覇王の子

八ケ代大輔

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第二幕「長篠」

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 減敬、登場。
減敬「長篠城からの使者・鳥居強右衛門(すねえもん)の報を受け徳川、織田両軍はすぐさま岡崎城を出陣、数日後には長篠城の西に位置する設楽原(したらがはら)に着陣する。馬防柵を設置し、最強の騎馬軍団を有する武田軍を迎え撃つ準備を整える徳川・織田連合。これに対し、武田軍も長篠城に抑えの兵を残し設楽原へと進軍。両軍は連吾川を挟んで対峙するのでありました」
 減敬、退場。
 信康、登場。続いて水野も登場。
水野「信康殿」
信康「信元殿」
水野「此度の戦でようやく一緒に戦えまするな」
信康「こちらこそ御一緒できて光栄でございます」
水野「信康殿とは一度ゆっくり話をしたかった」
信康「と、言いますと?」
水野「信康殿は、信長殿の『信』と家康殿の『康』を合わせて『信康』と」
信康「左様でございます」
水野「実は、儂の『信元』も信長殿の『信』と家康殿、当時は元康と名乗っていたのでその『元』の字を取り『信元』、と」
信康「それは知りませんでした」
水野「あの御二人からは不思議なものを感じまする。あの御二人が力を合わせれば天下を掴める。そんな気がしてならんのです」
信康「拙者にとって、どちらも立派な父上でございます」
水野「そんな御二人の御名前をいただいた儂は果報者でござる。そして、同じく御二人の御名前をいただいた信康殿も」
信康「御二人の御名前に恥じむ立派な武将になりとうございまする」
水野「信康殿は、すでに立派な武将とお聞きします」
信康「いえいえ、まだまだでございます」
水野「それに信康殿は御二人の天下も継がねばなりませんしな」
信康「信元殿。それにはまず、この戦に勝たねばなりませんな」
水野「そうですな・・・では、つまらぬ話を失礼致し申した」
信康「いえ、良いお話を聞きました」
水野「御武運を」
信康「信元殿も」
 両者、退場。
酒井「撃てぇーい!」
 酒井、抜刀したまま登場。
酒井「敵は油断しておる。今が好機ぞ、鳶之巣山(とびのすやま)砦を奪うのだ!」
 酒井、退場。代わって石川、平岩登場。
石川「よし、忠次の奇襲が成功したようじゃな。全軍、放てぇーい!」
平岩「織田軍に負けるでないぞ!徳川の力を見せつけよ!」
 石川、平岩退場。代わって水野登場。
水野「水野軍、進めぇー!武田を蹴散らすのだ!信長殿と家康殿の天下はもうすぐぞ!」
 水野、退場。代わって本多、康政登場。
本多「こやつら、てんで弱いの~」
康政「最初の銃撃で相当やられたのであろう。烏合の衆じゃな」
本多「何じゃつまらん・・・それにしても鉄砲とは凄まじいものだな」
康政「ああ。此度の戦では千丁近い鉄砲を使ったそうだ」
本多「よくそれだけの数を集めたものだ」
康政「さらには鉄砲を守る無数の馬防柵。鉄砲だけならまだしも、この馬防柵では、武田の騎馬軍団とはいえ、突破するのは容易ではない」
本多「鉄砲による戦か・・・もう武士の時代は終わってしまうのかの~」
康政「かもしれんな・・・おっと」
本多「どうした?」
康政「お主に付き合ったせいで、ちょっと陣を離れ過ぎてしまったな」
本多「戻るか?」
康政「ああ。此度は信康さまをお守りもあるでな」
本多「兄上に任せておけばよかろう」
康政「そうもいかんさ」
 康政退場。その後、本多も退場。
 榊原清政、慌てた様子で登場。その後、康政登場。
清政「康政、どこに行っておった?」
康政「兄上、何かあったのですか?」
清政「信康さまが御一人で御出陣されました!」
康政「何と!」
清政「急ぎ我らも出陣するぞ!」
康政「はっ」
 二人退場。
 信康、抜刀したまま登場。
信康「我こそは徳川軍総大将・徳川家康が嫡男・徳川信康ぞ!我こそはと思う者は勝負致せ!」
 信忠、登場。
信忠「徳川の跡継ぎが自ら前線に出るとは、さすが勇猛果敢な信康さまですな」
信康「信忠殿・・・信忠殿こそ、前線に出て来られて大丈夫なのですか?」
信忠「後方は退屈だったのでな」
信康「だからと言って前線に来ては危険ですぞ」
信忠「何じゃ、自分は大丈夫だが、儂では危険だと言いたいのか?」
信康「そういう訳では・・・」
信忠「まあよい・・・しかし、徳川の跡継ぎが名乗りを上げても誰も来んとは、武田も落ちたものよ」
信康「武田軍は、最初の銃撃でだいぶ痛手を被ったようですからな。もう戦う意志もないのでしょう」
信忠「そうか・・・では、信康殿」
信康「?」
信忠「誰も相手がいないのならば、儂が御相手致そう」
 信忠、刀を抜く。
信康「信忠殿?」
 信忠、信康に斬りつける。
信康「何を致す!?」
信忠「儂が相手をすると言ったではないか」
信康「我々は味方同士ですぞ」
信忠「今のところはな」
 信康、信忠立ち回り。信忠が膝をつき、信康が勝つ。
信康「信忠殿、大丈夫ですか?」
 信康、信忠に手を差し出すが振り払われる。
信忠「戦国の世での同盟なぞ一時的な物。両者の利害が一致しているからこそ同盟は続く」
信康「・・・」
信忠「武田を滅ぼした後、同盟はどうなるのだろうな?」
信康「・・・」
信忠「我が父・織田信長はこの国の王になるおつもりだ。朝廷も手の届かない絶対的な王にな。絶対的な王に、同盟相手などいらぬ。軍門に下るか、滅ぼされるかだ」
清政「信康さま~!」
 信忠、その場を去ろうとする。
信康「信忠殿、今のは忠告でござるか?・・・それとも」
 信忠、何も言わずに退場。清政、康政登場。
清政「信康さま、ご無事でしたか?」
信康「ん、ああ」
康政「徳川の跡継ぎが単騎駆けとは褒められませんな」
信康「すまぬ」
清政「康政、よいではないか。これが信康さまの良い所でもある」
康政「しかし・・・」
 家康、井伊登場。
清政「殿!」
康政「殿まで前線に来ては危のうございます」
井伊「お止めしたのですが」
家康「信康が単騎駆けしたと言うので心配になってな」
信康「父上、拙者はもういい大人ですぞ」
家康「馬鹿者。お主は徳川の跡継ぎ、命を粗末にするではない」
信康「だからと言って、後方でただ戦を眺めていても仕方がありません」
家康「まったく」
清政「殿も若かりし頃は、よく前線に出ておったではないですか」
家康「ん、そうであったか?」
清政「殿に似て信康さまも馬上の将でございまする」
康政「血は争えませんな」
 酒井、登場。
酒井「おおー皆の衆。大丈夫か?」
康政「ええ、こちらは。酒井殿もご無事で何よりです」
家康「忠次。鳶之巣山(とびのすやま)砦の奇襲、見事であった」
酒井「ありがとうございます。こちらの方も我らの大勝利のようですな」
家康「うむ。武田もすでに撤退を始めたようじゃ。我らも退くとしよう」
康政「追わないので?」
家康「我らの勝ちは間違いない。無駄な深追いはいらぬ」
康政「承知致しました」
信康「では退くとならば、殿軍は拙者が務めましょう」
家康「信康、お主は先に行け」
信康「何故でございます?」
家康「お主は前線で戦っておったのであろう。先に行って休むが良い」
信康「まだ大丈夫でござる」
家康「先に行けと言うておろう」
信康「残りまする。そもそも父を置いて先に行く事はできませぬ」
家康「聞き分けのない奴じゃ」
酒井「では、拙者が先に行かせていただきまする」
井伊「で、では拙者も」
康政「儂も」
清政「失礼致します」
 酒井、井伊、康政、清政退場し始める。
家康「こら、主君を置いて先に行く家臣がどこにおる」
信康「では、我ら親子で殿軍を務めましょうかな」
家康「そうじゃな」
 家康と信康も退場し始めるが、信康立ち止まる。
信忠(声のみ)「軍門に下るか、滅ぼされるかだ」
家康「どうした信康。参るぞ」
信康「は、はい」
 信康、退場。
 暗転
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