触れる唇(短編詰め合わせ)

イツキカズラ

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恋人っぽいこと(付き合いたて)

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 ※付き合いたての頃の話


「久」

 ダイニングテーブルの椅子に腰掛けてスマホをみていると、ソファーに腰掛けていた葉大がぽんぽんと隣を叩いて俺を呼んだ。

「なに?」
「恋人っぽいことしよ」

 示されたとおり隣に腰をかけると自然な流れでするりと指を絡め取られて恋人繋ぎになった。くっついた肩からじわりと体温が伝わってくるのは悪い気はしない。視線がぶつかると唇を重ねられた。

 その後も「恋人っぽいことをしたい」以上の提案がないまま葉大は嬉しそうに口元を綻ばせて俺を見つめている。俺が先に提案する感じらしい。恋人っぽいこと、といえばデートだろうか?他には…ペアのものを買う?愛称を決めるとか?それはなんだかむず痒い感じがする。他にはないかとさらに考える。なにか思いついても今はまだ口に出せそうなものが少ない。

「…デートとか」
「デート?いいなそれ。俺もしたい。行きたいところある?」
「んー…、あ。デートっていうかこないだ話してた海鮮の店は食いに行きたい」
「浜焼きのところだよな、少し距離あるしドライブしていこう」
「うん。お前は?したいこと何?」
「えーそうだな…」
「何、したいことあったから言ったんじゃねぇの」

 考えるように上を向いた葉大にそう聞くとニコニコとしたままハテナマークを浮かべてまたこちらに視線を戻した。

「え?」
「え?俺なんか言ったっけ?」
「え?恋人っぽいことしようって…」
「ああ、これのこと」

 握った手を目線の高さまであげると、満足そうな笑みを浮かべてきゅっと握り直した。

「こうさせてくれるの、付き合ってるって感じして幸せ」

 そう言って照れたように笑った。改めて言葉にされるとなんだか意識してしまってこちらまでじわりと顔が熱くなる。

「…もっと特別なことかと思った。これは思いつかなかったわ」
「思いつかなかったって?なにか考えてくれてたってこと?」
「まあ…」
「思いついたこと教えて。全部しよう」
「は…。いい、しない。しなくていい」

 先程思いついたあれやそれを考えて慌てて首を横に振る。俺が考えたのは一般的なカップルのイメージであって自分がするのは恥ずかしい。

「久と恋人っぽいことしたいんだけどな」

 ぐっと顔を近づけられて視線を反らした。まずい。この距離感で詰められると口を滑らせそうになる。

「…したいこと考えてたわけじゃない」
「本当に?」
「本当。…本当だって、でかけるだけでいい」
「わかった。デートも色んなところ行こ。でも、したくなったらちゃんと俺に教えて」
「ん」

 小さく頷いて返事をした。
 多分、俺がこの提案を口にできるのはきっともっとずっと先だろう。
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