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始まり
世界の変革《2》
しおりを挟む「……セイハ、聞きたいことがある」
「はい、何なりと」
「俺とセイハ以外には今、ここに誰がいる?」
「現在は、ユウ様配下の者達は全員揃っております。それ以外のギルドメンバーの方々は、ユウ様しかいらっしゃいません」
先程仮面を取った時のようなしどろもどろさは完全に消え、俺の問いにスラスラと答えるセイハ。
……なるほど、つまりプレイヤーは、俺のみか。
そして、プレイヤーは俺のみだが、俺が作成したNPCや仲間が作ったNPCは全員揃っている、と。
「……わかった。とりあえずギルドの様子を見たい。セイハは……付いて来るか?」
「はい。お供させていただきます」
コクリと頷く彼女を伴い、俺は部屋に一つ供えられた造りの良い扉へと向かい、開く。
――瞬間、視界に広がるのは、円状の廊下。
この通路もまた、俺の部屋と同じく岩を繰り抜いたような全面岩肌であり、壁に設置された松明が周囲を仄かに照らしている。
このギルドのテーマは、ズバリ洞窟である。
犯罪ギルドと言えば、やっぱり隠れ住むものだろう、というそんなアホらしい考えから、ウチのギルドは全部が全部こんなレイアウトをしている。
資金自体はかなり潤沢にあったため、もうちょっとこう、要塞とか城とか、そういうカッコいい系のギルドホームを建てても良かったのだが、我がギルドの面々が物好きばっかりだったせいで、なんかこんなことになってしまった。
ちなみに、その資金の出所はと言うと、ほぼ全てが対人戦でぶっ殺した相手プレイヤーのドロップ品です。
はい。
……まあ、うん、俺達はより刺激的な対人戦を求め、基本的にやり込んでいる廃人、もとい、凄腕プレイヤーを多く相手にしていたのだが、そういうヤツらは総じてゲーム内マネーを膨大に溜め込んでいるため、気が付いた時にはそんなことになっていたのだ。
そりゃ、俺達も負けることは往々にしてあったが、基本的に俺達は他プレイヤーを人型のモンスター、もしくはカモ、もしくは人斬りの実験台だと思っている極悪犯罪者集団。
対して相手は真っ当に冒険し、真っ当にモンスターを討伐して、真っ当にプレイしている通常プレイヤー。
どっちの方がより対人戦に精通していて、そして勝率が高いか、という話だ。
アルテラ・オンラインもまた対人を推奨しており、PvP自体は盛んであったのだが、やはり俺達と比べると熟して来た場数が違うからな。
犯罪ギルドの俺達が、公式の大会に出て連戦連勝した時の周りのやっかみ混じりのブーイングなど、思わず笑顔になってしまう程気持ち良かったです。
「……そうだ、セイハ。ギルドの外の様子はどうなってる?」
「? 外、ですか?現在はナグライト奥地、であったと記憶にありますが……」
「あー……そうか、そうだったな」
ナグライトというのは、ゲームにおいて俺のギルドが本拠地を構えていた、森の名前だ。
これまた犯罪ギルドという意識から、俺達はその森の奥地にある、洞窟に居を構えていた。
まあ、居を構えたと言っても、移動させようと思えば、簡単に移動させられるのだが。
セイハが「現在は――」と言ったのも、それが理由だ。
だが……よくよく考えてみると、このギルドは確かに、俺と俺の仲間達が心血を注いで造り上げたアルテラのギルドホームであるが、しかし外もまた、同じようにアルテラの世界の中であるとは限らない訳か。
あのゲームにおいて、ギルドの本拠地とは、移動可能なものであった。
とすると、今俺達は、未知の大陸の未知の領域にいる可能性も大いにあり得るのだ。
……まあいい、それも、後で確認しよう。
何もかも、わからないことだらけである以上、ならばまずは、一番把握が容易い、ギルド内部の確認からだ――。
* * *
やがて辿り着いたのは、酒場風テイストの、広場のような円形の場所。
一階に当たるこの広場からは、壁を伝うように走る二階通路や、そこに設置されたいくつかの扉、さらに奥へ続く通路なども一望することが出来る。
中心が繰り抜かれた、円筒の空間、といった感じだ。
広場の端に設置されたカウンターテーブルの向こう側には、酒蔵の家具(盗品)が壁に沿って置かれ、その広場の中心には丸テーブルが数個置かれている。
また、広場の仕切り代わりに、二階通路部分のあちこちから淡い光の玉をボワンと花の先から空中に浮かせるツタのカーテンのようなものが垂らされ、周囲を淡く照らしており、なかなかにお洒落な内装の広場を造り上げることが出来たと自負している。
そして――俺の視界に映ったのは、その広場の丸テーブルの椅子の一つに大きく身体をもたれ掛からせ、片手を椅子の縁に置き、もう片方の手で酒瓶を持つ、一人の女性。
大人の女性とは言えないが、しかし少女とも呼べない。それぐらいの年頃だろうか。
顔立ちは間違いなく美人と言える程に整っているが、どこか勝気な印象を受ける相貌をしており、何となく猫を彷彿とさせるイメージを身に纏っている。
猫と言っても、飼い馴らされた愛玩用の家猫とか、生まれたばかりの子猫とかじゃない。
日々を生きるか死ぬかで過ごす、獰猛な野良猫だ。
そんな顔立ちをしているためか、腹を大きく見せた冒険者服と太ももを剥き出しにさせた丈の短いジーンズという男を誘惑するような恰好が非常によく似合っており、その中年のおっさんみたいなポーズも妙にマッチし、思わず「姉御!」とか呼びたくなるような、女盗賊、といった感じの女性だ。
「……ネアリアか」
「……お? 頭領か。昼間っからメイドに傅かれて、いいご身分だな」
おう、言いやがるぜ。
会った瞬間にケンカ腰とか、コイツ、俺が思っていた通りの性格をしてやがる。
「……ネアリア、覚悟してください」
と、NPC――だったはずのキャラクター、ネアリアの言い草に対し思わず苦笑を浮かべていると、俺の一歩後ろに佇んでいたメイド少女、セイハが静かなる怒気を発しながら、ス、とどこからともなくダガーを取り出す。
「いっ!?お、落ち着けよ、セイハ。こんなのはいつもの挨拶みたいなもんじゃねぇか」
「我が主を侮辱する者は、例え仲間であろうと……殺します」
「わ、わかった、ウチが悪かったって」
「…………」
酒瓶を持ったまま、両手を頭の横に掲げて「降参」のポーズを取るネアリアを見て、無言で再びダガーをどこかにしまう仮面メイド少女。
「……何をそんな、家族連れのブルジョワどもみてぇな、微笑ましそうな顔をしてやがるんだ、頭領」
「いや……お前らが仲良さそうで何よりだと思って」
――彼女ら二人を造り上げたのは、俺だ。
だから、何と言うか……自分の娘のような存在である彼女らがこうして動き、普通に会話しているのを見ると、何だかこう、じんわりと胸に込み上げて来る感動があると言うか。
自分が精魂尽して造り上げたキャラが、こうして自我を持って動いているのだ、ということに、言葉にならない嬉しさがあるのだ。
恐らく、誰もが一度くらい、自分の造ったキャラが自分で考えて動いたら、と思ったことがあるはずだ。
であればきっと、この感動もよくわかることだろう。
「は?お前、目ぇ大丈夫か?」
「マスターが仰るなら……仲良くいたします」
「……頭領、ウチもセイハのことは仲間だと思っているし嫌いじゃねえが、無駄に焚きつけるのはやめろ。コイツはアンタの言うことは何でも聞くんだ。アンタが言えば、多分ドラゴンの巣でも飛び込むぞ」
「マスターが仰るなら、そういたします」
「いや、しなくていいからな」
何故かわからないが、なんか物凄い忠誠心を示してくれるセイハに、苦笑いを浮かべる俺。
俺、確かにこの子をNPCの中で一番育てていたし、一番連れ回していたのは確かだが……別に、そんな設定を付け足した覚えはないんだが。
というか、ゲームにおいてNPCに可能な設定の範囲はかなり自由ではあったが、顔や装備、服装などのキャラの外見に、クラスやスキル構成とかで、流石に性格とかの設定は無かったからな。
「ネアリアー、お望みのつまみを――あら?」
と、その時、広場の奥――使ったことはなかったが、一応作っておいた広いキッチンの方から現れる、セイハとは別のメイド。
綺麗な白髪の髪に、何だかほんわかした印象を受ける優しげな相貌。
その彼女の頭からは垂れた犬耳が生えており、腰骨の辺りから毛並みの美しい、髪の毛と同じ白色のフサフサ尻尾が生えている。
「ユウ様、おはようございます。セイハも、ユウ様お付きのお仕事、ご苦労様です」
酒のつまみらしい、美味しそうな料理を乗せた小皿を片手に持ちながら、にこにこしながらそう話す犬耳メイド――シャナルに、俺の隣のセイハがペコリと頭を下げる。
彼女は、我がギルドにおいて『メイド長』の役職を持つ、セイハにとって上司に当たる女性だからな。
彼女はギルドにおいて、病気などのバッドステータス発生確率を減少させる掃除、武具類の耐久値が回復する効果のある洗濯、倉庫の管理、財政管理など、ギルド運営に関するありとあらゆる仕事を担う、ゲーム内においていなくてはならない存在だった。
ちなみに、その『メイド長』はちゃんとしたゲーム内におけるクラスである。
その職、NPCだけではなくちゃんとプレイヤーも習得出来るクラスである辺り、『アルテラ・オンライン』のゲームのマニアック度がわかろうものだ。
「お、サンキュー、シャナル」
「お酒は程々にしなさいね?――ユウ様も、何か軽食でもお食べになりますか?」
「いや、俺はいい。……それよりシャナル、頼みがある」
「はい、何なりとお申し付けください」
少し畏まった態度でこちらに向き直るシャナル。
「今、ギルドにいるヤツら、全員呼んで来てくれ」
「全員ということですと……ユウ様のペット達もでしょうか?」
「あぁ。アイツらも連れて来てくれ。あ、だが、何か仕事をしているヤツがいるなら、今はいい。手隙のヤツらだけ呼んで来てくれ」
「畏まりました」
「何だ、頭領。またどこかのギルドにカチコミでも掛けるのか?」
こちらに畏まった様子で頭を下げるシャナルを横目に、怪訝そうな表情でこちらを見るネアリア。
彼女が言っているのは、ギルド間戦争のことだろう。
あのゲームの中では、他ギルドに対して戦争を仕掛けることが可能だったので、よく宣戦布告したりされたりしたものだ。
ま、ウチのギルドと戦争した相手は、全員ぶっ殺してやったがな!
割と重い死亡ペナルティがあったあのゲームにおいて、俺達は皆死亡することを全く厭わず戦いに熱中していたため、大いに敵に嫌がられて最終的には誰も挑んで来なくなり、途中からは一方的に戦争を仕掛ける側へと変わって行ったけどな。
「いや、ちょっとな。――そうだな、シャナルが呼んでくれるなら、少し予定を変更しよう。内部の確認については、皆が揃ってからにするか。セイハ、外に出るぞ」
「了解いたしました」
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