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第15話 剣聖は見物する
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そんなことを考えながら朱色の槍をじーっと見ているとリディアが少し慌てた様子で言った。
「レ、レオンさんの剣もすごいですよね。あの黒い刃、すっごくきれいでした」
「まあ、伝家の宝刀ってやつだよ」
ポンと愛剣の柄に手を置いて言った。
そう、このサーベル、レルグロードは我がバルカス家に代々伝わる業物である。なんでも大昔の初代剣聖の愛剣で、彼がひたすら鍛錬を続けた結果、剣気が染みついて元は銀色だった刃が黒く染まったとかいう話だ。眉唾な逸話ではあるが実際に凄まじい切れ味なのは間違いない。雲とか雷とかスパッと斬れるし。
本来であれば当主である親父が持つべき剣なのだが、親父は居合いにドハマりして自分用の仕込み杖を作ってしまったので(メチャクチャ高価だったので当時母上に思いっきり叱られていた)レルグロードの方は俺が使わせてもらっている。
「それにしても驚きました。レオンさんが、あの剣聖レオン・バルカスだったなんて」
「私は初めて会ったときに聞いていた。でもまさか雷を斬れるとは思わなかった」
リディアに続いてユーナが言った。
「ところでどうして剣聖であるレオンさんが冒険者なんてやってるんですか? ユーナちゃんのことはたまたま拾ったって言ってましたけど……」
リディアは俺たちを見て首をかしげた。
やべえ。昨日ちゃんと話しておくつもりだったのにマジ説教食らったせいですっかり忘れてた。ちゃんと説明しないと。
「あー、それなんだがな……」
「というわけで俺は家を追い出されて冒険者をやることになって」
「私は赤ウナギの肝焼きを買ってもらって保護者を得た」
ユーナと二人でこれまでの経緯を説明した。
俺たちの説明を聞き終えたリディアは考え込むようなそぶりを見せた。
「……ユーナちゃんがどこから来たのかはレオンさんもわからないんですね……」
「そうなんだ。ユーナ、記憶が戻ったりはしてないか?」
俺は隣を歩くユーナにちょっと聞いてみた。
「ものの見事に! 戻る気配が! ないッ!」
「なんで力強く言った」
「天気もいいしおでかけなので私ははしゃいでいる」
「そうか」
依頼を受けたわけでないとはいえ、一応今日から冒険の始まりだ。ユーナのテンションも上がるか。楽しんでいるのならなによりだ。
「でも、ユーナちゃんは何者なんでしょう?」
「それだよなあ。なにせ完全無詠唱で回復魔法使えるんだもんなあ……」
リディアの疑問はもっともだ。
ユーナは色々と変わっている五歳児だが、この点については変わっているという言葉で片付けられる限界を超えている。どれほど変わっていようとも五歳の子供に完全無詠唱での回復魔法など出来るわけがないのだ。
「やっぱりアブゼイル魔導王国に関係があるんでしょうか」
「俺もそんな気はしてるんだが、あの国って遠い上に秘密主義なんだよなー……」
アブゼイル魔導王国は世界で最も魔法技術が発展している国である。魔法に関する研究も盛んに行われているそうなのだが、いまいるスローディル王国からはかなりの距離があるし他国とはほとんど交渉を持たないちょっと変わった国でもある。なのでバルカス家の力を使ってユーナについて問い合わせるとかも難しい。
現状、ユーナは俺たちとの生活を楽しんでいる。それはいいし俺もきちんと保護者としての役目を果たすつもりだ。とはいえ、やっぱりどこの誰なのかをちゃんと調べていつかは家に帰してやらないといけないとも思っていた。
「それで、二人に相談があるんだが――」
俺は言いかけた言葉を途中で止めた。ちょうど森の入り口まで来たところだったのだが、魔物の気配を感じたのだ。
森の中に入るまでは大丈夫かと思っていたが、そうでもなかったらしい。
姿を現したのはホブゴブリンだ。通常のゴブリンよりも体が大きく、強力な個体である。それが三体。手には斧や剣を持っている。駆け出しの冒険者ではちょっと刃が立たない相手だがEランク冒険者といっても元Sランクで剣聖の俺には問題にならない。
ここは剣聖流攻撃魔法でも使ってパパッと片付けて話の続きをするか、と思ったのだが槍を手にしたリディアがすっと前に出た。
「わたしに任せてください」
「それもそうか。ここは君の実力を見せてもらうことにするよ」
そもそも今日はリディアの腕前を確認するために来たのだ。ここは彼女に任せよう。
「ユーナ、俺たちは後ろで見物だ」
「ん。リディア、ガンバ」
「ありがとう、ユーナちゃん。頑張るね」
ユーナの応援を聞いたリディアは笑って手を振った。
俺はユーナを連れて安全なところまで移動した。
リディアが槍のカバーを外す。燃えさかる炎のような赤い色をした穂先が露わになった。
やっぱあれ、ものすごい名品なんじゃないか? ユーナの正体も謎だけど、リディアの方も……。
疑問を感じつつも成り行きを見守っていると、三体のホブゴブリンがリディアを威嚇するように叫び声を上げた。
「ゲギャアアア!」
いよいよ仕掛けてくるようだ。
リディアは静かに短槍を構えた。彼女の所作は洗練されていて無駄がなく、見とれるほどに美しかった。……いやまあ、俺は普段からよくリディアに見とれてるんだが。
数に任せて突撃しようとしていたホブゴブリン達も敵の力量を悟ったようで、動きを止めて慎重に様子をうかがった。
やっぱ上位種だけあるな。でも、流石に相手が悪い。
俺には既に勝敗が見えていた。この程度の魔物たちでは何体いようが勝負にならない。
リディアが動く。
「行きますよ! 必殺の! リディア・プリンセス・スラッシュ!」
朱色の槍による神速の一振りによって、三体のホブゴブリンはまとめてなぎ倒された。
リディアは一瞬にして見事な勝利を収めた。
それはいい。それはいいんだが……技名が……ヤバくないか。
「レ、レオンさんの剣もすごいですよね。あの黒い刃、すっごくきれいでした」
「まあ、伝家の宝刀ってやつだよ」
ポンと愛剣の柄に手を置いて言った。
そう、このサーベル、レルグロードは我がバルカス家に代々伝わる業物である。なんでも大昔の初代剣聖の愛剣で、彼がひたすら鍛錬を続けた結果、剣気が染みついて元は銀色だった刃が黒く染まったとかいう話だ。眉唾な逸話ではあるが実際に凄まじい切れ味なのは間違いない。雲とか雷とかスパッと斬れるし。
本来であれば当主である親父が持つべき剣なのだが、親父は居合いにドハマりして自分用の仕込み杖を作ってしまったので(メチャクチャ高価だったので当時母上に思いっきり叱られていた)レルグロードの方は俺が使わせてもらっている。
「それにしても驚きました。レオンさんが、あの剣聖レオン・バルカスだったなんて」
「私は初めて会ったときに聞いていた。でもまさか雷を斬れるとは思わなかった」
リディアに続いてユーナが言った。
「ところでどうして剣聖であるレオンさんが冒険者なんてやってるんですか? ユーナちゃんのことはたまたま拾ったって言ってましたけど……」
リディアは俺たちを見て首をかしげた。
やべえ。昨日ちゃんと話しておくつもりだったのにマジ説教食らったせいですっかり忘れてた。ちゃんと説明しないと。
「あー、それなんだがな……」
「というわけで俺は家を追い出されて冒険者をやることになって」
「私は赤ウナギの肝焼きを買ってもらって保護者を得た」
ユーナと二人でこれまでの経緯を説明した。
俺たちの説明を聞き終えたリディアは考え込むようなそぶりを見せた。
「……ユーナちゃんがどこから来たのかはレオンさんもわからないんですね……」
「そうなんだ。ユーナ、記憶が戻ったりはしてないか?」
俺は隣を歩くユーナにちょっと聞いてみた。
「ものの見事に! 戻る気配が! ないッ!」
「なんで力強く言った」
「天気もいいしおでかけなので私ははしゃいでいる」
「そうか」
依頼を受けたわけでないとはいえ、一応今日から冒険の始まりだ。ユーナのテンションも上がるか。楽しんでいるのならなによりだ。
「でも、ユーナちゃんは何者なんでしょう?」
「それだよなあ。なにせ完全無詠唱で回復魔法使えるんだもんなあ……」
リディアの疑問はもっともだ。
ユーナは色々と変わっている五歳児だが、この点については変わっているという言葉で片付けられる限界を超えている。どれほど変わっていようとも五歳の子供に完全無詠唱での回復魔法など出来るわけがないのだ。
「やっぱりアブゼイル魔導王国に関係があるんでしょうか」
「俺もそんな気はしてるんだが、あの国って遠い上に秘密主義なんだよなー……」
アブゼイル魔導王国は世界で最も魔法技術が発展している国である。魔法に関する研究も盛んに行われているそうなのだが、いまいるスローディル王国からはかなりの距離があるし他国とはほとんど交渉を持たないちょっと変わった国でもある。なのでバルカス家の力を使ってユーナについて問い合わせるとかも難しい。
現状、ユーナは俺たちとの生活を楽しんでいる。それはいいし俺もきちんと保護者としての役目を果たすつもりだ。とはいえ、やっぱりどこの誰なのかをちゃんと調べていつかは家に帰してやらないといけないとも思っていた。
「それで、二人に相談があるんだが――」
俺は言いかけた言葉を途中で止めた。ちょうど森の入り口まで来たところだったのだが、魔物の気配を感じたのだ。
森の中に入るまでは大丈夫かと思っていたが、そうでもなかったらしい。
姿を現したのはホブゴブリンだ。通常のゴブリンよりも体が大きく、強力な個体である。それが三体。手には斧や剣を持っている。駆け出しの冒険者ではちょっと刃が立たない相手だがEランク冒険者といっても元Sランクで剣聖の俺には問題にならない。
ここは剣聖流攻撃魔法でも使ってパパッと片付けて話の続きをするか、と思ったのだが槍を手にしたリディアがすっと前に出た。
「わたしに任せてください」
「それもそうか。ここは君の実力を見せてもらうことにするよ」
そもそも今日はリディアの腕前を確認するために来たのだ。ここは彼女に任せよう。
「ユーナ、俺たちは後ろで見物だ」
「ん。リディア、ガンバ」
「ありがとう、ユーナちゃん。頑張るね」
ユーナの応援を聞いたリディアは笑って手を振った。
俺はユーナを連れて安全なところまで移動した。
リディアが槍のカバーを外す。燃えさかる炎のような赤い色をした穂先が露わになった。
やっぱあれ、ものすごい名品なんじゃないか? ユーナの正体も謎だけど、リディアの方も……。
疑問を感じつつも成り行きを見守っていると、三体のホブゴブリンがリディアを威嚇するように叫び声を上げた。
「ゲギャアアア!」
いよいよ仕掛けてくるようだ。
リディアは静かに短槍を構えた。彼女の所作は洗練されていて無駄がなく、見とれるほどに美しかった。……いやまあ、俺は普段からよくリディアに見とれてるんだが。
数に任せて突撃しようとしていたホブゴブリン達も敵の力量を悟ったようで、動きを止めて慎重に様子をうかがった。
やっぱ上位種だけあるな。でも、流石に相手が悪い。
俺には既に勝敗が見えていた。この程度の魔物たちでは何体いようが勝負にならない。
リディアが動く。
「行きますよ! 必殺の! リディア・プリンセス・スラッシュ!」
朱色の槍による神速の一振りによって、三体のホブゴブリンはまとめてなぎ倒された。
リディアは一瞬にして見事な勝利を収めた。
それはいい。それはいいんだが……技名が……ヤバくないか。
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