。葉大の声を思い出す。
葉大なら…
「…あの、…俺………が……」
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