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::葵唯side::
こないだの登校日から2週間。
自分の家のベッドでゴロゴロしながら、来るはずもないSNSの画面を開いたり閉じたり。
あれから悠雅くんと話してない。
バイトで上がりの時間がカブることもない。
SNSが来ることも……。
───あの日、泣いてる私を悠雅くんは優しく抱きしめてくれた。
『ごめん』って言いながら。
早く泣き止まなきゃ、悠雅くんに罪悪感を与えかねない。
だけど、悠雅くんにずっと抱きしめられていたかった……。
私、悠雅くんのこと好きなんだって改めて思い知らされた瞬間。
でも叶わない。
……叶わなくてもいい。
叶わなくてもいいから……悠雅くんのそばにいたい。
セフレとしてでもいいから、悠雅くんに触れられたい……。
それでもいつか、悠雅くんに好きな人ができて……彼女が、出来るかもしれない……。
─ズキン。
彼女って考えるだけで胸が痛い……。
その時は──離れないといけない。
悠雅くんの彼女……悠雅くんと離れる……。
─ズキン……ズキン。
考えられない……。
胸が……痛いよ……。
恋って……こんなに苦しかったっけ……。
気づかないうちに悠雅くんへの思いはこんなにも大きくなっていたんだ。
セフレなんだから。
私は、彼女でもなんでもない。
悠雅くんは今も誰かほかのセフレとエッチしてるんだと思う。
……ほかの人と……。
考えれば考えるほど心は痛くて……。
胸にトゲがささったみたいな感じ……。
私って、悠雅くんのことこんなに好きなんだね───
::悠雅side::
夏休みも終わり、また学校が始まった。
夏休み明けてからは怒涛の行事ラッシュ。
中でもビッグイベントは2週間後に控えた体育祭。
毎年パフォーマンスやリレーは白熱してる。
「じゃあ、体育祭の部活リレーの走者決めるぞー」
サッカー部のキャプテンがみんなを招集し、部活の前にリレーの走者を決める話し合い。
部活リレーは体育祭の大トリ。
男子の部はサッカー、野球、バスケ、バレー、卓球、テニス、ハンドの選抜選手5名がトラック1周ずつ走って一位を競う。
1位の部には副賞で部費が支給されるらしい。
だから毎年どの部もガチのメンバーで迎え撃つ。
俺、去年出たしもう出たくねー。
あの猛者どもがほぼ一直線になって走るだけあって、暑苦しくてやってらんない。
「体力測定の時の50mのタイムで早い順で5人選んだんで。3年とか1年とか関係なしに、一番早いやつがアンカーな。……じゃあ発表するぞ。第一走者─────」
そーいや、俺何秒だったっけ?
6秒台だった気するけど……。
「第三走者、俺。第四とアンカーなんだけど────」
そういったキャンプとバチっと目が合った。
待てよ……やな予感……。
「大和と三神、お前らタイム同じだったから決めてこなかったんだけど。どっちがアンカーする?」
やっぱ三神か……。
三神の方を見ると、三神もこっちを見ていた。
明らかに三神も顔が嫌がってるようだけど。
俺もやりたくねえしな……。
アンカーって重荷なんだよな……。
負けちゃいけない、抜かなきゃなんないってゆー重荷。
「おっと、もう時間だな。じゃ、三神と大和、話し合っとけよ。決まったら俺に教えて」
そう言って部室からゾロゾロと出ていくみんな。
まじかよ。
三神と二人にすんなよ。
話が進まねーから。
「三神頼むな」
「無理だよ、第一、俺より大和のほうが速いだろ。体力測定の時、お前手加減してたっぽいし」
三神はまた三神スマイルをぶっ飛ばして、呆れたようにサッカーボールを操りだした。
「アンカーとか責任重すぎだろ」
「それは、みんな同じだろ? どこの部も本気みたいだしな」
「大体、キャプテンがアンカーだろ、フツー。サッカー部以外キャプテンじゃん」
俺もカゴからボールを取り出し、リフティング。
「ガチで勝ちたいんじゃねーの? ……大和なら余裕だろ。小学校の頃からかけっことかで負けたことねーんだし、去年も何人か抜いただろ?」
『大和なら余裕だろ』……か。
「三神らしくねー」
「なんだよ、俺らしくないって」
「サワヤカーなコーセー年。だろ? ……まー少なくとも、葵唯はそー思ってるな」
「っ……。大和ってさ、葵唯と仲いいのな」
しまった……。
葵唯の話するつもりじゃなかったんだけど。
セフレ、とか言ったら殺されそーだし。
案の定、三神はムキになったよーにボールを操る足を止めこっちを睨んだ。
「俺よりお前のほーがよく喋ってんだろ」
「なあ……大和。俺、葵唯のこと好きだから」
「……知ってるよ」
そんなの気づくに決まってんだろ。
何年一緒にいると思ってんだよ。
好きな人とかわかりやすいんだから。
「だからさ、葵唯に傷ついて欲しくない」
真剣な面持ちで俺に言った三神。
「結局、お前は何が言いたいの」
「もう気づいてんだろ? ……葵唯の気持ち」
─キュッ。
俺はリフティングしてたボールを足で止めた。
気づかないわけない……。
そこまで鈍感じゃない。
好きだからこそセフレになったんだろうし?
ほかのセフレはセックスが目的でセフレになった。
でも葵唯は……セックスだけが目的でセフレになるようなやつじゃない。
俺が感ずいてること、葵唯は気づいてないんだろうけど────
泣きじゃくる葵唯を抱きしめて、背中をさすった。
女をなぐさめたことなんてないから、なんて言葉をかけていいのかも分からない。
泣かせたのは俺だ。
俺はただ『ごめん』しか言えなくて……。
胸の中でひくっひくっと葵唯の泣き声が聞こえる。
『悠雅くんも……退学になるんじゃないかって……』
さっきの葵唯の言葉が離れない。
なんて理由で泣いてんだよ……。
単純にイジメられるのがイヤだったんだとばかり思ってた俺は拍子抜け。
俺のことで泣くとか、バカかよ……。
少しの間背中をさすっていると、泣き声がいつの間にか止まっていた。
「葵唯、大丈夫か?」
「…………」
「葵唯?」
無視?
まだ怒ってんのか?
俺の胸に額をくっつけてた葵唯をそっと離すと───
「スー……スー……」
「嘘だろ……」
泣き疲れて寝たのか?
小学生かよ!
泣き腫らした目を閉じて、安らかな寝息をしている葵唯。
まだ溜まってる涙を俺は指で拭った。
とりあえず保健室で寝かせるか。
葵唯を横抱きにして、人気のなくなった学校を歩く。
─ガラガラ。
保健室には誰もいない。
保健の先生は職員室だとドアにかかってた札に書いてあったし、もう生徒も部活に行ってるから、いなくてトーゼンだけど。
俺は隅のベッドに葵唯を寝かせた。
「んっ……」
あ……。
寝返りを打った葵唯はコッチ側を向いてスヤスヤ寝ている。
まだブラウスのボタンが全部留まってなくて、ブラウスの中の谷間が丸見え。
それに、スカートも下着は見えてないけど、太ももまで丸見え。
腹も見えてるし……。
俺はブラウスのボタンを留め直し、ブラウスの裾とスカートをキレイに直した。
もし、男が来たらさっきのままじゃ襲われかねない。
……よし、これで大丈夫か。
「んんっ……悠……雅、くん……」
?
寝言?
俺の夢、見てるのか?
「悠雅くん─────好き……だよ」
っ……!
なんで……。
なんで泣いてんだよ。
眠っている葵唯の顔に涙がこぼれ落ちる。
好きって言いながら泣くのかよ。
俺はまた葵唯の涙を拭った。
わけわかんねえ……。
こんなに女の気持ちが複雑で分かりにくいものなんだって知らなかった。
俺は葵唯の頭に手を置いて、そっと撫でた。
葵唯は何考えてんだ?
なんで好きって言いながら泣くんだよ?
────泣くなよ。
俺は葵唯の瞼にキスを落とす。
不思議と葵唯の涙は止まった。
「気づいてないわけねーだろ」
「っ……! まさか、大和……お前も────」
「俺、アンカーするから。決まったことだし、サッカーいくわ」
俺は何かを悟った三神の言葉を遮って、部室をあとにした。
三神の言葉の続き、予想つくから。
その問にちゃんと答えられる自信ないし。
……わかんねーんだよ。
好きとか恋とか愛とか……。
俺は愛されたことないんだから。
三神みたいに親に愛されたことも……
葵唯みたいに誰かに本気で好きになってもらったことも……
……この気持ちが好きってきもちなのかとかわかんねーし。
あんな純粋な女、初めてだし、どー扱っていいのかもわかんないまま。
どーすりゃいーんだよ。
好きとか……よくわかんねーけど。
だけど……
もう葵唯を泣かせたくない───
::葵唯side::
体育祭当日。
私は凛とテントで今出てる友達を応援。
「葵唯は? なんに出るんだっけ?」
「私は綱引きと10人11脚! 凛は?」
「リレーと借り物競争だったかな」
ほうほう。
さすが凛。
昔っからリレーには絶対選ばれてたんだよね!
運動音痴の私と正反対に常に短距離のタイムも長距離のタイムも女子のトップにいた凛。
私の憧れ。
「あー! 見て見て~! 三神くんと大和くんだあ!」
近くの女子たちの言葉に、グランドに目をやると、男子の学級リレーだった。
もちろん私たちのクラスから選抜された男子には悠雅くんも依織くんもいる。
2人とも速いってウワサだったし。
『いちについて……よーい……』
─パンッ!
あっ……悠雅くん……。
やっぱり早いからスターターなんだ。
依織くんはビブス着てるからアンカーかな?
キレイなフォームで3年生も1年生たちも追い抜いていく悠雅くん。
速い……。
かっこいい……。
思わず見とれてしまう。
2位と少しの差をつけて第二走者へバトンを渡した悠雅くん。
前に誰かが悠雅くんと三神くんが来年のエース候補だって言ってたのを聞いたことがある。
エース候補は伊達じゃない。
昼休みにサッカーしてる時もビュンビュン抜いていってたし。
悠雅くんがつけた2位との差はあっとゆう間になくなり、リレーは順位が入り組んできた。
追い越したり追い抜かされたり……その繰り返し。
『3年A組がアンカーにバトンが渡りましたー!! どのクラスも次々にアンカーに移り、どこが一位になるか予想できません!!』
うちのクラスも依織くんにバトンが渡った。
でも、依織くんが走り出した時にはすでに3位で、1位の3年A組との差は半周。
頑張れ……依織くん!
クラスのみんなは諦めムード。
依織くんが足が速いのはみんな知ってるけど、ほかのクラスのアンカーたちもトーゼン足が速い。
だからこの半周の差を埋めることはほぼ不可能に近いこともみんな悟ってる。
大丈夫……!
依織くんなら抜ける!
依織くんはみるみるうちに距離を縮めていく。
気づけばもう1位と並びそうなぐらい。
『あと1周! どのクラスもラストスパート頑張ってください!! 先頭には3年A組、そのすぐ後ろに2年B組が迫ってきています!』
2周目に突入し、3年A組のアンカーも依織くんも少しペースが落ちてきた。
そりゃそうだよね。
2周も全力で走り続けるのはラクなことじゃない。
こないだの登校日から2週間。
自分の家のベッドでゴロゴロしながら、来るはずもないSNSの画面を開いたり閉じたり。
あれから悠雅くんと話してない。
バイトで上がりの時間がカブることもない。
SNSが来ることも……。
───あの日、泣いてる私を悠雅くんは優しく抱きしめてくれた。
『ごめん』って言いながら。
早く泣き止まなきゃ、悠雅くんに罪悪感を与えかねない。
だけど、悠雅くんにずっと抱きしめられていたかった……。
私、悠雅くんのこと好きなんだって改めて思い知らされた瞬間。
でも叶わない。
……叶わなくてもいい。
叶わなくてもいいから……悠雅くんのそばにいたい。
セフレとしてでもいいから、悠雅くんに触れられたい……。
それでもいつか、悠雅くんに好きな人ができて……彼女が、出来るかもしれない……。
─ズキン。
彼女って考えるだけで胸が痛い……。
その時は──離れないといけない。
悠雅くんの彼女……悠雅くんと離れる……。
─ズキン……ズキン。
考えられない……。
胸が……痛いよ……。
恋って……こんなに苦しかったっけ……。
気づかないうちに悠雅くんへの思いはこんなにも大きくなっていたんだ。
セフレなんだから。
私は、彼女でもなんでもない。
悠雅くんは今も誰かほかのセフレとエッチしてるんだと思う。
……ほかの人と……。
考えれば考えるほど心は痛くて……。
胸にトゲがささったみたいな感じ……。
私って、悠雅くんのことこんなに好きなんだね───
::悠雅side::
夏休みも終わり、また学校が始まった。
夏休み明けてからは怒涛の行事ラッシュ。
中でもビッグイベントは2週間後に控えた体育祭。
毎年パフォーマンスやリレーは白熱してる。
「じゃあ、体育祭の部活リレーの走者決めるぞー」
サッカー部のキャプテンがみんなを招集し、部活の前にリレーの走者を決める話し合い。
部活リレーは体育祭の大トリ。
男子の部はサッカー、野球、バスケ、バレー、卓球、テニス、ハンドの選抜選手5名がトラック1周ずつ走って一位を競う。
1位の部には副賞で部費が支給されるらしい。
だから毎年どの部もガチのメンバーで迎え撃つ。
俺、去年出たしもう出たくねー。
あの猛者どもがほぼ一直線になって走るだけあって、暑苦しくてやってらんない。
「体力測定の時の50mのタイムで早い順で5人選んだんで。3年とか1年とか関係なしに、一番早いやつがアンカーな。……じゃあ発表するぞ。第一走者─────」
そーいや、俺何秒だったっけ?
6秒台だった気するけど……。
「第三走者、俺。第四とアンカーなんだけど────」
そういったキャンプとバチっと目が合った。
待てよ……やな予感……。
「大和と三神、お前らタイム同じだったから決めてこなかったんだけど。どっちがアンカーする?」
やっぱ三神か……。
三神の方を見ると、三神もこっちを見ていた。
明らかに三神も顔が嫌がってるようだけど。
俺もやりたくねえしな……。
アンカーって重荷なんだよな……。
負けちゃいけない、抜かなきゃなんないってゆー重荷。
「おっと、もう時間だな。じゃ、三神と大和、話し合っとけよ。決まったら俺に教えて」
そう言って部室からゾロゾロと出ていくみんな。
まじかよ。
三神と二人にすんなよ。
話が進まねーから。
「三神頼むな」
「無理だよ、第一、俺より大和のほうが速いだろ。体力測定の時、お前手加減してたっぽいし」
三神はまた三神スマイルをぶっ飛ばして、呆れたようにサッカーボールを操りだした。
「アンカーとか責任重すぎだろ」
「それは、みんな同じだろ? どこの部も本気みたいだしな」
「大体、キャプテンがアンカーだろ、フツー。サッカー部以外キャプテンじゃん」
俺もカゴからボールを取り出し、リフティング。
「ガチで勝ちたいんじゃねーの? ……大和なら余裕だろ。小学校の頃からかけっことかで負けたことねーんだし、去年も何人か抜いただろ?」
『大和なら余裕だろ』……か。
「三神らしくねー」
「なんだよ、俺らしくないって」
「サワヤカーなコーセー年。だろ? ……まー少なくとも、葵唯はそー思ってるな」
「っ……。大和ってさ、葵唯と仲いいのな」
しまった……。
葵唯の話するつもりじゃなかったんだけど。
セフレ、とか言ったら殺されそーだし。
案の定、三神はムキになったよーにボールを操る足を止めこっちを睨んだ。
「俺よりお前のほーがよく喋ってんだろ」
「なあ……大和。俺、葵唯のこと好きだから」
「……知ってるよ」
そんなの気づくに決まってんだろ。
何年一緒にいると思ってんだよ。
好きな人とかわかりやすいんだから。
「だからさ、葵唯に傷ついて欲しくない」
真剣な面持ちで俺に言った三神。
「結局、お前は何が言いたいの」
「もう気づいてんだろ? ……葵唯の気持ち」
─キュッ。
俺はリフティングしてたボールを足で止めた。
気づかないわけない……。
そこまで鈍感じゃない。
好きだからこそセフレになったんだろうし?
ほかのセフレはセックスが目的でセフレになった。
でも葵唯は……セックスだけが目的でセフレになるようなやつじゃない。
俺が感ずいてること、葵唯は気づいてないんだろうけど────
泣きじゃくる葵唯を抱きしめて、背中をさすった。
女をなぐさめたことなんてないから、なんて言葉をかけていいのかも分からない。
泣かせたのは俺だ。
俺はただ『ごめん』しか言えなくて……。
胸の中でひくっひくっと葵唯の泣き声が聞こえる。
『悠雅くんも……退学になるんじゃないかって……』
さっきの葵唯の言葉が離れない。
なんて理由で泣いてんだよ……。
単純にイジメられるのがイヤだったんだとばかり思ってた俺は拍子抜け。
俺のことで泣くとか、バカかよ……。
少しの間背中をさすっていると、泣き声がいつの間にか止まっていた。
「葵唯、大丈夫か?」
「…………」
「葵唯?」
無視?
まだ怒ってんのか?
俺の胸に額をくっつけてた葵唯をそっと離すと───
「スー……スー……」
「嘘だろ……」
泣き疲れて寝たのか?
小学生かよ!
泣き腫らした目を閉じて、安らかな寝息をしている葵唯。
まだ溜まってる涙を俺は指で拭った。
とりあえず保健室で寝かせるか。
葵唯を横抱きにして、人気のなくなった学校を歩く。
─ガラガラ。
保健室には誰もいない。
保健の先生は職員室だとドアにかかってた札に書いてあったし、もう生徒も部活に行ってるから、いなくてトーゼンだけど。
俺は隅のベッドに葵唯を寝かせた。
「んっ……」
あ……。
寝返りを打った葵唯はコッチ側を向いてスヤスヤ寝ている。
まだブラウスのボタンが全部留まってなくて、ブラウスの中の谷間が丸見え。
それに、スカートも下着は見えてないけど、太ももまで丸見え。
腹も見えてるし……。
俺はブラウスのボタンを留め直し、ブラウスの裾とスカートをキレイに直した。
もし、男が来たらさっきのままじゃ襲われかねない。
……よし、これで大丈夫か。
「んんっ……悠……雅、くん……」
?
寝言?
俺の夢、見てるのか?
「悠雅くん─────好き……だよ」
っ……!
なんで……。
なんで泣いてんだよ。
眠っている葵唯の顔に涙がこぼれ落ちる。
好きって言いながら泣くのかよ。
俺はまた葵唯の涙を拭った。
わけわかんねえ……。
こんなに女の気持ちが複雑で分かりにくいものなんだって知らなかった。
俺は葵唯の頭に手を置いて、そっと撫でた。
葵唯は何考えてんだ?
なんで好きって言いながら泣くんだよ?
────泣くなよ。
俺は葵唯の瞼にキスを落とす。
不思議と葵唯の涙は止まった。
「気づいてないわけねーだろ」
「っ……! まさか、大和……お前も────」
「俺、アンカーするから。決まったことだし、サッカーいくわ」
俺は何かを悟った三神の言葉を遮って、部室をあとにした。
三神の言葉の続き、予想つくから。
その問にちゃんと答えられる自信ないし。
……わかんねーんだよ。
好きとか恋とか愛とか……。
俺は愛されたことないんだから。
三神みたいに親に愛されたことも……
葵唯みたいに誰かに本気で好きになってもらったことも……
……この気持ちが好きってきもちなのかとかわかんねーし。
あんな純粋な女、初めてだし、どー扱っていいのかもわかんないまま。
どーすりゃいーんだよ。
好きとか……よくわかんねーけど。
だけど……
もう葵唯を泣かせたくない───
::葵唯side::
体育祭当日。
私は凛とテントで今出てる友達を応援。
「葵唯は? なんに出るんだっけ?」
「私は綱引きと10人11脚! 凛は?」
「リレーと借り物競争だったかな」
ほうほう。
さすが凛。
昔っからリレーには絶対選ばれてたんだよね!
運動音痴の私と正反対に常に短距離のタイムも長距離のタイムも女子のトップにいた凛。
私の憧れ。
「あー! 見て見て~! 三神くんと大和くんだあ!」
近くの女子たちの言葉に、グランドに目をやると、男子の学級リレーだった。
もちろん私たちのクラスから選抜された男子には悠雅くんも依織くんもいる。
2人とも速いってウワサだったし。
『いちについて……よーい……』
─パンッ!
あっ……悠雅くん……。
やっぱり早いからスターターなんだ。
依織くんはビブス着てるからアンカーかな?
キレイなフォームで3年生も1年生たちも追い抜いていく悠雅くん。
速い……。
かっこいい……。
思わず見とれてしまう。
2位と少しの差をつけて第二走者へバトンを渡した悠雅くん。
前に誰かが悠雅くんと三神くんが来年のエース候補だって言ってたのを聞いたことがある。
エース候補は伊達じゃない。
昼休みにサッカーしてる時もビュンビュン抜いていってたし。
悠雅くんがつけた2位との差はあっとゆう間になくなり、リレーは順位が入り組んできた。
追い越したり追い抜かされたり……その繰り返し。
『3年A組がアンカーにバトンが渡りましたー!! どのクラスも次々にアンカーに移り、どこが一位になるか予想できません!!』
うちのクラスも依織くんにバトンが渡った。
でも、依織くんが走り出した時にはすでに3位で、1位の3年A組との差は半周。
頑張れ……依織くん!
クラスのみんなは諦めムード。
依織くんが足が速いのはみんな知ってるけど、ほかのクラスのアンカーたちもトーゼン足が速い。
だからこの半周の差を埋めることはほぼ不可能に近いこともみんな悟ってる。
大丈夫……!
依織くんなら抜ける!
依織くんはみるみるうちに距離を縮めていく。
気づけばもう1位と並びそうなぐらい。
『あと1周! どのクラスもラストスパート頑張ってください!! 先頭には3年A組、そのすぐ後ろに2年B組が迫ってきています!』
2周目に突入し、3年A組のアンカーも依織くんも少しペースが落ちてきた。
そりゃそうだよね。
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