触れる唇(短編詰め合わせ)

イツキカズラ

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⚠葉大にょた(中期)

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本編を読んでなくても読めますが、
繋がってるのでネタバレ?要素あります。
本当になんでも許せる方向けです…。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 起床後、まずスマホで時間を確認する。すぐ下に表示されていた新規メッセージの通知が目に入った。葉大だ。今日はデートの約束をしているからその話だろうか。そのメッセージ文をぼんやりと見つめた後、目をぎゅっと強く瞑って視界をはっきりさせてから読み直す。
 3時間も前に『ごめん。体調悪くて今日行けそうにない。また今度埋め合わせする』という連絡がきていた。残念ではあるが、体調が悪いなら仕方ない。

『大丈夫?気にしないでちゃんと休めよ』

 はあ、と身体から力が抜けてベッドに再び伏せた。二度寝できると思おう。そう考えて目を閉じるとすぐにスマホが震えた。仰向けに寝返って返事を確認する。

『本当ごめん、ありがとう』
 
 寝ようなんて思ったが、葉大は一人暮らしだし風邪を引いている間の食べ物はあるんだろうか。前回はインフルのせいで出禁にされたが、普通の風邪なら別に行っても追い出されはしないはず。今度こそ恋人の俺の出番に違いない。

『飲み物とか食いもんいる?必要なものあったら届けるから教えて』
『てか電話していい?電話のほうが楽じゃね』
『ありがとう。でも、必要なものはあるし久にうつしたら悪いから大丈夫。電話もできる状態じゃないごめん。よくなったらかける』

 またこれか。今回も看病させる気は全くないらしい反応にゲンナリする。電話もできないなんて吐き気が止まらないとかそういう状態なのだろうか。ますます1人にはしておけない。

『うつしていいって前も言っただろ。そんな悪いのにさらに悪化したら一人でどうすんの』
『寝てればよくなるから大丈夫』
『大丈夫かわかんないっつってんの』
『そこまで悪くないし、今日は寝てるだけだから来なくて大丈夫。ありがとう。とりあえず寝るからまた後で連絡する』

 そうやって会話を終わらせられると何も言えなくなってしまって『なんかあったらすぐ連絡しろよ』とだけ返信した。

 また寝るのも虚しくて家で映画を観ることにする。テレビ画面を見つめていてもスマホが気になってチラチラと見てしまって、好きなシリーズなのになんだかいつもより楽しめなかった。


 やっと次の連絡がきたのは昼過ぎだった。

『久なにしてる?』
『映画見終わってダラダラしてるとこ。葉大は?具合良くなった?』
『映画いいね。今度また一緒に行こう。俺は変わらずって感じ』
『おー。電話もまだできない?』
『ごめん、俺もしたいけどまだ無理そう』
『少しも?』
『ごめん』
「…なんでだよ」

 思わずため息が漏れる。別に長話をしたいわけじゃない。少し声を聞ければいいだけなのに。

 俺もしたい、とは言ってくれてもその実、葉大は弱った時に一人でいたいタイプなんだろうか?普通、家族だとか恋人だとか親しい人の声を聞いて安心したくなるもんじゃないのかと悶々とする。それでも頭を振って冷静になって打ちかけたメッセージは削除した。
 病人が無理だと言ったら無理なのだ。それが例え丸一日だとしても。
 そう納得することにした。


 翌日、葉大は大学を休んだ。体調が悪いのだから変なことじゃない。それでも今日こそ声くらい聞けると思った。ムッとした表情を管理できないまま今朝のやりとりを見返す。

『ごめん大学休む。通話は今日も無理そう。大学気をつけて行ってきて』
『わかった。喉やられてんの?』
『そう、ごめん』
『喋んなくてもいいんだけど』
『咳ヤバいから。でも俺も久の声聞きたい。ボイスメッセージちょうだい』 

「そうじゃないだろ」

 思わず呟いた。元気になれよ、とか適当に呟いて送ったけど、一方通行じゃ意味がない。「そこまで悪くないから大丈夫」というのに電話も繋げられない理由に見当はつかなかった。インフルの時だって通話は結構な頻度でしていたのに。避けられてる可能性も考えたが、メッセージ内容や頻度からしてそうとも思えなくてますますモヤモヤする。

 少し考えて、やっぱり直接葉大の家に行ってみることに決めた。一目でも姿をみて安心したい。クリスマスに貰った合鍵もある。拒否られたら最悪これで突破してやろう。葉大にはいつでも来ていいと言われているわけだし、なんて屁理屈を頭の中で捏ねる。授業の終わりとともに葉大に連絡を入れて、買い物と支度を済ませてすぐに向かった。案の定葉大からは断りの連絡が入っていたが『感染対策はしていく』と入れてその後は見ないことにした。

 家の前についてインターホンを鳴らす。コンコンと扉を叩いても出てくる様子はない。震えるスマホを左手に、合鍵を右手に持ってみたが、嫌がってる相手の家に無理やり押し入るのは気が引けてきて、合鍵はしまうことにした。取り上げられても困る。
 というか、恋人が家まで来てここまで拒否るなんてやっぱり俺は避けられてるんだろうか。いや、そりゃそうだ。声の一つも聞けないで会いに来ても会えないでどう考えても避けられてる。会いたかった気持ちが悲しい気持ちに変わってきて肩を落とす。

『俺なんかした?なんで避けんの』
『今は出られない。ごめん。久は何も悪いことしてない。本当にタイミングが悪いだけ』
『誤魔化してんなよ、なら合鍵で入っていい?出られないだけなんだろ』

 そう送るとすぐに返ってきていた返事がなくなった。葉大にこんな風にされるのは初めてで下唇を噛む。ちゃんと理由があるならまだしも嘘か本当かわからない誤魔化しばかりだ。胸の中で良くない感情が張り詰めている。

『わかった、もういい。帰るから好きなだけ籠もってろよ。荷物かけとくから勝手に食え。邪魔して悪かったな』

 既読だけは間髪を入れずにつくのが腹立たしい。見てるならなんか言え、と悪態をつきながら踵を返す。家の中からバタバタと忙しない音が聞こえて玄関扉が開いたのがわかったが、絶対に振り返ってやらないと決めていた。
 玄関から出てきたのはわかるが、予想外に声すらかけてこない。意地でも喋らないつもりかと足を速めると背後から細い腕に抱き留められた。

「ごめん久。久が邪魔なわけないだろ。勘違いさせる態度取ってごめん。俺…俺、なんか性別変わってて、久に知られたくなくて、ごめん嫌いになんないで」

 細い腕、高い声、背中に当たる柔らかい感触、うなじに寄せられた額、自分より背丈の低い人物に抱きしめられているという事実に体が固まる。

「え…は、え?…葉、大?」
「そう、傷付けてごめん。ちゃんと言えばよかった」

 腕を解いて振り返ると、確かに葉大の面影のある女性が眉を下げてこちらをみていた。

 性別が変わっただとか意味がわからないが、想像してしまった最悪の展開とも違い、嫌われて避けられたわけでもなかったのだとわかると、無意識に入っていた力が緩んでじわりと目頭が熱くなる。

「え、久、ちょ……とりあえず家入ろうか」
「…っビビらせんな馬鹿」

 恥ずかしくて袖で涙を拭う葉大の腕を掴んでやめさせたが、家の中に入るともっとボロボロ溢れてきた。

「二度と俺にテキトーな嘘吐いてくんな」
「ごめん。このまま戻らなくて別れるとか言われたらどうしようかと思って、また久の恋愛対象外になるとか考えだしたら…止まんなくて…」

 ツーっと頬を伝った一筋の涙にギョッとして俺の涙は引っ込んだ。

「だーっ!大丈夫だって、お前まで泣くなよ。確かに俺は男が好きだけど、それだけでお前と付き合ってるわけじゃないしそんなすぐ別れるとか言わないし別れないだろ」
「わかってはいるんだけど…」
「ちゃんと好きだって」
「俺も好き。…めちゃくちゃ好き」
 
 少し赤くなった目に見つめられてどう反応すればいいかわからなくて思わず視線を落とした。すぐにやらかしたと気付いて元に戻したが既に遅かった。

「じゃあ、戻ったらまた連絡するから。来てくれてありがとうな」

 ぐっと玄関扉の方へ背中を押される。このままじゃダメだと振り返ると、なんてことないって顔をした葉大と目が合って焦燥感がこみ上げる。

「ちが、…ミスった!どうしていいかわかんなかっただけ、ここにいる。映画見ようぜ、映画。一人で観てもつまんなかったからもう一回観直したい。あと飯も。一緒に食ったり普通に喋ったりできるだろ。…これも無理?俺が受け取るばっかで伝わってない?お前は、俺に愛されてる自覚ないの?」

 葉大には敵わないにしても自分なりに応えて伝えてきたつもりだったけれど、それだけじゃ足りなかったのか。そう思うと悔しくなってきた。

「ァ…ある。ちゃんと伝わってる」

 ふっと葉大の表情が緩む。

「ならいい」 
「久、抱きしめていい?」
「ん」

 腕を広げるとそっと抱きしめられたから気持ちいつもより強めに返した。いつもと違った感覚に不思議な気分になる。しばらくして葉大の頭が離れると、にまにまと笑みを浮かべているのが見えた。

「久は俺に愛されてる自覚がちゃんとあるのえらいな」
「……るさい」

 余計なことを言ってくるなと目を細めると「かわいい」だとかなんとか言われて不服に思ったが、まあいつもの調子に戻ってきたならよかった。

 昨日見たばかりの映画をもう一度観た。やっぱり一人で観た時よりもなんだか面白かった気がした。
 その後はせっかく持ってきたから、と俺がかきたまうどんを作った。葉大の嬉しそうな顔は女になっていてもやっぱり好きだと思った。
 昨日できなかったデートはいつするか話したり、男に戻る条件を探してみたり、ゲームをしたりしているうちにいつの間にか寝落ちていたらしい。葉大の動く振動で目が覚めた。幾度か瞬きを繰り返して眠い目を開いて音のする方へ顔を向けると葉大もこちらを見ていた。

「久見て、戻った」
「おー、よかった…」

 ニコニコと嬉しそうないつも通りの顔。いつも通りの声が弾んでいる。それに安堵するとまた眠気が襲ってきた。時計を見るとまだ時計は6時前を指していた。起きるにはまだ早い。 
 葉大の腕を掴んでベッドで寝直すことにした。
 
 
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