テンセイミナゴロシ

アリストキクニ

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第四章

4-3 世界の仕組み③

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 目の前で繰り広げられる赤と白の狂宴をなんとか最後まで見届ける。記憶の中の僕はとても嬉しそうに笑い、仲間達と抱擁を交わしていたが、僕はただ……ただひたすらに死んでしまいたかった。
 意識がゆっくりと現実に引き戻されていく。何もかもが厭わしい。何もかもが面倒であった。
「気分はどうだい」
 リーダーがわざとらしく聞いてくる。気分だと? あんなものを見せられて気分もクソもあるものか。
「できることなら今すぐにでも死にたいですよ。昔のあなた達と同じです」
 第一世代と呼ばれる最初の天聖者達が全員死を選んだ理由がよくわかった。むしろあれを見て『起きたことは仕方がない。これから頑張っていこう』などと言い放てる奴がいたとしたらそいつは間違いなく人でなしの異常者だろう。
「その通りだ。私たちも神の間にて神にあれを見せられた時、全員死ぬつもりだった」
 でも死ななかった。ブレイカーが死ねるかどうかがわからなかったからだ。
「もし私の力をもってしてもブレイカーを殺してやれなかった時、彼女はたった一人でこの罪を背負いながら生きていくことになる。そしてそれに耐えることはできなかっただろう」
 だから皆で生きて罪を背負う。それはいい、好きにすればいい。しかし……
「全部……全部わかった上でやっているのか。その力が一体どんなものか理解した上で、未だに使い続けているというのか」
 天聖者がいつもどこからか取り出すその武器や装備品は血と肉の塊で、不思議な原理で生み出される魔法の力は死者の叫びだ。それを全て知った上で、理解した上で何故そんなものを使えるのだ。
「僕はできることなら今すぐにでも全てを捨て去りたい。僕はあなた達と違って人の心を残しているんだ。こんな力を使えるはずがない」
 最低最悪なことに、僕の全能は自動発動するのだ。しかも頭に思い描いただけで! 僕の力は発動してしまうのだ!
「前にも言うたやろ。転生無くすためならなんでもやるって」
 ダウターが静かに答えた。ああ、確かに言っていたよ。でもまさかこんな事だとは思いもしなかった。
「僕だって多少の覚悟はしていました。でもあれは……あれはあまりにもひどすぎる……!」
「じゃあどうすればいいの」
 ブレイカーの苛立った声が聞こえた。
「何もしなければ天聖者はどんどんと増え続けるよ。そいつらは自分たちが何をしてるかなんて一生気づく事なく自由気ままに力を使い続ける。誰かが止めなきゃいけないんだ」
「…………」
 言っていることは理解できる。何もかもその通りで正論だ。でもあれは、あれはそんなもので受け入れられるような事じゃないんだ。目の前で震える女の子をバラバラに切り刻めば世界が救われる、なら切り刻むしかない。わかるよ。そりゃそうなのかもしれない。問題はそれをずっとやり続けないといけないってことだ。目の前の一人だけならなんとかできるかもしれない。でも違うだろ? ずっとずっと、いつどこで迎えられるかもわからないハッピーエンドを探してやり続けなきゃいけない。
「どうして僕を巻き込んだんですか」
「それも説明したやろ。転生者のチート能力に溺れず、導きの扉の影響を受けずに済む奴が必要やったんや」
「そんなことを言ってるんじゃない。どうしてリーダーがやらないのかって話です」
「……どういう意味かな」
「わかってるはずです。あなたはやり直しの力を持っている。もしくは人をやり直させる力、そうでしょう?」
「どうしてそう思った?」
「そうとしか考えられないからです。僕は何度も何度も失敗してはリセットをしている。でもこれが僕自身の能力なら、リーダーや他の人たちがやり直す前のことを覚えているはずがない」
「コネクターがいる。君がやり直した瞬間に彼女が繋げば記憶の共有は可能だ」
「それもない。彼女のいないところでも何度もやり直しをしていたし、何よりあなた達はたまに『前の自分』や『後の自分』といった言葉を使う。これは明らかに、あなた達の側で何かを引き継いでいることに他ならない」
「……なるほど」
「リーダー……もうええんやないですか。元々全部話すつもりやったんでしょ。リーダーが俺たちのために何をしてくれてるんか、オールにもちゃんと説明しましょ」
 僕の想像するニュアンスとは少し違う形でダウターがリーダーに水を向けた。リーダーが僕を何度も転生させているのだとしたら、彼がダウター達のために何かをしているというのは微妙におかしい。
「そうだな。オールは少なくとも資格を得た。私たちと同じくこの世界の深淵を垣間見たのだ」
 そういうと彼は大きく息を吐き、僕の想像もしていない『やり直し』のカラクリを話し出したのだ。

「まず最初に言っておくが、この転生世界にやり直しや蘇生はない。私は他人をやり直させる事はできないが、しかしそれでも自分が何度も繰り返す事はできる」
 禅問答のような前置きに首を僅かに傾げることしかできない。やり直しがないのなら、どうしてリーダー自身がそれを可能にするというのだろうか。
「この説明をするためには、まずは私の罪名である『ホールダー』の能力について理解してもらう必要がある」
「それについては少しだけ聞いたことがあります。あなたは神を殺したことの罪から、その事を決して忘れることのできない罰を受けたと」
 彼は僕の言葉を聞いて、笑ったかのように少し身体を揺らした。
「それは正確ではない。私は……『保つ者』としてあらゆるものを維持しているのだ」
「あらゆるもの……?」
 記憶以外にも何かを持ち続けているのだろうか。軽く考えを巡らせてみたが、何一つ想像はつかなかった。
「宇宙や世界の終わりには何があると思う?」
 急に話題が変わったことに僕はまた少しの苛立ちを感じる。
「宇宙が終わるならもうそこには無しかないんじゃないですか?」
 宇宙の始まりが無から起きたとするならば、宇宙の終わりはやはり無であるはずだろう。
「君は神を信じるかい?」
 また話題が大きく飛んだ。彼は『説明する』という言葉の意味を知らないんじゃないだろうか。
「いるでしょ、この世界には『女神様』が」
 あえて彼の嫌う女神様という言葉を使って挑発したが、彼はやはり少し笑ったかのように身体を軽く揺らしただけだった。
「彼女は本当の神なんかじゃない。私が殺した神も同じだ。本当の神は私たちの手が届かないところにいるのだ」
 ……もはや宗教だ。ここまでくるともう僕からは何も言えず、ただ彼の言葉を聞くだけだった。
「私が殺した最初の神が、唯一絶対の神であったなら、アンダースタンダーが神の肩代わりをする必要などなかったのだ。『女神様』などは更に上位の神……私たちが『絶対者』と呼んでいるソレの使い走りでしかない」
 ここにきて新しい名前が増えた。僕たちが今まで神だと考えていた者の、更に上位者がいるだって?
「まあその絶対者のことはひとまず置いておこう。そういう存在があることだけ理解してくれればいい。そしてさっきの質問の答えだが、宇宙の終わりには……宇宙の始まりがあるのだ」
「哲学ですか?」
「いいや、言葉の通りの意味さ。宇宙が終わるとまた宇宙が始まるんだよ、まるでゲームのリセットのようにね」
「上位者は神や天聖者を使い、人間を散々に弄ぶ。そして長い長い時間を経て、飽きるんだ。人間のありとあらゆる苦痛を観察して、理解して、自分のものにした後に……飽きるんだよ。今まで自分がやってきたことにね」
「全てを理解した全知全能の神は飽き飽きするんだ。この世にはもう目新しいことは何も無くなってしまったから。そうして神はリセットする。宇宙や世界を丸ごとリセットして、ついでに自分の記憶もリセットしちゃうのさ」
「リセットした新しい宇宙と、記憶をリセットされた絶対者はまた最初から同じことを繰り返す。生命を作り、自分の全知と全能に疑問を持つ。失敗をできない絶対者には苦痛も辛酸もわからない。だから代わりに苦痛を受ける存在を作ろうと考え、人間を作り出す。そして人間に可能なありとあらゆる苦痛を理解した後に、人間を超えた存在を作ることを思いつき、転生システムを作る……」
 あまりにスケールの大きい話だったが、なんとなく理解ができた。いや、できてしまった……
「そう。繰り返しているのはオールや私じゃない」

「宇宙そのものなのさ」
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