恋は潮騒のように

梅咲あすか

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 それから一週間、俺は毎日颯太郎くんの病院へ通い、彼といろいろな話をして過ごした。家族のこと、学校生活のこと、好きな本や好きな映画、それからおすすめのお店。
 彼のことを一つ知るたびに好きな気持ちは膨れ上がる。どうしようもなかった。「諦める」なんて選択肢は、もう、見えない。

 函館へ帰る前日、病院のロビーで、颯太郎くんのお母さんと妹さんに出会った。
 俺は彼女らに、颯太郎くんとは函館で出会ったこと、そして彼のことを大切に思っていることを伝えた。
 颯太郎くんは家族にゲイであることをカミングアウトしているらしく、彼女らは驚いたように二人顔を見合わせ、やがてふわりと微笑んだ。それから、俺と連絡先を交換してくれた。

「颯太郎に何があっても、あの子を大切に思う気持ちを捨てないでいてくれますか?」

 お母さんは控えめな笑顔の奥に見せた、真剣な瞳で俺に問うた。

「もちろんです」
「ありがとう。……本当にありがとう。凪くんがあの子に出会ってくれてよかった」

 彼女は声を震わせる。
 俺は唇を引き結んで頷いた。


 翌日、俺は午前のうちから特別に病室へ入れてもらった。
 尾道から広島空港までは距離があるため、あまりゆっくりしている時間はない。

「颯太郎くん。次は五月の連休使ってこっち来るよ」

 彼は眉を下げて微笑した。

「……うん。ありがと凪。次もどうにか会えそうだな」
「絶対会うんだからな。あと、時々メッセージも送るよ。しんどかったら、返信は気にしないでいいから」
「ううん。俺も送る。凪とメッセージのやりとりするの元気出るから……」

 彼は声を詰まらせる。
 やがて伏せられた瞼が震え、ポロポロと大粒の涙が溢れた。

「うぅ、……っぐ」
「……颯太郎くん」

 俺は彼の背中に手を回し、トントンと優しく叩いた。

「大丈夫だよ颯太郎くん」
「……っ、ごめ、泣きたくなかったのに」

 俺はポケットに手を入れて、中から二つのお守りを取り出した。
 透明の巾着のような形のお守りで、それぞれ赤い紐と白い紐が結ばれている。赤い紐の方には恋文が結ばれたかんざし、白い紐の方には小判とお米が入っている。

「見て。千光寺でこんなの買ってきたんだ。ちょっと面白くない?」

 俺は赤い紐の方を颯太郎くんに手渡した。
 彼はゴシゴシと涙を拭う。

「……縁結び?」
「そう」

 彼はお守りと俺の顔を交互に見つめ、やがてふふっと微笑んだ。
 窓の隙間から潮風が吹き込んでくる。遠くの海が白く光る。

「凪って意外とこういうの好きなんだ」
「ううん。初めて買った」
「……そっか。俺も、初めてもらった」

 キスしていい? と、耳元で囁いた。
 こくりと頷いた彼の白い頬に手を添えて、ちゅ、と音を立て唇を重ねる。
 しょっぱい海の味がする。

「好きだよ、颯太郎くん」
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