触れる唇(短編詰め合わせ)

イツキカズラ

文字の大きさ
2 / 24

エイプリルフール (本編前の状態)

しおりを挟む
(久には恋愛的な好意が一切ない状態です。甘さとか特にないです)
 
 4月1日。
 朝から突然かかってきた阿川からの電話に出ると「大食いチャレンジをしてついさっき完食した」などというしょうもない嘘を吐かれ、見事俺は騙された。今日がエイプリルフールだということがすっかり頭から抜けていたからつい信じてしまったのだ。「んなわけねーだろ!久って騙されやすいんだな!」とゲラゲラ笑いながら種明かししてきた阿川の声を思い出すと悔しくなる。阿川が日頃からそういう意味のわからない挑戦をしていそうだから信じただけで俺は決して騙されやすいわけじゃない。
 騙し返してやろうと咄嗟に考えた「俺は旅行中なんだ。目の前にピラミッドがある」という嘘には「へー」という興味なさそうな返事をされたのがますます悔しい。反応が薄すぎて嘘だというのも屈辱的だった。
 ベッドの上でゴロゴロしながらいい感じの嘘を考える。騙すなら葉大か井口か、葉大はよく知っている分、下手な嘘はバレるだろうしそもそも察しがいい、井口は驚いた時の反応が薄くて騙しがいがない。一番反応が良くて騙しやすそうな阿川にしてやられたせいで誰かを驚かさないと気が済まない上に難易度が高い。いっそどっちも騙してやろうか。葉大にバレない、且つ井口の反応が良さそうな嘘を探す。井口は彼女の話を延々としてるからおそらく恋愛話だと食いつきがいい。でも、「恋人できた」はネタバラシ後に井口のノロケが始まりそうだし、多分葉大が「へえ」で終わる。「告白しようと思ってる」誰に?「一目惚れした、運命ってあるんだな」ダメだ。恋愛話は無理だ、やめにしよう。…もはや「カラスを飼う」にでもしようか。目的がわからなくなってきてとりあえずそれっぽい嘘で騙せればいい気がしてきた。
 

 数コール後にプツリと音が切れて井口が出た。

「あー、もしもし。井口?」
『どうした。電話とか珍しくね?』
「ん、まあ…。いや俺さ、カラスでも飼おうかと思ってんだ」
『へえ、カラスって飼えんの?でもいいよな、鳥!実は俺の彼女もオカメインコ飼っててさ、最近初めて会ったんだけど可愛いのな!』

 あぁ、ノロケは避けられなかった。
 しかも別に驚いてない。よく考えれば驚くというよりこういう反応になるのは自然だ。

「可愛いよな…。いやまあ、嘘なんだけど」
『え?は?嘘?えっどういう嘘?』
「エイプリルフールだからなんか嘘つこうと思って…。阿川から電話きてない?俺あいつに騙されたんだけど」
『うはっ、阿川に?あいつどんな嘘ついてた?』
「朝からラーメン三杯食ったって言ってた」
『うわやりそー!俺もそれ言われたら騙されるかも』
「いや、だよな。騙されやすいとか言われたけどあいつならやりかねないんだよな」
『わかるわかる。ちなみに俺も久に嘘ついてたんだけど』
「えっ」
『実はオカメインコ飼ってる彼女とかいなかったりする』
「えっ!?マジで?お前嘘つくのうまくね?」
 
 思わず声量をあげると井口の声がワントーンあがった。

『ひ~さ~…お前やっぱ騙されやすいのな!う、そ!』

 スピーカーの向こうから井口の笑い声が聞こえるのを心を無にして聞く。…いや、結構ムカついてる。全く上手くいかないどころか返り討ちに遭うなんて…。

『残念だったなぁ。ちゃんと彼女いるしちゃんと飼ってまーす!いやー、初めてマチアプから付き合った子なんだけどさぁ、結構いい感じなんだよ』
「へぇ、……俺もマチアプ始めた」
『えっ!…え?マジ?嘘?』
「う、そ~…ふっ、ふふっ」
『あんだよお前、若干信じたわ!そういうの興味なさそうにしてたのに急に言うから驚いた』
「この嘘あり?次葉大にもかけてみようと思ってんだけど」
『アリアリ。鳥の話よりマシ。意外だし絶妙にマジってぽいから葉大も騙されるんじゃね?』

 なるほどこれは思いつかなかった。井口の反応にも想定外の収穫にも笑みがこぼれる。3度目の正直だ。次こそ一発で成功させる。

「じゃあ葉大にかけるわ。またな」
「おー、頑張れよー。」

 少しだけ話す内容を練ってから早速次のコールを鳴らす。騙されるとも知らずに葉大はすぐに出た。昔のようにイタズラ心が沸いてきてワクワクする。

『久?おはよ、どうした?』
「よう。葉大、お前に聞きたいことがあるんだけどさ」
『うん?』
「マ、マチアプ始めんだけどさ、なんかコツとかあんの?お前そういうの知ってそうじゃん」
『俺やってないしあんま知らないけど…本気?ヤリモクばっかでしょ。やめといた方がいい』

 予想外に真剣なトーンで言われて狼狽える。
 お前そんな真面目なタイプじゃないだろ。

『てか、まさかとは思うけど顔写真載せたり変な写真載せたりしてないよな?どういうやつが見てんのかわかんないんだからマジでやめといた方がいい。出会いにくいだけで久かっこいいんだからそういうの使わなくても大丈夫だし、もし相手が危ないもん持ってたらどうすんの、男でも危ないって。あと何に登録した?ちゃんと慎重に…』

 くどくどと葉大の話が続く。なんだか説教臭くなってきて嘘だと言い出しにくい。まさかマチアプを始めたという報告ごときで同年代…しかも散々遊んでる葉大に説教されるとは思わなかった。言い返す間もなく続く言葉の隙間を待つ。やっと途切れた部分に間髪入れずに言葉を差し込む。

「や、心配してくれてんのはありがたいんだけどさ…エイプリルフール!嘘!」
『なんだ…。でもそういう嘘つくってことは興味あるってことだろ。マチアプに久の好きなタイプいると思えないしそれに』
「あーー興味ない興味ない。まじでやんない。俺が悪かった」
『それならよかった。マチアプだけはやめといたほうがいい』
「お前マチアプアンチすぎるだろ。なんかあったの?」
『いーや?そんなことないよ』
「あんだけ喋っといてんなわけあるか。あー⋯もっと他の嘘つけばよかったわ。」
『実はマチアプで出会った子が彼氏持ちで酷い修羅場になった』
「え」
『とか?…嘘だよ』

 ふっと聞こえた笑い声にカチンときて電話を切ってやろうかと思った。結局欲しい反応は得られないまま、俺ばかり上手いこと嘘をつかれている。エイプリルフールは散々だ。今年は諦めて来年こそ騙してやろう。
 あと、井口にもあとで「葉大はマチアプアンチだからその話はするな」と教えといてやろうとそっと心に決めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵国の将軍×見捨てられた王子

モカ
BL
敵国の将軍×見捨てられた王子

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

処理中です...