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ヒトのキョウカイ2巻(エンゲージネジを渡そう)

06 (映画友達は種族を超える)

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『都市民の皆様にお知らせがあります。
 私は次期都市長になったレナ・トニーです。
 ワーム事件から1週間経ちました…。
 ライフラインを破壊され、物資不足から非常事態宣言を出していましたが、皆様のご協力により、電力や生産レベルの安定が確保出来ました。
 よって非常事態宣言を解除…レベルを『平時1』まで下げる事が決まりました。
 販売企業及び、娯楽企業も明日あす午前0時より解禁となります。
 各 企業の皆様にはご協力をお願いします。
 続きまして特例金のお知らせです。
 皆様もご存じの通り、非常事態宣言を発令した為、現在土木建築や生産施設関係者には お金が回っていますが、販売施設、娯楽施設が稼働していなかった為、在庫が大量に余り『生産した物を消費して貰えなくなる』…経済で言う所のデフレ状態になりました。
 その為、1週間後の来月1日に大規模なデフレ対策を行います。
 具体的に言いますと…『労働モラルに反してしまった』都市の即時復興に協力して頂いた関係者の皆様にボーナス金として10万トニー、更に都市民の皆様全員に 生活保障金が2倍の20万トニー。
 今回の事態の『お悔やみ金』が10万トニーが支給されます。
  ………。
 続きまして…今回の件で中止が危ぶまれていました『砦祭』ですが…経済対策の面も考え、例年通り開始する事になりました。
 皆様の素敵な出し物の数々を期待しています。
 詳しい日時については…砦学園都市ホームページをご覧ください。
 以上、定期報告をレナ・トニーが行いました。
 それでは皆様の快適な都市生活が送られる事を期待しています。』
 レナが原稿を読み上げている。
「なんか都市長ぽくなって来たな…。」
 テレビを見てトヨカズが言う。
 都市長が月1回は行なう定期報告だ。
 前はアントニーだったが、これからは訓練の為 度々レナが替わりを務める事になる。
 まぁ むさ苦しいおっさんのアントニーよりか、見た目が良いレナの方が都市民に受けがいい。
 こうやって次期都市長を皆で教育していくのが この都市のやり方だ。
「さて…金も入る事だし、オレも頑張りますか…。」
 オレは、おっちゃんからノスタルジアあの店を相続している。
 当初は誰かに高値で売り払おうと思っていたが、レナが次期都市長になった事もあり、面倒くさい運営をやってみる事にした。
 幸いネットに生きている友達のレンを少し無理して雇ったので…明日、明後日位から開業かな…。
 品物の確保は出来ているし、従業員には 社員割引でパーツが安く手に入る。
 従業員は1人しか確保してないが ドラムと合わせれば 十分に回せる。
 そもそもリアル店舗でレトロな物を扱っている こんな店には客はほとんどど来ない。
 だが企業などの大口もまだあるし、何より昔の文化の保存と言う役割の方が大きく、その為、赤字になった場合は都市から補填ほてんしてくれる…。
 つまり経営では無く、管理、運営が正しい。
 実際、まとまった金が入ってくる事はないだろう。
 だけどあのアナログな文化が、人が人らしい形なんだろうな。
 ニューアキバの常連だったから分かる…。
 あの周辺の連中は需要が少ないのに文化の維持と何より自分の趣味で営業している奴らばかりだ。
「そんな事が出来るのも食いっぱぐれないから何だろうな…。」
 生活保障金…本当に重要だな。

 気温120℃から通常気温に戻った為、都市上空に溜まっていた大量の雲が雨となり、一次的な洪水を引き起こしていた。
 だが 計画通り皆が寝静まっている間に排水を終え、翌日の昼…。
 湿度は高いが気温は25℃…人レベルだと快適な方だろう…。
 ニューアキバの入口にはDLがアーチを持ち上げている光景が見えたらしいのだが…。
 その改造DLは駐機姿勢のまま待機している。
 ざっと見たところ、ワームの攻撃は喰らわなかった見たいだが、高機動戦闘での疲労がヒドイ。
 まぁ100匹以上を2機でおさえていたんだから当たり前と言っちゃ当たり前なんだが…。
 ジガがDLを通り過ぎ、目当ての店のスライドドアが開く…店の名前は『20世紀シネマ館』…。
「いらっしゃい…再開初日に映画とは…お客さんいい趣味…。」
 ジガの耳を見た事で館長は急に大人しくなった。
「よう…入っても?」
「……どうぞ」
 ジガが中に入る。
「しっかし昔っかしのまんまだな…良い再現だ。」
 大戦前に存在し、情報規制の名の元に潰された『20世紀シネマ館』。
 この名前を付けたのは、自由で規制の無い映画上映をしたかったのか、はたまた規制するキッカケを作ったウチらへの当て付けか…。
「で、なんの御用ごようで…。」
 館長は口調は丁寧ではあるものの怒りの感情が声にこもる。
「目的は館長…スプリングだったか…の友好関係の構築…と商談だ」
「友好関係?オートマタのキミと僕が?」
「そ…まずは商談からだ…。」
 人のようなヒューマノイド蔑称べっしょうである自動人形オートマタで呼ぶ スプリングには 気にせず、ジガがソファーに腰掛ける。
 スプリングは警戒心を持ちつつも間にテーブルを挟んだ 向かいのソファーに座る。
「それで商談とは?」
「そちらにある全部の映画のコピーが欲しい。」
「……映画は私の命ですよ…映画の価値も分からないオートマタに…。」
「ウチが差し出すのは、20世紀、21世紀の文化全般…映画とアニメで50万本。
 当時の漫画やライトノベルもある。」
「50万!?」
 やっぱりスプリングの興味を引いた。
「どうやってそれを?」
「ウチがインターネットアーカイブ財団襲撃事件の時に、最後までデータを移していたからだ。」
「エレクトロンが核で破壊したんでしょ?
 何でわざわざデータを移す必要性が?」
「実際にやったのはシンギュラリティガード…裏にいたのは、国連だ。」
「そんな訳ないでしょう…。
 人類の遺産を消滅させて 国連側に何のメリットがある!」
 スプリングは声を荒立てて言う。
「当時の事は知ってるだろう…。
 『バベル翻訳機』が出来て国同士の移住が活発になって来た時代だ。
 母国語同士で言葉が通じ、意思疎通がはかれるようになり、皆好きな国に移住して行った。」
 ヒトとモノをグローバル経済で世界中で共有した為、国の特徴が潰され、どの国も同じような感じになった。
 言語問題が解決した事で、生活水準の高い国に皆が移住してしまうんだから、途上国は とうとう運営する人員すらいなくなる事態だ。
「だが、ここまでしても統合政府…地球連合は出来なかった。
 各国が自分の国の特徴を守る為に過去の歴史を利用したからだ。」
 自分が体験もしていない何百年前の虐殺を根拠に上げたり、どの人より賢い機械デバイスに『おうかがいを立てている』ってのに、まだ皮膚色で優勢人類説を主張したりして…。
 結局、国のアイデンティティは現代じゃなくて過去の歴史なんだ。
「で、更に厄介なのは 機械と違って、人は規格製品じゃなかった事なんだ。
 その人の考え方、文化は移住先でも残るもんで…衝突した。
 ケンカしないように国境線を引いて『ここからはウチのルールでやる』って決めてたのに それを取っ払ったら…まぁ当然だよな。」
「……。」
 スプリングは どうにか落ち着いて話を聞く。
「で、それを解決する手段が大戦だ…。
 アメリカ国連は、世界中に広まったヒューマノイドを共通の敵にする事で団結をはかった。
 結果は見事に成功したが、ヒューマノイドを失い、文明レベルが下がり特に貧困層の死者数が急上昇した。」
「……。」
「大戦が始まって国連は、国連所属の多国籍義勇軍『シンギュラリティガード』を作って戦ったが…。
 現場の兵士は 安く買い叩かれた貧困層…。
 そして、敗北が濃厚になってくると、国連は敗戦後にプロパガンダのやり過ぎで 各国から袋叩きにあう事を恐れた。
 だからやめるに辞められない…。
 でも過去を清算して自分達に不利益にならず、上手に負ける方法はあったんだ…。」
「それが…インタネットアーカイブの破壊…。」
 スプリングは理解したみたいだ。
 過去の歴史を無くしてしまえば、地球連合が出来る。
 何せ、国のアイデンティティたる歴史を破壊出来るんだ…やり易くなるだろう。
「そう、ヒューマノイドが過去の膨大なデータを参照する事で、人を把握して精神レベルでの誘導を実現させる『メンタルハック理論』。
 これをウチらがやると主張して、国連の許可を取り付けた。
 そしてウチらは インターネットアーカイブに忍び込み、防衛名目で配置されていたシンギュラリティガードを無力化して、データバックアップを取ろうとしたんだ。
 が、アイツら仲間がいるってのに核を撃ちやがった。
 それで全部のバックアップを取る事を諦め、ウチが好きな20世紀21世紀の娯楽文化を優先したんだ。
 データは当時ヒューマノイドが開拓をしていた月に送った…最後の最後までな…結果ウチは核で消滅した。
 今のウチは作戦前に取られていたバックアップに オリジナルの更新データを同期させたものだ。」
「なら…何でオマエらがインタネットアーカイブ財団を破壊し、インターネット網をズタズタにした事になっている?」
「政府がエレクトロン側の条件をすべて飲んでいるにもかかわらず、コイツの破壊だけはどうしても認めなかったからだ。
 何せこの核のせいで『相互確証そうごかくしょう破壊はかい』が成立して地球上で核戦争になったからな…。
 合計1000発の核ミサイルの発射と迎撃げいげきの応酬…。
 イージスアショアが政治的な問題で導入出来なくてモロに受けた日本以外は 核の被害よりか、電磁パルスによるインフラと物流網の破壊による死者の方が多かったらしい…。」
「つまり」
「戦争の引き金が国連だと認める事は出来なかったんだ。
 だから、1000発の核をエレクトロンがやったと言う事にして核戦争を止めた。」
「……。」
「で、その後は、世界中を一気に武力制圧して、国を統合した…わざわざ圧政まで引いてな」
「世界中の憎悪値ヘイトを引き受けたのか…。」
「そう、人類…特に貧困層の救出は最優先だったからな。
 コッチも100年かけて和解すればいいと思ってたんだが…。」
 100年もち世代交代で人が入れ替われば記憶から消えるだろう…と思ってた。
 だが実際は遺伝子のように子供に伝播でんぱされ、2100年の『独立外交戦争』の勃発…。
 だが人類も変わった…殴って言う事を利かせるんじゃなく、高等生物らしく人類史上初の言葉を使った死人が出ない戦争で人類が独立をもぎ取った。
 そして氷河期で『人間らしい』生き方をそれぞれ定義した都市国家が次々に生まれ、100億の人口が10億まで減ったが、多様性と安定した生活を確保できた。
「それでこのデータだ。
 ウチが南極に立てた『データヘイブンサーバー』に世界中のマニアがデータを退避させてた…そのデータ。
 それに月に送ったデータに ヒューマノイドの中の映像データ。」
ヒューマノイドオートマタの映像データ?」
「核が撃たれた時に 全会一致で賛同してくれた世界中のヒューマノイドに送ったバックアップデータと、後は マスターと一緒に見た動画の視界ログから映像に再加工リマスタリングした物だな…。」
「いや理屈は分かりますが…何年掛かるです そんな処理」
「内部時間でざっと1万年か?…と言っても義体換装の度に処理能力が上がるから、時間感覚が乏しいんだよな…。」
「コレを僕に…。」
「そう、ネットに流してもどうせ使用頻度0だろうから『ライブラリー』に行っちまうしな…。」
 ネットの情報量は膨大な上に誤情報やクズ情報が山ほどある。
 だから『ハイウェイ』からAIがフィルタリングをかけ『ローウェイ』に人が見れるレベルに情報量を落とす…。
 こうしなければ、図書館から1冊の本を自力で探すような事になる。
 そして使用頻度が極端に低いものは インターネットアーカイブ2とも言われる通称『ライブラリー』に入れられる。
 こうなった場合、意図的にリクエストを出さない限り 人の目に触れる事はまずない。
「分かりました…交渉成立です。」
 スプリングが握手を求める…契約に不服なら手を払いのければいい。
「よし取引成立だ」
 ジガがスプリングの手を握り契約の合意のサインをする。
「結局 友好関係も結べちゃいましたね」
 スプリングの言葉が軽くなる。
「友好関係の証に大型シアタールームで映画を見ませんか?」
「そりゃいいね…。
 じゃあ『2001年宇宙の旅』、『2010年宇宙の旅』なんてどうだ?」
「まさか…持っているんですか?
 あれだけは予告映像までしか手に入らなかったのに…。」
「そりゃな…。
 ロボットの反逆系はプロパガンダ利用されるからウチらが隔離したからな…。」
 実際は検索ワードに引っかからないようにしただけなんだが…使用頻度が減った事で、データはインターネットアーカイブに移され、核攻撃で消滅…だったが どうにか月に送られた。
「ウチが最初に『ハル』と見た映画だ。」
「親父か…と言うことは 仲の良かったセクサロイドって…。」
「ああウチの事だ…ウチの店の常連だったしな。」
「旧時代の親父も相変わらずでしたか…。」
 スプリングの父親『ハル』はAI戦争が始まる前に文化財産として『低体温処理』され『人工冬眠』された。
 そして技術不足で施設を維持できなくなった為、管理費用を払うという条件でエクスマキナ都市に保存を委託いたくした。
 IAアイスエイジ400年…今から100年前に砦都市が ようやく安定…。
 氷河期の過酷な環境で技術が失われる中、エレクトロンから物資供給は受けるものの、自力で2030年代レベルまで駆け上がった。
 そして文化復興の為に 次々と文化財産達が低体温処理を解除され、550年で10年程老けたハルと再会する。
 担当したのはウチだ。
「ハルは解凍した時にっただけ だったからな…。」
 ってたのは数日だしほとんどど介護だ…。
 しかも、人工冬眠で一次的な記憶喪失になっていて、コッチの事はまるっきり忘れていた。
 だけど、ウチの事…思い出してくれた見たいだな。
「さぁて…化石映画の話題なんて滅多に出来ないからな…。
 今日は付き合ってもらうぜ。」
「はいはい…ドラムちゃん後は頼むよ…。」
「また無料で…お金稼がないと潰れますよ」
「50万も商品を手に入れたんですよ。
 発掘の手間を考えれば 数十億トニー位は軽く行きますよ」
「ハ~イ今回もまた30分後ですか?」
「ん~1時間…。
 2001年と2010年を見たいって言ってたお客さん沢山いたでしょ…」
「激レア品ですから…結構集まると思いますよ…。」
 ドラムちゃんはそう言うとチラシを即座に作りスプリングに送る…。
「いい出来…ドラムちゃん やっちゃって~」
「は~い」
 共通話題が仲良くなれる…。
 実際に30分前までエレクトロンを嫌っていたスプリングと今では仲良くなっている。
 映画自体の楽しみ方が分からないエレクトロンも多いので、押し付けになると思っていたが…。
 多少無理やりにでも引っ張って見るのも良いかもしれない。

 そして、平日なのにリアル参加、VR参加共に満員御礼…異例の2周上映になり、スプリングや常連さんとの映画トークは翌朝まで続くのだった。
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