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ヒトのキョウカイ4巻(オレいつの間にか子持ちになっていました。)
20 (走れなくなった奴から死んでいく。)
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初等学校の校庭にロウ達が並ぶ…。
一番前が1年生のロウ達で、左からロウ、カズナ、ヒロムにオスの生徒が3人の合わせて6人…。
その後ろには、2年、3年と上がって行き、最終学年の5年生まで並んでいる。
距離は10kmの持久走で 障害物が多い町中を走り、戻ってくる事になる。
ロウは首や腕を回し、準備体操をする。
隣の2人は 折り畳みの板と、紫色の不思議な形の靴…隣の3人のオスは 丸いリュックを背負っている。
その後ろの上級生も似たり寄ったりだ。
「位置について…よ~い…」
パン…。
先生が銃を上に向け発砲…。
ロウは2足の足で走り、グラウンドを一周し始める。
今の1位はロウで その後ろをヒロムが 砂煙と立て追いかけてくる。
その他の生徒はスタートラインで止まって背中の荷物を下ろしたり、板を広げたりしている。
何で?
ロウは疑問に思ったが、スピードを緩めず そのまま走る…。
グラウンドを1周して 校門から出るが…背後で遅れた生徒達がグラウンドを周り始めた。
ロウの目の前にARの矢印が現れ 進行方向を示してくれる。
移動ルートは スタートしてからARで公開される為、どこに向かうかロウは知らない。
獣人のロウは 野生で鍛え抜かれた筋肉と小さく軽い身体のお陰《かげ》で、1位で走りスピードも かなり速い。
その後ろから追いかけてくるヒロムを見ると…足を殆《ほとん》ど動かずに走っている。
更に良く見て見ると、さっきは砂煙で見えなかったが、靴の下に付いているタイヤが回転して猛スピードで進んでいる。
モーターシューズ?DLの足に使われているタイヤで移動が出来る靴だ。
ヒロムがバランスを取りつつロウに向かってくる…速い。
更《さら》にその後ろからヒロムを追いかけるのは カズナ…2つのタイヤが板で繋がっていて、その上に棒とカズナが持つ持ち手…確かカズナが登校に使っていた電動キックボード?
更《さら》にその後ろには自転車に乗った上級生が追いかけてくる。
「皆…ズルだ。」
ロウは走るペースを上げ、思わず言う。
「よっ遅いな…。」
モーターシューズでロウに追いついたヒロムが言う。
「ズル、しておいて…。」
「それが ズルじゃ無いんだな…。
人は道具とセットで人なんだ。
馬鹿正直に自分の足で 自分より足の速い奴と勝負するのは 人のする事じゃないのさ…。」
「それに これは、いつもつうがくで つかっているから、もう わたしのいちぶ」
カズナがロウとヒロムに追いつき言う。
カズナが速度を上げてロウを追い越し、引き離していく…。
「絶対、勝つ」
2足で走っていたロウが 倒れこみ4足で走り始め、加速し追いつく。
「負けない…。」
「そう来なくちゃ…。」
ヒロムが更《さら》に加速し、カーブで一瞬減速して曲がる…。
「おっと…」
一瞬バランスを崩しふらつくが、すぐに加速し、速度を落とさずに曲がれた。
次にカズナは絶妙なバランスで キックボードを傾け、速度を殺さずに曲がりきる。
そして遅れる事1秒…ロウが走りながら尻尾を高速回転させ、バランスを取りつつ曲がる。
カーブでの速度は同じ位で抜く事は出来ない…。
なら…次のカーブでロウは カーブに対してカズナの内側に入り込み、カズナのキックボードを傾けさせずバランスを崩させる。
「ちょ…あぶな」
狙ったコースを取れず、カズナがとっさにハンドルのブレーキを握った。
カズナが減速し、ロウが追い越す。
先頭のヒロムは直線で速度を稼いで ビルのスライドドアが自動で開き、中に入って行った。
コースアウト?
いや…矢印はビルの中を差している。
ロウがビルに入り、矢印が向いた方向にある階段を2足歩行で降りる。
ヒロムはタイヤを付けたモーターシューズで階段を降りている為、ややスピードが遅くなっている。
「何で階段!!」
ガタガタと段差を必死に降りてゆくヒロムを ロウとキックボードを畳んで背中に背負うカズナが通り抜けていく。
このビルは 2層に繋がる柱ビルで 通勤にも使われている。
2層の天井から床までの100mを結ぶ この階段は かなりキツイ…。
先頭との距離が離れすぎていて、後ろで空気になりつつあった上級生たちが、柱ビルまでたどり着いていた。
多分もう追いつけないだろう。
上級生達がビルに入る…。
予想していた通り、下に降りる階段に矢印が向いており、上級生達は、すみやかに自転車をたたみ背負う。
が…ARの視界に『きゅうさい しょち』と表示され、階段とエレベーターにそれぞれ矢印が付く。
上級生達は4基あるエレベーターのボタンをすべて押し、上がってくるエレベーターを待つ。
この待ち時間で階段を使い 降りた方が結果として早いのではないのか?
そう思ったのか、先に自転車を畳み終わった半数の6人が自転車を背負い階段を降りて行く。
エレベーターの扉が開き…自転車を折り畳まないでゴンドラに入り『F2-1』のボタンを押す。
DLや通勤客を乗せる事を想定されているサイズのゴンドラなので 中は広く…自転車もそのまま載《の》せられるようになっている。
硬そうな柱で組まれ、壁が取り付けてない縦穴を大きな箱が上から降りてくる。
人や物を下ろす為の箱だ…確かジガは『エレベーター』と言ってたっけ…。
箱はヒロムを追い越し、カズナを追い越し、ロウを追い越した。
「またズルか…。」
ロウが言う。
「まさか エレベーターをつかわなきゃ おいつけないほど はなれて、いたなんてね…。」
カズナが言う。
「……。
そうか、階段、降りるより、落ちた方が早い…か。」
ロウが階段の手すりに足をかけ、飛び降りる。
「え?…ちょ…とびおりじさつ?」
カズナが階段の手すりから、落下したロウを見る。
ロウはエレベーターのワイヤーを掴《つか》み減速しながら落下し、ゴンドラの上にドスンと大きな音を立てて落ちた。
どすん…。
「え?今上から何か落ちてこなかった?」
ゴンドラの上を指で差し、上級生が言う。
『ただいま、不自然な振動を感知しました…安全の為、当エレベーターは、緊急停止します。
復旧時刻はエレベーター管理局までお問い合わせください。』
「あれ?これって…。」
上級生が顔を見合わせる。
「ああ詰んだ…。」
エレベーターに閉じ込められ、救助を待つ6名は事実上レースから…脱落した。
ロウは 止まったゴンドラから階段へ飛び移り、更《さら》に降りる…。
カズナから大幅に距離を稼げたロウは、少しペースを落とし2層の1階までたどり着いた。
ビルのスライドドアが開き、ロウが出る…。
矢印の方向は 初等部の学校の地下の方向に向いている。
多分 ここが折り返し地点。
ロウは矢印に従い…4足歩行で走る。
2層は1層と違い…空が無く、ビルが柱のように等間隔に並んでいる。
灯りも街頭やビルから放たれる光で、薄暗く、まるで夜のように感じる…。
「おっ来た来た…1位は獣人のロウか…生身で良くやる。」
「ロウちゃん…極振りで賭けているんだから…1位よろしくね。」
テレビ中継では無く ビルの窓を開けて乗り出す 仕事中のオス達の声援が送られる。
「任せとけ」
ロウはそう答えスピードを上げた。
いくらロウでも、キックボードの最大時速には敵わない…。
階段が終わり、全速力で飛ばして来たカズナがジリジリとロウの後ろに着く…。
その後ろにいるのは 上級生の自転車組とヒロムだ。
レース後半…ビルを出て全力で加速するヒロムは、バッテリーの残量が少なくなっている事に気が付いた。
前半ロウと競争してペース配分を乱したからだ。
ヒロムのローラーブレードは、カズナのキックボードと違い バッテリーを積むスペースが少なく、普段の登校ではこれで十分なんだが…全力の競争となるとやはりへばる。
自力でローラーを滑らせ追いつこうとするが…圧倒的に速度が足りない…。
あーここまでか…。
そう思っていた所で後ろから上級生の自転車組が追い付いて来た…。
どうにかなるか…。
ヒロムは自転車の荷台に掴《つか》まり、自転車にけん引して貰《もら》う。
「おい…。」
ヒロムに荷台を掴《つか》まれた上級生がSの字を描き、振り落とそうとするが…ヒロムが食らいつく…。
上級生は諦めたのか力を入れ漕ぎ始めた。
彼らが乗る自転車はDLの装甲にも使われている炭素繊維強化プラスチックで製造された自転車で、鉄の4分の1の重量で 10倍の強度を持つ…凄まじく軽く、そして丈夫な自転車だ。
「おお溜まる溜まる…。」
電力をカットし充電モードにした事でタイヤが回転する度にローラーブレードに充電されていく…まだどうにかなるかも知れない…。
次のカーブでロウを引き離す…。
カズナがインコースを取り キックボードのスロットルを全開にして最大加速で進む…がスピードを出し過ぎた。
カーブ中に加速しすぎた事でキックボードが限界まで傾き、片足がボードから離れ、地面に接触…足首が内側に規格外に曲がり、足を痛める。
「いたっ……」
カズナが痛みでバランスを崩し 横滑りの状態で転倒…カズナが地面を滑走し、手放したキックボードが半回転し止まった。
走っていたロウがすぐさま引き返し、転倒したカズナに駆け寄る。
「いたたた」
足首を抱え うずくまるカズナの靴下を降ろし、ロウが見る…。
「足首、変な方向に ひねった?」
「なに たすけに きてるの? さきに すすめばいいのに…。」
「足 ケガして 走れなくなった奴、絶対 食われる。」
「わたしを たべるひとは ここらへんには いないよ…。」
「ロウの背中、乗れ」
遠慮するカズナを無理やり背中に乗せ、キックボードを折り畳み、カズナに持たせ、ロウが走る。
「おもい でしょ…。
よこに おいてくれれば たすけにきて もらえるから…。」
「ロウ、最強の狼、ワイズウルフの娘、舐めるな。」
柱ビルに入り、階段をひたすら上がって行く…。
この上には DLをグラウンドに上げる為の体育倉庫に繋がっている…。
ここを上り切れば後はゴールだ。
ロウの力強い足音を響かせながら、階段を駆け上がる。
その背中でキックボードを背中に担ぎ、おんぶされているカズナは思う。
私とキックボードを合わせて、22kg…。
自分の体重と同じだけの重さがあるのに…スピードも全く落ちていない。
いや…私のせいでスピードを落としたと思わせないように走っているのかな。
いくら何でも、時速30kmは出る私のキックボードと競争をしているんだ…。
獣人とは言え疲れていないはずはない…。
「ついた…」
体育倉庫から出て、残るはグランドを1周してゴールテープを切るのみ…。
ロウはカズナを降ろして、カズナの尻を支えていた手首を回す。
「カズナ ここからなら 走れる…ロウと競争する。」
「うん、わかった。」
カズナは キックボードを降ろし、足を乗っける…。
「まったまったあああああ」
ガシャガシャとモーターシューズを鳴らし、乱暴に階段を開けあがるヒロムの声がする。
カズナがアクセルをふかし、動作確認をする。
さすが、DLに使われている炭素繊維強化プラスチックで出来たキックボード…何ともない。
片足がそえるだけの状態でバランスが かなり悪いけど、何とかなる。
初等部のベランダから見ている観客の声援が当たりに響く…。
ロウが私を支える為に使っていた前足を地面につける。
ロウの本気…。
ロウが私の為に作ってくれたこのレース…。
絶対に勝つ。
ロウとカズナが顔を見合わせ、正面を向く。
スタートの合図はどうするか聞いて無い…だけど私には分かる。
ヒロムが階段を上がり切り、体育倉庫のシャッターの両端にいる2人の間を通過と同時に…2人は駆け出す。
もう出し惜しみする必要な無い…全力全開のスピードを出す。
1位になったヒロムの全速力を限界スピードのカズナとロウが追う。
まずは直線で限界まで加速する。
うっそ…。
ヒロムの視界にARで表示されている速度が時速30kmを超えるが…ロウが距離を縮めてくる。
アレだけ走ってまだ力を温存していたのか…。
カズナは フルスロットルで加速し、時速は限界の30km…ヒロムのローラーブレードは確実に改造品…最高スピードでは勝てない。
なら、次と最後のカーブ時の減速を狙うしかない。
1回目…カズナは最高のポジショニングで入り、キックボードを傾け全神経を集中する。
片足がまともに使えない以上…ちょっとしたミスで転倒を引き起こしてしまう。
結果は成功…バランスを優先し、速度を落としたヒロムを抜き1位になる…。
2位のロウは 恐ろしい程の脚力で地面を蹴り上げ、尻尾を回しながらバランスを取りつつ、加速し私の後ろに着く。
次直線…加速力に自信があり、最高速度で勝るヒロムが急加速で2人を抜く…。
次のカーブではヒロムは減速出来ない…した時点で負けが確定する。
首にかけ、体操着に入っててあったワイズ母さんの牙のネックレスが風で中を舞う。
最後のカーブ…。
「うおおおおおお」
雄たけびを上げ…速度を上げるロウ。
母さんから教わった獲物に急速に接近して一気に捕らえる時に使う…5秒しか使えない走る方法。
全身の筋肉が悲鳴を上げ始める…。
それでも転ばないように尻尾でバランスを取り、ゴールに向かう。
ヒロムは スピードを下げ、ロウが追い抜かす…。
後は カズナだけ…。
カズナはもう目の前…。
間に合え…。
3人はほぼ同時にゴールをし、異例のハイスピードカメラの写真判定になり…。
結果は鼻の差でロウの勝ち…1位。
2位がカズナで、カーブを抜け 急加速した物の間に合わず、ヒロムが3位となった。
「ぜぇ…ぜぇ…。」
ゴール後…ロウは腹を出し、思いっきり呼吸をする。
ARウィンドウが視界に表示され、心拍数が1分間に200を超えたと警告が上がり、身体のあちこちも黄色の軽症と表示されている…。
医療用マイクロマシンが、バイタルを見て危険と判断され、ケインズに通報が入り、救急車の出動要請が掛ったていた。
10分程度で救急車が学校までやってきて、中からオスが降りて来る。
オスはカズナの捻挫を見ると薬を塗って包帯と固定を行い…とテキパキ作業を行い…。
ロウも異常バイタルは、すぐに収まった事を確認した所で素手で4足歩行した為に受けた切り傷などの細かな怪我を治療して貰った…。
そう言った事もあり、トロフィーの授与式は翌日の午前中となったのだった。
一番前が1年生のロウ達で、左からロウ、カズナ、ヒロムにオスの生徒が3人の合わせて6人…。
その後ろには、2年、3年と上がって行き、最終学年の5年生まで並んでいる。
距離は10kmの持久走で 障害物が多い町中を走り、戻ってくる事になる。
ロウは首や腕を回し、準備体操をする。
隣の2人は 折り畳みの板と、紫色の不思議な形の靴…隣の3人のオスは 丸いリュックを背負っている。
その後ろの上級生も似たり寄ったりだ。
「位置について…よ~い…」
パン…。
先生が銃を上に向け発砲…。
ロウは2足の足で走り、グラウンドを一周し始める。
今の1位はロウで その後ろをヒロムが 砂煙と立て追いかけてくる。
その他の生徒はスタートラインで止まって背中の荷物を下ろしたり、板を広げたりしている。
何で?
ロウは疑問に思ったが、スピードを緩めず そのまま走る…。
グラウンドを1周して 校門から出るが…背後で遅れた生徒達がグラウンドを周り始めた。
ロウの目の前にARの矢印が現れ 進行方向を示してくれる。
移動ルートは スタートしてからARで公開される為、どこに向かうかロウは知らない。
獣人のロウは 野生で鍛え抜かれた筋肉と小さく軽い身体のお陰《かげ》で、1位で走りスピードも かなり速い。
その後ろから追いかけてくるヒロムを見ると…足を殆《ほとん》ど動かずに走っている。
更に良く見て見ると、さっきは砂煙で見えなかったが、靴の下に付いているタイヤが回転して猛スピードで進んでいる。
モーターシューズ?DLの足に使われているタイヤで移動が出来る靴だ。
ヒロムがバランスを取りつつロウに向かってくる…速い。
更《さら》にその後ろからヒロムを追いかけるのは カズナ…2つのタイヤが板で繋がっていて、その上に棒とカズナが持つ持ち手…確かカズナが登校に使っていた電動キックボード?
更《さら》にその後ろには自転車に乗った上級生が追いかけてくる。
「皆…ズルだ。」
ロウは走るペースを上げ、思わず言う。
「よっ遅いな…。」
モーターシューズでロウに追いついたヒロムが言う。
「ズル、しておいて…。」
「それが ズルじゃ無いんだな…。
人は道具とセットで人なんだ。
馬鹿正直に自分の足で 自分より足の速い奴と勝負するのは 人のする事じゃないのさ…。」
「それに これは、いつもつうがくで つかっているから、もう わたしのいちぶ」
カズナがロウとヒロムに追いつき言う。
カズナが速度を上げてロウを追い越し、引き離していく…。
「絶対、勝つ」
2足で走っていたロウが 倒れこみ4足で走り始め、加速し追いつく。
「負けない…。」
「そう来なくちゃ…。」
ヒロムが更《さら》に加速し、カーブで一瞬減速して曲がる…。
「おっと…」
一瞬バランスを崩しふらつくが、すぐに加速し、速度を落とさずに曲がれた。
次にカズナは絶妙なバランスで キックボードを傾け、速度を殺さずに曲がりきる。
そして遅れる事1秒…ロウが走りながら尻尾を高速回転させ、バランスを取りつつ曲がる。
カーブでの速度は同じ位で抜く事は出来ない…。
なら…次のカーブでロウは カーブに対してカズナの内側に入り込み、カズナのキックボードを傾けさせずバランスを崩させる。
「ちょ…あぶな」
狙ったコースを取れず、カズナがとっさにハンドルのブレーキを握った。
カズナが減速し、ロウが追い越す。
先頭のヒロムは直線で速度を稼いで ビルのスライドドアが自動で開き、中に入って行った。
コースアウト?
いや…矢印はビルの中を差している。
ロウがビルに入り、矢印が向いた方向にある階段を2足歩行で降りる。
ヒロムはタイヤを付けたモーターシューズで階段を降りている為、ややスピードが遅くなっている。
「何で階段!!」
ガタガタと段差を必死に降りてゆくヒロムを ロウとキックボードを畳んで背中に背負うカズナが通り抜けていく。
このビルは 2層に繋がる柱ビルで 通勤にも使われている。
2層の天井から床までの100mを結ぶ この階段は かなりキツイ…。
先頭との距離が離れすぎていて、後ろで空気になりつつあった上級生たちが、柱ビルまでたどり着いていた。
多分もう追いつけないだろう。
上級生達がビルに入る…。
予想していた通り、下に降りる階段に矢印が向いており、上級生達は、すみやかに自転車をたたみ背負う。
が…ARの視界に『きゅうさい しょち』と表示され、階段とエレベーターにそれぞれ矢印が付く。
上級生達は4基あるエレベーターのボタンをすべて押し、上がってくるエレベーターを待つ。
この待ち時間で階段を使い 降りた方が結果として早いのではないのか?
そう思ったのか、先に自転車を畳み終わった半数の6人が自転車を背負い階段を降りて行く。
エレベーターの扉が開き…自転車を折り畳まないでゴンドラに入り『F2-1』のボタンを押す。
DLや通勤客を乗せる事を想定されているサイズのゴンドラなので 中は広く…自転車もそのまま載《の》せられるようになっている。
硬そうな柱で組まれ、壁が取り付けてない縦穴を大きな箱が上から降りてくる。
人や物を下ろす為の箱だ…確かジガは『エレベーター』と言ってたっけ…。
箱はヒロムを追い越し、カズナを追い越し、ロウを追い越した。
「またズルか…。」
ロウが言う。
「まさか エレベーターをつかわなきゃ おいつけないほど はなれて、いたなんてね…。」
カズナが言う。
「……。
そうか、階段、降りるより、落ちた方が早い…か。」
ロウが階段の手すりに足をかけ、飛び降りる。
「え?…ちょ…とびおりじさつ?」
カズナが階段の手すりから、落下したロウを見る。
ロウはエレベーターのワイヤーを掴《つか》み減速しながら落下し、ゴンドラの上にドスンと大きな音を立てて落ちた。
どすん…。
「え?今上から何か落ちてこなかった?」
ゴンドラの上を指で差し、上級生が言う。
『ただいま、不自然な振動を感知しました…安全の為、当エレベーターは、緊急停止します。
復旧時刻はエレベーター管理局までお問い合わせください。』
「あれ?これって…。」
上級生が顔を見合わせる。
「ああ詰んだ…。」
エレベーターに閉じ込められ、救助を待つ6名は事実上レースから…脱落した。
ロウは 止まったゴンドラから階段へ飛び移り、更《さら》に降りる…。
カズナから大幅に距離を稼げたロウは、少しペースを落とし2層の1階までたどり着いた。
ビルのスライドドアが開き、ロウが出る…。
矢印の方向は 初等部の学校の地下の方向に向いている。
多分 ここが折り返し地点。
ロウは矢印に従い…4足歩行で走る。
2層は1層と違い…空が無く、ビルが柱のように等間隔に並んでいる。
灯りも街頭やビルから放たれる光で、薄暗く、まるで夜のように感じる…。
「おっ来た来た…1位は獣人のロウか…生身で良くやる。」
「ロウちゃん…極振りで賭けているんだから…1位よろしくね。」
テレビ中継では無く ビルの窓を開けて乗り出す 仕事中のオス達の声援が送られる。
「任せとけ」
ロウはそう答えスピードを上げた。
いくらロウでも、キックボードの最大時速には敵わない…。
階段が終わり、全速力で飛ばして来たカズナがジリジリとロウの後ろに着く…。
その後ろにいるのは 上級生の自転車組とヒロムだ。
レース後半…ビルを出て全力で加速するヒロムは、バッテリーの残量が少なくなっている事に気が付いた。
前半ロウと競争してペース配分を乱したからだ。
ヒロムのローラーブレードは、カズナのキックボードと違い バッテリーを積むスペースが少なく、普段の登校ではこれで十分なんだが…全力の競争となるとやはりへばる。
自力でローラーを滑らせ追いつこうとするが…圧倒的に速度が足りない…。
あーここまでか…。
そう思っていた所で後ろから上級生の自転車組が追い付いて来た…。
どうにかなるか…。
ヒロムは自転車の荷台に掴《つか》まり、自転車にけん引して貰《もら》う。
「おい…。」
ヒロムに荷台を掴《つか》まれた上級生がSの字を描き、振り落とそうとするが…ヒロムが食らいつく…。
上級生は諦めたのか力を入れ漕ぎ始めた。
彼らが乗る自転車はDLの装甲にも使われている炭素繊維強化プラスチックで製造された自転車で、鉄の4分の1の重量で 10倍の強度を持つ…凄まじく軽く、そして丈夫な自転車だ。
「おお溜まる溜まる…。」
電力をカットし充電モードにした事でタイヤが回転する度にローラーブレードに充電されていく…まだどうにかなるかも知れない…。
次のカーブでロウを引き離す…。
カズナがインコースを取り キックボードのスロットルを全開にして最大加速で進む…がスピードを出し過ぎた。
カーブ中に加速しすぎた事でキックボードが限界まで傾き、片足がボードから離れ、地面に接触…足首が内側に規格外に曲がり、足を痛める。
「いたっ……」
カズナが痛みでバランスを崩し 横滑りの状態で転倒…カズナが地面を滑走し、手放したキックボードが半回転し止まった。
走っていたロウがすぐさま引き返し、転倒したカズナに駆け寄る。
「いたたた」
足首を抱え うずくまるカズナの靴下を降ろし、ロウが見る…。
「足首、変な方向に ひねった?」
「なに たすけに きてるの? さきに すすめばいいのに…。」
「足 ケガして 走れなくなった奴、絶対 食われる。」
「わたしを たべるひとは ここらへんには いないよ…。」
「ロウの背中、乗れ」
遠慮するカズナを無理やり背中に乗せ、キックボードを折り畳み、カズナに持たせ、ロウが走る。
「おもい でしょ…。
よこに おいてくれれば たすけにきて もらえるから…。」
「ロウ、最強の狼、ワイズウルフの娘、舐めるな。」
柱ビルに入り、階段をひたすら上がって行く…。
この上には DLをグラウンドに上げる為の体育倉庫に繋がっている…。
ここを上り切れば後はゴールだ。
ロウの力強い足音を響かせながら、階段を駆け上がる。
その背中でキックボードを背中に担ぎ、おんぶされているカズナは思う。
私とキックボードを合わせて、22kg…。
自分の体重と同じだけの重さがあるのに…スピードも全く落ちていない。
いや…私のせいでスピードを落としたと思わせないように走っているのかな。
いくら何でも、時速30kmは出る私のキックボードと競争をしているんだ…。
獣人とは言え疲れていないはずはない…。
「ついた…」
体育倉庫から出て、残るはグランドを1周してゴールテープを切るのみ…。
ロウはカズナを降ろして、カズナの尻を支えていた手首を回す。
「カズナ ここからなら 走れる…ロウと競争する。」
「うん、わかった。」
カズナは キックボードを降ろし、足を乗っける…。
「まったまったあああああ」
ガシャガシャとモーターシューズを鳴らし、乱暴に階段を開けあがるヒロムの声がする。
カズナがアクセルをふかし、動作確認をする。
さすが、DLに使われている炭素繊維強化プラスチックで出来たキックボード…何ともない。
片足がそえるだけの状態でバランスが かなり悪いけど、何とかなる。
初等部のベランダから見ている観客の声援が当たりに響く…。
ロウが私を支える為に使っていた前足を地面につける。
ロウの本気…。
ロウが私の為に作ってくれたこのレース…。
絶対に勝つ。
ロウとカズナが顔を見合わせ、正面を向く。
スタートの合図はどうするか聞いて無い…だけど私には分かる。
ヒロムが階段を上がり切り、体育倉庫のシャッターの両端にいる2人の間を通過と同時に…2人は駆け出す。
もう出し惜しみする必要な無い…全力全開のスピードを出す。
1位になったヒロムの全速力を限界スピードのカズナとロウが追う。
まずは直線で限界まで加速する。
うっそ…。
ヒロムの視界にARで表示されている速度が時速30kmを超えるが…ロウが距離を縮めてくる。
アレだけ走ってまだ力を温存していたのか…。
カズナは フルスロットルで加速し、時速は限界の30km…ヒロムのローラーブレードは確実に改造品…最高スピードでは勝てない。
なら、次と最後のカーブ時の減速を狙うしかない。
1回目…カズナは最高のポジショニングで入り、キックボードを傾け全神経を集中する。
片足がまともに使えない以上…ちょっとしたミスで転倒を引き起こしてしまう。
結果は成功…バランスを優先し、速度を落としたヒロムを抜き1位になる…。
2位のロウは 恐ろしい程の脚力で地面を蹴り上げ、尻尾を回しながらバランスを取りつつ、加速し私の後ろに着く。
次直線…加速力に自信があり、最高速度で勝るヒロムが急加速で2人を抜く…。
次のカーブではヒロムは減速出来ない…した時点で負けが確定する。
首にかけ、体操着に入っててあったワイズ母さんの牙のネックレスが風で中を舞う。
最後のカーブ…。
「うおおおおおお」
雄たけびを上げ…速度を上げるロウ。
母さんから教わった獲物に急速に接近して一気に捕らえる時に使う…5秒しか使えない走る方法。
全身の筋肉が悲鳴を上げ始める…。
それでも転ばないように尻尾でバランスを取り、ゴールに向かう。
ヒロムは スピードを下げ、ロウが追い抜かす…。
後は カズナだけ…。
カズナはもう目の前…。
間に合え…。
3人はほぼ同時にゴールをし、異例のハイスピードカメラの写真判定になり…。
結果は鼻の差でロウの勝ち…1位。
2位がカズナで、カーブを抜け 急加速した物の間に合わず、ヒロムが3位となった。
「ぜぇ…ぜぇ…。」
ゴール後…ロウは腹を出し、思いっきり呼吸をする。
ARウィンドウが視界に表示され、心拍数が1分間に200を超えたと警告が上がり、身体のあちこちも黄色の軽症と表示されている…。
医療用マイクロマシンが、バイタルを見て危険と判断され、ケインズに通報が入り、救急車の出動要請が掛ったていた。
10分程度で救急車が学校までやってきて、中からオスが降りて来る。
オスはカズナの捻挫を見ると薬を塗って包帯と固定を行い…とテキパキ作業を行い…。
ロウも異常バイタルは、すぐに収まった事を確認した所で素手で4足歩行した為に受けた切り傷などの細かな怪我を治療して貰った…。
そう言った事もあり、トロフィーの授与式は翌日の午前中となったのだった。
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