1 / 49
始まり
気付き
しおりを挟む――異変は、すぐに気が付いた。
「…………んぁ?」
うっすらと目蓋を開いた俺が、一番最初に見た光景は――薄明かりに照らされる、岩肌。
……岩肌?
のそりと上体を起こし、寝起きではっきりしない頭で周囲へと視線を走らせる。
「……?」
――何か、おかしい。
岩の中を繰り抜いたような、全面が岩肌剥き出しの壁。
唯一平な床には無駄に高級そうな赤の絨毯が敷かれており、その対面の天井には、吊るされた燭台がロウソクもなく独りでに炎を灯している。
端っこのハンガーラックには、何だかゴテゴテした装飾のある、ちょっと中二病が疼いてしまいそうになるコートが掛けられており、その横には口元がニィ、と大きく吊り上がり、右眼の下に涙、左眼の下に星の描かれたピエロを彷彿とされる白の仮面も、一緒に掛けられている。
そこそこの広さはある部屋なのだが、少し閉塞感を感じるのは、やはり周囲が岩肌な上に、窓がないためか。
……いや、まあ、この光景自体は別に、大しておかしなものじゃない。
俺がドハマりし、何百時間もプレイしているVRMMO――『アルテラ・オンライン』における俺の自室であり、何度も何度も見たことがあるものだ。
だが……まず第一に、ログインした覚えがない。
俺は昨日、普通にベッドに入って眠っただけで、ゲーム機に触っていないはずだ。
そして第二に、仮に俺がログインしていたのだとしても……何と言えば良いのだろうか。
いつもより、情報量が圧倒的に多い。
音、光、臭い、感触。それらの五感に訴えかける情報が、いつもより繊細で、そして膨大に感じられるのだ。
VRMMOというゲームが生まれ、世界が新たなゲーム史の変遷に熱狂してから少し経つが……それでも、現実と見間違う程鮮明に世界を創り上げることには、未だ技術的に至っていない。
例えプレイしていても、どこかに必ず違和感が生じ、そこがゲームの中であるとわかってしまうのだ。
だが――ここはどうだ。
自身が横たわっている木製のベッドの感触一つとっても、この木目のザラついた感触は、現実のものとしか思えない。
視界に飛び込んで来る周囲の情報に関しても、いつもより圧倒的に色彩が豊かで、非常にリアルに感じられる。
さらにそこから視線を下ろすと、布団に入る前に着ていたはずの寝間着ではなく、要所要所がプロテクターで守られ、ポケットの多い動きやすいズボンに、着心地の良い黒のTシャツが視界に映る。
ゲームでよく見る冒険者的な格好であるため、ここがゲームの中であるという可能性の方が高いのは確かなのだが……。
――何が、起きてるんだ?
寝起きの頭がようやくまともに動き出した俺は、むしろ訳のわからない思いでベッドを抜け出し、立ち上がって周囲を確認する。
そして、立ち上がったことにより視野の広がった俺の眼に最初に映ったのは――ベッドの隣に設置された、少し造りの良い机の上に置いてある、ソレ。
俺は机の前まで来ると、ソレ――手の平より少し大きいぐらいの、鉄の塊を、手に取った。
ひんやりと冷たい、金属の手触り。
「……銀桜」
そこにあったのは――拳銃。
ハンドガン、『銀桜』。
シルバーのボディに、ところどころに為された桜の花びらの彫刻。
通常のハンドガンより銃身が少し長くなっており、ズシリと来る確かな重さがある。
コイツは俺が初期の頃から主武器にし、そして幾度となくカスタムして、最終的に伝説級の武器達とも引けを取らない威力を持つようになった、自慢の一品だ。
そんな、ずっと使い続けて来た俺の愛武器であるが……しかし、いつも以上に克明に、肌触りや色彩などの情報を伝えて来る銀桜からは、以前よりもひどく手に馴染む感触がある。
俺は、銀桜の銃身をそっと撫でてから再び机に置くと、今度はハンガーラックまで向かい、掛かっていたコートの内側を開く。
「……やっぱり、コイツもあったか」
自身の予想が当たったことに、俺は何とも言えない苦笑いのような表情を浮かべる。
コートの内側に覗いたのは、いくつものポーチが付けられたベルト。
そして、そのベルトに収められた、鍔のない一本の小太刀。
――幻刀、『妖華』。
俺は、覗いた小太刀の柄を握ると、スルリと刀身を鞘から抜く。
途端、ロウソクの明かりに反射して煌く、まるで血のように赤黒く、妖しく波打つ波紋の浮いた刀身。
決して模造刀なんかではなく、その刃の鋭さは、何もかもを斬り裂けるのではないかと思う程鋭く研ぎ澄まされている。
――これがあるなら、あとは……。
俺は、妖華を再び鞘にしまってから、目を瞑ってフゥ、と深く息を吐き出し――そして、再び目を見開くと、その言葉を唱える。
「メニュー」
――その瞬間、俺の眼の前に出現する、中空に浮く薄い半透明の表示。
ゲームの、メニュー画面。
開いた。
開いてしまった。
VRMMOが世に生まれる程昨今は技術が進んでいるが、しかし未だ、ヘッドマウントディスプレイも無しに、視界にこんなメニュー画面を開くことが出来るまでには、技術的に進んではいない。
つまり、ここは地球ではなくゲーム世界であることは確実と言えるだろうが――しかし、そのメニュー画面に関しても、色々とおかしなところがある。
――ログアウトボタンが、ない。
いや、ログアウトボタンのみならず、公式の告知ページもなければ、その他諸々の項目も無くなっている。
あるのは、もはやカンストして久しいステータス画面と、装備画面、そしてギルドやマイホームなどの管理ページのみ。
もはやここまで来れば、ゲームで使用していたメニュー画面とは別物といってもいいだろう。
――俺がよくやっていたゲームに酷似していながらも、しかし現実と見分けが付かない程膨大な情報に溢れた、ログアウトの存在しない世界。
で、あるならば。
考えられる一番大きな可能性として、ここは――。
「――アルテラに似た、別世界、か……?」
0
あなたにおすすめの小説
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
1歳児天使の異世界生活!
春爛漫
ファンタジー
夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。
※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。
享年は25歳。
周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。
25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
悪徳領主の息子に転生しました
アルト
ファンタジー
悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。
領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。
そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。
「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」
こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。
一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。
これなんて無理ゲー??
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる