俺と部長をカップリングしないでください!

イツキカズラ

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(アッ…あぁっ…!きもちぃっ…それヤバい、です…っ)

 

 俺は思わずゴクリと喉をならし、マニュアルを見つめたまま、一切の情報が頭に入ってきていなかった。



 理由は明確。
 ずーっと喘ぎ声が頭の中に流れてくるのだ。他のことに集中なんかできるわけがない。



(これ…淵上さんだよな?) 

 その声にそっと心を澄ませる。


 極めて冷静を装い、ちらりと横目で見やるが当の淵上さんは昨日と変わらず真剣な顔で仕事をしている。


 でも、心の距離が聞こえる範囲からして間違えなくこの声は淵上さんだ。

(まともな顔してエグい妄想してる…)

(あ、ああッ…!部長…!部長の、キモチイイ!)

(部長!?!?)


 まさかの相手が判明し、俺は思わず部長の席へと振り返った。

 部長は今日も大人の気品を纏っている。仕事をしている姿も様になっているというか…

 それよりだ。

(部長!部長オカズにされてますよ!!!)

 
 念を送ってみるが届くわけもなく、その間も淵上さんの妄想は止まらない。


(ぶ、部長ぉ…!おれっ、俺、部長の視線感じてっイキます…ッ!)
(くっ…、いいぞ小野寺君!私も出す…!)



 一瞬、頭が真っ白になった。

(おっ…おおおおおおおおれおれ俺ェ!?!!!??)


 衝撃のあまり叫びそうになるのをぐっと堪えたが俺は思わず立ち上がっていた。

(俺?え、俺??えっ…??俺???小野寺…って俺ぇ??!!)


「どうしたの?小野寺君」

 淵上さんがなんてことないような顔で首をかしげる。

 その顔も信じられなくて俺は呆然と立ち尽くした。
 だが、すぐにここが会社で俺はたった今日来たばかりの新入社員だということを思い出した。

「………………すみません。なんでもないです」





 とりあえず椅子に座り直したが、頭の中がハテナマークでいっぱいのままだ。

 隣から変な子かも、なんて心の声が聞こえてきた。
 いくら混乱していてもこれだけはわかる。
 変なのは間違いなくアンタだ。

(……部長と……俺??)

 淵上さんと部長の妄想かと思いきや、まさか淵上さんによる俺と部長の妄想だなんて…、誰がそんなこと思いつくだろうか。



 というより昨日まで普通だったのに、たった一日で淵上さんの脳内で何があったというのか。

 俺は昨日、部長と少し話しただけだ。

 それなのに淵上さんの脳内では俺と部長が既にセックスに至っている。


(あ、あり得ない。意味がわからない…)

 
 自然に流れてくる妄想の声が邪魔をして何も考えられず、唖然としたまま俺はマニュアルを見つめ続ける。




 本人に聞けるわけも咎められるわけもなくその日、淵上さんの妄想は1日続いた。
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