勇者の友人はひきこもり

山鳥うずら

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第八話 まだ、準備運動なんですが

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 バルザ王国に召喚されてから、初めて王宮の外に出た。馬車から見える町並は均整がとれており、道沿いには石造りで出来た建物が、何処までも軒をつらねていた。馬車が進むにつれ建物が消え、やがて田畑が広がる田園風景に変わっていく――。

「勇者様、そんなに外の景色が変なのでしょうか?」

「僕の住んでいた地では、こんなのんびりとした風景は無かったからね。説明は難しいけど、農地のない所に四十万人が住んでいると言えば分かるかな?」

「想像出来ません……そんな人口が多いなんて」

「いいや、これは小さな町の単位だけでだよ。国の人口は一億人を超えていたはずだよ」

「勇者様が嘘を言うはずは無いとは承知していますが、そうですかと簡単に納得出来ないです」

 ナービスは顔を強張らせながら笑い顔を作っていた。

 三十分ほどすると馬車は止まり、僕たちは馬車から降りた。

「勇者様、ここが狩り場です」

 そこはサバンナを彷彿とさせる大草原のど真ん中だった。遠くに目をこらすと、大きな動物が群れをつくって動いているのが分かる。

「どのような野獣を狩ればいいのでしょうか?」

「勇者様の持っている魔法なら、どんな野獣も狩れると思います。これから護衛の従者が先導しますので、獲物を見付け次第魔法を試してはいかがでしょうか」

「そうさせてもらうよ」

 返事はしたものの、自分の魔法がどこまで通じるかは未知数なので不安しかなかった。僕は従者の後ろをついて歩きながら、アフリカでハンティングを楽しいる金持ちと、自分の姿がなんだか被ってしまった。

 一人の従者が指をさした先に、草原と溶け込むように巨大な野獣が隠れていた。そいつは猫科を思わせるしなやかな身体を前屈みにして、こちらを睨んで唸り声を上げている。

 そんな野獣の顔は、カバのように大きく酷くアンバランスな様に感じる。ただ、あの口で噛まれでもしたら、一瞬で引き裂かれるぐらいは簡単に想像出来た。僕はどの魔法を打とうかしばしの間考えた。

「メララン!!」

 手のひらから炎が生まれ、野獣に向けて炎の大きな塊が飛び出した。

「フギャアアアアアーーーーーッ!!」

 野獣はその炎を頭から被り、悲鳴を上げ転がり回った……。そして数分後、両足をピクピク震わせて動かなくなっていた。

「お見事です勇者様!」

 従者とナービスさんは手を叩いて喜んでいる。

「普通なら十人ほどでないと狩れない野獣バージナルを、魔法一つで倒してしまうなんて!!」

 その言葉を聞いて、従者数人でこの場に連れてきたナービスさんの常識を少し疑ったが、口にはしなかった。

 バージナルを解体するのを待ちながら、次の獲物が居ないか草原を見渡す。

「あれなんかどうでしょうか?」

 従者の一人が、遠目からでも巨体な野獣を指差した。先ほどみたいに情報もないのに、いきなり戦うのは嫌なので特徴を聞いてみる。

「ドラゴラスという肉食の獣ですが、こちらから攻撃しない限り襲っては来ませんね。皮膚が厚いので少々の攻撃では傷一つ付かないので、初動を間違うとかなり危険なことになると思います」

「あの身体で押しつぶされでもしたら、助からないと言うことですね」

 大人のゾウほどの体型をしたドラゴラスに、僕は気圧されてしまいそうになる……。

「ハハハハ、押しつぶされるんじゃなくて、巨体で押さえられたまま、噛み殺されるんですよね」

 そんな獰猛な野獣を簡単に倒させようとする、従者の獲物の選択に釈然としない気持ちを持った。だが先ほど打ち込んだ魔法は、自分の中では低レベルな魔法だったのも事実だった。

 僕たちはドラゴラスにゆっくりと近づいていく。野獣は僕が接近しているのを知ってか知らずか、後ろを向いて身体と同じぐらいの尻尾を左右に振っていた。

「ハイ・フィールデガ」

 風魔法フィールデガの上位魔法を打ち込んだ。手から小さな竜巻が発生し、土煙を巻き上げ地面を這うように魔法が飛んだ。ドラゴラスは全く警戒していないので、俺の繰り出した魔法の渦に飲み込まれる。「ウゴガガガガーー」風の中で雄叫びを上げるが、竜巻が小さくなると共に声も消えていった。間土煙が静まると、全身から血を流しながらドラゴラスは、地面に突っ伏していた。

「お見事です勇者様!!」

 ナービスと従者たちは大きな拍手を俺に向けた。あまりにも簡単に狩れたので、野獣の説明が嘘のように思えた。

「勇者様、これ以上強い野獣をこの地域で探すのは一苦労です。腕試しとしては十分以上の成果かと」

 僕はナービスさんや従者に賞賛されながら、馬車が置いてある場所まで戻る事にした。馬車に近づいた僕たちは血まみれで倒れている従者を見て驚いた。

「どうしましたか!?」

 ナービスさんは血相を変えて、従者を抱きかかえ治癒魔法を掛けた。

「……が襲って……き……た」

 それを聞いた他の従者たちが、槍を持ち直し辺りを警戒し始める。「グルルルルゥーーー」と草むらからうなり声を上げ、オオカミのような動物が数十頭群れで、ゆっくりと近づいてくる。体長は四メートルは優に超えており、虎の倍以上の大きさだった。彼らの口は血で真っ赤に染まっており、従者を襲った犯人だとすぐに理解出来た。

「最悪だ!! バービゴンがこの場所で出るなんて聞いてないぞ」

 従者の一人が、悲鳴混じりの言葉を吐いた。

「勇者様! バービゴンの素早さは桁違いで、一匹を相手にしますとまずは助からないでしょう」

 そんな魔獣が数匹どころか、数十匹が僕たちに襲いかかろうとしている。

「皆さん、僕から少し離れて下さい! 」

 従者たちを自分の後ろに下げ、両手に魔法を集中する。そうして両手を真上に上げ呪文を唱えた。

「ギラガントーーーーッ!!」

『バギバギバギバギバギバギバギバギバギバギバギバギーーーーーーー』雷鳴が草原に鳴り響き、バービゴンの上に光が落ちた。俺の前には、真っ黒に焼け焦げた野獣がブスブスと煙を上げながら倒れていた。

「――――ゆ、勇者様!! 凄いです 」

「流石、勇者様……」

 ゲームの中の魔物は魔法を受けると、順番にダメージが与えられるのに、現実の魔法は、一度に魔法が効くことに違和感を覚えた。

「また、この臭いに釣られて魔獣が襲ってくるかもしれないので帰りましょう」

 馬を失った僕たちは歩いて草原を抜け、帰りが遅いのを心配した兵たちと合流するまでに半日以上掛かった。

「なんとか無事に合流出来ましたね」

 ナービスの声に、安堵の気持ちが混じる。

「そうだね……狩りよりこの移動の方が身体に応えたよ」

 僕は苦笑いしつつ、そう返した。

 捜索隊との合流を果たした僕ら一行は、ようやく王都へと帰還することが出来た――

 ――王宮に戻った僕はベッドの上に横たわって、今日一日を振り返る。

「楽しかったな!!」

 僕は自分の力に酔いしれていた――



※ 当時のゲーム機器はスーパーファミコン。
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