働くおじさん異世界に逝く~プリンを武器に俺は戦う!薬草狩りで世界を制す~

山鳥うずら

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第百五十三話 続・白い悪魔【後編】

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 昨日は想定以上の蛍光茸を集めることが出来たので、この仕事は今夜で終わる目処が立つ。帰り際、蛍光茸が沢山生えている場所の目星を付けていたので、採集拠点となるテントの設営場所もすんなりと決めることが出来た。

 まだテントの中に光が差し込み、すぐに眠ることが出来なかったが身体を休ませるために瞼を閉じた。森の中で鳥たちの囀りを聞きながら、暗くなるまでのんびりと待つのも良いと思っているうちに眠りにつく。目が覚めると鳥の囀りから、虫の鳴き声に変わっていた。

 テントからゆっくりと抜け出し辺りを観察すると、地面から青白い光りが一面に広がっていた。青い絨毯がテントの周りを覆い尽くすその光景に息を飲む。蛍光茸を狩る仕事は何度もこなしてきたが、これほど一斉にキノコが生えていたのを見たのは初めてのことだった。日本でもインスタはしていなかったが、テントからのえる景色に写メを残したくなった。けれどもそれが不可能なことは、分かりきったことなので少しだけ切ない気持ちになった……。

 気持ちを切り替えキノコ狩りを楽しむことにする。蛍光茸を夢中で袋に詰め続けているうちに、ポスンと頭に柔らかい物がぶつかった。昨日の死闘で油断しすぎだと反省し、顔を上げると目の前に白い悪魔ホワイトイーズルが立っていた。

 死んだ――――。まさか二匹目がいるとは想定外の出会いだった。

 俺は腰に掛けている鉈を握る。

「慌てるな! 人間」

 上から低い声が響く。俺は素早く後ずさりし立ち上がる。そうして革ジャンの中に手を突っ込み息を飲む。

「こちらは攻撃する意志は全くない。その手を服から離さないとお前の首を落とす!」

 ホワイトイーズルが喋ったことより、首を落とすと断言した無慈悲な言葉に驚きが隠せない。この距離ではどう足掻いても、白い悪魔に分があった。俺はゆるりと右手を下ろした。

「俺に何のようだ」

 冷たい無機質な声で、質問を投げかけた。

「一つだけ聞きたいことがある、昨日ここで俺の仲間を殺したのはお前か?」

 ここで嘘を言っても仕方がないと思い腹を括る。

「ああ、突然襲ってきたから殺した」

 平静を装い、その質問に答えた。

「そうか……腕が立つ奴だな」

  不思議と、白い悪魔からは何の憤りも感じなかった。

「人間にしては、強い方だな!」

 大嘘をつく。

「どうして狩り取った獲物を持ち帰らなかったのか?」

 質問が二つだと答えたかったが、それを言える立場ではない。

「子供の死体を見ちまったからだ」

 悲しみを浮かべ、ホワイトイーズルの目を見た。

「そうか……二人を弔ってくれたお前には、お礼を言わねばならない」

 先ほどとは打って変わった沈んだ表情で、ホワイトイーズルは俺に頭を垂れた。

「状況は全く分からんが、俺の名前は静岡音茶だ。おっちやんで名が通っている」

「失礼した、我の名はズーマだ。ここに来た経緯を話すから暫しの間、聞いてくれ」

 そう言って、ズーマは話し出した。

「我が一族は、自分で言うのは恥ずかしいのだが、かなり好戦的な種族だった。しかし、ある日を境に我々は、その態度を改めなければならなくなったのだ。その理由が魔王様に戦争で破れたからだ。いや聞くところによると、ただ一方的に蹂躙されただけなのだ。我々は多種族に喧嘩を売りすぎたので、仕方がない結果ではあった。すまない、少し話しがずれたようだ」

 そこでズーマはいったん言葉を切って、また語り出す。

「我々は百分の一まで数を減らし、好戦的な大人たちは、ほぼ居なくなった。われも戦後に生まれた子供の一人だ。好戦的な性格はある程度、残りはしたが、自分たちの立ち位置を知れば昔の親のように全く暴れ回ることはしなくなった。しかし、我が嫁は少々荒い性格だった。子を産み育て始めたとき、突然子供を抱えて家から消え去った。想像するには、子育てのストレスをどこかで発散するため出かけたと理解はした。そうして帰ったときには、人間に何か臭いを付けられて戻ってきたのだ。そこから悲劇が始まった。我が子が乳を受け付けなくなったのだ。子供は(血の繋がった)親からでないと授乳しないのだが、身体を洗っても消えない臭いに、子供は嫁を親とは認めようとはせず餓死してしまった。日に日に衰えていく子供を見ながら、嫁の心も少しずつ壊れていってしまった……。そうして凶暴な性質だけが残った獣が、所かまわず暴れまくったのだ。われはそんな嫁でも殺すことが出来ず、監禁して生かすことしかできなかった。その嫁が、先日隙を見て部屋から逃げ出して、森中でまた暴れ回り、後はお前の知る限りだ」

 彼の長い話しは終わった。

「失礼だがホワイトイーズルは動物を虫けらのように弄ぶ魔獣だと、俺たちの間ではそれが通説だ」

「先祖返りみたいに、気性の荒い仲間がいるのは確かだ。ただ、意味もない殺戮者は我々が処分している」

「よく分かった。俺が貴方の嫁を殺したのは間違いない。許してくれとは言わないが、心から謝罪する」

「ふはっ……人間からそう言ってくれるとは……こちらの落ち度だ気にしないでくれ」

 ズーマは静かに笑った。

「遺体は浅くに埋めたので、すぐに掘り返せるぞ」

 そう言って、ソリからスコップを取りに戻り手渡した。

「ああ、言い忘れたがお前たちの討伐依頼が出ているので、早くこの地を去った方がいいと忠告する」

「かたじけない……遺体は持ち帰るかしばし考えたい。持ち帰っても……」

「俺は仕事を続けるので、遺体をどうするかは、勝手に決めてくれ」

 そう言って、キノコ狩りを再び始めることにした。依頼内容以上の蛍光茸を袋一杯集めて、戻ってきたときには、ズーマの姿はなく石の下に遺体が埋まっているか知ることは出来なかった……。俺は昨日より後味の悪いまま山を下りた。その途中、前から明かりを灯した冒険者のパーティに擦れ違う。

「おっ! おっちゃんとこんなとこで合うとは奇遇だな。この辺りはホワイトイーズルが出没するってギルドで聞いてなかったのかよ」

 オットウが銭ゲバを見るような目で話しかけてきた。

「討伐隊って、お前らだったのかよ!」

「どこぞの低級冒険者と違って、俺たちは強いからな・・・・・

 オットウの言葉に、コブクロたちは手を叩いて笑った。

「俺は十分稼がせて貰ったので、悪魔退治はせず・・お前たちにまかすさ」

 軽口を叩き合い彼らと別れた。

 道すがら、もしホワイトイーズルの皮をはいで金にしたと、ズーマが聞いたら俺は生きてこの山から出られたのであろうか……奴の女房に匂い袋をぶち撒けたことは、墓場まで持って行く事になりそうだ。そんな考えを脳裏に浮かべながら森から抜け出した。
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