触れる唇(短編詰め合わせ)

イツキカズラ

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邪魔(本編後半)

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 風呂からあがると、薄暗いリビングの方からテレビの音が聞こえた。久がなにか映画でも見ているんだろう。そう思って静かにリビングへと足を踏み入れる。予想通り、ソファに座り、真剣な顔で映画を見ている久がいた。静かに隣に腰を掛ける。すると久はこちらに視線を向けないまま、俺に寄りかかってきた。可愛い。かわいすぎる。こうやって自然に甘えてくる姿が愛おしくて今でも一日に何度も久と付き合えてよかったと心から思う。

 じぃっとテレビへと注がれる視線。横顔が綺麗だと思った。放り出されていた手を絡めると、きゅっと握り返してくれて、頬に唇を落とすとテレビへと向けられていた目が少しだけこちらに向いて細められた。その顔にいたずら心がわいてくる。
 
 もっと俺の方に体を寄せるように誘導してぴったりと体をくっつけたり指先でフェイスラインや頬をなぞってみたり、無言で受け入れられていたけれど2度目の触れるだけの唇へのキスをしたところでふたりの顔の間に久の手が挟まれた。
 
「……映画、みてんだけど」
「ごめん」

 大人しく顔を離す。密着したままなのは良いようでしっかりとかけられた体重の重さが心地良い。

 映画は2時間半近いものらしく、まだ1時間半は残っている。寝る前にもう少しキスしたかったけど仕方ない。そう思っていると映画の中でベッドシーンが始まった。どんな顔をしてるのか気になってさりげなく視線を横に向ける。気まずそうに伏せられた目が、キュッと結ばれた唇が扇情を煽る。

 かわいい顔しちゃって…

 顎を持ち上げてこちらを向かせると、驚いたように目や唇が開かれる。その隙を逃さず、くちゅくちゅと音を立てて舌を合わせる。

「ぅ…ん、…っ」

 唇が離れた頃にはもうとっくにベッドシーンは終わっていて、しんとした部屋で主人公の声がやけに大きく聞こえる。

「っ…お前のせいでちょっと見逃した」
「久の息遣いエロすぎて気付かなかった」
「…も、お前やだ。あっち行ってろ」

 体を離した久に怖くない顔でギロリと睨まれ、シッシと手振りで追い払われてソファを後にする。

 椅子に腰掛けてスマホを見ていると少しずつ眠くなってきた。まだしばらく久の観ている映画は終わらないだろう。声をかけて先に寝室に行くことにしよう、そう思って久の方を振り返るとパチリと目があった。

「葉。寒い」

 呟かれた言葉にニヤけそうになる。冬も明けて、今日は寒い日というわけではない。

「布団持ってくるからちょっとまってて」
「いや……そこまでじゃなくて…」
「俺が布団ほしいからそこで待ってて」

 そういうと久はほっとしたように頷いて映画へと視線を戻した。



  ー後日ー

 こないだ買ったばかりの本を手に文字の羅列を追っていく。あまり読まない分野だったけれど、読みはじめてみるとなかなか面白くて読み進める手がとまらなくなっていた。

 ギシッとソファが軋んで、石鹸の良い香りがふわりと鼻腔をくすぐる。 

 閉じようとした本のページに指を挟んで久がいたずらな笑みを浮かべる。

「本読んでていいよ、お前の邪魔したいだけ。…こないだの仕返し」

 そういってゴロンと俺の膝の上に寝転がった。本を持つ腕の間から久がこちらを見ている。

「…構うなって方が難しいんだけど」

 無言のまま得意気に笑う久に思わず唇を落とした。
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