誰にも気づかれなかった僕の生き方が、世界を変えていました。

シロトネ

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第23話 何も知らない

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夜が明けて、村には静かな風が戻っていた。

結界柱は、全て停止していた。
まるで何もなかったかのように。

でも、確かに“何か”が起きて、そして終わった。

ユイは、丘の上で朝日を見ていた。

「……壊れなかったな。僕も、結界も」

その声に応えるように、背後から足音がした。

「でも、君は少しだけ“壊れかけた”よね」

ユイは振り返る。
そこに立っていたのは――

「……イグナス」

どこか懐かしさを覚える声だった。

◇ ◇ ◇

ふたりは並んで、丘に腰を下ろす。

イグナスは変わらず、穏やかな目で空を見ていた。

「君の話は、王都でも噂になってるよ。
“神の使いが村で暴走しかけた”とか、“心の声で世界が救われた”とか」
「……全部、嘘じゃないけど、全部“正しく”もないよ」
「だろうね。だから僕は――自分の目で見に来た」


しばらく沈黙が流れた後、イグナスが口を開いた。

「ユイ。君は、まだ“自分が何なのか”知らない」
「知りたくないわけじゃないよ。でも、怖いんだ」
「それでいい。怖がれるってことは、“自分”でいようとしてるってことだ」

イグナスの声は、まるで昔からの友人のようだった。


「けど、君には伝えておかないといけないことがある」

イグナスは懐から一冊の小さな手帳を取り出す。

「これは、僕がかつて所属していた“特別観測班”の記録。
そこに、君と“同じ波動”を持った存在の記述がある」


ユイは目を見開いた。

「……僕みたいな存在が、“他にもいた”ってこと?」
「いた――でも、“全員、消えた”」
「……」
「彼らは自我を失い、“器”として封印されていった。
それを最後まで拒んだのが、君だけだ」


風が、少し強く吹いた。

「君の存在は、単なる偶然じゃない。
この世界にとって“何かを試すために用意された起点”。
僕の仮説だけど――君は、“選ばれた”んじゃなく、“創られた”んだ」


「創られた……」

ユイの声は、震えていた。

でも、イグナスは続けた。

「それでも君は、“人”としてここにいて、誰かに手を差し伸べた。
それだけで、僕は君を“脅威”だとは思わないよ」
「……ありがとう」


イグナスは立ち上がる。

「しばらくはまた、王都の方で動くよ。
でも、必要なら――次は“味方”として来る」

その背中が、朝日に照らされる。


「ユイ。君の課題は、君が“自分をどう扱うか”だ。
……じゃあ、またな」

◇ ◇ ◇

ユイは、ずっとその場から動けなかった。

“創られた”命。
選ばれなかった者たちの末路。

それでも――僕は。

「僕は、僕の“生き方”を選びたい」

それがどれだけ不完全で、未完成でも――
僕は、誰かの道具にはならない。

たとえ、それが世界の意思に逆らうことでも。
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