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第五章「掛川城攻め」
第二十五話「今川滅亡」
しおりを挟む慶長二十年五月 大坂
「いかがですかな?拙者の船中七人倒し。源義経の壇ノ浦での八艘跳びにも負けない活躍でございましょう」
老将の言葉に、若武者はにやりと笑う。
「服部半蔵の話が、最終的にはお主の武功話になったな」
「あ、これは失礼。拙者としたことが、つい」
老将は一瞬笑みを浮かべるが、すぐに咳払いをして再び話を始める。
「その後、永禄十二年五月、相模(さがみ)の北条氏の仲介により掛川城は開城。今川氏真・朝比奈泰朝は北条の元に送られ、それ以後、戦国の表舞台に戻ってくる事はありませなんだ。これにより、名門と謳われた駿河の今川氏は滅亡したと言っても過言ではないでしょう・・・運命とは不可思議なものでございまするな。嘗(かつ)ては、今川の兵として戦っていた我らが、よもやその今川を滅ぼす事になろうとは・・・」
老将の話に若武者は切ない表情を見せる。
「どんな名族であろうとも、時代の流れに逆らうことはできない。今も、まさにここで一時代を築いた豊臣の一族が滅びようとしておる」
若武者は大坂城の方を見詰める。
「儚(はかな)いものじゃ。豊臣も徳川の臣下として存続することを決意すらば、何もここまでにはならんかったであろうに・・・」
「左様にございますな」
若武者に続いて老将も大坂城の方を見詰める。
「幾つもの御家が潰れ、そして滅びて行った戦国の乱世。此度の戦で本当に終わればよいのですが・・・」
老将の気弱な発言に、若武者はすぐさま聞き返す。
「なんじゃ忠右衛門。何か気がかりな事でもあるのか?」
老将は不安げな表情から一転、口元に笑みを浮かべながら答える。
「いやいや、戦国の世では一つの戦が終わったと思ったら、すぐに次なる戦が始まりまする。先ほどの話でも、我ら徳川は永禄十二年五月に今川を滅ぼし、遠州を手に入れはしましたが・・・しかし、その直後、その月の末には早くも次なる脅威が現れたのでございまする」
「次なる脅威?」
若武者は首を傾げる。
「ええ。今川など鼠(ねずみ)に思えるほどの大きな虎が、まさに虎視眈々と遠州、さらには三河の地を狙っていたのでございまする」
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