触れる唇(短編詰め合わせ)

イツキカズラ

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本編後

愛してるゲーム

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休日。ソファでうたた寝をしていると、ふいに額へと柔らかな感触が落ちてきた。

「かわいい」

 さらりと髪を撫でる手が心地いい。物音や触られている感覚はわかるものの、穏やかな空気と柔らかな日差しに包まれて、意識はゆるりと沈んでいる。

「愛してるよ」
「ん」

 目を開くと、葉大は意外そうにぱちぱちと瞬きを繰り返した。

「起きてたの」
「…若干?」
「なに、若干って」
 
 葉大がふっと笑みをこぼす。輪郭を撫でられ、今度は唇を重ねた。

「起きてるんなら愛してるゲームしようよ」
「愛してるゲーム?…って照れた方が敗けってやつ?いいよ別に」
「やった」

 自分で言うのもなんだけれど、葉大と俺、どっちの方が言われ慣れているかというと確実に俺だ。言うのもゲームなんだし恥ずかしくない。

「負けた方は?」
「1個言うこと聞くとか?」
「よし、撤回はナシな」
「うん。じゃあ俺からね。愛してるよ」

 じっと見つめあったまま真正面から言葉を受け止める、大丈夫だ。

「愛してる」

 言うのもスマートに言えた。葉大も特に表情は変わらない。

 それから何度か繰り返した。それでも、お互いに照れる様子はない。

「愛してる。…さっきから思ってたんだけど、久の口角どんどん上がってってない?」
「は?照れてない。普通の笑顔ですけど。それいったらお前だってめっちゃ笑顔になってったんだろ」

 自分の口角が滅多にないほどにニッコリと上がっていて、それを抑えることもできないから葉大の笑顔について俺も黙っていたのに、ついに言われてしまった。でも、これは断じて照れてるわけじゃない。だから負けてない。

「いや、久がニッコニコだから俺も嬉しくなってるだけだよ俺も」
「…なにそれ」
「あ、今照れた?」
「愛してるって言ったわけじゃないからノーカンだろ」
「残念。…ていうか、いっつもなんてことないって顔してるのに連続で言ったらこんなご機嫌な顔になっちゃうの?知らなかった、めちゃくちゃ可愛いんだけど」
「………ちょっ、…とタンマ。顔戻す」

 顔を隠そうと前に出した腕は呆気なく捕まり、下ろされてしまった。じっと俺を覗く目のせいで、顔に熱が集まっていく。

「顔真っ赤。ほんと愛してる」
「今タンマだって…!」
「うん。ただ本当のこと言っただけ」

 楽しそうに細められた目をからかうな、という意思を込めて睨んで返し、息を吐く。

「わかった。埒あかないから動作ありにしようぜ」
「いいよ。次は満面の笑み浮かべても負けで」
「わかってる。俺から?」
「うん」

 頷いた葉大を引き寄せ、唇を押し付けて「愛してる」と呟く。

 恥ずかしさを堪え、内心勝ちを確信しながら葉大を見上げる。しかし、予想とは裏腹になんとも余裕そうな表情だった。
 
「流石に予想してた」
「まじか」

 次の一手はどんなものがくるだろうか、と考えを巡らせる。自分が照れそうな…たまらなくなりそうな場面を考えるだけで表情に出そうになって顔を強張らせて誤魔化す。
 
 その後の何度かのやりとりも見事耐え抜き、また俺の番になった。どうしようかと少し悩んでいると、ふいにハートマークを思い付いた。

 これまでのやりとりで羞恥心が麻痺してたのだと思う。俺は躊躇することなく片手でハートの半分を作り、もう片方の手と合わせた。

「愛してる」

「……ん"ふっ」

 一瞬、間を置いて吹き出すように葉大が笑い出した。両手ハートは思いきりすぎたかもしれないと、今になって恥ずかしさが込み上げてくる。

「はい、お前の負け!」

 そう宣言しても口元をおさえて葉大は笑い続けている。

「おい、いつまで笑ってんの。そんな面白かったか」
「いや!…ふっ、手はハートなのに顔と声は真剣で、ポーズとちぐはぐで可愛くて…。もっかいやって」
「無理」
「だめかー、勝ってたら絶対もう一回やってもらってたんだけどな」

 葉大の言葉に心底勝ててよかったと思った。

「んで、久はなにを……ほっぺすごいポカポカなんだけど、なにこれ可愛い」

 伸びてきた手が熱帯びた頬をもちもちと弄ぶ。

「はぁ?なに、やめろっ」
「それは勝った命令?」
「違う」
「じゃあやめない」

 ソファに座っているせいで手から上手く逃げられずにいるうちに、ちゅ、ちゅと唇が触れては離れて、離れては触れてを繰り返す。手がようやく離されたのはそれが終わってからだった。

「勝った久のために俺は何したらいい?」
「あ~……今日の夜、鍋がいい」
「それだけ?」

 頷くと葉大は不満ありげな顔をした。

「食べたいの作るくらいじゃいつもと同じでしょ。もっとワガママ言って」

「んー…、…風呂、入る…とか」
「うん。もっと」
「夏のフェス行きたい」
「ちょうど俺も誘おうと思ってた」
「マジか、行こ」
「うん。他は?」
「一つだろ?」
「俺も誘おうとしてたからノーカン」

 当然という顔で「もっともっと」と葉大は言い続けてくる。「ワガママを言え」とワガママを突き通されることはそうそうない。だんだんと考えるのが面倒になってきた。

 そうだ、ワガママを言えと言ったのは葉大なんだし、とびきり面倒なものにしてやろうとそんな考えが浮かんでくる。

「んじゃ、今日の後のこと全部よろしく。眠いしもう動けないから全部葉に任せた。ソファから立ち上がる時もベッドいく時もぜーんぶお前のこと呼ぶからちゃんと肩貸せよ」
「わかった」

 それはああだとかこうだとか言われると思ったが葉大はすんなりと頷いた。
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