断罪の暗殺者~なんか知らんが犯罪ギルドのトップになってた~

流優

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世界の様子

道中《1》

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「あんちゃーん!前におっきいのー!」

 前方の御者席からこちらに振り返り、元気な声で注意を促す狐耳の幼女、燐華。

「マスター、少々揺れると思われますので、私の腰にお掴まりください」

「あ、おう、わかった」

 言われた通りに仮面のメイド少女、セイハの腰へと腕を回した瞬間、ジグとレグドラの咆哮が車内に響き渡り、そしてガコンと大きく揺れる。

「おっと」

「プギィッ――!?」

 俺の耳に一瞬、断末魔の悲鳴らしき声が尾を引くようにして聞こえるが、すぐに静かになり、やがてゆったりと進む馬車の平穏さが戻って来る。

 今の揺れは、進行方向に出現したモンスターを、我がペット達が撥ね飛ばしたのだ。

 大体のモンスターどもは、ジグとレグドラ、最上位級に位置する強さを持つ二匹の威容に恐れて逃げて行くのだが、時たまあのように逃げ遅れたヤツが蹴散らされ、そのままあの世行きを果たしている。

 鈍くさいヤツというものは、どこにでもいるものだな。

「……頭領、アンタ、着実にセイハに毒されてきてんな」

「――あっ!あぁ、す、すまん、セイハ」

 と、呆れ顔にネアリアにそう言われ、ようやくそこで俺は、もはや当たり前のようにセイハの言うことに従って彼女の腰に抱き付いていたという事実にハッと気が付き、慌てて手を離す。

 し、しまった。

 あれ以来、口調は変わらないものの気安く接しようとして来てくれているので、俺も彼女の好きなようにさせていたのだが……ここ数日、ずっと甲斐甲斐しくセイハが身の回りの世話をしてくれていたもんだから、思わずいつもの調子で反射的に彼女の言葉に従ってしまっていた。

 ……ダメ男製造機の気質があるな、セイハは。

「……もう少し、抱き付いていらしても、良かったのですが……」

 少し残念そうな声色で、そう溢すメイド少女。

 俺は、思わず苦笑を浮かべ、彼女の頭をクシャクシャと撫でた。


 

 ――馬車旅は、順調である。

 あんまり代わり映えのしない景色の中を日の出ている間にのんびりと進み、飯時にはシャナルがギルドで作ってくれた飯を大自然の中で食い、そして夜になるとギルドへと戻ってそれぞれの部屋で眠る。

 と言っても、自室のベッドより馬車二階に設置してあるベッドの方が寝心地が良いので、俺だけはギルドマスター権限を発動し、そこで眠っているのだが。
 雰囲気重視で洞窟というレイアウトに合うよう、高価な家具はあんまり自室に置かなかったもんだから、実際にベッドで横になって寝ようとしてみたら、クソ硬くてとてもじゃないが寝られそうになかったのだ。

 まあ、我が配下達の部屋には、余った家具で部屋を設えていたため、むしろ俺の自室より調度のグレードは高いので、文句は無いだろう。

 ……朝、気が付いたら隣に幼女二人が眠っていたり、セイハが眠っていたりしていることはあったが、概ね馬車旅は平和なのである。
 
 というか、セイハはまだしも、幼女達は何で普通に出て来てるんだ。

 俺、流石に彼女らの部屋はギルド内部に作ってなかったから、夜は召喚を解除していたはずなのに、朝起きるとどういう訳か隣で眠っていたのだ。

 燐華曰く、「あんちゃんのところに行きたい!って念じたら行けた!」と元気良く説明してくれたが、召喚獣が自分の意思で現れる、なんて機能は、ゲームの頃は流石に存在していなかった。

 これもまた、世界が変わり、NPC達が自我を獲得したが故のことなのだろうか。

 ……まあ、彼女らが楽しそうなので、良しということにしておこう。

 それと、暇な時間に馬車内部で色々と試していたのだが、いくつかわかったことがある。

 やはり、スキルや特殊能力など、ゲームの頃に出来ていたことは全て行うことが可能なようだ。

 それも、ゲームの頃以上の技のキレで。

 以前も思ったことが、それはこのゲームでの身体が現実の俺の身体となったことが理由なのだろう。
 
 今の俺ならば、戦争を仕掛けて、一人で相手ギルドのメンバー全員を骸に転生させることも可能かもしれない。……いや、流石に無理か。

 まあ、だが、そんなことをふと思ってしまうぐらい、身体の動きや技のキレの調子が良いのだ。

 この辺りは、俺にとって大きなアドバンテージであると考えて良いだろう。

 ――ちなみに今更だが、この俺のアバター、『ユウ』の顔は、現実の俺の顔とほぼ同じものだ。

 顔の造形は勿論ゲームなので変えられるのだが……何というか、自分が、自分以外の人間を動かしているということが、生理的に無理だったのだ。

 別にナルシストでも何でもないし、特段自分の顔を気に入っているという訳でもないのだが、造ったキャラでゲーム世界に入り、そして自分の姿を確認した瞬間、何故かひどく吐き気を催し、ヘッドマウントディスプレイが異変を感知して、緊急ログアウトをさせられたぐらいである。

 その経験をして以来俺は、髪型や瞳の色などを変えることはあっても、ゲーム内において現実の自分の顔をトレースしたキャラを使うようになった。

 俺もまた、セイハがいつも仮面を被っているように、街を歩く時や戦闘時には毎回必ず顔を隠す装備を身に付けていたのだが、それは身バレ防止用という意図もあったりするのだ。

 顔面傷だらけの、歴戦の戦士みたいなヤツとか、人外の化け物みたいなヤツとかのキャラを俺も使ってみたかったのだが……まあおかげで、アバターの身体で転生しても、自分の身体に違和感は全く持たなかったからな。
 
 結果オーライとでも思っておこう。

 と、置かれたグラスに映る自身の顔を見ながらそんなことを考えていると、突然馬車がゆっくりとスピードを落とし始め、停止する。

 何だ?と思い前方に視線を向けると、ヒョイと顔を覗かせ、こちらを振り返る、鬼の角を生やした幼女、玲。

「主様、おじじ様方が帰られたようです」

 おじじ様ってのは……ジゲルのことだな。

 帰って来たか。
 途中からかなり遠くに行ってくれていたらしく、昨日一日帰って来なかったので少し心配だったのだが、無事だったようで何よりだ。

「わかった、今そっちに行く」
 
 俺はそう言ってソファを立ち上がると、馬車の前方へと向かい、顔を覗かせる。

「ジゲル、レギオン、お疲れ。探索、助かっ――……なあ、少し聞きたいことがあるんだが、いいか」

「はい、何でしょうか」

 馬車の横に立ち、聞き心地の良いアルトで話す老執事、ジゲルに俺は、微妙に頭の痛い思いで問い掛ける。

「……まず、ジゲルが抱えてるその袋は、何だ?」

「道中で野盗の巣食う砦を見つけましたので、襲って金品を略奪して参りました」

「……あー……つまり、略奪品か?」

「えぇ、そうです。……あぁ、ユウ様が野盗の類をお嫌いであるのは存じておりますので、いつも通り一人残らず殲滅いたしました故、そこはご安心ください」

 さも当たり前のようにそう言う老執事に、俺は思わず引き攣り気味の苦笑いを浮かべる。

 ……そうだな。確かに俺、ゲームの時は盗賊から略奪、しまくってたもんな。

 あのゲームでは時折、街の周辺に巣食った盗賊のアジト殲滅クエストなどが出現することがあったのだが、そういう拠点攻撃系クエストは経験値も多く入るし良いアイテムをゲット出来る美味しいクエストだったので、好んで受注していたのだ。

 そのことを、ジゲルはしっかりと記憶していたのだろう。

「……けどジゲル。俺、警戒しろって言ったよな?」

「えぇ、その御心、理解しております。ですので、警戒して、皆殺しにしました。ご心配感謝しております」

 あ、ダメだ。そう言えばコイツ、『狂戦士』だったわ。

 狂戦士は、NPCの性格が物凄く好戦的になるのだ。

「……まあいい、わかった。それじゃあ……レギオンが抱えている、その、ソレは何だ?」

 次に俺は、老執事の隣に立っているドラゴニュートの青年の方に顔を向け、顎をクイとやって彼が肩に担いでいるソレ――を指し示す。

『情報、源、です』

「情報源?」

「ユウ様は情報をお求めのようでしたので、拉致――コホン、彼に情報提供の協力を求めましたところ、快諾していただけたため、こうしてご足労いただきました」

「……快諾ね」

 手足を縛られ、猿轡を嵌められ、顔に殴られた痕があり、「ンーンー!!」と唸っているのだが、快諾してくれたのか。

 思わず大きなため息を吐き出しそうになったが……コイツらはこれで、本当に俺のためを思って動いてくれていることがわかるので、それを我慢して飲み込む。

「…………まあ、悪くはない、か」

 小さく、そう呟く。

 確かにちょっと、部下の好戦的性格には困ったものだが……ぶっちゃけ、盗賊の一団が一つ潰れたところで、喜ばれはすれども悲しまれはしないだろうからな。
 
 ――それに、情報源か。 

 それは、今の俺にとって最も重要なものだ。

 そのことがわかっているからこそ、彼らもまた、こういう行動に出たのだろう。

「……わかった。ありがとな、お前ら。そんじゃあ――とりあえず、その情報源君から話を聞くとしようか」

 
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