ケージ暮らしの小人日誌

イツキカズラ

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1ページ目:地獄の始まり

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 人間の手に掴まれた僕はさっきの場所よりも明るい部屋に連れてこられた。この部屋でも、たくさんの小人が檻に囚われている。展示するようにラベルの貼られた檻が並べられ、何人もの人間がそれらを見物している。

 人間がいる分ざわざわとしているが、さっきの部屋よりも小人の声は聞こえない。みんな諦めてしまっているのだろうか。

 僕も同じように新しい檻へと入れられ、草が敷き詰められた地面にべしゃりと倒れ込んだ。力は抜けてしまったが、この異様な光景に動悸がおさまらない。

「おい…おいお前」

 ハッとして声のかけられた方へと視線だけやると、頬のこけた男性がハイライトのない目で僕を見ていた。

「お前、なんで捕まったんだ?」

わからない!ここはなんなんだ!

「……ビビっちまって声も出ないか」

 その言葉で自分がパクパクと口を動かしていただけなことに気付いた。構わず男性は喋り続ける。

「俺は2週間前にここにきたんだ。木の実を拾ってる時にな。ここにいると見物してる人間が俺らを連れてくんだ。…俺の後に来たやつらもあっという間に連れて行かれた。今じゃ俺が一番の古株だ。お前も綺麗だからすぐ連れてかれるんだろうな。……このままここに残っても、連れて行かれても、俺たちどうなるんだろうな…」

 ぽつぽつと呟く声は小さく震えていた。僕を見ていた男性の瞳が静かに下を向いても僕はやはり声が出なかった。

 
 時間が経って少しずつ混乱と動悸がおさまり、自分の状況に絶望し始めた頃、檻の中に影が落ちた。僕の檻の前で立ち止まった人間が何かを話している。彼らが僕ら小人の言葉を理解しないように僕らも人間の言葉はわからない。しかし、この状況が恐ろしいことであることくらい容易に想像できる。再び動悸が激しくなり、体が震え始めた。

『この子、今日入荷したばかりなんですよ』

『ほう。可愛い顔をしているな』

『触ってみますか?』

『ああ』

 檻が開かれ、慌てて格子にしがみついたが…難なく剥がされて人間の男の手へと乗せられた。思わず、縋るように先ほど話した同志に手を伸ばしたが、彼はこちらを見てすらいなかった。

 僕の心は恐怖に染まっていた。怖くて動けない。指先の一つすら動かない。ガチガチに固まった僕を男は柔らかい手つきで撫でる。

『ははっ、緊張しているみたいだな。いやしかしなかなか気に入った。購入するよ』

『ありがとうございます』

 僕を一口で飲み込めるほど大きな口で笑ったその男が何かを言うと、僕はわけもわからないまま新しいプラスチックのケースに入れられた。

 それから少しすると、ケースが浮き上がってガタガタと揺れ続けた。僕は吐き気に襲われ続けたが、空っぽの胃からは何も出なくて嗚咽するだけだった。


 ようやくケースが置かれ、揺れなくなった頃には僕はもう立ち上がれる状況ではなかった。ぐったりと地面に伏していたところを鷲掴みにされて、手のひらに転がされた。豪華な家具にキラキラと輝く照明。きっと男の家だ。

『どうして急に弱ってるんだ?』

 男が指先でツンツンと触られる。恐怖も相まってなおさら気持ちが悪い。僕はこれからどうなるのだろう?食われるのだろうか?嬲り殺されるのだろうか?はたまた死ぬまで労働させられるのだろうか?
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