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第16話 剣聖は息を合わせる
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リディアがやっつけたホブゴブリン達はボンと音を立てて、煙になって消えていった。後に残されたのは奴らの装備品と魔物の核である魔石のみである。
「ほう、魔物を倒すとこうなるのか」
ユーナが言った。
「ああ。あいつらは倒すと煙になって消えていくんだ。で、後には魔石が残る」
俺は言った。この魔石は魔物によって異なるので討伐した証として使われるし、魔力の塊なので加工して様々な用途に使われるのだ。
「レオンさん、ユーナちゃん、見てくれましたか! わたし、勝ちましたよ!」
リディアが手を振りながら戻ってきた。勝利を収めたその顔は晴れやかである。
「ああ、もちろん見てたよ。予想はしてたけど、リディアは強いんだな」
「レオンさんほどじゃありませんが、わたしも腕には覚えがあるんです」
俺が言うとリディアは得意気に笑った。
やっぱりかわいい。かわいいのだが……
「いやいや、あの技はすごかったよ」
「レオンさんにそう言ってもらえるのはうれしいですね。リディア・プリンセス・スラッシュはわたしの得意技なんですよ」
「そうか。得意技なのか、リディア・プリンセス・スラッシュが……」
「はい! そうなんです!」
「そうかー……」
俺がそう答えているとまたもや魔物の気配がした。
さっきのホブゴブリン達の叫びを聞きつけたのだろう。現れたのは一本の大きな角を生やしたイノシシ型の魔物、ホーンドホッグである。これまたなかなかの強敵だ。
「任せてください! わたしが仕留めます! リディア・プリンセス・チャージ!」
リディアは気合い十分といった感じで槍を構えると、自分よりもずっと大きなホーンドホッグに向かって突撃していった。
今度はリディア・プリンセス・チャージかー。見事な突撃だわー。
ホーンドホッグも角を振り立ててリディアに向かって突撃していったのだが、パワーが段違いだった。リディア・プリンセス・チャージによってホーンドホッグの巨体が吹っ飛ばされた。魔物は一声鳴くと煙となって消えていった。
「やりましたよ、レオンさん! 見てくれましたか!」
またもや一撃で勝利したリディアはぴょんぴょんと軽く跳びはねて喜んでいた。はしゃぐ姿はもうメチャクチャかわいいのだが、いまの俺はどうにもこうにも素直にドキドキ出来なかった。
で、ホーンドホッグの最後の鳴き声を聞きつけたのだろう、またもや魔物がやってきた。
続いて現れたのはナイトメアエイプ。真っ黒の体をしたサル型の魔物である。ホーンドホッグ並に大きい上に動きも機敏という危険な魔物である。
が、
「新手ですね! でも、すぐに倒しちゃいますよ! リディア・プリンセス・バスター!」
リディアは張り切っていた。赤い稲妻のごとき上段からの振り下ろし、リディア・プリンセス・バスターによって、ナイトメアエイプもあっけなく粉砕してしまった。
俺はリディア・プリンセス・スラッシュに続いてリディア・プリンセス・チャージとリディア・プリンセス・バスターを見せられた。もう限界だった。
「ユーナよ、リディア・プリンセス・スラッシュってなんだ?」
「リディアの必殺技では」
俺が聞くとおかっぱ頭の五歳児はそう答えた。
「リディア・プリンセス・チャージは?」
「それもリディアの必殺技では」
「リディア・プリンセス・バスターは?」
「それも同じでは」
「……なんでどれもそんな感じの技名なんだ?」
「リディアがお姫様だからでは」
五歳児は言った。
そっかー。そうだよなー。あれやっぱお姫様だよなー。俺もそう思ってたわー。
「ユーナよ……俺はどうしたらいいんだ」
俺はもう途方に暮れていた。
いや、リディアがお姫様だっていうのは納得出来るんだよ。立ち振る舞いには品があるし、食事のときのマナーも明らかに上流階級のそれだった。表情や仕草なんかも単にきれいでかわいいだけじゃなくて高貴な感じなのである。それにリディアがお姫様だとすれば自己紹介のときの「ただのリディア」という不自然な言い回しも明らかに名品で高価な槍を持ってることも説明がつく。
でも、だからって、必殺技に自分の名前とプリンセスってフレーズぶち込むお姫様ってどうなんだよ。
「途方に暮れるのもわかるが、あれはツッコんではならないやつ。本人が話してくれるのを待つべきでは」
「そうするしかないか……」
「私とてあの技名にはツッコみたい。だが、私たちは仲間としてリディアが話す気になるのを待つべき」
「だよなあ……」
俺はユーナに同意した。
正直なところ俺もあの冗談としか思えない技名にはツッコみたかったのだが、やはり仲間としてリディアを信じるべきだ。
「さあ、この調子でどんどん魔物を倒していきましょう!」
そう言って張り切るリディアに俺たち二人はなんとも言えない心境でついていった。
その後もリディアはツッコミ待ちとしか思えない技の数々を駆使して森の中の魔物を倒していった。
だが、俺もユーナも決して「リディアってお姫様だよね?」などと言ったりはしなかった。だってリディアは、俺たちの大切な仲間なのだから。そう、必殺技に自分の名前をぶち込むようなヤバイセンスの持ち主であろうとも、正体を隠してるのに技名で豪快にネタばらししていようとも、リディアは大切な仲間なのである。
そんな俺たちの思いが通じたのだろう。森の中の開けた場所で一休みすることにしたときに、リディアがおもむろに口を開いた。
「レオンさん、ユーナちゃん……私はお二人に隠していたことがあるんです」
「隠していたこと?」
「なんだろうか?」
俺とユーナは息を合わせてすっとぼけた。
「私の本当の名前はリディア・シルベスタ。このスローディル王国の西にあるシルベスタ王国の、王女なんです」
「な、なんだって!」
「それはびっくり!」
リディアの告白に俺とユーナは息を合わせて目を見開いた。
これでもうあの技名にツッコミを入れるのを我慢しなくていいのだと思うと、実に晴れやかな気分だった。
「ほう、魔物を倒すとこうなるのか」
ユーナが言った。
「ああ。あいつらは倒すと煙になって消えていくんだ。で、後には魔石が残る」
俺は言った。この魔石は魔物によって異なるので討伐した証として使われるし、魔力の塊なので加工して様々な用途に使われるのだ。
「レオンさん、ユーナちゃん、見てくれましたか! わたし、勝ちましたよ!」
リディアが手を振りながら戻ってきた。勝利を収めたその顔は晴れやかである。
「ああ、もちろん見てたよ。予想はしてたけど、リディアは強いんだな」
「レオンさんほどじゃありませんが、わたしも腕には覚えがあるんです」
俺が言うとリディアは得意気に笑った。
やっぱりかわいい。かわいいのだが……
「いやいや、あの技はすごかったよ」
「レオンさんにそう言ってもらえるのはうれしいですね。リディア・プリンセス・スラッシュはわたしの得意技なんですよ」
「そうか。得意技なのか、リディア・プリンセス・スラッシュが……」
「はい! そうなんです!」
「そうかー……」
俺がそう答えているとまたもや魔物の気配がした。
さっきのホブゴブリン達の叫びを聞きつけたのだろう。現れたのは一本の大きな角を生やしたイノシシ型の魔物、ホーンドホッグである。これまたなかなかの強敵だ。
「任せてください! わたしが仕留めます! リディア・プリンセス・チャージ!」
リディアは気合い十分といった感じで槍を構えると、自分よりもずっと大きなホーンドホッグに向かって突撃していった。
今度はリディア・プリンセス・チャージかー。見事な突撃だわー。
ホーンドホッグも角を振り立ててリディアに向かって突撃していったのだが、パワーが段違いだった。リディア・プリンセス・チャージによってホーンドホッグの巨体が吹っ飛ばされた。魔物は一声鳴くと煙となって消えていった。
「やりましたよ、レオンさん! 見てくれましたか!」
またもや一撃で勝利したリディアはぴょんぴょんと軽く跳びはねて喜んでいた。はしゃぐ姿はもうメチャクチャかわいいのだが、いまの俺はどうにもこうにも素直にドキドキ出来なかった。
で、ホーンドホッグの最後の鳴き声を聞きつけたのだろう、またもや魔物がやってきた。
続いて現れたのはナイトメアエイプ。真っ黒の体をしたサル型の魔物である。ホーンドホッグ並に大きい上に動きも機敏という危険な魔物である。
が、
「新手ですね! でも、すぐに倒しちゃいますよ! リディア・プリンセス・バスター!」
リディアは張り切っていた。赤い稲妻のごとき上段からの振り下ろし、リディア・プリンセス・バスターによって、ナイトメアエイプもあっけなく粉砕してしまった。
俺はリディア・プリンセス・スラッシュに続いてリディア・プリンセス・チャージとリディア・プリンセス・バスターを見せられた。もう限界だった。
「ユーナよ、リディア・プリンセス・スラッシュってなんだ?」
「リディアの必殺技では」
俺が聞くとおかっぱ頭の五歳児はそう答えた。
「リディア・プリンセス・チャージは?」
「それもリディアの必殺技では」
「リディア・プリンセス・バスターは?」
「それも同じでは」
「……なんでどれもそんな感じの技名なんだ?」
「リディアがお姫様だからでは」
五歳児は言った。
そっかー。そうだよなー。あれやっぱお姫様だよなー。俺もそう思ってたわー。
「ユーナよ……俺はどうしたらいいんだ」
俺はもう途方に暮れていた。
いや、リディアがお姫様だっていうのは納得出来るんだよ。立ち振る舞いには品があるし、食事のときのマナーも明らかに上流階級のそれだった。表情や仕草なんかも単にきれいでかわいいだけじゃなくて高貴な感じなのである。それにリディアがお姫様だとすれば自己紹介のときの「ただのリディア」という不自然な言い回しも明らかに名品で高価な槍を持ってることも説明がつく。
でも、だからって、必殺技に自分の名前とプリンセスってフレーズぶち込むお姫様ってどうなんだよ。
「途方に暮れるのもわかるが、あれはツッコんではならないやつ。本人が話してくれるのを待つべきでは」
「そうするしかないか……」
「私とてあの技名にはツッコみたい。だが、私たちは仲間としてリディアが話す気になるのを待つべき」
「だよなあ……」
俺はユーナに同意した。
正直なところ俺もあの冗談としか思えない技名にはツッコみたかったのだが、やはり仲間としてリディアを信じるべきだ。
「さあ、この調子でどんどん魔物を倒していきましょう!」
そう言って張り切るリディアに俺たち二人はなんとも言えない心境でついていった。
その後もリディアはツッコミ待ちとしか思えない技の数々を駆使して森の中の魔物を倒していった。
だが、俺もユーナも決して「リディアってお姫様だよね?」などと言ったりはしなかった。だってリディアは、俺たちの大切な仲間なのだから。そう、必殺技に自分の名前をぶち込むようなヤバイセンスの持ち主であろうとも、正体を隠してるのに技名で豪快にネタばらししていようとも、リディアは大切な仲間なのである。
そんな俺たちの思いが通じたのだろう。森の中の開けた場所で一休みすることにしたときに、リディアがおもむろに口を開いた。
「レオンさん、ユーナちゃん……私はお二人に隠していたことがあるんです」
「隠していたこと?」
「なんだろうか?」
俺とユーナは息を合わせてすっとぼけた。
「私の本当の名前はリディア・シルベスタ。このスローディル王国の西にあるシルベスタ王国の、王女なんです」
「な、なんだって!」
「それはびっくり!」
リディアの告白に俺とユーナは息を合わせて目を見開いた。
これでもうあの技名にツッコミを入れるのを我慢しなくていいのだと思うと、実に晴れやかな気分だった。
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