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日記vi
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そのまま私はクレーターのある南山の山頂ゾーンへ向かった。
1月11日だった。
このゾーンでは、あの歴史的バブル経済期間に大規模年金保養施設建設の為の山地造成が成され、当時流行ったハコもの建設が施工された。そういったものの半分以上が今は廃墟となっているという。理由は様々だ。ここでは......
その原因はメテオ・インパクト。つまり隕石落下が南山の向う側で起きたから。
この隕石はさほど大きいものではなかったが、宇宙からの落下の衝撃で直径二五〇メートルのク
レーターを形成するには充分だった。そんな事があったことも私は放浪生活の中で忘れてしまっていた。記憶が、ほんとうだったかどうか確認しに来たのだ。山頂辺りに着くと、そこには廃墟になったキャンプ施設がまだ壊されずに古びたまま残っていた。その向こうに、クレーターがあったはずだ。
......あった!
しかし、三十年という時を超え、それは湖となっていた。だが、しかし私はふと思った。これは本当にクレーターだったのか? もともと湖ではなかったのか? 宇宙から落下した隕石が直径ニ五〇メートルのクレーターを造った、なんてそもそも誰が言い出した? あの日のクラスメートらじゃなかったか? 新聞記事じゃなかったと思う。確かな情報だったのか?
--- --- ---
そうだ。私は、自分の頭の中で友人から聞いた噂話の『クレーター』を空想していただけだったのかもしれない。このキャンプ場を使った思い出もない。だが、このキャンプ場でキャンプをした、という空想を頭の中で構築していたのだ。なぜか? そう、私はあのキャンプに行けなかったのだ。私の他の全ての同級生が参加したキャンプだったのだが・・・。私は行けなかった。当時通っていた学習塾の合宿があったからだ。その後、同級生の友人らとの関係は、なんとなくよそよそしいものになっていった。『彼ら』と『私』という隔絶された雰囲気がどこか漂った。
私は『欠落』を補完するように、友人らのお喋りからの情報を空想によって再構築し、『想像上の
キャンプの記憶』を脳内につくりだしたのであった。私の真剣さが、その記憶をいっそうリアルなものにした。子供が何かに真剣になるとき、恐るべき力を発揮するものなのだ。湖を見ながら、私はあの時代に私が感じていた事をリコールした。つまり、この湖が隕石で出来たクレーターであるという確証は私には無いのだ。だが、この湖には何か得体のしれない空気が漂って居る・・・。Gタウンは太古から宇宙の神秘と無縁ではない。近隣の村には『天翔ける舟』が降りて来ていたとされる大岩もある。其の村には天文台が在るのだが、宇宙からの訪問者がそこで何度も目撃されたという情報もある。しばし岸から湖面を眺めたあと、私はそこを去り再びパジェロミニに乗り込んだ。東山(通称キャスルヒル)へ向かう為だ。ダッシュボードに数日前に買って忘れていたミルキーチョコが入っていた。疲れた頭には丁度良い。
--- --- ---
南山を麓まで下った。南山は古くから人々が住みついていた。その中腹には仏教徒が祈りの時に使用する、線香を生産する手工業があった。山幅は広く、Y川に沿って広がっている。Y川は南山を背にすると右が上流となる。トラッカーらがよく使う道路もY川に沿っている。Y川上流の方向へ向かえばアッパータウンKに行ける。南山の麓から三つの道に分かれる。右へ行くと山深く、シャーロック・ホームズとモリアーティが決闘した断崖のような光景がある。左へ行くとY川の下流へ向かって進むことになる。こちらはうっそうとした南米的ジャングルのような道になっている。かつて、この道の入り口には遊郭があったという。もう少し進むと映画『キャット・ピープル』の舞台のように、猫の一族がたむろしている木々が現れる。この道は散歩するには面白い。その先に『ストゥーパ』遺跡が在り、そこから向こうがトラッカーたちの集荷場。三つ又の中央を行くと、ミドルスクールが在る。その脇からキャスルヒルへの登山道に入れる。キャスルヒルの歴史は古く、モナークの古城があった時代に遡る事が出来る。
登山道を登っていく。Gタウンの人口が近年著しく減少した為、登山者も減りキャスルヒルのかなりの面積が原生林に還ろうとしていた。
1月11日だった。
このゾーンでは、あの歴史的バブル経済期間に大規模年金保養施設建設の為の山地造成が成され、当時流行ったハコもの建設が施工された。そういったものの半分以上が今は廃墟となっているという。理由は様々だ。ここでは......
その原因はメテオ・インパクト。つまり隕石落下が南山の向う側で起きたから。
この隕石はさほど大きいものではなかったが、宇宙からの落下の衝撃で直径二五〇メートルのク
レーターを形成するには充分だった。そんな事があったことも私は放浪生活の中で忘れてしまっていた。記憶が、ほんとうだったかどうか確認しに来たのだ。山頂辺りに着くと、そこには廃墟になったキャンプ施設がまだ壊されずに古びたまま残っていた。その向こうに、クレーターがあったはずだ。
......あった!
しかし、三十年という時を超え、それは湖となっていた。だが、しかし私はふと思った。これは本当にクレーターだったのか? もともと湖ではなかったのか? 宇宙から落下した隕石が直径ニ五〇メートルのクレーターを造った、なんてそもそも誰が言い出した? あの日のクラスメートらじゃなかったか? 新聞記事じゃなかったと思う。確かな情報だったのか?
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そうだ。私は、自分の頭の中で友人から聞いた噂話の『クレーター』を空想していただけだったのかもしれない。このキャンプ場を使った思い出もない。だが、このキャンプ場でキャンプをした、という空想を頭の中で構築していたのだ。なぜか? そう、私はあのキャンプに行けなかったのだ。私の他の全ての同級生が参加したキャンプだったのだが・・・。私は行けなかった。当時通っていた学習塾の合宿があったからだ。その後、同級生の友人らとの関係は、なんとなくよそよそしいものになっていった。『彼ら』と『私』という隔絶された雰囲気がどこか漂った。
私は『欠落』を補完するように、友人らのお喋りからの情報を空想によって再構築し、『想像上の
キャンプの記憶』を脳内につくりだしたのであった。私の真剣さが、その記憶をいっそうリアルなものにした。子供が何かに真剣になるとき、恐るべき力を発揮するものなのだ。湖を見ながら、私はあの時代に私が感じていた事をリコールした。つまり、この湖が隕石で出来たクレーターであるという確証は私には無いのだ。だが、この湖には何か得体のしれない空気が漂って居る・・・。Gタウンは太古から宇宙の神秘と無縁ではない。近隣の村には『天翔ける舟』が降りて来ていたとされる大岩もある。其の村には天文台が在るのだが、宇宙からの訪問者がそこで何度も目撃されたという情報もある。しばし岸から湖面を眺めたあと、私はそこを去り再びパジェロミニに乗り込んだ。東山(通称キャスルヒル)へ向かう為だ。ダッシュボードに数日前に買って忘れていたミルキーチョコが入っていた。疲れた頭には丁度良い。
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南山を麓まで下った。南山は古くから人々が住みついていた。その中腹には仏教徒が祈りの時に使用する、線香を生産する手工業があった。山幅は広く、Y川に沿って広がっている。Y川は南山を背にすると右が上流となる。トラッカーらがよく使う道路もY川に沿っている。Y川上流の方向へ向かえばアッパータウンKに行ける。南山の麓から三つの道に分かれる。右へ行くと山深く、シャーロック・ホームズとモリアーティが決闘した断崖のような光景がある。左へ行くとY川の下流へ向かって進むことになる。こちらはうっそうとした南米的ジャングルのような道になっている。かつて、この道の入り口には遊郭があったという。もう少し進むと映画『キャット・ピープル』の舞台のように、猫の一族がたむろしている木々が現れる。この道は散歩するには面白い。その先に『ストゥーパ』遺跡が在り、そこから向こうがトラッカーたちの集荷場。三つ又の中央を行くと、ミドルスクールが在る。その脇からキャスルヒルへの登山道に入れる。キャスルヒルの歴史は古く、モナークの古城があった時代に遡る事が出来る。
登山道を登っていく。Gタウンの人口が近年著しく減少した為、登山者も減りキャスルヒルのかなりの面積が原生林に還ろうとしていた。
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