断罪の暗殺者~なんか知らんが犯罪ギルドのトップになってた~

流優

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始まり

世界の変革《1》

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 ――『アルテラ・オンライン』。

 それは、俺がドハマりしたVRMMORPGの名前だ。

 ファンタジー的でありながらも、銃や機械などの近代的な要素もぶっ込まれた、ごちゃ混ぜな世界観。

 ゲームとしては、ほぼスキル制オンラインゲームであり、中級者以上ともなるとレベルはカンストしているのが当たり前で、ほぼ本人の能力依存で強さの決まるゲームであった。

 簡単に言ってしまうと、魔法や剣もありのFPSゲーム、といったところだ。

 まあ、本人の能力依存と言っても、アルテラは『唯一無二』というものを非常に拘ったゲームだったために、就いたクラスの取得可能スキルは膨大に設定されており、そして一つ一つの武器に成長要素や数多のカスタム要素が存在し、自分だけのオリジナル武器、などというものも作成が可能だった。
 
 ストーリーを進めていく上で雇うことの出来るNPCの造形に関しても好きに弄ることが出来るし、マイホームの仕様も数多あり、好きなように内装を組み替えることも可能とした。

 そんな、かなりのやり込み要素が設けられた『アルテラ・オンライン』は見事大ヒットし、かく言う俺も、このゲームにすでに千と数百時間は費やしているのだが――。

 ……マズい。

 仮にここが、アルテラの世界の中だとすると、一つ非常にマズいことがある。

 異世界に来てしまったことは、百歩譲って良いとしよう。

 ……いや、全然良くはないし、未だ混乱しっ放しで訳が分からない、というのが正直なところなのだが、そのことに差し迫った危険とかがある訳じゃないから、今はとりあえず置いておく。

 それより何より、俺にとって非常に重大な問題となるのは――。



 ――アルテラの世界の中で俺は、



 ……まあ、うん。俺だって最初から、そんな犯罪者プレイをしていた訳じゃない。

 最初の頃は真っ当に冒険して、真っ当にアイテムを集めて、真っ当にダンジョン攻略とかをしていた。

 でも、その内……まあ、有り体に言って、飽きてしまったのだ。普通のプレイに。

 そりゃ、いくらドハマリしていても、何百時間とやっていれば、そうなるわな。
 
 ただ、今更このゲームをやめるのも何だか憚られるし、実際このゲームより面白いゲームなど他には見つからなかったしで、惰性で続けていた俺が、その内新たに見出した遊びが――『対人戦』だった。

 技術が進歩して、敵モンスターの行動に複雑なアルゴリズムを組めるようになったとは言っても、未だその動きには、一定のパターンがどうしても存在してしまう。
 故に、長い期間をゲームにつぎ込めば当然その行動パターンを読むことも容易となるし、クリティカルヒットすれば装備を身に纏っていてもワンパンで体力を七割削ってくるようなボスが相手でも、ノーダメージで相手を倒せてしまったりする。

 まあ、そこに至るまでは確かに、数多の自キャラの死体を積み上げて来てはいるのだが、一度慣れてしまえば、如何に優れた敵Mobであろうと、後は作業ゲーだ。

 それに対し対人戦は、相手の動きが刻一刻と変化するし、ずっと同じ特定のプレイヤーと対戦し続ける訳ではないため、その時その時で相手の戦闘スタイルが変わってくるのだ。

 攻撃主体で来るヤツや、防御主体で来るヤツ。
 遠距離攻撃主体のヤツや、もはや何だかよくわからない、独自路線を突き進むヤツ。

 攻撃主体のヤツらだけを取って見ても、一発に全てを込めた一撃必殺タイプのヤツもいれば、手数で相手を翻弄しチマチマ削ってトドメを刺すタイプのヤツなど、その中だけで数多の戦闘スタイルが存在する。

 その千差万別の戦いに、俺は魅力を見出してしまった訳だ。

 それからはもう、新たなダンジョンが追加されたとかって時以外は、基本的にプレイヤーを殺して、殺して、殺して、そして対人戦でより有利になるようにと、特化したスキルのビルドを組んだりとかしていたら、いつの間にか『暗殺者』とか呼ばれて犯罪者プレイヤーとして名を上げてしまっていた。

 いわゆる、『プレイヤーキラー』と呼ばれる、犯罪者プレイヤーである。
 
 ギルドマスターとなった経緯はと言うと、そういう犯罪者プレイヤーを倒した者には報奨金が出るのだが、まあそれならそれで、俺を狙いに来るヤツも増えるだろうし、より多く対人戦が出来るからいいか、とむしろ開き直って遊んでいたのが始まりで、するとだんだん、フレンドに『対人戦至上主義』みたいなヤツらが増え始めたのだ。

 それが一定数増えると後はトントン拍子で話は進み、「じゃあ、ギルドでも作るか」という方向で皆が動き始め、最初の起点となった、ということであれよあれよという内に犯罪ギルドのトップに祭り上げられていたのだ。

 ギルドの戦績としてはかなり良く、やはり対人戦をやりまくっていたために皆どんどんとプレイヤースキルを磨いていき、十人未満しかいない上に犯罪ギルドであるのにもかかわらず、公式サイトのギルドランキングでいつも上位に入賞している程の、強豪ギルドとして名を馳せていた。

 ……やり過ぎたと思わなくもないが、実際すごく楽しかったので、そのことに文句は言えない。

 まあ、ゲームの時の話は今はいい。

 とにかく、今ここで重要なのは、ここがアルテラの世界の中である場合、俺が犯罪者ギルドのギルドマスターとして指名手配をされている可能性がある。

 別に俺は、ゲームだからこそそんな対人戦を好んでいたのであって、リアルで殺し合いをしたいと思う程精神が荒んじゃいない。
 犯罪ギルドのトップなんて、セルフハードモード直行な称号は、お断りなのである。

 ――本当にここが、アルテラの世界の中なのか、確かめる必要がある。

 俺は、この世界について知らなければならない。

 そう考えた俺は、もはや手慣れた動作でハンガーラックに掛かっていたベルトとコートを身に付け、机の上のハンドガン、銀桜をズボンに備わっているホルスターへと収め、装備を整える。

 一応、仮面もただのお洒落アイテムではなく、相手に『幻惑』の特殊効果を発揮するアイテムなので、装備するかどうかちょっと悩んだその時――コンコン、と部屋の扉がノックされる。

「――失礼します、マスター」

 そう、ノックの後に、消え入りそうなか細い声と共に入ってきたのは――俺のピエロ面と、ほぼ同じ意匠の仮面を被った、メイド服の少女。

「マスター、起きていらっしゃいましたか」

「お前……セイハ、か?」

「? はい、セイハです」

 震える声でそう問い掛けると、仮面の少女――NPCであるはずの少女は、儚げな声で不思議そうに首を傾げる。

 そんな彼女へと俺は、ゆっくりと手を伸ばし――その仮面を、取った。

 滑らかな小麦色の肌に、まるで月のように輝く、透き通るような美しい銀色の髪。
 その髪の間に覗く双眸は吸い込まれてしまいそうに大きく、無限の蒼穹を思わせる碧色をしており、さらにその下に小ぶりのスッと通った鼻筋と淡い桃色の唇が続く。
 背丈は俺より頭一つ分小さい程で、女性としても小柄な方だろう。

 仮面の下に覗いた顔(かんばせ)は、絶世という言葉がピッタリ来るような、凄絶なまでに美しい少女だった。

「あっ……あの……ます、たー……か、仮面を……」

 かぁっと顔を赤らめ、恥ずかしそうに片手で顔を隠そうとしながら、もう片方の手で躊躇いがちに腕を伸ばしたり引っ込めたりを繰り返す、メイド服の少女――セイハ。

「…………」

 俺は、仮面を取った方とは反対の腕を伸ばし、その彼女の頬へと触れる。

 仄かな人の温もりと、滑らかな肌の感触。
 トクンと感じられる血流が、指先に微かに感じられる。

「……ユ、ユウ様……」

「……あっ、あぁ、すまん」

 と、その時になって俺は、ようやく自分が何をしているのかということに気が付き、慌てて腕を引っ込めると、顔を真っ赤っ赤にして固まっている彼女へと仮面を返す。

 セイハは俺から仮面を受け取ると、すぐにそれを自身の顔へと宛がい、ようやくひと心地ついた様子でほっと息を吐き出す。

 そんな彼女の前で俺は、一人、頭をガツンと殴られたかのような衝撃を受けていた。

 ――あぁ、確定だ。

 ゲームの中で、セイハにこんな、恥ずかしがるようなアルゴリズムは存在しない。
 というか、まず喋らない。

 仮に、仮にアップデートがあり、行動パターンが増えたのだとしても……ゲームであった場合、彼女に触れる前に警告画面が目の前に表示され、手を阻まれて仮面を取ることは出来なかったはずだ。

 そして何より、先程彼女に触れた時の感触は、確かに血の通った、人間の感触だった。

 これは、ゲームの中じゃ、絶対に感じることのない温もりだ。

 ――間違いない。


 ここは――であるらしい。
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