公爵様のランジェリードール―衣装室は立ち入り厳禁!―

佐倉 紫

文字の大きさ
20 / 47
第三章 メイド、いろいろ翻弄される。

003

しおりを挟む
 その後も大きなトラブルなく、パーティーは進行していった。
 お茶を楽しむあいだに、招待客たちは親しい者同士で「誰の演奏を聴いた」だの「誰の絵を見た」だのと話し合い、興味があれば今度はそちらに足を運ぶ。
 そうしてあらかたの作品や芸を見たところで、本格的な商談や交渉が始まった。

 この時間になると使用人はひまになる。時折それとなく皿を下げたりしながらも、客人や芸術家たちの気が散らないよう、気配を消してたたずんでいるのが仕事だ。
 何組かは気に入った芸術家がいなかったということで早々に帰途に就いたが、大半は支援したい相手や買い取りたい作品のもとへ足を運んで、あれやこれやと話し込んでいる。

 チラッと見てみると、パドリックにも何組かの客人が集まっていた。さらに見てみると、少し離れたところでライアンの前にも列ができている。どっちもそれなりに成果を残せたようならよかった、とジゼルは一人微笑んだ。

 そうして交渉が終わると、今度は絵画を扱う専門家たちがやってきて、買い取りとなった作品を丁寧に梱包こんぽうしていく。それを運び出すための荷台の用意などを、ジゼルも随時ずいじ手伝った。

 最後の客人が大広間を出たときには日が暮れて、普段の夕食の時間も過ぎていた。
 それでも使用人たちは黙々と片付けに向かい、芸術家たちも残った自分の作品を引き取っていく。片付けを終えた者からあてがわれた部屋に帰っていき、作業が完全に終了したのは真夜中に近い時間だった。

「みんなお疲れ様でした。今日遅くまで働いた者は明日は午前休になります。昼から出てくるように」
「お疲れ様でしたー」

 執事の声に、地下に集まっていた使用人たちが疲れ切った声で答える。全員ぐったりしていたが、大きな問題なく一仕事を終えた充実感もあって、雰囲気は悪くなかった。

「明日午前休ならシャワーを浴びてから寝ようかなぁ。さすがに汗だく」

 メイドの一人が行った言葉に何人かが同調し、さっそく皿を片付けて共同の浴室へと連れ立っていく。
 ようやく席に着いたジゼルはこれから食事だ。温かなスープをすすってほっとしていると、メイドの中でも年かさの者が声をかけてきた。

「会場の片付けの引き継ぎは終わってるかしら?」
「わたしはこれからです」
「そう。じゃあここに書いておいてくれる? あなたの担当は……」
「会場の片付けです。皿は全部下げたんですがクロスはそのままなので……」
「わかった。こっちに詳しくお願い」

 ジゼルは早く食事を掻き込みたい気持ちを抑えつつ、渡された紙にあれやこれやと記していく。一言二言で済ます者も多い中、根が真面目なためか、紙の端から端までびっしり書き込んでしまった。
 おかげで食事をしているのも最後の一人になり、早く洗い物をしたい厨房係ににらまれてしまう。慌ててスープを飲み干し、パンをかごから一つ取って頬張ったところで、料理の皿をすべて下げられてしまった。

「あ~ん、パーティーで出された残り物の料理も食べたかったのに……っ」

 テーブルにはパーティー会場から下げられた料理も並べられていた。試食も兼ねて、残った料理はその夜の使用人の食事になることが多いのだ。
 昼間めまぐるしく働きながらチラッとテーブルを盗み見て、これはあまっていたら是非ぜひとも食べたい……、と思っていた料理も、まさに目の前に盛られていた。
 それをあっさり取り上げられて、さすがのジゼルも泣きたくなる。

「スープとパン一個じゃ、そもそもお腹が満たされないよぅ……」

 ジゼルのそんな嘆きも聞こえないとばかりに、厨房係はさっさと厨房の奥へ引っ込んでしまった。
 彼らも一日中立ちっぱなしの働きっぱなしで、早く片付けて眠りたい気持ちはわかる。よーく、わかる。
 それでもこの仕打ちはひどいぃいい! と、ジゼルはめそめそしながら地下を出た。

 使用人用の狭い階段ではなく、火の確認のために表の廊下を歩いて行く。
 客人も芸術家もほとんどが帰ったが、遠方からきている者は今夜も泊まっていくので、彼らが自由に城内を歩けるように、あちこちの燭台しょくだいに火がともされているのだ。
 おかげで歩くのに不自由はないくらい明るいが、ろうが床に落ちていたり、火が消えていると見栄えが悪くなる。客人がいるときのメイドは、急ぎのとき以外は表を歩いて、火の様子を確かめるように言われているのだ。

(まぁ今日あたり、みんな疲れているから、そんな決まりも忘れて使用人用の階段で上がっていっちゃっていると思うけど)

 規律の厳しい孤児院で育ったせいか、そんなふうに不真面目になれないジゼルである。
 二階の客室が連なるところで、さっそく、壁に取りつけられた燭台から落ちたとおぼしき蝋に行き当たった。ジゼルは使用人用の隠し扉から掃除用のへらを持ち出し、床を傷つけないよう丁寧に蝋を剥がしていく。
 が、もう少しというところで近くの扉が開いて、彼女は慌てて立ち上がった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

【魔法少女の性事情・1】恥ずかしがり屋の魔法少女16歳が肉欲に溺れる話

TEKKON
恋愛
きっとルンルンに怒られちゃうけど、頑張って大幹部を倒したんだもん。今日は変身したままHしても、良いよね?

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...