シロワニの花嫁

水野あめんぼ

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本編

第十三話:向かれる牙

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城下町の見えるテラスでは、明澄が瑠璃音のお茶会に付き合っていた。

「あたくし、人間界に行ったことないからどんなところか知りたいわ」
「へぇ、そうなんだ……何か見てみたいと思うものはあったりするのかい?」

淹れたてのお茶が入っているティーカップを持ちながら瑠璃音は何時かは詠寿のように人間界の社会を知りたいと想っていることを零す、明澄はお兄さんの気持ちになって瑠璃音にそう聞いてみる。

「“もふもふ”って言い感覚を知りたいの、人間界に行ったことがある人魚たちに話を聞いたらすごく愛らしくて気持ちのいい感覚って聞いたわ。」

瑠璃音は犬や猫やそれをモチーフにした人形の独特の毛並みの感覚を知りたいと言った。
思えば瑠璃音はこの人魚界の姫で、詠寿と違って人間界に連れて行ってくれたことも一人で行ったこともないのだろう。それにここは海の中、毛並みのある動物はいないのだからその感触を知らないのも当然である。

明澄は瑠璃音が人間界に行ってしたいことを聞いてそう思っていた。

「瑠璃音姫はかわいいもの好きそうだからね、きっと気に入ると思うよ?」
「――本当っ!?」

 瑠璃音は明澄の答えを聞いてわくわくした表情をしていた。そんな他愛もない話で盛り上がり、お茶の時間を二人は満喫する。

「そろそろお開きにしましょうか。」


「ありがとう、楽しかったよ瑠璃音姫」
「――本当!? また誘うわね、明澄お兄様!」

瑠璃音は時間を見てそう言った、それを聞いたヴィオレはクリアを呼び出す。
明澄は席に立ちお茶に誘ってくれた瑠璃音に感謝の意を述べると、明澄の感想に瑠璃音は嬉しそうにまたお茶会に誘うことを約束する。

「――お待たせしました。」
「片付けは私に任せてください、クリアさんは明澄様を部屋にお連れしてあげて。」

クリアは迎えに来たことを報告する、傍にヴィオレもいた。ヴィオレは自分に片付けを任せて明澄を部屋に案内するように促す。

「あっ、はい。すみません。楽しかったですか? 姫様……」

「うん、楽しかった……!」

クリアはヴィオレに片づけを任せてしまう形になる事を詫びて、瑠璃音に明澄と一緒にお茶会が出来て楽しかったか聞くと無邪気に満足そうに瑠璃音は正直に答えた。

「それじゃあ行きましょう、お部屋に……。」

「またねー、明澄お兄様!」

 クリアは明澄に部屋に戻るように促し明澄がクリアの後について行こうとすると、瑠璃音は手を振って明澄を見送ってくれたため、明澄は返事代わりに同じく手を振った。

――部屋に戻って夕食をとった後、明澄はクリアに持って来てくれていた本を読みふけっていた。

明澄が読んでいるのは、童話の人魚姫の史実が書かれている本だった。

〈人魚姫は魔女に縋り、人間の王子にお近づきになりたいからと人間になる薬を要求した。魔女は人間になれる薬を作っていたものの、それは未完成のものだった――〉

明澄が呼んでいる本にはそう記されていた……。

「成程、そういうことだったんだ。」

本を見て人魚姫が声を出せなくなった本当の理由を知って明澄は一人納得しつつ本を読み進める。

――コンコン

「? ――はい。」

「明澄様、詠寿様がお呼びですよ。」

いきなりノックが聞こえ、明澄は返事を返す。
しかしそれはクリアの声ではなく、聞き覚えのない声が返って来た。

「――誰?」

「……」

明澄は自分を呼んでいる相手の正体を探ろうと声を掛けたが返答がない。

「――?」

何か違和感を覚えた……。

考えてみれば厳生など詠寿に信頼されている者たちが部屋を尋ねるならまだしも、大抵ならクリアでさえも衛兵たちは用心して呼び止めるし、クリアなどの使用人たちは用件を言ってから「害はない」と判断した衛兵たちに通してもらっていた。

聞き覚えのない人物にその会話すら聞こえないのはおかしい。

 しかし、読む耽っていたせいもあって会話が耳に入っていなかったのかもしれないと明澄は思い、扉を少しだけ開けて外の様子を見る。

「あれ……?」

部屋の外の廊下にはいくら見渡しても自分を呼んだと思われる相手がいない。
よく周りを見るために部屋の外に出てみると……、

「――!?」

衛兵たちが壁に寄り掛かって眠っており、そこには飲み物が入っていたコップで床が汚れていた。

「これって、一体!?」

何故衛兵たちが寝倒れているのか混乱していた時……、

――ガッ

「――!?」

気付くのは遅く、扉の陰に隠れていた何者かに口を塞がれてた。

「んぅ――っ!」

「ちょっと黙っててよ、明澄様。」
「――!?」

明澄は必死で抵抗するが自分の口を押さえて羽交い絞めにしている相手の力が強くて振りほどけない。
すると、自分を捕えている者たちの後に声の主が明澄の前に現れた……。

声の主は男の人魚で明澄同様小柄ではあるが背びれ、尾ひれは今までの人魚たちより一番大きいのではないかと思うくらい大きく、赤色の体色をした魚の下半身を持つ端麗な顔の持ち主だった。

「おう、クレミオ……見つからない内にずらかるとしようぜ」

「明澄様、大人しくしてて? 確かに呼んでいるのは嘘じゃないよ……ただ、貴方を呼んでいるは様だよ。」

「――!?」

――ゾッ

明澄を押さえつけている一人がクレミオと呼ばれた声の主に見つかる前にこの場から離れようと提案する。クレミオは明澄が呼ばれていることは嘘ではないが、明澄を呼んでいるのは詠寿ではなく砕波の方だと言った。

――ドゴッ!

「――…っ」

明澄は押さえつけていたもう一人に鳩尾を殴られて、意識を手放してしまった。

一方、クリアは本を読み耽っている明澄のためにお茶を持っていこうと明澄の部屋を尋ねる為に歩みを進めていた。

「――あれっ?」

クリアは違和感を覚え目をこらえて見ると明澄がいる部屋の前が何かおかしいことに気付いた、近くまで行くと衛兵たちが倒れている。

「――どういう事!? 衛兵たちが倒れて明澄様の部屋が開いている!?」

嫌な予感がしてクリアは明澄の元に急いで部屋に入る。

「明澄様、明澄様ぁ……!」

クリアは部屋の中に入って明澄の名前を呼んで探すが、返事もなければお風呂場にもいない。

「どっ、どうしよう! どこにも見当たらない……! 衛兵さんたちにも誰がこんなこと」

クリアは明澄がいない現状に青ざめて困惑しつつ部屋を一回出て誰が衛兵たちに何かを混ぜた飲み物を飲ませて気絶させたのか考えるが、クリアは何をすればいいのか分からず一人混乱する。

「――どうした? この現状は一体……!?」

明澄の不在に取り乱していたクリアに話しかけてくる人物がいた、振り向くとアリヴと詠寿がいたのだった。アリヴは何かの薬を飲まされて気絶してる衛兵たちを見て一体何があったのかクリアに聞く。

「王子、兵士長! どどど、どうしましょう……! 僕にも何が何だか……」
「――落ち着け! ……何があった?」

取り乱しているクリアに一喝した後、アリヴは一体何があったのか聞いた。

「明澄様がどこにもいません! 読書をしていたのでお茶をあげようとこちらに来たら、すでにいなかったんです、衛兵さんたちも僕が来た時にはもうこのような状況に……!」

「――なっ、なんだって!?」

クリアから明澄がいなくなった事を聞いてアリヴと詠寿は驚愕の表情を浮かべた。

「取りあえず衛兵たちの容体を……!」

衛兵たちに外傷はないかアリヴは倒れている衛兵たちの脈を診たりする、息や脈はちゃんとあるので衛兵たちはただ寝ているだけだと分かった。

くん……

「――これ、睡眠薬の臭いだ!」

 コップを手に取りその飲み物の臭いを嗅ぎ、飲み物から漂う微弱な睡眠薬の臭いを詠寿は見破った。
詠寿は元から鼻が鋭敏なため、異物が混入しているのを見分けられるのだ。
 衛兵たちが使った散乱しているコップと飲み物から漂う香微かな睡眠薬の臭いに差し入れか何かで睡眠薬入りの飲み物を飲まされてたのだと言うことは一目瞭然だった。

「……見ての通りこの様子だと、衛兵たちは何者かに騙されて飲み物を飲んだ可能性が高い。」
「でもいったい誰が……?」

クリアとアリヴがそう会話をしている合間、詠寿も必死で心当たりのある人物がいないか頭を巡らせていた。

――ハッ!

「まさか……!」

誰が衛兵に睡眠薬を飲ませて明澄をさらうのか考えていると、詠寿には嫌な予感が過った……。

衛兵たちには、明澄には一歩も近づけさせないでほしいと命令していた相手がいたのだ。
ここまで考えたらその相手がやったのだと確信に変わる。

――誰がこんなことをしたのか、そしてその人物が明澄に何をしようとしているかはもう予想もついた。

「――っ」

――ぎゅんっ

「!? 王子……!」

 アリヴは詠寿が急いで明澄の足取りを追い始めた為焦って呼び止めるが、詠寿はアリヴの静止も聞かずに明澄の足取りを追った。





「……う、ん」

明澄は漸く目を覚まして、辺りを見渡した……。

「あれ、……ここは?」

見たこともない部屋の天井と家具に目を見張り、起き上がろうとする。

「漸く目が覚めたようだな……明澄」
「――砕波!?」

すぐ近くに砕波の姿があり明澄は混乱する。明澄が目を覚ましたことに気付くなり、砕波は笑みを浮かべる。

「あはははは、チョロ過ぎでしょ! こんなのがあの詠寿様の将来の伴侶!? 笑っちゃう……!」
「!? 君は……!」

そしてすぐそばに明澄をおびき寄せたあの人魚の美少年が砕波の傍からひょっこり顔を出し、まんまと騙されて攫われた明澄を嘲笑う。明澄は自分を騙した砕波のすぐそばにいた美少年を不快感を示して睨みつける。

「あらら~、怖い顔しちゃって……。そういや名前名乗ってなかったよねぇ? 僕は“クレミオ”。砕波様の愛人なの♪ こんなこと気に入らないけどだから聞いてあげたわけ。」

そしてクレミオは自己紹介をし、自分は砕波の愛人であることを明かした後に騙した理由を話した。

「んで、あっちにいるのは……」

波座なぐらで~す。」
八重波やえなみです。」

すると、すぐに自分を羽交い絞めにして気を失わせてここに連れてきた連中が明澄の目の前に現れて名前を名乗る。

「……何のつもりですか?」 

「――あら、この状況でしらばっくれてるの? それとも、本当にわかってない馬鹿なの?」

一体こんなところに連れてきて何をするつもりなのか明澄は聞いた。
クレミオは明澄の反応に分からない振りか本気でこの状況が読めない馬鹿かと半眼で呆れた声を出す。

「砕波様がねぇ~、アンタとセックスしてモノにしたいんですって」
「――!?」

黒い笑みを浮かべながらクレミオは明澄に自分たちの目的を話す。

「砕波がけど、僕的にしちょうどいいと言うか……」

「俺達はそのおこぼれをもらいにね……」
「アンタみたいな美人滅多に抱けないからね」

クレミオはこの計画に加担した理由を明澄を侮蔑するような目で見ながら話し明澄の事は砕波が歪んだ好意を向けていることと明澄の事は正直言って嫌いだと明かし、続いて波座、八重波が自分たちがこの計画に加担した理由も話す。

「――と言う訳だ……明澄、ちなみにこの計画はお前を手に入れたいというだけじゃねえんだ。明澄、詠寿の面子を丸潰れにすることでもあるんだぜ? 考えてみろ、王子が婚約者を毛嫌いするいとこに寝取られるなんて愉快じゃね?」

「――!」

砕波は自分を詠寿屁の当てつけで寝取取ろうとしているだけでなく嫌いな男に好きな人が抱かられたらプライドが傷つくからという名目で抱こうとしていることを知って明澄は顔を青ざめさせ、その場から逃げようとする。

――ガッ

しかし逃げには失敗し、あっさり捕まってしまう。

「――放してっ!」
「――おおっと、アスミ様……楽しみましょうよ?」
「大人しくしてくれれば砕波様も気持ちよくしてくれるぜ?」

逃げようとする明澄を波座と八重波が取り押さえ、下卑た表情でベッドに転がそうとする。

「――っ」

『おい、大人しくしろよ! イイ気持ちにさせてやるからよ……』

「やぁあああ――!」

波座たちの下卑た言葉を聞かされた明澄は十二歳の時のあの嫌な記憶がフラッシュバックしてしまい、
恐怖と嫌悪で泣き叫んだ。
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