【完結】触れたら最後

イツキカズラ

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60. ふたり分

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「久起きて。チェックアウトの時間迫ってる。ひーさ」
「…んー……もぉちょい」
「それ起きないだろ」

 ふっと笑みをこぼした葉大に強引に起こされ、椅子に座ってぼんやりと一点を見つめる。しばらく経ってから視線だけを動かして時計を確認すると10時をだいぶ過ぎていた。たしかチェックアウトは11時だからもう40分もない。流石にまずい。重い体を引きずるように動かして立ち上がる。

 なんとか荷物整理をして出たゴミを捨てようとベッド脇にあったゴミ袋を開くと、昨晩の形跡がたんまりと残っていた。

「エグ」
「それ、割と久のやつ」

 間近で聞こえた声に驚いて後ろからひょっこりと顔を覗かせた葉大のほうを振り返る。バチっと視線が交わった。

「いや本当だって。潮吹いてたから一番上のパンパンのとかんぐっ」
「嘘とか本当とか聞いてねぇから」

 手のひらで口を押さえつけ、口早に答える。明らかにニヤついている目元にイラついてそのまま両頬を思いきり掴んでやろうかと思った。視線を無視して袋にゴミを投げ入れ、例の形跡を埋めていく。袋を縛り終えた頃には葉大も自分の荷物をまとめ終えた頃だった。

「あ…帰りに葉ん家寄ってもいい?できたら一緒に土産渡してお礼したいんだけど」
「もちろん。母さんも喜ぶと思う。連絡しとくか」

 そんなやりとりから数分もたたないうちに葉大のスマホが鳴った。

「『お父さんと楽しみに待ってるわ~』だってさ」

 お父さん。というワードに体の動きが止まる。…おとうさん。お父さん。つまりそれは父親。

 完全に忘れていた。そういえば俺が遭遇したのは葉大母だけで葉大父には会っていない。この旅行も葉大父が遅れて帰国するから代わりに…という話だったのだから俺たちが帰る頃にすでに家にいてもおかしくないのだ。

 頭をフル回転させて葉大父の姿を思い出す。
 全然出てこない。そもそも見かけた回数ですら数えるほどしかない気がする。どんな人物だっただろうか。明るいタイプだった気もするし寡黙だった気もする。頑固おやじ系だったらどうしようか。

「久、平気?…母さんから話してるらしいし大丈夫だと思うけど…やめとく?」
「いや、行く。どういう人でも行くけど……一応、お前のお父さんってどういう人だったっけ」
「どういう…結構普通の人だと思うけど、どちらかというとうるさい…かな。まぁ母さんみたいなの想像してて平気だと思う」

 うるさいの意味が気になるところだが、葉大母を想像していていいならきっと大丈夫だろう。

 なにより葉大の親なんだし、きっと大丈夫。

「大丈夫」

 葉大の声に迷いはない。心地いい体温に包まれて力が抜けていく。大丈夫だ。

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